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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 3

『敵襲来とヤラセの開幕!白刃と閃光の三文芝居』

 ――ウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

 ポポロ村の静寂を切り裂き、手回し式の防空サイレン(ホムセンの防災グッズ)がけたたましく鳴り響いた。

 それは、昨夜何者かによって両断された南門の防壁外から、おびただしい数の魔物の群れが押し寄せてきたことを告げる、絶望の合図だった。

「ひぃぃぃぃっ! き、来たぁぁっ!! 本当に魔王軍の残党が来やがったぁぁっ!」

 俺はレジカウンターの裏に築いた段ボールと有刺鉄線のバリケードに隠れ、頭を抱えて絶叫した。

「春太! 隠れてないで指示を出しなさい! 村民の避難誘導は私がやるわ!」

 村長のキャルルが、ダブルトンファーを構えてホムセンを飛び出していく。

「頼むキャルル! 絶対に無理はするなよ! 相手は鉄筋コンクリートを斬るバケモノだぞ!」

 俺の悲鳴を背に、キャルルは広場へと走り去った。

 ノートパソコンの防犯カメラの映像には、崩れ落ちた防壁の隙間から、ゴブリンやオークといった下級魔族たちが、村の広場になだれ込んでくる様子が映し出されている。

 だが、俺の視線は、その有象無象の魔物たちには向けられていなかった。

『……フン。脆いものだな。これが噂の要塞村とは、笑わせる』

 カメラの映像越しでも、その男が放つ異常なプレッシャーは伝わってきた。

 漆黒のローブを纏った巨漢。魔皇国でも危険視される種族『ネフェリム』の男――魔将軍ミラースだ。

 彼は悠然と村の広場を歩きながら、背中の妖刀『哭刀』をスリリと引き抜いた。

「おい、店長。あいつ、ホムセンの屋外資材置き場に向かってるぞ……!」

 隣でモニターを見ていたアラトが、青ざめた声を上げた。

 ミラースの目の前には、タローマンの屋外に山積みになっていた『単管パイプ』と『コンクリートブロック』のパレットがあった。

 彼は足を止めることもなく、ただ無造作に、妖刀を横に薙いだ。

 ――ズシュゥゥンッ。

 音すらなかった。

 ただ、空間がズレたような錯覚。

 次の瞬間、山積みになっていた数百本の鋼鉄の単管パイプと、頑強なコンクリートブロックの山が、まるで熱したナイフで切られたバターのように、斜めにスッパリと両断され、ガラガラと崩れ落ちたのである。

「あぁぁぁっ! 俺の在庫がぁぁぁぁっ! 発注したばかりの資材がぁぁっ!!」

 俺は恐怖と同時に、店長としての財産を破壊された悲しみで血の涙を流した。

「あ、ありえねえ……。鋼鉄のパイプの束だぞ!? 抵抗ゼロで斬りやがった。どんなチートスキルだよ!」

 アラトも信じられないものを見たように目を剥いている。

 ミラースのユニークスキル【ソード】。

 自身が所持した武器に『いかなる物質をも両断する』という概念を付与する、絶対に防御不可能な最凶の能力。

 物理的な硬さなど、彼にとっては一切意味を成さないのだ。

『さあ、人間ども。絶望の顔を見せろ。全てを焼き尽くし、この村を魔王軍の力で恐怖の底に沈めてやる』

 ミラースが、態とらしいほど仰々しい声で宣言し、配下のオークたちに松明を持たせて民家に火を放とうとした。

 逃げ遅れた村の子供が、泣きながらへたり込んでいる。

 ミラースが、その子供に向かって妖刀を振り上げた、まさにその瞬間だった。

『――待たせたな!!』

 天空から、眩いばかりの白銀の閃光が降り注いだ。

「な、なんだ!?」

 俺がモニターを凝視すると、光の中から、純白の聖なる鎧とミスリルマントを翻した一人の青年が、広場の中央に颯爽と舞い降りた。

『魔王軍の残党め! 罪なき人々をこれ以上傷つけることは、この勇者ゼロス・ディバインが許さない!!』

 白く輝く歯。風に揺れる完璧にセットされた前髪。

 昨日のゴッドチューブのランキング一位の動画で見た、あの『イケメン勇者』が、絵に描いたようなタイミングで登場したのだ。

「おぉぉっ! 勇者様だ!」

「助かった! 神様、ありがとうございます!」

 逃げ惑っていた村人たちが、希望の光を見たように歓声を上げる。

『フッ……貴様が噂の勇者か。だが、このミラースの妖刀の前に、その命を散らすがいい!』

『やってみるさ。皆の笑顔は、僕が必ず守り抜く!』

 ゼロスがオリハルコンソードを引き抜き、ミラースに向かって一直線に駆け出した。

 ガキィィィィンッ!!!

