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スキル


 朝日が窓から差し込み、淡い光が部屋を包む。


 その眩しさに目を細めながら、スコルはゆっくりと目を覚ました。


『起きたか、スコルよ。身体の具合はどうだ?』


 頭の中に響く低く威厳ある声――フェンリルの念話だった。


「ん……おはよう。まだ足は少し痛むけど、身体はもう大丈夫だよ」


 スコルは寝ぼけ眼のまま身体を起こし、軽く肩を回した。


『そうか。……ところで今日は、少し町を見てみたいのだが、構わぬか?』


「町の中心部? ちょうどパンを買いに行こうと思ってたんだ。一緒に見て回ろうか」


 そう言ってスコルはベッドから降りる。


 弟たちに残っていたパンを分け与え、簡単に支度を済ませると、残り少なくなった保存用のパンを買うため、町の中心部へ向かうことにした。


 家を出ると、朝の冷たい風が頬を撫でる。


「なんだか変な感じだな……。いつもなら、この時間は森で山菜を採ってる頃なのに」


 スコルは苦笑しながら空を見上げた。


「しばらく森には行けないんだよね」


『ところでスコルよ。ずっと気になっていたのだが――』


 フェンリルの声がわずかに低くなる。


『お主、ワシを見た時、“堕ちた聖獣”と言っておったな。あれは誰から聞いた?』


「ああ、それは町にたまに来る修道士様だよ。紙芝居を使って、昔話みたいに話してくれるんだ」


『ほう……。では、それは教会そのものの教えではなく、その修道士個人の話なのだな?』


「うーん……そうかも。神父様がフェンリルの話をしてるのは、聞いたことないし」


 スコルが首を傾げると、フェンリルは鼻を鳴らした。


『ふざけおって……。“聖氷の神狼”と謳われたこのワシを、“堕ちた”などと呼ぶとは』


 その声音には、静かな怒気が滲んでいた。


『おそらく、その修道士は魔族の手先であろう。封印から目覚めたワシと人間が手を組まぬよう、先に悪しき印象を植え付けておったのだ』


 フェンリルは続ける。


『昔から魔族の手の者は、人の社会に深く入り込んでおったからな』


 スコルは思わず周囲を見回した。町の人々はいつも通り行き交っている。だが、もし本当に魔族の手先が紛れているのだとしたら――。



『ところで、この町の名は何という?』


 フェンリルが話題を変えるように尋ねた。


「マルビっていう町だよ。知ってる?」


『知らんな……。だが、おおよその場所なら見当はつく』


「えっ、本当に?」


『森に生えていたのは、大陸北部に多い木々だ。それに、先程見かけた黄色い花――あれは中央部一帯に群生する多年草だ』


 淡々と語るフェンリルに、スコルは目を丸くする。


「すごいなぁ……。そんなので分かるんだ」


『長く生きておれば、自然と覚えるものだ』


 少し誇らしげな気配が念話越しに伝わってきた。


「ここはテベルト王国っていうんだ。大陸の中北部にある国で、二百年前にできたらしいよ」


『二百年前か……、分からぬはずだ』


 フェンリルはどこか遠くを見るように呟いた。


『ワシが眠っている間に、随分と世界も変わっておるのだろうな』



 すると、不意に背後から人の気配がした。


 スコルが振り向くと、そこにはいつも山菜を買い取ってくれている店の店主、ジンが立っていた。


「スコルじゃねぇか! 無事だったのか!?」


「ジンさん――」


 驚いたように目を見開くジンに、スコルは小さく笑みを浮かべた。


「森にミノタウロスが出たって聞いてな。昨日は町中、大騒ぎだったんだぞ。

探索に出てた冒険者も、何人も戻ってきてねぇって話だし……おまえのことも心配してたんだ」


 ジンは本気で案じていたのだろう。いつもの豪快な顔つきの奥に、安堵の色が滲んでいた。


