EP 5
【フェス飯チート】焼きそばの匂いと嫉妬のヤンデレ
ジュワァァァァァァッ!!
ホムセンの特大鉄板の上で、豚バラ肉とキャベツが踊り、太めの麺が豪快に炒められていく。
そして、アラトがとどめとばかりに『濃厚なウスターソース』を鉄板に回しがけた瞬間、暴力的なまでに香ばしい匂いが爆発した。
「はわわわわっ……! な、なんですかこの匂いは!? 胃袋を直接鷲掴みにされているようですの!」
リーザが芋ジャージの膝をガクガクと震わせ、鉄板の前にへばりついている。
「たまらん……たまりませんわ! 氷の魔力を練る時よりも、唾液の分泌が止まりません!」
スアイもインパクトドライバーを放り出し、涎を拭いながら身を乗り出していた。
ここは、単管パイプで組み上げられた特設ステージのすぐ横。
俺がホムセンのレジャーコーナーから持ってきた折りたたみテントの下で、アラトが【家庭科】スキルを全開にして『屋台メシ』の試作を行っていた。
「へへっ、日本の祭りといったらコイツだろ! 特製・屋台のソース焼きそばだ! 青のりと紅生姜も乗せてやったぜ!」
プラスチックのパックに山盛りにされた焼きそばが、俺たちの前に並べられる。さらに、隣の鉄板では極太の『粗挽きフランクフルト』がパリッと音を立てて転がっていた。
「い、いただきますの!」
リーザが割り箸を割り、焼きそばを口いっぱいに放り込む。
「……んふぅぅぅっ!! あ、甘辛い!? いえ、スパイシー!? この細長い紐のような食べ物が、濃密な味のソースと絡み合って、噛むたびに豚肉の旨味が弾けますのぉぉっ!」
リーザが目を見開き、健康サンダルを猛烈な勢いでバタバタと鳴らす。
「こっちの極太のお肉も最高ですわ! 噛んだ瞬間、皮が弾けて熱々の肉汁が溢れ出しましたわよ!? こんな凶悪な食べ物、魔王軍の宴でも出たことありませんわ!」
スアイはフランクフルトにたっぷりとマスタードを塗りたくり、豪快に齧り付いている。
『ホムセンのBBQ機材と調味料(化学調味料の結晶)』×『アラトの調理スキル』=異世界人の脳を破壊する究極のジャンクフード。
塩とハーブ程度の味付けしか知らない異世界人にとって、日本のソースやケチャップの複雑な旨味は、文字通り『合法的な麻薬』に等しい。
「店長、こいつはヤバいぜ。ソースの焦げる匂いってのは、風に乗って数キロ先まで届く。ライブの集客には最強の『撒き餌』だ」
「ああ、間違いない。……ほら、早速釣れたぞ」
俺が村の入り口を指差すと、ポポロ村の防壁の外から、街道を行き交っていた行商人や冒険者たちが「なんだこの美味そうな匂いは……!?」「村の中からだぞ!」と、ゾンビのようにフラフラと集まってきているのが見えた。
匂いだけで人を惹きつける。これこそが『フェス飯』の圧倒的な集客力である。
「よし、アラト。飯の準備と屋台の切り盛りはお前に任せる。俺は、リーザの『衣装』を仕上げないといけないからな」
「おう、任せな! 俺の計算通りにいけば、この屋台だけで村の財政が一年分潤うぜ!」
俺は焼きそばを平らげたリーザの首根っこを掴み、ホムセンの店内――衣料品コーナーへと連行した。
「いいかリーザ。お前はこれから、この特設ステージの主役だ。いつまでもその泥だらけの芋ジャージで歌わせるわけにはいかない」
「えっ? でも、私にはドレスなんて買うお金……」
「金は俺が出す(ホムセンの在庫だが)。お前はただ、俺の作った衣装を着て、最高のパフォーマンスをすればいい」
「は、春太プロデューサー……!」
リーザが感動の眼差しで俺を見上げる。
俺は店長の知識を総動員し、ホムセンの衣料品を『魔改造』し始めた。
ベースは、鮮やかな蛍光色の『安全ベスト』と、軽量で通気性の良い『スポーツ用コンプレッションウェア』。そこに、防鳥用の『キラキラ光るテープ』や、装飾用の『カラーロープ』を【家庭科】の簡易縫製スキル(アラトから少し教わった)で縫い付けていく。
サイバーパンクとアイドルの融合――『ホムセン作業着アイドル』という新ジャンルの開拓だ。
「よし、リーザ。サイズを合わせるから、ちょっと腕を上げてみろ」
「はいですの! ……あ、春太さん、ちょっとくすぐったいですの……ふふっ」
俺がメジャーでリーザの肩幅やウエストを測り、布地をピンで留めていく。リーザは少し顔を赤らめながらも、嬉しそうに俺の作業を見つめていた。
――ギリィィィィィッ!!
その時、衣料品コーナーの陳列棚の陰から、歯軋りのような恐ろしい音が聞こえた。
チラリと視線を向けると、そこにはキャルルがいた。
彼女は両手でタオルをギリギリと絞り上げながら、ウサギ耳を真っ赤にして俺とリーザを凝視していた。
(春太が……春太が、あんなに真剣な顔で、リーザちゃんの体に触れてる……ッ!)
キャルルの心の声が、なぜか俺の脳内に直接響いてくるような気がした。
(私だって、ポポロ村の村長なのに……! 最近、春太はステージ作りとリーザちゃんにかかりっきりで、私のことを全然見てくれない……!)
「あー、キャルル? どうした? 焼きそば、もっと食うか?」
俺が苦笑いしながら声をかけると、キャルルはビクッと肩を震わせた後、プイッと顔を背けた。
「……別に! お腹いっぱいだもん! 春太のバカ!」
「えっ?」
「私だって……私だって、村長として、絶対にみんなをアッと言わせてやるんだから!」
キャルルは目に涙を浮かべたまま、ホムセンの出口に向かって猛ダッシュし、そのまま村の裏山の方へと姿を消してしまった。
「……なんだか、キャルルちゃん、怒ってましたの?」
リーザが不思議そうに小首を傾げる。
「いや……たぶん、アイドルとしての熱意に当てられて、対抗心が燃えたんだろう」
俺は適当にごまかしたが、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。ヤンデレ気質の武闘派ウサギが裏山で特訓を始めたとなれば、ロクなことにならない予感がする。
だが、今は立ち止まっている暇はない。
「よし、衣装のベースはできた。明日の夜は、いよいよ村の住人たちを呼んでの『プレオープン(前夜祭)』だ」
俺は安全ベストの反射材を撫でながら、不敵に笑った。
「お前の歌と、ホムセンのインフラで、異世界人の度肝を抜いてやるぞ」
「はいですの! ファンのみんなの『時間』、みっちり奪ってさしあげますの!」
焼きそばの匂いが村を包み込み、巨大なステージが夕陽に照らされる。
俺たちの手作りフェスの幕開けは、もう目の前に迫っていた。
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