 妖刀と聖剣が激突し、凄まじい火花と衝撃波がポポロ広場に吹き荒れる。

 魔将軍の漆黒の斬撃を、勇者が華麗なステップで躱し、反撃の光の剣閃を放つ。

 それはまさに、神話の戦いをそのまま具現化したような、圧倒的で美しい一騎打ちだった。

「す、すごいですの……! あの勇者様、あんなバケモノ相手に一歩も引いていませんわ!」

 モニターの後ろから覗き込んでいたリーザが、興奮して声を上げる。

「本当に、絵物語の英雄みたいですわね……」

 ルナも、その美しい剣技に感嘆のため息を漏らした。

 村人たちも、固唾を飲んで勇者の戦いを見守っている。

 誰もが、勇者ゼロスの正義を信じ、彼が魔将軍を打ち倒すことを祈っていた。

 ――ただ、防犯カメラの映像を冷静に分析していた俺とアラト、そしてプロの配信者であるキュララの三人だけは別だった。

「……おい、アラト。見ろ」

 俺はノートパソコンの画面を拡大し、マウスカーソルで画面の『ある部分』をグルグルと指し示した。

「……ああ。バッチリ飛んでやがるな」

 勇者ゼロスの周囲。

 彼が剣を振るい、マントを翻すその後ろや斜め上を、常に三〜四機の『超小型ドローンカメラ(魔導通信石)』が、ブンブンと飛び回っていたのだ。

 激しい戦闘の最中だというのに、ドローンたちは見事なフォーメーションを組み、ゼロスの顔が常に「一番カッコよく見える角度」から撮影し続けている。

「キュララ。プロの配信者から見て、あの動きはどう思う?」

 俺が静かに尋ねると、キュララは軽蔑しきったような冷たい目で画面を見つめ、吐き捨てるように言った。

「……最低。あれ、完全に『台本ありきのカメラワーク』だよ。ほら、見て」

 キュララが画面を指差す。

「あの魔将軍のおじさん、大振りの攻撃をする時、わざわざゼロスの顔に影が落ちないように、一瞬だけ剣を止めてる。それに、ゼロスが反撃のセリフを言う時、ドローンが正面に回り込むまで、魔族の兵士たちが謎の待機時間(棒立ち)を作ってるじゃない」

「……だよな」

 俺は、ギリッと奥歯を噛み締めた。

 防犯カメラという『第三者の視点(俯瞰)』から見れば、彼らの戦いの不自然さは一目瞭然だった。

 あれほど「いかなる物質も両断する」と豪語し、鋼鉄のパイプを真っ二つにしたミラースの妖刀。それが、なぜかゼロスのオリハルコンシールドとは『ガキンッ!』と火花を散らして鍔迫り合いをしている。

 本当に何でも斬れるなら、盾ごと勇者を両断しているはずだ。

 つまり、ミラースはゼロス相手にだけ、わざと【ソード】のスキルを発動させず、ただの物理攻撃で『チャンバラ(殺陣)』を演じているのだ。

「ふざけやがって……! あいつら、俺の村を舞台にして、盛大な『ヤラセのアクション映画』を撮りやがって!!」

 アラトが激怒して机を叩く。

 全ては仕組まれていた。

 魔王軍の襲撃も、防壁の破壊も、村人の絶望も。

 そして、最も視聴者が熱狂するタイミングで登場する勇者の姿も。

 彼らは、何百、何千という命と生活を脅かしながら、それをゴッドチューブの『PV(視聴率)』と『スパチャ』を稼ぐためのコンテンツとして消費しているのだ。

『はぁぁぁっ! 聖なる光よ、邪悪を打ち払え!!』

 画面の中で、ゼロスが剣を高く掲げ、眩い光の魔法を放つ。

 だが、その光はミラースに直撃することなく、周囲の空き家(まだ誰も避難していない無人の小屋)を見事に吹き飛ばすという、無駄に派手な演出エフェクトとして消費された。

「……許さねえ。絶対に許さねえぞ」

 俺の腹の底から、ふつふつとドス黒い怒りが湧き上がってきた。

 俺は根っからの小心者だ。魔王と戦う度胸なんてないし、チートな戦闘力も持っていない。ただの、しがないホムセンの店長だ。

 だが、前世のブラック企業時代、現場の苦労を踏みにじり、自分たちの利益と見栄のためだけに数字を捏造する上層部の連中だけは、心の底から憎んでいた。

 そして今、画面の向こうで嗤っている神界の黒幕(炎上神ワイズ)と、このふざけた役者どもは、まさにその『クソ上司』の同類だ。

「……アラト。アイツら、今は気持ちよく『英雄の生配信』を世界中に垂れ流している最中だよな?」

「ああ、間違いない。キュララのチャンネルを確認したが、今まさに急上昇ランキングを爆走中だぜ」

「なら……俺たちがやることは一つだ」

 俺はレジカウンターの下から、ホムセンの家電コーナーの奥にしまっていた『無線ルーターのジャンク品』と、アラトが使っている魔導通信石の予備パーツを引きずり出した。

「アイツらの最大の武器は、剣でも魔法でもない。『配信というインフラ』だ。なら、そのインフラを根底からへし折ってやる」

 俺は冷たい笑みを浮かべ、アラトを見た。

「元SEの相棒。今から十五分で、このパーツを使って『魔導通信のジャミング(電波妨害)装置』を組み上げられるか?」

 アラトは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに最高に悪い笑顔ニヤリを作った。

「ひひひ、愚問だな店長。俺を誰だと思ってる。ブラック企業で納期十五分の無茶振りをこなしてきた、限界社畜の元SEだぜ。電波妨害なんて、朝飯前だ」

「よし。ルナ、リーザ、キュララ!」

 俺は女子三人組を振り返った。

「アラトが装置を完成させるまでの間、あのヤラセ配信を徹底的に『邪魔(妨害)』してこい! あいつらの綺麗な台本を、ポポロ村のギャグと泥臭さでメチャクチャにしてやれ!」

「はいっ! 私の植物さんたちで、画面を緑いっぱいに彩って差し上げますわ!」

「Love & Moneyの力で、あのニセ勇者のスパチャを全部私が横取りしてやりますの!」

「任せて春太さん! 炎上配信をぶっ壊すなら、プロのゴッドチューバーの出番だよっ!」

 チートな武力には、現代の知恵とインフラの暴力で対抗する。

 ポポロ村・ホムセン防衛隊による、前代未聞の『配信荒らし(ゲリラ反撃)』が、今まさに幕を開けようとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


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