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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 4

『台本崩壊のゲリラ配信!神界のプロデューサー(黒幕)を笑いで殴れ』

『――さあ、これで終わりだ。邪悪なる魔族よ、僕のこの聖なる光の剣で、過去の罪ごと浄化してあげるよ!』

 ポポロ村の広場の中央で、白銀の鎧を纏った勇者ゼロスが、オリハルコンソードを天高く掲げた。

 彼の周囲を飛び回る三機のドローンカメラ(魔導通信石)が、最も勇者が美しく、そしてドラマチックに映る『斜め四十五度からのアオリの画角』を完璧に捉えている。

 この後、魔将軍ミラースが「バ、バカな……! この俺の妖刀が押し負けるだと!?」という三文芝居のセリフを吐き、ゼロスがトドメを刺す――というのが、彼らの書いた『英雄配信』の完璧な台本シナリオだった。

 だが。

 ゼロスが最高にキマったドヤ顔で剣を振り下ろそうとした、まさにその瞬間。

「ギャァァァァァァァァッ!!」

「……は?」

 ゼロスの足元を、オレンジ色の奇妙な物体が猛スピードで駆け抜けていった。

 いや、一つではない。十匹、二十匹という群れだ。

 それは、ルナが農業特区から解き放った異常農作物――手足の生えた『人参マンドラ』たちだった。彼らは「ギャー!」「ギャー!」と耳をつんざくような悲鳴を上げながら、ゼロスとミラースの足の股をくぐり抜け、シリアスな戦場を縦横無尽に走り回り始めた。

『えっ?』『なんだ今のオレンジのやつ』『人参が走ってたぞ!?』

 ゴッドチューブのコメント欄に、純粋な困惑の声が流れ始める。

「な、なんだこいつら!? ええい、カメラに映るだろうが、あっちへ行け!」

 ゼロスが慌てて人参マンドラを蹴り飛ばそうとするが、素早い人参たちはヒョイヒョイと勇者の蹴りを躱していく。

 さらに、その混乱に追い打ちをかけるように、今度は緑色の丸い物体が、ゼロスの足元にコロコロと転がってきた。

『ネタキャベツ』である。

『奥さん、聞きましたぁ!? この勇者様、実はブーツの中に五センチのシークレットインソール(厚底)を仕込んでるらしいですわよぉ!』

「な、ななななっ!?」

『しかも! さっきカメラが回ってないところで、こっそりイチゴ味の口臭スプレーをシュッシュしてましたのよ! 魔王軍と戦うのにエチケット優先とか、ウケますわよねぇ!』

 ネタキャベツが、収穫時特有の『三面記事レベルの極上ゴシップ』を、高音の大音量で喋り出した。

 ドローンカメラのマイクが、その暴露を全世界にバッチリと拾い上げてしまう。

『ファッ!?』『厚底www』『イチゴ味の口臭スプレーwww』『勇者、見た目気にしてて草』『シリアスどこ行ったwww』

 先ほどまで「ゼロス様かっこいい!」一色だったコメント欄が、一瞬にして『草(w)』の弾幕へと変貌を遂げた。

「き、貴様ぁぁっ! この喋るキャベツめ、黙れぇぇっ!」

 顔を真っ赤にしたゼロスが、剣の柄でネタキャベツを叩き潰そうと必死になっている。だが、キャベツは「キャー! 図星突かれて逆ギレですわー!」と叫びながら転がって逃げていく。

 完璧だった『英雄の戦い』の空気が、ものの数秒で、完全な『ドタバタコメディ』へと崩壊した瞬間だった。

「――お待たせいたしましたですの!」

 そして、カメラの画角ベストアングルを完全に遮るように、青い芋ジャージ姿のリーザが乱入してきた。

「全国のリスナーの皆様! こんな胡散臭いニセ勇者の茶番にスパチャを投げるくらいなら、この宇宙一のアイドル、リーザの『Love & Money』の口座に直接ぶち込んでくださいまし!!」

 リーザが、ゼロス専用のドローンカメラをガシッと両手で掴み、自分の顔のドアップを映し出す。

「おいっ! 何をしている、僕のカメラから離れろ、この芋ジャージ女!」

「離れませんの! 貴方たちがこの村を炎上させようとするなら、私は貴方たちの配信の『数字』を全部横取りしてやりますの!」

 さらに、広場の端からは、キュララが自身のエンジェルすまーとふぉんを構え、別の角度から『ゲリラ配信(裏側暴露)』を開始していた。

「はーい、みんなー! キュララだよっ☆ 今ね、ポポロ村で自称勇者さんが魔族と戦ってるんだけど……ほら見て! あの魔族のおじさん、勇者さんの剣をわざとゆっくり受けてあげてるの! 完全にプロレスだよーっ!」