「ええ……。ジンさんの言ってた通り、冒険者には囮にされました。でも、森には詳しいのでなんとか助かりましたよ……」


 そう答えると、ジンの眉がぴくりと吊り上がる。


「やっぱりか……っ! あの冒険者ども、ふざけやがって……!」


 吐き捨てるように言ったあと、ジンは大きく息をついた。


「……でも、無事で本当に良かった。それで、これから仕事はどうするんだ?」


『スコルよ。“新しい仕事が見つかった”と言え。森も危険になった以上、もう山菜採りは続けられぬ、と』


 フェンリルの念話が頭に響く。


「実は、新しい仕事が見つかりまして……。それに最近は森に出る魔物も増えてきたから、山菜採りはやめようと思ってるんです」


 するとジンは、「やっぱりな」と苦笑した。


「こんな朝早くから町にいる時点で、そんな気はしてたよ。

……まぁ、ミノタウロスまで出たんじゃな。寂しくはなるが、弟たちのためにも、その方がいいのかもしれねぇ」


 その言葉に、スコルは静かに頭を下げた。


「今まで、本当にありがとうございました。ジンさんが買ってくれたから、弟たちを食べさせていけたんです」


 するとジンは、照れくさそうに鼻を鳴らした。


「助けられてたのは、むしろこっちだっての。

おまえの採ってくる山菜は種類も豊富だったし、鮮度も抜群だったからな。客の評判も良かったんだぞ?」


 そう言って笑ったあと、ジンは思い出したように続ける。


「そういや、冒険者ギルドの連中が、森から戻ってきた奴らに話を聞いて回ってるらしい。

今は教会に集まって情報整理してるみたいだから、おまえも何か知ってるなら行ってみるといい」


「分かりました。後で顔を出してみます」


「おう。それとな――」


 ジンは去り際、いつもの気さくな笑みを浮かべた。


「もしまた山菜採りを始めることがあったら、その時は真っ先にウチへ持ってこい。また買い取ってやるからよ」


「……はい!」


「それじゃ、またな」


 そう言ってジンは手を振り、人通りの中へ消えていった。


 その背中を見送りながら、スコルは胸の奥が少し温かくなるのを感じていた。



『スコルよ。教会へは行くでないぞ』


 フェンリルの声が、低く鋭く響いた。


『僧侶〈モンク〉系の者には、鑑定魔法や能力探知系のスキルを持つ者が多いからな』


「え? なんで?」


 スコルは目を瞬かせた。


「フェンリルの加護って、魔法やスキルじゃ見えないんじゃないの?」


 その口調には、どこか残念そうな響きが混じっていた。


 今まで“マナの回路”を一つも持たなかった自分。


 誰にも認められず、才能なしと笑われてきた自分。


 そんな自分が、ついに回路を得たのだ。


 本当は誰かに見せたかった。


 「すごい」と言われたかった。


 そんな気持ちが、心の奥にずっと燻っていた。


 フェンリルは、そんなスコルの感情を察したように、静かに続ける。


『うむ。確かに、ワシの加護そのものは探知されぬ』


『だがな、今のお主は“戦士の回路”と“魔術師の回路”――二つの回路を同時に持っておる』


「うん……」


『その両方を併せ持つ者は、“勇者の回路”とも呼ばれる極めて稀な存在だ』


 フェンリルの声音が重くなる。


『昨日まで何の回路も持たなかった者が、一夜にしてそれを得たとなれば、人々は奇跡だと騒ぐかもしれぬ』


『……だが、魔族は違う』


 スコルの背筋に、冷たいものが走った。


『奴らは必ず、お主とワシの関係を疑い始める。なにせ、お主は昨日、あの森におったのだからな』


「……っ」


『もし気づかれれば、魔族はすぐに動くぞ。お主だけではない――弟たちの元にもな』


「えっ……!?」


 スコルの顔色が変わった。


「弟たちのところにも来るの……!? それはまずいよ……!」


『うむ。ゆえに、今は目立たぬ方がよい。町中に留まり続けるのは避けた方がよい』


