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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 6

『炎上を火消しせよ!前世の社畜に学ぶ完璧な謝罪会見マニュアル』

「うわああぁぁぁぁんっ! 春太さぁぁん、どうしよう! コメント欄が燃えてるよぉぉっ!」

 朝のホムセン休憩スペースに、キュララの情けない悲鳴が響き渡った。

 彼女はエンジェルすまーとふぉんを両手で握りしめ、ボロボロと大粒の涙をこぼしている。画面に表示されているのは、彼女が運営するゴッドチューブのチャンネルと、そこに殺到しているおびただしい数のコメントだった。

『大食い配信、スロー再生したら横のジャージ女が食ってたぞ!』

『やらせ天使! 金返せ!』

『昨日の高圧洗浄機配信も危なすぎだろ! コンプラどうなってんだ!』

『謝罪しろ! 誠意を見せろ!』

 赤や黒のドクロマーク、そして怒りを表すスタンプが、滝のような勢いでスクロールしていく。

「……恐れていた事態が起きたか」

 俺は胃薬(陽薬草タブレット)をボリボリと噛み砕きながら、ため息をついた。

 カメラの死角を利用してリーザにカツ丼を食わせた『エコなやらせ大食い』と、昨日の『高圧洗浄機暴発・水着配信事件』。その二つがネットの特定班(ヒマを持て余した異世界の貴族や魔術師たち)の目に留まり、見事なまでに大炎上を引き起こしたのである。

「どうしよう、どうしよう! このままじゃアカウントBANされちゃう! 天界の先輩たちにバレたら、私、マグローザ漁船(借金返済の過酷な漁業)にドナドナされちゃうよぉ!」

 キュララが頭を抱えてパニックに陥っている。

「ふふん、自業自得ですの。やはりアイドルたるもの、日々の地道なポイ活とラジオ体操での好感度稼ぎが重要なんですのよ」

 やらせの共犯者であるはずのリーザが、対岸の火事とばかりに我関せずの態度で雑草サラダを食っている。

「……なぁに、泣くこたぁないぜ、天使の嬢ちゃん」

 そこへ、エプロンを外したアラトが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて歩みみよってきた。その横に並び立つ俺の顔にも、いつの間にか『前世の修羅場を潜り抜けた社畜の笑み』が浮かんでいた。

「えっ……? 春太さん、アラトさん……?」

「いいか、キュララ。俺たちは前世で、ブラック企業という名の地獄ダンジョンで、理不尽なクレームや大炎上の火消しを何百回とこなしてきた、謝罪と隠蔽のプロフェッショナルだ」

 俺はホムセンのバックヤードから、『会議用の長机』と『無地のグレーの背景布』、そして『タローマン製の安物の黒スーツ(リクルート用)』を引っ張り出してきた。

「今から、前世の大人たちが使っていた『完璧な謝罪会見マニュアル』を叩き込んでやる」

 ◆

 三十分後。

 ホムセンの裏手に設置された即席の謝罪会見場。

 キュララはフリフリのアイドル衣装から一転、地味な黒のスーツに身を包み、髪を後ろでひっつめ、メイクを落とした『極限まで反省している風のすっぴん姿』で長机の前に座らされていた。

「さあ、配信をスタートしろ。俺がカメラの裏からカンペで指示を出す。一言一句、間違えずに読み上げろよ」

「う、うん……っ!」

 キュララが震える指でドローンカメラを起動する。

『おっ、配信始まったぞ!』『やらせ天使だ!』『土下座しろ!』

 アンチたちが一斉に群がってきた。

 俺はすかさず、【カンペ:まずは深く、そして重々しく頭を下げろ。五秒キープだ】を突き出した。

 キュララは神妙な面持ちで立ち上がり、「この度は、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした……」と、机に額がつくほど深く頭を下げた。

『……お、おう』『なんかガチの謝罪じゃん』『スーツ姿だと印象違うな』

 少しだけコメントの勢いが弱まる。そこが勝負所だ。

 俺は次のカンペを出す。

【カンペ:やらせ疑惑について。全否定せず、かといって肯定もするな。「事務的なミス」で押し通せ】

「え、えーと……大食い配信の件につきましては、私の……『事務所ホムセンに確認させましたところ、カメラワークの切り替えに関する事務的なミスが判明いたしました』」

『は?』『事務的なミスってなんだよ! 横のジャージが食ってただろ!』

 コメントが再燃する。

 俺は冷酷に次のカンペをめくった。

【カンペ:必殺技を放て。『記憶にございません』だ】

「あのジャージの女性についてですが……その、私自身は配信に夢中で……『身に覚えがございません』。『記憶にございません』。一緒にいたという事実無根でありますっ!」

『いや動画に残ってんだろ!』『すげえ往生際悪いな!』

「私がご飯を食べさせたという報告は一切受けておりません! 現在、村の当局アラトが調査中の案件でありますので、私からのこれ以上のコメントは差し控えさせていただきますっ!」

