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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 10

『サラッとした事後処理と、夕暮れ空に迫る神の影』

「いやはや、まさかあの『ごっどちゅーぶ』で超有名な勇者殿と、魔皇国でも危険視されていたネフェリムの将軍が、揃って詐欺と器物破損で捕まるとは……。神城殿、この村のセキュリティは一体どうなっているんですか」

 すっかり日が傾き始めたポポロ村の広場。

 ルナミス帝国軍の装甲馬車の前で、駐屯部隊の小隊長が呆れたようにため息をついていた。

 彼の視線の先には、ホムセンの『荷造り用トラロープ』で亀甲縛りにされ、馬車の荷台に無様に転がされている二人の男がいる。

「神界の……エリートたる僕が……こんな、ただの一般人に……」

 課金バフが切れ、アイデンティティだった装備も金もすべて剥がされた元・勇者ゼロスは、焦点の合わない目でうわ言を繰り返している。

 その隣では、魔将軍ミラースが、右腕を巨大な『発泡ウレタンフォームの塊』に包まれたまま、屈辱に顔を歪めて黙り込んでいた。どんな物質も両断する妖刀は、今や巨大なマシュマロ状の接着剤の中に完全に封印されている。

「ええと、小隊長殿。感心していただくのはありがたいのですが、こちらが今回の『被害総額の請求書』になります」

 俺は片手に電卓を持ち、もう片手で長いレシートのような紙をスッと差し出した。

「南門の鉄筋コンクリート防壁の修繕費、セメントおよび鉄筋代。切断された単管パイプ二百本の損害。破壊された工具ディスプレイと商品の補填。さらに、業務用ウレタンフォーム特大サイズの代金と、我が村の従業員への精神的慰謝料および営業妨害に対するペナルティ……締めて、金貨五百枚になります。彼らの身柄を引き渡す際、帝国か魔王軍の資産からきっちり回収しておいてください」

 俺が前世の社畜時代に培った『一円の取りこぼしも許さない経理スマイル』を向けると、小隊長は顔を引きつらせながら請求書を受け取った。

「は、ははは……。相変わらず、隙がないですね。承知いたしました、きっちり上層部に通して回収させます」

「助かります。では、お気をつけて!」

 俺は笑顔で手を振り、装甲馬車が夕暮れの帝都の方角へと走り去っていくのを見送った。

「ふぅ……。これでようやく、厄介なクレーマーの処理が終わったな」

 俺が肩を回しながら振り返ると、ホムセンの前では仲間たちが後片付けの真っ最中だった。

「春太プロデューサー! 見てくださいまし! キュララちゃんとの『裏側暴露・ゲリラ配信』、同接数が十万人を突破しましたの! スパチャの額も、先日の強盗事件の比じゃありませんのよ!」

 リーザがエンジェルすまーとふぉんを掲げながら、芋ジャージを泥だらけにして歓喜の舞を踊っている。

「私のアカウントも、神界ランキングのぶっちぎり一位に返り咲いたよーっ! これで当分、美味しいお寿司とスイーツには困らないねっ!」

 キュララも、アイドル衣装を焦がしながらピースサインを決めている。

「お前ら、逞しいのは結構だが、まずは散らばった工具と商品を棚に戻すのを手伝え。明日から通常営業なんだからな」

 俺が注意すると、二人は「はーい」と素直に返事をして片付けに戻った。

「春太、南門の防壁だけど、とりあえず私とスアイで応急処置バリケードをしておいたわ。明日、セメントを流し込んで本格的に修復するわね」

 肩の傷を包帯で巻いたキャルルが、トンファーの代わりにスコップを担いで戻ってきた。

「お疲れ、キャルル。肩の傷は大丈夫なのか?」

「ええ。ルナちゃんが世界樹の回復魔法をかけてくれたから、すっかり塞がったわ。ちょっと魔力を注がれすぎて、今は満月の夜みたいに町内をマッハで三周くらい走りたい気分だけど」

「頼むからおとなしくしててくれ。これ以上インフラを破壊されたら俺の胃が持たない」

 そんな軽口を叩き合っていると、ホムセンの厨房から、何とも言えない暴力的なまでに食欲をそそる匂いが漂ってきた。

「おーい、お前ら! 片付けは一旦そこまでにしとけ。賄いができたぞ!」

 アラトが巨大なトレイに乗せて運んできたのは、山盛りの米麦草の上に、分厚くスライスされた肉が花びらのように敷き詰められた『ロックバイソンの特上ローストビーフ丼』だった。

「タローマン製のダッチオーブンでじっくり火を通した最高級の赤身肉だ。タレには『たまんネギ(賢者モード)』の甘みを極限まで煮詰めた特製オニオンソースを使ってる。今日の激戦の疲れを癒やすには、こいつを胃袋に流し込むのが一番だぜ」

「「「わぁぁぁぁっ!!」」」

 女子三人組が歓声を上げ、弾かれたように長机へと群がった。

「いただきますのぉぉっ!」

「ん〜っ! お肉がすっごく柔らかい! ソースの甘みがお口の中で爆発してるよぉ!」

 キュララとリーザが、あっという間に洗面器サイズのローストビーフ丼を吸い込んでいく。ルナも「お野菜とお肉のハーモニーが絶妙ですわ!」と優雅に、しかし凄まじいペースで平らげている。