 キュララのカメラが、ミラースの『手加減しまくりの手元』を容赦なくズームアップして世界中に垂れ流す。

『マジじゃん』『魔族のおっさん、剣止めてるww』『ヤラセ確定』『さっきの感動返せww』

 ゼロスのチャンネルの視聴者が、次々とキュララの『暴露配信枠』へと雪崩れ込んでいく。

「お、おいミラース! どうなってるんだ! お前、早くこいつらを斬れ!」

 台本を完全にメチャクチャにされたゼロスが、裏の共犯者であるミラースに怒鳴る。

「ええい、鬱陶しい小娘どもめ! 俺の妖刀の錆にしてやる!」

 ミラースが本気で妖刀を振り上げようとした、その時だ。

「――まぁ! お野菜さんたちを虐めるのも、女の子に刃を向けるのも、完全なコンプライアンス違反ですわ!!」

 広場の隅から、世界樹の杖を構えたエルフの姫君、ルナが声を張り上げた。

「大自然の怒り……いや、私の怒りを知りなさいっ! 『ハッピー・ドリーム(増殖版)』!!」

 ルナが杖を地面に突き立てると、広場の石畳を突き破り、巨大な紫色の食虫植物(ヨダレをダラダラ垂らした幻覚植物)が十数本も一気に生い茂った。

「なっ、なんだこの気味の悪い植物は!?」

 ミラースとゼロスが後ずさる。

「さあ、ハッピー・ドリームさんたち! あのコンプラ違反のお兄さんたちの首筋に触手をブスッと刺して、強制的に『お金と女の子と酒の幻覚』を見せて、幸せな廃人にして差し上げなさい!」

「倫理観どうなってんだテメェはァァァッ!?」

 ゼロスが、思わず素の(チンピラのような)言葉遣いでツッコミを入れながら、襲いかかってくる触手を必死で剣で払いのけた。

 ヤラセの英雄劇は、ものの見事に『カオスなバラエティ番組』へと変貌を遂げていた。

 ◆

 同じ頃。

 天界セレスティアの薄暗いモニター室。

 炎上神ワイズは、自身の専用ノートパソコンの画面を見つめながら、怒りで全身をワナワナと震わせていた。

 彼の手元にあった高級なマイタンブラーは、すでに壁に叩きつけられ、カプチーノの染みが無惨に広がっている。

「……ふざけるな。ふざけるな、ふざけるなァッ!!」

 ワイズはキーボードを力任せに叩き割らんばかりの勢いで絶叫した。

 彼が丹精込めて書き上げた『完璧な悲劇と、そこからの英雄的復讐劇』の台本。

 村が燃え、人々が泣き叫び、勇者が絶望を切り裂く。その圧倒的なカタルシスで、視聴者の涙と怒りを煽り、神界でもトップクラスのPVと莫大な予算スパチャを稼ぎ出すはずだったのだ。

 それが、どうだ。

 画面に映っているのは、人参に股間を潜り抜けられて転ぶ勇者。

 キャベツに厚底靴と口臭スプレーをバラされて顔を真っ赤にする英雄。

 ドローンカメラを奪い合って「私が一番ですの!」と喚くジャージの女。

 そして、触手植物に追い回されて「ひぃぃっ!」と情けない悲鳴を上げる魔将軍。

 シリアスな『ざまぁ配信』は、完全に『底抜けのコメディ(放送事故)』へと成り下がっていた。

 しかも、視聴者の反応は最悪だった。

『ヤラセ勇者ダッサww』『魔王軍もグルかよ』『もうこの村の日常配信でいいじゃん』

 彼が最も憎む『平和で騒がしい日常ギャグ』が、彼の悪意を完全に飲み込んでしまっていたのだ。

「認めん……! こんな三流の喜劇など、私のゴッドチューブには必要ない!!」

 ワイズは血走った目でエンジェルすまーとふぉんを掴み、裏回線で魔将軍ミラースと勇者ゼロスに直接の念話を繋いだ。

『――ゼロス! ミラース! 貴様ら、遊んでいる場合か!!』

「ワ、ワイズ様!? いや、遊んでいるわけじゃなく、この女たちが邪魔で――」

『言い訳はいい! 台本は破棄だ! そのふざけた女どもを、カメラの前で本気で殺せ! 物理的に切り刻め! そして、その惨たらしい死体を見せつけて、再び視聴者を恐怖と怒りの底に叩き落とすのだ! やれッ!!』

 神の狂気じみた命令が、現場の二人に下された。

 その瞬間、ゼロスとミラースの目から、ヤラセの余裕が消え去り、本物の『殺意』が宿った。

 ◆

「ひひひ。……随分と、焦ってやがるな、あのクソ神様は」

 一方、ポポロ村のホムセン『タローマン』の一階。

 レジカウンターの裏に築いた段ボールのバリケードの中で、俺――神城春太は、防犯カメラの映像を見つめながら、冷たく笑っていた。

 モニター越しに、ゼロスとミラースの空気が『本物ガチ』に変わったのが手に取るようにわかる。

 だが、遅い。

 俺が女子三人組を囮(ゲリラ配信)に使って稼いだこの十分間。

 それは、ホムセンのインフラが、相手の息の根を完全に止めるための『準備時間』だった。

「……アラト。進捗はどうだ?」

 俺が背後を振り返ると、油まみれのエプロン姿の相棒が、ニヤリと前世のSEの顔で笑った。

「システム・オールグリーンだ、店長。魔導通信石の波長を逆位相でぶつける『広域ジャミング(電波妨害)装置』、完成したぜ」

 アラトの手元には、ホムセンの無停電電源装置(UPS)と、複数の通信石をケーブルで強引に繋ぎ合わせた、不格好だが凶悪な機械が鎮座していた。

「あいつらの強さは『課金』と『配信』だ。なら、その大元のインフラ(通信)を物理的に遮断してやれば、ただの哀れなカカシに成り下がる」

 俺は立ち上がり、エプロンの紐を強く締め直した。

「さあ、反撃の時間だ。俺のホムセンでヤラセ炎上を仕掛けたこと、地獄の果てまで後悔させてやる」

 俺とアラトの二人の社畜は、最強のデバフ兵器を抱え、女子たちが時間稼ぎをしている広場へと足を踏み出した。

お読みいただきありがとうございます!


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