 フェンリルの言葉には、脅しではなく、本気の警戒が滲んでいた。


 スコルは思わず拳を握る。自分だけならまだいい。だが、弟たちまで危険に晒すわけにはいかなかった。


 しばしの沈黙のあと、フェンリルがふと尋ねる。


『ところで――ワシが封印されていた森の近くにある町は、このマルビだけなのか?』


「近くに小さな村はいくつかあるけど、“町”って呼べる場所はここくらいかな。ほかは結構離れてるよ」


『なるほど……、それは都合が良いな。離れた町であれば、魔族の目も届きにくく、お主を知る者も少ないだろう』


 フェンリルがどこか意味ありげに言った。


「……どういうこと?」


 スコルは首を傾げる。


「まさか、隣町まで行くってこと? でも遠いよ? 馬車でも何時間もかかるんだから」


 するとフェンリルは、愉快そうに喉を鳴らした。


『フフ……その程度の距離、今のお主にとっては大した問題ではない』


「え?」


『お主は既に、“スキル”を得ているのだからな』


 その言葉に、スコルの目がぱっと輝いた。


「そうだ! ずっと聞こうと思ってたんだ!」


 興奮したように身を乗り出す。


「“牙王疾風ファングロード・ゲイル”――あのスキルって、一体どんな力なの!?」


 フェンリルはわずかに誇らしげな気配を漂わせた。


『“牙王疾風ファングロード・ゲイル”――それは、疾風の如く大地を駆けるための力。大陸を横断する狼のように、風をも追い越す勢いで駆け抜ける移動系のスキルだ』


「移動スキル!?」


 スコルは思わず声を上げた。頭の中には、風を切って草原を駆ける自分の姿が浮かんでいた。


『うむ。並の馬では追いつけぬ速度で、疲れ知らずに走れるぞ』


「す、すご……!」


『だが、今は町中だ。目立つ話をする場所ではない』


 フェンリルの声音が少しだけ真剣になる。


『長居は無用。詳しい話は家へ戻ってからにしよう』


「う、うん……!」


 スコルは慌てて頷いた。


 その後、目当てのパンを買い、人通りの多い通りを抜けながら、静かに家へ戻った。



『スキルの話の前に、まずは隣町へ向かう準備をするとしよう』


 家へ戻るなり、フェンリルがそう告げた。


 スコルは言われた通り、軒下に隠しておいた剣を取り出す。刃が目立たぬよう丁寧に布を巻き、大きな背負い袋へとしまい込んだ。


『……準備は整ったようだな。では、“牙王疾風ファングロード・ゲイル”について説明しようか』


 フェンリルの低い声が、頭の中へ静かに響く。


『このスキルは、風のマナを取り込み、己の脚力へ変換する移動術だ。難しく考える必要はない。周囲を流れる風のマナを感じ取り、それを進みたい方向へ流してやればよい』


 それを聞いたスコルは、小さく息を吐いた。


 目を閉じ、意識を静かに腹の奥へ沈めていく。


 すると、今まで感じたことのない“流れ”が確かに存在していた。


 夜風のように淡く、しかし絶えず世界を巡る力。


『駆けろ。――疾走そのものがお主の力となる』


 フェンリルの言葉と同時に、スコルは地を蹴った。


 次の瞬間――


「……あれ?」


 背負い袋を担いでいるはずなのに、身体が羽のように軽い。


「すごい……身体が勝手に前へ進む!」


 景色が一気に流れ始める。


 踏み込むたび、風が脚へ吸い込まれ、さらに速度へ変わっていく。


『ふむ。どうやら上手く風のマナを扱えているようだな。その調子で隣町へ向かうぞ』


 フェンリルが満足げに言った。


「うわっ……! これなら、どこまででも走って行けそうだ!」


 スコルの速度はさらに増していく。道を駆けるたび、風が唸り、草木が後方へ吹き飛ぶように流れていった。


 しかし――


『調子に乗るでない。このスキルは肉体への負担こそ少ないが、マナを消費する。未熟なお主では、長い距離を走り続けることはまだできぬ。……とはいえ、隣町程度なら問題あるまい』


