表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/101

EP 9

【Love & Money】照明チートと、時間を奪う歌姫

 白目を剥いて気絶した悪徳興行師ザッパとゴロツキどもを、アラトが荷造り用のトラロープで縛り上げ、広場の隅に転がした。

 先程までの暴力的な騒ぎに、客席の商人や村人たちは息を呑んで静まり返っていた。祭りの空気は冷え切り、一歩間違えれば客が逃げ出しかねない緊迫感が漂っている。

 だが、俺はミキサーの前に立ち、メガホンマイクのスイッチを入れた。

「――テステス。お見苦しいトラブルがあって申し訳ない。ただの羽虫が数匹迷い込んだだけだ」

 俺が平然と言い放つと、広場に少しだけ安堵のどよめきが広がった。

「さて、気を取り直して、うちの専属アイドルの『本気のステージ』を始めよう。メガ盛り焼きそばとエールの準備はいいか? ここから先は、瞬きする時間すらもったいないぞ」

 俺の合図とともに、アラトが再び一万ルーメンのLED投光器をステージの中央に絞った。

 そこには、ホムセンの安全ベストを魔改造した衣装に身を包んだ、リーザが立っている。

「ふぅぅぅ……っ」

 リーザが深く息を吸い込んだ。

 アラトの【家庭科】スキルによる完璧な栄養管理と、ポポロ村の異常成長野菜を三日間腹いっぱいに食い続けた結果。限界ギリギリの底辺サバイバルで枯渇していた彼女の『人魚族の魔力』は、今、完全に満ち溢れ、体の中からオーラのように漏れ出していた。

「――さあ、私の世界へようこそですの!」

 俺がミキサーのプレイボタンを押す。

 PAスピーカーから、アップテンポでゴージャスな、ブラスバンドと重低音が絡み合うイントロが爆音で鳴り響いた。

 リーザがマイクを天に突き上げ、輝くような笑顔で歌い出す。

『All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!』

『(Yeah!!)』

 その瞬間だった。

 リーザの歌声がスピーカーを通し、広場の空気を震わせた途端――空から淡い金色の光の粉(バフ魔法)が、粉雪のように舞い散ったのだ。

「なっ……なんだこれ!? 体が、めちゃくちゃ軽いぞ!?」

「さっきまで痛かった腰が治っただべ!? なんだこの魔法の歌は!」

 観客たちが驚愕の声を上げる。

 人魚姫の勝負曲『Love & Money』。それは単なる歌ではない。彼女の歌声に込められた強烈な魔力が、観客の疲労を吹き飛ばし、傷を癒やし、ステータスを限界突破させる『究極の範囲バフ魔法』なのだ。

『今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)』

『全て上手くいくわ (絶対!)』

『愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)』

『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)』

 リーザはステージを縦横無尽に駆け回り、観客一人一人に視線を送りながら、その『強欲』な歌詞を歌い上げる。

「私は運命……私は物語……だから貴方達の全てをちょうだい♡」

 リーザの瞳の奥で、アイドルとしての狂気と執着が炎のように揺らめく。

 みんなの『時間』も『お金』も全部奪い尽くす。その代わり、この瞬間だけは、辛い現実を忘れさせる『宇宙一の幸せ』を与えてあげる。

『貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)』

「ウオォォォォォォォォォォッ!! リーザちゃぁぁぁん!!」

 広場の熱狂は、完全に臨界点を突破した。

 村の長老たちは立ち上がって謎のオタ芸を打ち始め、屈強な冒険者たちは涙を流しながら大合唱している。

「最高ですわ! リーザさん、私の全財産を受け取ってくださいませ!!」

 最前列に陣取ったスアイが、氷魔将軍時代に貯め込んだ宝石の入った袋を、ステージに向かって全力で投げ込んだ。

『ホムセンの照明とPA機材(現代の演出)』×『人魚姫のバフ魔法』=異世界人の脳を焼き尽くす、究極の狂乱フェス。

 そこにはもはや、魔法も闘気も関係ない。圧倒的な『エンターテインメントの暴力』が、この空間を支配していた。

 ――その熱狂の渦から少し離れた、広場の暗がり。

 フードを目深に被った一人の男が、腕を組んでその光景を静かに見つめていた。

 ルナミス帝国の内務官、オルウェルである。

「……信じられん」

 オルウェルは、ステージの鉄組み(単管パイプ)と、闇を切り裂く強烈な光(LED)、そして広場を揺るがす音響機材を眺め、背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。

「魔法陣も詠唱の気配もない。だが、この圧倒的な光と音はなんだ? それに、あの村長の男……手下を一瞬で吹き飛ばしたあの『風のブロワー』。あれは、建国神話に語られる初代皇帝の『秘宝』そのものではないか」

 オルウェルは、広場の隅でトラロープに縛られて白目を剥いているザッパを一瞥し、冷たく鼻で笑った。

「馬鹿なハイエナめ。こんな『特異点』を、チンピラのシノギで潰せるはずがなかろう。……この村のインフラと、あの歌姫が放つ熱狂は、我がルナミス帝国の覇道に計り知れない利益(カネと力)をもたらす劇薬だ」

 オルウェルは、このポポロ村の村長代理――『春太』という男の存在を、国家の最重要監視対象、いや、いずれ必ず帝国に引き入れるべき『至宝』として報告書にまとめる決意を固めた。

「楽しませてもらったぞ、ポポロ村。いずれ、皇帝陛下の名の下に、正式な招待状を送ってやろう」

 オルウェルは誰にも気づかれることなく、夜の闇へと溶けるように姿を消した。

 そんな帝国の思惑など知る由もなく、ステージの上ではリーザが最後のサビを熱唱していた。

『だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ』

『だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)』

『ダーリン! (チュッ♡)』

「「「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」」」

 広場に、地鳴りのような大歓声が響き渡る。

 銅貨や銀貨、野菜や干し肉といった『愛とスパチャ』が、雨あられのようにステージに降り注ぐ。

 リーザは息を切らしながら、満面の笑みで深くお辞儀をした。

「皆様の『時間』と『御縁』、確かに奪わせていただきましたの! 本日は本当に、ありがとうございましたの!!」

 俺はミキサーの電源を落とし、心地よい疲労感とともに息を吐いた。

 トラブルはあったが、フェスは大成功だ。ポポロ村の防壁の中に、誰にも奪われない、そして誰もが笑顔で対価を払う『最強の娯楽インフラ』が完成したのだ。

「春太……」

 ふと、背後から袖を引かれた。

 振り返ると、鋼鉄のトンファーを下げたキャルルが、少しだけウサギ耳を赤くして立っていた。

「ん? どうした、キャルル。お前もリーザの歌、楽しんだか?」

「……うん。リーザちゃん、すごくキラキラしてた。でもね」

 キャルルは俺の目をまっすぐに見つめ、小さな声で言った。

「私だって……春太の『プロデュース』があれば、もっとみんなを守れるくらい、強くてキラキラになれるんだからね」

 ヤンデレ特有の、重くて熱い対抗心。

 俺は苦笑しながら、キャルルの頭をポンと撫でた。

「ああ。分かってるよ、村長」

 熱狂の夜は更けていく。この小さな村から始まった騒動は、やがて強大な帝国をも巻き込む大波になろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