EP 7
【悪徳プロモーター来襲】フェスを狙う帝国のハイエナ
特設フェス会場のプレオープンから一夜明け、ついに本番の夜がやってきた。
だが、熱狂に包まれるはずの広場には、ソースの匂いをかき消すほどの強烈な『暴力の匂い』と、冷たい静寂が張り詰めていた。
「どけ! 俺のシノギの邪魔をする奴は、容赦しねえぞ!」
ガシャァァァンッ!!
村の広場に乱入してきた十人ほどのゴロツキたちが、並べられていた丸太の椅子を次々と蹴り飛ばす。
その中心を悠然と歩いてきたのは、派手な毛皮のコートを着た太った男――ルナミス帝国の裏社会とエンタメを牛耳る悪徳興行師、ザッパだった。
彼は葉巻を吹かしながら、特設ステージの上で怯えるリーザをねっとりとした視線で見上げた。
「探したぜ、俺の可愛い小鳥ちゃん。親善大使という名目で帝国にやってきたはいいが、誰にも相手にされずテント村で泥水すすってたお前を拾ってやったのは、どこの誰だ?」
「ひぃっ……ザ、ザッパさん……!」
リーザは真新しいホムセン作業着風の衣装をギュッと握りしめ、顔面を蒼白にして震えていた。
「恩知らずにも逃げ出しやがって。お前にはまだ、俺に返す『借金』がたっぷり残ってるんだぜ?」
「借金だと?」
俺はステージ袖から歩み出て、リーザを庇うようにザッパの前に立った。
「おう、誰だお前。この村の村長か?」
「俺はホームセンターの店長であり、このステージの責任者……リーザのプロデューサーだ。うちの専属アイドルに何の用だ」
俺が静かに凄むと、ザッパは下品な笑い声を上げた。
「ギャハハ! 専属アイドルだと? こいつは俺の所有物(商品)だ! ルナミス帝国で路上ライブをやらせてやった『みかん箱のレンタル代』に、『芋ジャージのリース料』、さらに俺様直々の『レッスン代』を合わせて、ざっと金貨五百枚の借金があるんだよ!」
「なっ……! そんなの、ただの言いがかりですの! みかん箱は八百屋さんのゴミ捨て場から拾ったものですし、レッスンなんて一度も……!」
リーザが涙目で反論するが、ザッパは分厚い借用書(リーザのサイン入り)をこれ見よがしにビラビラと振って見せた。
ルナミス帝国の法律の網の目を潜り抜けた、完全な悪徳契約(搾取)だ。世間知らずの人魚姫は、見事にそれに引っかかっていたらしい。
「で、プロデューサーさんよ。可愛いアイドルを守りてえなら、お前が代わりに耳を揃えて払うか?」
ザッパの視線が、俺を通り越し、背後の『単管パイプのステージ』と『LED投光器』、そしてアラトが切り盛りする『屋台』へと向けられた。彼の瞳の奥に、剥き出しの強欲がギラリと光る。
「金貨五百枚が無理なら、そうだな……この珍しい光の魔導具と、鉄の舞台、それからあの美味そうな匂いのする屋台の権利。全部、俺のシノギに組み込んでやる。それでこの小娘の借金はチャラにしてやろうじゃねえか。悪い話じゃねえだろ?」
なるほど。初めからリーザの連れ戻しは口実で、プレオープンの噂を聞きつけ、このポポロ村の新しい『インフラと利益』を丸ごと強奪しに来たというわけだ。
「……断る」
俺が冷たく言い放つと、ザッパの顔から作り笑いがスッと消えた。
「そうかよ。辺境の田舎モンが、ルナミス帝国のやり方に逆らうとどうなるか……教えてやる。野郎ども! まずはそのナメた鉄の舞台をぶっ壊せ! 魔導具は傷つけずに奪い取れ!」
「おう!!」
ザッパの号令と共に、柄の悪いゴロツキたちが大振りのハンマーや鉄パイプを構え、俺たちが作り上げた特設ステージの柱――単管パイプに向かって一斉に打ちかかった。
「きゃあっ! 春太さん!」
リーザが悲鳴を上げる。
だが、俺は一歩も動かなかった。
ガキィィィンッ!!
鈍い金属音が響いた直後。
「ぐぎゃぁぁぁっ!?」
ハンマーを振り下ろしたゴロツキたちが、手首を激しく押さえて地面にうずくまった。
「痛えっ! なんだこの柱! 鉄の塊じゃねえか!!」
当然だ。単管パイプは日本の建築現場を支える直径四十八・六ミリの高張力炭素鋼。中空とはいえ、異世界の粗悪なハンマー程度で曲がる代物ではない。
さらに、そのジョイント部分(直交クランプ)は、元魔将軍のスアイが『インパクトドライバー』を使って、狂気的なまでの締め付けトルクでガチガチに固定しているのだ。人力の打撃ごときで、ビクともするはずがない。
「てめえら、何やってんだ! ただの足場だろ、さっさと壊せ!」
「む、無理ですアニキ! 魔法の接着剤でも使ってんのかってくらい、全く継ぎ目が外れねえんです!」
ザッパが怒鳴るが、ゴロツキたちは痺れた手を抱えて後ずさるばかりだ。
『ホムセンの建築資材(単管パイプ)』×『インパクトドライバーの固定力』=ゴロツキの物理破壊を無効化する絶対の要塞。
「ふざけやがって……! なら、あの生意気な店長から先に殺せ!」
ザッパが腰の長剣を抜き放ち、ゴロツキたちが殺気を放って俺を取り囲んだ。
「……やれやれ。営業妨害には、実力行使で対応させてもらうぞ」
俺は腰のベルトから、黒く輝く『特殊警棒』を引き抜いた。
シャキッ!と鋭い音を立てて鋼鉄の棒が伸びる。
その時、屋台の方からアラトがエプロンを翻して歩み出てきた。その手には紫電を纏う弓が握られている。
「店長。俺の焼きそばを冷ましやがった慰謝料、高くつくぜ?」
さらに、ステージの裏からキャルルが鋼鉄のトンファーを構えて飛び出してきた。
「私の春太に、気安く近づかないでくれる!?」
俺たちのホームを荒らす害虫どもは、俺たちがこの手で駆除する。
夜の広場に、開戦の空気がバチバチと弾けた。
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