EP 4
【ルナキン女子会の再現】ドリンクバーと恋のマウント合戦
「……おい、アラト。あいつら、あそこに座ってから何時間経った?」
「ざっと十二時間だな。昼下がりに座り込んで、今はもう深夜だぜ。完全に『ルナキン(ルナミス帝国最大手ファミレス)』の深夜テンションに突入してやがる」
深夜のポポロ村。
静まり返った鉄筋コンクリートのホムセン一階で、唯一煌々と明かりが点いている休憩スペース(実演販売用のパイプ椅子と長机)に、俺とアラトの呆れた視線が注がれていた。
そこには、三人の少女が陣取っていた。
村長のキャルル(ウサギ耳)、専属アイドルのリーザ(芋ジャージ)、そして歩くコンプラ違反エルフのルナ(最高級シルクドレス)。
ルナミス帝国時代、同じマンションでシェアハウスをしていたという『元・同居人』の三人娘である。
「ねえルナちゃん! この『めろんそーだ』っていう緑のお水に、黒い『こーら』を混ぜて、最後にアラトさんの作ったミルクを足すの! これがルナミス底辺女子の間で流行った『魔の沼』ですの!」
「まあ! 色が毒沼みたいでとっても綺麗ですわ! いただきます……んっ!? 甘くてシュワシュワして、その後にまろやかなコクが……! 素晴らしいですわ、リーザちゃん! 世界樹の朝露より刺激的です!」
「ふふん、そうでしょ! でも飲みすぎるとお腹タプタプになるから気をつけてね」
キャルルが、まるでお姉さんのように腕を組んで得意げに笑う。
……どう見ても、深夜のファミレスでドリンクバーの元を取ろうと粘る、金のない女子高生や限界フリーターの生態そのものだった。
一人は一国の村長、一人は人魚姫、もう一人は次期エルフ女王だというのに、威厳もクソもない。
「それにしても、不思議な空間ですわね」
ルナが紙コップを両手で包み込みながら、ホムセンの店内をぐるりと見渡した。
「ルナミス帝国での生活も楽しかったですけれど、このポポロ村はもっと面白いです。……ところで、キャルルちゃん」
ルナが、ふと悪戯っぽい笑みを浮かべて、キャルルを覗き込んだ。
「あなた、この村の『村長代理』をしている春太さんとは……どういうご関係なんですの?」
「ブホォォッ!?」
キャルルが飲んでいた『魔の沼』を盛大に吹き出した。
「な、ななな、何言ってるのよルナちゃん! 春太はただのビジネスパートナーというか、一緒に村を運営している仲間であって、別にその、特別な関係とかそういうのじゃ……!」
キャルルの長いウサギ耳が、恥ずかしさで真っ赤に染まり、ピンッと直立不動になっている。相手の心音で嘘を見破る彼女だが、自分の嘘を隠すのは絶望的に下手だった。
「あらあら。でも、ルナミス帝国にいた頃のキャルルちゃんは、毎日近衛騎士団の愚痴ばかり言って、いつも眉間にシワを寄せていたのに。今は春太さんを見る時、とっても幸せそうな、とろけたお顔をしていますわよ?」
「と、とろけてなんかないわよ! ちょっと彼が、私のために特注の安全靴を作ってくれたり、美味しいご飯を用意してくれたり、いざという時に背中を預けてくれるから、少しだけ、ほんの少しだけ頼りにしてるっていうか……!」
キャルルが両手で顔を覆いながら、ヤンデレ一歩手前の重たい愛情をダダ漏れにさせる。
だが、ここで黙っていないのが、隣で山盛りのポテトチップスを頬張っていたリーザだった。
「ちょっと待ってくださいまし、キャルルちゃん! 春太さんは、私の『専属プロデューサー』ですの!」
リーザが立ち上がり、芋ジャージの胸に輝く『ホムセン従業員バッジ』を自慢げに突き出した。
「私、春太さんと『雇用契約』という絶対の絆で結ばれていますの! 私のお洋服(魔改造ベスト)も彼のお手製ですし、私のステージも、私の『時間』も、全部彼にプロデュース(支配)されているんですの! つまり、春太さんの一番近くにいるのは私ですの!」
地下アイドル特有の、純粋すぎるがゆえに誤解を招く強欲なマウント。
「なっ……! 雇われているだけでしょ! 私は春太の『右腕』として、一緒に戦ってるんだからね! 春太の隣は私の指定席よ!」
「いいえ! 春太さんの『愛と富』は、私の『Love & Money』のバフで何倍にもして差し上げますの!」
バチバチバチッ!
