EP 12
【強敵出現】死蟷螂機の凶刃
強固なはずのコンクリート防壁が、まるで豆腐のように崩れ落ちた。
キィィィン……と、空気を切り裂く高周波の耳鳴りが響く。
土煙を払い現れた漆黒の機械蟷螂が、その巨大な鎌を無造作に振り下ろした。
『ギヂヂヂヂヂヂヂッ!!』
死蟲王サルバロスの放った中ボス級機体、『死蟷螂機』。
その両腕の鎌は、細かい刃がチェーンソーのように超高速で回転し、高周波の振動を発している。闘気どころか、現代工業の結晶である鉄筋コンクリートすら真っ二つにする『超振動ブレード』だ。
「ヒィィィッ! 壁が切られたァ!」
「逃げろ! 化け物だァ!」
無敵の壁を破られ、村人たちがパニックに陥り、陣形が崩れかける。
「陣形を崩すな! 盾を重ねて衝撃を殺せ!!」
俺は声を張り上げ、村人たちの背中を押した。
死蟷螂機が、圧倒的な速度で距離を詰め、前列の村人へ鎌を振り抜いた。
ガガガガガガッ!!
ポリカーボネート製シールド三枚を重ねた防御壁に、超振動ブレードが食い込む。
強化プラスチックが溶け、甲高い悲鳴を上げた。
「ぐわぁぁぁぁっ!?」
盾ごと村人たちが何メートルも後方へと吹き飛ばされる。
刃自体は盾の厚みと靭性でなんとか防ぎ切ったが、その圧倒的な運動エネルギーまでは殺しきれず、戦線は完全に決壊した。
「村のみんなは下がって! ここからは私の仕事よ!」
盾の壁が崩れた隙を縫って、キャルルが死蟷螂機の懐に飛び込んだ。
特注の安全靴が、空気を切り裂いて死蟷螂機の胸部装甲にめり込む。
「月影流・鐘打ちッ!」
ガキィィィンッ!と、分厚い金属を叩く鈍い音が響いた。
だが、死蟷螂機はわずかに後退しただけで、ノーダメージだった。
『ギギギッ』
「嘘……私の全力の蹴りが、全く効いてない!?」
キャルルが目を見開く。
「下だ、村長!」
アラトの放った紫電を纏う矢が、死蟷螂機の頭部センサーを狙って飛ぶ。
しかし、死蟷螂機は首をあり得ない角度に曲げて矢を躱すと、そのままキャルルに向かって右の鎌を横薙ぎに振り抜いた。
「くっ!」
キャルルが両手の鋼鉄トンファーを交差させて防御する。
ギャリリリリリリッ!!
凄まじい火花が散った。
鉄筋コンクリートをも両断する超振動ブレードと、キャルルの闘気を限界まで込めたトンファーが激突し、悲鳴を上げる。
「う……あぁぁぁっ!」
キャルルが顔を歪め、後方に弾き飛ばされた。
地面を何度も転がり、土まみれになって立ち上がろうとするが、その両手のトンファーは無惨にも半分の長さで切断されていた。
「ウサギのお姫様が、素手で勝てる相手じゃねえぞ!」
アラトがエプロンを翻し、木々を蹴って立体的に移動しながら、連続で魔法の矢を放つ。
『フレイム・トルネード!』
炎の竜巻が死蟷螂機を包み込む。だが、漆黒の装甲は炎を弾き返し、死蟷螂機は背中の羽を展開し、ステルス機のような不規則な起動でアラトへ迫った。
『ギヂヂヂヂヂヂッ!!』
「なっ、速ッ――」
アラトが間一髪で身を捩るが、左肩の革鎧を薄く切り裂かれ、鮮血が舞う。
「アラト!!」
「私はまだ……やれるわ!」
武器を失ったキャルルが、再び死蟷螂機の背後から特攻をかける。
その足には、雷のような紫電がバチバチと纏われていた。
「超電光・流星脚ッ!!」
雷神の如き速度で空を蹴り、死蟷螂機の死角――頭部の真上から踵落としを叩き込もうとした。
だが。
死蟷螂機の複数の複眼が、背後のキャルルの動きを完全に捉えていた。
『ギチッ』
振り返りもせず、死蟷螂機は左の鎌を、背中に向けて突き上げた。
「――っ!!」
ズプッ、と。
嫌な音がした。
キャルルの右脇腹から背中にかけて、漆黒の刃が深く食い込んでいた。
「キャルルーーーーッ!!」
俺の絶叫が広場に響く。
死蟷螂機が鎌を乱暴に振り払うと、キャルルの小さな体がボロ布のように宙を舞い、冷たい土の上に叩きつけられた。
鮮血が、ポポロ村の乾いた大地を赤く染めていく。
「……はぁ……はる、た……」
キャルルが力なく手を伸ばすが、そのまま瞳の焦点がボヤけ、ピクリとも動かなくなった。
『ギヂヂヂヂヂヂッ……』
死蟷螂機が、鎌についた血を払い、今度は無防備な俺へとその複眼を向けた。
戦線は崩壊し、最強の戦士は血の海に沈んだ。
残されたのは、ただのホームセンターの店長である俺一人。
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