 フェンリルの忠告に、スコルは笑みを浮かべたまま大きく頷いた。



 スコルはなおも森を駆け抜け、やがて隣町へ続く街道へ差しかかった。


 そのとき、不意にフェンリルの声が響く。


『――止まれ』


 低く鋭い声に、スコルはぴたりと足を止めた。


「どうしたの? この先を抜ければ町だよ」


 息を整えながら尋ねると、フェンリルは静かに周囲を見回した。


『……なかなか良い森だ』


 視線の先には、深い緑をたたえた大森林が広がっている。


「大きな森だね……。でも、なんだか魔物が出そうな雰囲気だよ」


 スコルが警戒気味に呟く。


『これだけマルビから離れておれば問題あるまい。むしろ好都合だ』


 フェンリルは愉快そうに喉を鳴らした。


『町の近くに森があるというのは有難い。狩った魔物をすぐ売りに行けるからな。……よし、少し狩りをしていくぞ』


「この森で?」


『うむ。まずは肩慣らしだ』


 促されるまま、スコルは鬱蒼と茂る森へ足を踏み入れた。


 頭上では枝葉が幾重にも絡み合い、昼だというのに薄暗い。湿った土の匂いと、どこか獣めいた気配が森の奥から漂ってくる。


 しばらく進んだところで、フェンリルがふっと笑った。


『おっ、いたぞ。シマクレストだ』


「え?」


『あの木を見ろ。幹にへばりついておる』


 スコルが目を凝らすと、太い木の幹に奇妙な生き物が張り付いていた。


 白黒の縞模様を持つ、丸々と太ったトカゲ。その姿は、どこか人の赤子を思わせる不気味さがある。


「あれがシマクレスト……? しましまのトカゲみたいな魔物だね」


『うむ。肉は美味で、皮は高級革として高値で売れる』


 フェンリルの声が少し真剣味を帯びる。


『ゆえに、仕留める際は胴を狙うな。皮に傷がつく。狙うなら眼窩か首筋だ』


「なるほど……」


『動きは鈍い。仕留めるだけなら容易い相手だ。だが――油断するな』


 フェンリルの声が低く沈んだ。


『奴は雷気を纏っておる。迂闊に触れれば、一瞬で黒焦げだ。実際、それで命を落とした者も少なくない』


 スコルは思わず喉を鳴らした。


「えっ……そんな危ない魔物なの?」


 だが、フェンリルは鼻で笑う。


『もっとも、お主には関係ないがな』


「え?」


『スコル、お主には雷耐性がある』


「……は?」


 思わず間の抜けた声が漏れた。


「そんなの初耳なんだけど!?」


『本来は、魔法を教える際に説明するつもりだったのだがな』


 フェンリルはどこか楽しげに続ける。


『お主には“マナの回路”が二つ存在する。それと同じく、“星脈”も二つあるのだ』


「星脈……?」


『六星脈の中、雷と氷――お主はその二属性の星脈を持っておる。普通の人間は一つだけだ』


 スコルは目を見開いた。


『スキル〈牙王疾風〉は、外部に漂う風のマナを読み取り、己の力へ変換する技だ。それと似たようなものだと思えばよい。……今は、“属性を扱うための器官”くらいに考えておけ』