深夜のドリンクバー前で、ウサギと人魚による「どちらが春太にとって重要か」という不毛なマウント合戦が勃発した。
それを聞いていた俺は、レジカウンターの裏で頭を抱え、胃薬(陽薬草タブレット)をボリボリと噛み砕いていた。
(……なんで俺、自分の店の中で、身内から勝手に所有権を争われてるんだよ……)
だが、一番の爆弾は、二人の争いをニコニコと見守っていたエルフの姫君だった。
「ふふっ。お二人とも、春太さんのことが大好きなのですね」
ルナが、ポンッと手を叩いた。
「でも、キャルルちゃんは『暴力(武力)』で、リーザちゃんは『歌(魔力)』で春太さんを支えているのでしょう? それなら、私は『財力』で春太さんを支えてあげましょう!」
「「……は?」」
キャルルとリーザの動きがピタリと止まる。
「お聞きしたところ、春太さんは昔、ブラック企業というところで過労死するほど働かされていたそうですわね。可哀想に……」
ルナが純度百パーセントの慈愛の笑みを浮かべる。
「ですから、私が世界樹様から毎月もらう『純金百キログラム』を全額、春太さんに貢ぎますわ! そうすれば、春太さんは一生働かなくて済みますし、私が彼を養ってあげられますもの! はい、これで私が春太さんの『一番のパトロン(所有者)』ですわね!」
「なっ……ずるい! 純金百キロなんて、物理的に勝てるわけないじゃない!」
キャルルが絶望して机に突っ伏す。
「ひぃぃっ……! 圧倒的な資本の暴力……! 私なんて、まだ時給で働いているのに、ルナちゃんは春太さんを『札束で叩き落とす』つもりですの!?」
リーザも、エルフの桁違いの経済力(ヒモ化計画)に恐れおののいている。
「もちろん、春太さんの体が弱ったら、私が新鮮な臓器をいくらでも買って、再生して差し上げますわ! さあ、春太さんを金塊と魔法で、私だけの籠の鳥に……ふふふっ」
「――させるかバカヤロォォォォォォッ!!!」
ダンッ!!
俺は限界を迎えてレジカウンターから飛び出し、長机を両手で叩きつけた。
「ひゃああっ!? は、春太さん!?」
「いい加減にしろお前ら! ここは俺の城であって、ルナキン(ファミレス)の深夜席じゃねえ! 十二時間もドリンクバーで粘って、挙句の果てに店長を純金でヒモにしようとするな! 俺は自分の足で立って、自分の店を経営して生きていくんだよ!」
俺が血管をブチ切れさせながら怒鳴ると、三人娘はビクッと肩をすくめ、子犬のようにシュンとなった。
「ご、ごめんなさい、春太……。つい、昔のクセで長居しちゃって……」
「申し訳ありませんの、プロデューサー……」
「良かれと思ったのですが……ごめんなさい、村長さん」
シュンとする三人の姿は、シェアハウス時代から全く成長していない『限界底辺女子(一人除く)』そのものだった。
「はぁ……。まったく」
俺は大きなため息をつき、乱れたエプロンを整えた。
「まあ、久しぶりの再会で羽を伸ばしたかった気持ちは分かる。だが、ルナ。お前、このままニートみたいにドリンクバーに居座り続けるつもりか?」
「えっ? だ、駄目ですか……? 私、ここでずっと甘いお水を飲んで暮らしたいですわ……」
ルナが紙コップを抱きしめて涙目になる。完全に現代の怠惰なインフラに毒されていた。
「駄目に決まってるだろ。リーザだって時給で働いてるんだ。お前にも、この村の住民として『仕事』をしてもらう」
「お仕事……。でも私、魔法でお花を咲かせるか、お金を配るか、臓器を再生することしかできませんわよ?」
「その一つ目の能力を、徹底的に管理して使ってもらう」
俺は、ホムセンの『農業資材コーナー』のカタログをドンッと机に置いた。
「ルナ。お前を、ポポロ村の『農業部門・特区責任者』に任命する。お前の暴走しがちな植物魔法を、俺のホムセンのインフラで完全にコントロールしてやる」
歩くコンプラ違反エルフと、ホムセンの最強インフラの融合。
それは、異世界に『未知の異常農作物』という名の新たな爆弾を生み出す、最狂のプロジェクトの幕開けだった。
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