EP 5
【グリーンベレー本×ホムセン】スコップとロープのエグい陣形
ホムセンの台車に、大量の五寸釘とピアノ線のような建築用ワイヤーを積み込んだ。
「ふふっ……ひひひ……」
アラトがその山を見て、かつて納期前に発狂した社畜のような、ヤバすぎる笑顔を浮かべていた。
「おい、大丈夫か? デスマーチのトラウマでも思い出したか?」
俺がドン引きしながら声をかけると、アラトはガバッと顔を上げ、目を血走らせてワイヤーの束を掴んだ。
「思い出したんじゃない。思いついたんだよ、店長! この細くて異常に頑丈な『ワイヤー』と、この『釘』! これなら、俺の罠術が何十倍にも跳ね上がる!」
昨日の穴掘り特訓に続き、今日は具体的な『陣地構築』の日だった。
キャルルは村の巡回に行っており、裏手の更地には俺とアラトの二人だけだ。
「いいか、店長。この世界の罠ってのは、基本的には魔法で地面を隆起させたり、落とし穴に木のトゲを仕込む程度なんだ。なぜなら、『見えないほど細くて、魔獣の突撃に耐えられる強度の糸』を量産する技術がないからだ」
「なるほど。だからホムセンの建築用ワイヤーを見た時、あんなに変なテンションになってたのか」
「そうだ! 地球の工業技術、舐めんなよ!」
アラトは前世のしがらみ(ITドカタ)から解放され、純粋な『構築』の喜びに震えていた。
「店長、グリーンベレーのサバイバル教本、読んでたんだろ? ゲリラ戦の基本陣形を思い出せ。敵の進行ルートを限定し、一番隙ができる場所に殺意を集中させるんだ」
「ああ、キルゾーンの構築だな」
俺も、店長時代の棚割作りの血が騒いできた。
客をいかに目的の商品(罠)へ誘導し、無意識のうちに手に取らせる(踏ませる)か。マーケティングの動線設計と、ゲリラ戦のトラップ構築は本質的に同じだ。
「よし、アラト。あそこの木と木の間に、ワイヤーを張ろう。高さは魔獣の首の高さだ」
「OK。ただ張るだけじゃ見切られる。俺の『自然魔法』で周囲の草木を操って、ワイヤーを完全に隠蔽する」
アラトが手をかざすと、足元の草がスルスルと伸びてワイヤーに絡みつき、見事にカモフラージュされた。
「これで魔獣が闘気に任せて突っ込んできたら、どうなると思う?」
「自分のスピードと体重(運動エネルギー)で、首がワイヤーに食い込んで自滅するな」
「正解。だが、これだけじゃ足りない」
俺は台車から『五寸釘』の箱を開けた。一本一本が太く、鋭く尖った鋼の釘。
「落とし穴の底に、これを逆さに打ち込んでおく。木のトゲなんかより遥かに鋭くて硬いから、魔獣の分厚い皮膚も簡単に貫通するはずだ」
「エグいな店長。採用だ」
俺たちはゲラゲラ笑いながら、スコップで落とし穴を掘り、底に五寸釘を敷き詰めた。
『ホムセンの工業製品』×『張力と運動エネルギー(現実の物理)』×『魔法・闘気頼りの異世界の雑な突撃』=不可視の凶悪な斬撃&貫通トラップ。
これが、魔法を持たない俺たちなりの『無双』の形だった。
「おーい、二人とも! 差し入れ持ってきたわよー!」
村の巡回を終えたキャルルが、籠にいっぱいの『太陽芋』を抱えてやってきた。
「お、サンキュー、村長。ちょうど小腹が空いてたんだ」
俺が太陽芋を受け取ろうと歩き出した瞬間。
「あ、待って店長! そっちは――!」
アラトの制止が遅かった。
俺の足が、枯れ葉で隠蔽していた『見えないワイヤー(起動スイッチ)』に引っかかった。
ビィィィンッ!という音と共に、木の上に仕掛けていた仕掛けが作動する。
「うおっ!?」
バサァッ!!
頭上から、大量の土のう(中身はただの泥)をくくりつけたネットが落下してきた。
俺は間一髪で横に転がり、泥まみれになりながらも直撃を避けた。
「……あぶねぇ。死ぬところだったぞ、アラト」
「す、すまん! 俺もどこに仕掛けたか分かんなくなるくらい、完璧に偽装できちまったもんで……」
「ちょっと! あんたたち、村の裏手でなんて危ないもの作ってるのよ!」
キャルルがウサギ耳を逆立てて怒鳴る。
「魔獣用の『デスゾーン』だよ。これなら、俺みたいな一般人でも魔獣を狩れる」
俺が泥を払いながら胸を張ると、キャルルはため息をついた。
「……春太の知識とアラトの魔法が合わさると、ほんとタチが悪いわね。でも、これなら村の防衛も安心かも」
彼女は太陽芋を差し出しながら、ふと台車の上にある『別の機械』に気付いた。
「ねえ、春太。あの台車に乗ってる、黒と黄色の大きな箱みたいなのは何? あと、その横の四角い塊も」
「ああ、これか。これは明日の実戦訓練で使うための『秘密兵器』さ」
俺はホムセンの倉庫から持ち出してきた『充電式バッテリー(ポータブル電源)』と、それに繋ぐための『高圧洗浄機(業務用)』をポンと叩いた。
「罠だけじゃ、倒しきれない大物が来た時の保険さ。こいつの威力は、熊避けスプレーの比じゃないぞ」
俺がニヤリと笑うと、アラトも察したように飴玉を噛み砕いた。
「いいねぇ。地球のインフラの暴力を、異世界のバケモノ共に叩き込んでやろうぜ」
キャルルだけが、「また得体の知れないものを……」と首を傾げている。
俺たちのホームセンター防衛線は、着実に凶悪さを増していた。
――そして翌日。
俺たちは完成した『デスゾーン』の奥に陣取り、森の奥から魔獣をおびき寄せる準備を整えていた。
「来るぞ、店長。……しかも、昨日のお前が倒した一本角より、二回りはデカい群れだ」
アラトが地面に耳を当て、冷たい汗を流しながら弓を構える。森の奥から、木々をへし折る凄まじい地響きが迫ってきていた。
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