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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 8

【音響チート(物理)】ブロワーと巨大スピーカーの暴力

 夜のポポロ村の広場に、ゴロツキたちの怒号と刃擦れの音が響いた。

「やっちまえ! その生意気な店長を細切れにして、女どもは俺の慰み者にしてやる!」

 ザッパの号令で、十人近いゴロツキが一斉に俺たちへ襲いかかってきた。

「春太! 下がってて! こいつら、私が全部蹴り飛ばすから!」

 キャルルが鋼鉄のトンファーを構え、ウサギ耳を逆立てて先陣を切ろうとする。

「待て、キャルル。お前はリーザの護衛を頼む。こいつらは……俺たちのやり方で『お引取り』願おう」

 俺が制止すると同時に、背後からアラトが紫電を纏った矢を空に向けて放った。

 パァァァンッ!!

 空中で矢が炸裂し、目眩ましの閃光が広場を照らす。

「うおっ!? 目が!」

「ひるむな! ただの目眩ましだ、突っ込め!」

 目を細めながらも突撃してくるゴロツキたち。その先頭の数人が、俺の数メートル手前まで肉薄した。

 だが、俺は特殊警棒を構えたまま、足元に置いてあった『それ』のスターターロープを、思い切り引き絞った。

 ギュオォォォォォォォォォンッ!!!

「なんだぁっ!?」

 俺の手から放たれたのは、魔法の詠唱でも闘気の爆発でもない。

 二ストロークエンジンのけたたましい爆音と共に射出された、最大風速毎秒八十メートルの『台風直撃レベルの暴風』――業務用の背負い式エンジンブロワーだ。

「ぐわぁぁぁぁっ!?」

 先頭のゴロツキ三人が、見えない巨大な壁に激突したかのように、無様に宙を舞って後方へ吹き飛んだ。

 刃を振るう以前の問題だ。体重八十キロを超える大の大人が、ただの『風圧』によって木の葉のように転がっていく。

『ホムセンの園芸用品(業務用ブロワー)』×『人間一人の空気抵抗』=絶対的な物理的ノックバック。

「な、なんだあの魔法は!? 無詠唱で上位の暴風魔法を連発してやがる!」

「近づけねえ! 風の壁が固すぎて一歩も前に出られねえぞ!」

 ゴロツキたちが顔を腕で覆いながら悲鳴を上げる。

「アラト、今だ!」

「おうよ! 俺の『家庭科特製・熱々ホットオイルスプラッシュ』を喰らいな!」

 アラトが屋台から持ち出した、焼きそば用の熱した油をフライパンから豪快にぶちまけ、そこに火炎魔法をわずかに着火させる。

 ボワァァァッ!!という炎の壁がゴロツキたちを包み込み、彼らは「熱ぃぃぃっ!」と叫びながら完全に戦意を喪失して逃げ散っていった。

「ちぃっ! 使えねえクズどもが……!」

 自分の手下が一瞬で無力化されたのを見て、ザッパが顔を真っ赤にして舌打ちした。

「だがな、辺境の田舎モンども。これで勝ったと思うなよ。俺のシノギを邪魔する奴には、ルナミス帝国の裏社会の恐ろしさを骨の髄まで教えてやる!」

 ザッパは懐から、禍々しい紫色の光を放つ手のひらサイズの水晶球を取り出した。

「それは……『魔導音響妨害機ノイズメーカー』ですの!」

 ステージの上で、リーザが顔を青ざめさせて叫んだ。

「あれは、競合するライバルのライブを妨害するために裏社会で使われる、呪いの魔導具ですの! あんなものを起動されたら、鼓膜が破れて誰もまともに立っていられなくなりますの!」

「ギャハハ! その通りだ小鳥ちゃん。この村の住人もろとも、脳みそをシェイクしてやるぜ!」

 ザッパが水晶球に魔力を注ぎ込むと、紫色の不気味な魔法陣が空中に展開した。

 キィィィィィィィィンッ……!!

 ガラスを引っ掻くような、黒板を爪で削るような、本能的な嫌悪感を呼び起こす超高周波の不快音が広場に響き渡る。

「う、ううっ……耳が……!」

 キャルルが長いウサギ耳を塞いでしゃがみ込み、アラトも顔をしかめて膝をついた。村人たちも一斉に耳を塞いで苦しそうにうめき声を上げている。

「ギャハハハ! どうだ! これじゃあ可愛いアイドルの歌も、お前らの自慢の祭りも台無しだなぁ! さっさとそのステージと屋台の権利書をよこせ!」

 ザッパが勝利を確信し、下劣な笑い声を上げる。

「……なるほど。音波によるジャミングか」

 だが、俺は防犯用ヘルメットのイヤーマフ(防音具)を下げていたため、多少の不快感はあるものの、行動に支障はなかった。

「ザッパと言ったか。お前はエンタメの興行師を名乗る割には、一番大事なことを分かっていないようだな」

「あぁ? 強がりを言ってんじゃねえぞ、三流プロデューサーが」

「音楽の妨害はな、魔法の嫌な音を出すことじゃない。……もっとデカくて、暴力的な『音圧』で上書きしてやるのが、一番手っ取り早いんだよ」

 俺はメガホンマイクを捨て、ステージ袖に設置してあった『メインコンソール(ミキサー)』のマスターフェーダーに手をかけた。

 そこに繋がっているのは、ホムセンの店舗用BGMから、巨大駐車場の呼び出しまでを担う、定格出力数千ワットを誇る『超大型PAスピーカー』の二つの塔だ。

「リーザ、耳を塞いでおけ。……行くぞ」

 俺はマスターフェーダーを一気に頂点(MAX)まで押し上げた。

 ズドゴォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 広場の空気が、物理的に震えた。

 俺が流したのは、テスト用に入れていた重低音のEDMエレクトロニック・ダンス・ミュージックのトラックだ。

 腹の底を殴りつけるようなキックバスの重低音と、鼓膜を突き破らんばかりの大音量が、魔導音響妨害機の高周波を『物理的な音圧』で完全に飲み込み、粉砕した。

「がっ……!? な、なんだこの音はぁぁぁっ!?」

 ザッパが水晶球を落とし、両手で耳を塞いで地面にのたうち回る。

 魔法の音波など、大排気量のスピーカーが放つ『空気を震わせる暴力的な重低音』の前には、さざ波のようなものだ。内臓まで響く低音の振動が、ザッパの三半規管を完全に狂わせていた。

『魔導音響妨害機』×『現代のPAスピーカーの定格出力』=物理的音圧による完全なジャミング返し。

「ひぃぃぃっ! 頭が割れるぅぅっ!」

「た、助けてくれぇっ!」

 逃げ遅れたゴロツキたちも、スピーカーの真ん前で音圧の直撃を受け、次々と白目を剥いて気絶していく。

 俺はフェーダーをゆっくりと下げ、音量を『ライブの適正値』に戻した。

「……さて。余興トラブルはこれで終わりだ。お前ら、二度と俺のシノギ(店)と専属アイドルに手出しするなよ」

 俺が静かに見下ろすと、ザッパは泡を吹いて完全に意識を失っていた。

 邪魔者は消えた。

 夜の帳が完全に下り、煌々としたLED投光器の光が、ステージの上でスタンバイする一人の少女を照らし出している。

「さあ、リーザ。準備はいいか?」

「はいですの、春太プロデューサー!」

 リーザがマイクを握り締め、不敵で、強欲で、そして最高にキュートな笑顔を浮かべた。

 今夜、このポポロ村で、真の伝説ライブが幕を開ける。

お読みいただきありがとうございます!


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