 フェンリルがそう告げた。


「……ほんとうに大丈夫なんだろうね」


 スコルは半信半疑のまま剣を握り締める。


『問題ない。首筋を狙え』


 スコルはごくりと唾を飲み込み、木に張り付くシマクレストへゆっくりと近づいた。


 そして――


 首筋めがけ、一気に剣を突き刺す。


「いっっ!?!?」


 次の瞬間、剣を通して激しい痺れが腕を駆け抜けた。


「痛っ!? ビリビリきたんだけど!? 大丈夫って言ってなかった!?」


 思わず飛び退くスコル。


 するとフェンリルが愉快そうに笑った。


『フハハハハ! そうか、痛むか。普通は弓矢で狩る魔物だからな』


「そんな大事なこと、先に言ってよ! 僕、弓なんて持ってないよ!」


『お主なら問題なかろう。その程度の雷気で死にはせぬ。むしろ、これほど安全に高値の獲物を狩れる機会など滅多にないぞ』


 フェンリルは鼻を鳴らす。


『まだ近くに十匹ほどおる。全部仕留めてしまえ』


「えぇ……」


 嫌そうな声を漏らしながらも、スコルは再び剣を構えた。


 手が痺れるたびに顔をしかめながら、それでも次々とシマクレストの首筋へ剣を突き立てていく。


 やがて――


 地面には大量のシマクレストが転がっていた。


『ほう、十三匹か。これは大漁だな』


 フェンリルが満足げに言う。


『幸先が良い』


「たくさん獲れたのはいいけど……多すぎて背負い袋に入らないよ」


 スコルは困ったように周囲を見回した。


『収納系の魔導器でもあれば楽なのだがな。……まあ、今は紐で縛って担げばよい。町も近い。筋肉強化を使えば問題あるまい』


 フェンリルはそう言うと、周囲へ視線を巡らせた。


『それと、その辺に“マナ輝石”が落ちておるかもしれぬ。見つけたら拾っておけ。……まあ、シマクレスト程度では大した値にはならんだろうがな』


 マナ輝石――。


 それは、魔物が死ぬ際、体内に蓄えられていたマナが凝縮し、結晶化したものだ。魔導器の燃料や触媒として用いられるため、冒険者たちは魔物を狩るたび、こうして輝石を回収する。


「これが……マナ輝石か」


 スコルは地面に落ちていた小さな白い結晶を拾い上げた。


 陽光を受けたそれは、まるで淡い月光を閉じ込めたように、かすかに輝いている。


「綺麗だな……」


 呟きながら、スコルはそれを大事そうにポケットへしまった。


 その後、彼はシマクレストを背負い袋へ無理やり押し込んでいく。


 しかし当然、十三匹すべてが入るはずもない。入りきらなかった分は紐でまとめ、肩へ担ぎ上げた。


 ずしり、と重みが食い込む。


「うっ……でも、なんとか持てそう」


 そのときだった。


 フェンリルの声が低くなる。


『……血の匂いに釣られたか。何か来るぞ』


「え?」


 スコルの表情が強張る。


「ま、魔物?」


『ああ。しかも――今のお主には少々厄介な相手だ』


 直後、茂みが爆ぜるように揺れた。


 巨大な影が凄まじい勢いで飛び出してくる。


「うわっ!?」


スコルは反射的に飛び退いた。


 次の瞬間、さっきまでいた場所を巨大な牙が抉り飛ばす。


 そこにいたのは、全身を泥色の剛毛で覆った巨大な猪型の魔物だった。


『ダートボアか』


 フェンリルが低く唸る。


『なかなか美味そうな肉だが……今はまだ勝てぬか。撤退するぞ』


「ど、どうやって!? こいつ、速すぎるよ!」


 言葉を遮るように、ダートボアが再び突進してくる。


 どうやら狙いは、スコルが担いでいるシマクレストらしい。


『スキルを使え』


「あ――そっか!」


 スコルはすぐさま意識を集中させた。その瞬間、風が爆ぜる。


 牙王疾風ファングロード・ゲイル――。


 スコルの身体が疾風のごとく加速し、一瞬で森を駆け抜けた。


 背後でダートボアの咆哮が響く。


 だが、その声はみるみる遠ざかっていった。


 やがてスコルは無事に街道へ飛び出し、そのまま隣町へ向かって駆けていった。



「――見えてきた」


 木々の切れ間から、石造りの外壁が姿を現す。スコルはほっと息をつきながら指を差す。


「あれがストライザードだよ」


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