 俺も自分の丼を引き寄せ、一口頬張った。

 分厚い赤身肉の強烈な旨味と、たまんネギの甘いソースが絡み合い、極上の味が口いっぱいに広がる。

「……美味い」

 俺は思わず息を吐き出した。

 色々とあった。コンクリートの防壁を斬り裂かれ、最強の課金勇者に蹂躙されかけ、店の商品をメチャクチャにされた。

 だが、俺たちは生き残り、ヤラセ配信の悪意をインフラの力でぶっ飛ばし、こうして美味い飯を食っている。

(……ああ。やっぱり俺は、この村の『当たり前の日常』が好きだ。誰も力で支配しようとしない、騒がしくて温かい、この食卓がな)

 俺は夕暮れの風に吹かれながら、ローストビーフを噛み締め、満ち足りた幸福感に浸っていた。

 この平和な日常が、明日も明後日も、ずっと続いていくのだと信じて。

 ◆

 ――だが、俺のその願いは、世界を管理する上位の存在たちにとって、あまりにも『魅力的すぎる餌』であった。

 天界セレスティア

 炎上神ワイズが反逆罪で連行され、マグローザ漁船での強制労働送りが確定した後のこと。

 世界神であり、アナステシア世界の創造主である女神ルチアナは、自身の自室(通称・コタツ部屋)で、ピンク色の芋ジャージを着てあぐらをかき、マイタンブラーに入れた芋焼酎をちびちびと啜っていた。

「……へぇ。あのワイズの仕掛けた『絶対の絶望』を、たかが人間の村長代理が、ホームセンターの道具と電波妨害で完全にひっくり返したっていうの?」

 ルチアナの目の前には、エンジェルすまーとふぉんの画面が空中に投影され、春太たちが勇者と魔将軍を撃退した一連のゲリラ配信のアーカイブが流れていた。

「ウレタンフォームにジャミング装置、防犯カラーボールねぇ……。あの太郎が残した『100円ショップの概念』を、ここまでエグく、そして泥臭く使いこなす人間がいるなんてね」

 永遠の17歳(自称)の女神は、面白そうに口角を上げた。

「それに、あの村……なんだかすごく居心地が良さそうじゃない。ファミレスのドリンクバーみたいな謎の飲み物もあるし、あのコックが作ってるローストビーフ丼、すっごく美味しそう……」

 ルチアナはスマホの画面を指で弾きながら、ふふっと悪戯っぽい笑みをこぼした。

「最近、お仕事(神界の書類仕事)もマンネリ気味だったし……ちょっと息抜きに、『直接視察(お忍び)』に行ってみようかしら。ヴァルキュリアには内緒でね」

 女神が下界への干渉を思いついた、その瞬間。

 神界のモニター室には、ルチアナだけでなく、世界の調停者たる存在たち――『竜王デューク』や『不死鳥フレア』といった絶対強者たちも、このポポロ村の異常な防衛戦の映像に目を留め始めていた。

 剣と魔法の世界で、現代インフラを駆使して強者を打ち破る『異端の村』。

 その存在は、星の管理者たちの好奇心と興味を、極限まで惹きつけてしまったのである。

 ◆

「ごちそうさまでした! あー、食った食った!」

 ポポロ村の広場。

 俺は空になったローストビーフ丼の器を置き、大きく背伸びをした。

 空はすっかりオレンジ色に染まり、一番星が瞬き始めている。

「店長、明日も忙しくなりそうだな。まずは防壁のセメント流し込みからだ」

 アラトがエプロンを外しながら言う。

「ああ。それに、壊された商品の発注もやり直さなきゃならない。まったく、社畜に休みはないぜ」

 俺が苦笑いしながら、ふと夕暮れの空を見上げた、その時だった。

「……ん?」

 オレンジ色の空の彼方、分厚い雲の隙間から、一瞬だけ『神々しい黄金の光の筋』と、何か『巨大な竜のような影』が交差してよぎったような気がした。

「どうした、春太? 空に何かあるの?」

 キャルルが不思議そうに首を傾げる。

「……いや。気のせいだろ。ただ……」

 俺は胃の奥底が、昨日とは違う意味で『キュッ』と締め付けられるのを感じた。

「なんか、ものすごくデカくて厄介な連中が、この村に目をつけ始めたような……嫌な予感(社畜の直感)がしただけだ」

「もう、春太は心配性なんだから! どんなトラブルが来ても、私たちがぶっ飛ばしてあげるわよ!」

 キャルルが笑って俺の背中をバンと叩く。

 俺は「痛ぇな」と笑い返しながらも、空から目を離せなかった。

 課金勇者とヤラセ炎上の脅威は去った。だが、俺たちの戦いは、星の管理者(神々)すらも巻き込む、さらに巨大なうねりへの『入り口』に過ぎなかったのだ。

 ただのホームセンターの店長が、神々と渡り合う。

 そんなスケールの大きな(そして胃痛の絶えない)胸熱な日々が、すぐそこまで迫っていることを予感しながら、俺はタローマンのシャッターを静かに下ろした。

お読みいただきありがとうございます!


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