 キュララは、俺が書いた『前世の政治家や悪徳企業のトップが使う、最強の責任逃れ定型文』を、涙ながらに、しかしまったく中身のない言葉として連呼し続けた。

 それを横で見ていたキャルルが、ドン引きした顔で俺の袖を引っ張った。

「は、春太……。なにあの謝罪……。心に一ミリも響かないんだけど。誠意の欠片もないわよ……?」

「これが現代社会における『大人の火消し』だ。絶対に言質を取らせず、のらりくらりと躱し続ける。怒り狂った群衆は、相手がのれんに腕押しの対応を続けると、やがて疲弊して飽きるんだよ」

 俺が胸を張って答えると、キャルルは「地球って恐ろしいところなのね……」と青ざめていた。

 だが、俺の計算にも一つの誤算があった。

 相手は地球のネット民ではなく、血の気の多いアナステシア世界の住人たちである。

『ふざけんな! 責任逃れだ!』『ルナミス帝国の首都から、今から抗議に行かせていただきます!』

 一部の過激なアンチ系配信者インフルエンサーたちが、物理的にポポロ村にカチコミをかけると宣言し始めたのだ。

「ひぃぃっ! 春太さん! ヤバい人たちが村に来ちゃうよぉ!」

 キュララがパニックになる。

「ふはははっ! 慌てるな。物理的に来るなら、むしろ好都合だ。アラト! 『アレ』の準備はいいか!」

「おうよ、店長。とびきりのヤツを茹で上げといたぜ!」

 アラトが鍋から取り出したのは、黄金色に輝く一本のとうもろこしだった。

 ルナの植物魔法によって異常濃縮された野菜の一つ――『ずっ友ロコシ』である。これを半分にして相手に渡せば、これまでの遺恨をすべてすっ飛ばし、ズブズブの癒着関係(ずっと友達)になれるという、恐るべき汚職用アイテムだ。

「いいかキュララ! 抗議に来た連中のリーダー格を迎え入れろ。そして、涙ながらにこの『ずっ友ロコシ』を半分に割って、相手の手に握りしめさせるんだ!」

「う、うんっ! わかった!」

 数時間後。

 ポポロ村の門の前に、怒り狂ったアンチの代表格(ルナミス帝国の暇な貴族)が数人、馬車で乗り込んできた。

「おい! やらせ天使を出せ! 我々の金貨を騙し取った罪は重いぞ!」

 そこに、黒スーツ姿のキュララが、トボトボと歩み寄り、涙を浮かべて深々と頭を下げた。

「この度は、本当にごめんなさい……。でも私、皆さんのことが大好きだったんです……。これ、せめてものお詫びに、村の特産品です。どうか……どうか受け取ってください」

 キュララは、ホカホカに湯気を立てる『ずっ友ロコシ』をパキッと半分に割り、貴族の手にそっと握らせた。

「ふんっ! こんな田舎のトウモロコシで誤魔化され……ん? あ、甘くて良い匂い……ガブッ」

 怒り任せにずっ友ロコシを一口かじった瞬間。

 貴族の顔つきが、劇的に変化した。

 怒りで釣り上がっていた眉が下がり、口角がだらしなく緩み、キュララを見つめるその瞳に、星屑のようなキラキラとした親愛の情が宿ったのだ。

「……ああっ! キュララちゃん! なんという甘さ! なんという深い絆の味!」

「えっ……? あの、許して、くれるの……?」

「当たり前じゃないか! 我々は、ズブズブの『ずっベストフレンド』だろう!? やらせ? 何かの見間違いに決まってる! いや、むしろあのエンターテインメント性こそが君の魅力だ! さあ、今すぐ追加でスパチャ(金貨)を投げさせてくれ!」

「わぁぁっ! おじさま、だーいすきっ♡」

「おおっ! 最高だキュララちゃぁぁぁん!!」

 広場の真ん中で、謝罪会見の主役と、それを糾弾しに来たはずのアンチの親玉が、仲良く肩を組み、とうもろこしを齧りながら大爆笑している。

 それを見た他のアンチたちも、リーダーの急な寝返りと、漂ってくる異常なトウモロコシの匂いに当てられ、次々と毒気(怒り)を抜かれていった。

「……ミッション・コンプリートだ」

 俺はホムセンの陰からその光景を見届け、満足げに頷いた。

 政治家の責任逃れマニュアルと、異世界の異常農作物の悪魔合体。大人の汚い『コンプラ術』が、ネットの炎上を見事に鎮火(隠蔽)させた瞬間である。

「すっごーい! 春太さん、私、ピンチを乗り越えてもっとフォロワー増えちゃったかも!」

 後日、すっかり汚い大人社会に染まったキュララが、満面の笑みで俺に報告してきた。

「そうですの! これで私も、カメラの裏で安心していっぱいご飯が食べられますの!」

 リーザも、やらせ大食いの共犯者として嬉しそうに頷いている。

「春太……あんたたち、本当にロクな死に方しないわよ……」

 キャルルだけが、心底軽蔑したような目で俺たちを見ていたが、俺は気にしていない。

 村の平和(と売上)を守るためなら、俺はどんな汚い手でも使う。それが、タローマンの店長としての矜持なのだから。

 だが、この『ずっ友ロコシ』の乱用が、後にもっと面倒な人間関係のトラブルを引き起こすことになるとは、俺たちはまだ気づいていなかったのである。

お読みいただきありがとうございます!


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