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冒険者


『ほう、この町は“ストライザード”というのか』


 街門をくぐりながら、フェンリルが感心したように念話を飛ばした。


「久しぶりに来たけど、あんまり変わってないな」


 スコルは行き交う人々を眺めながら呟く。石造りの建物、怒鳴り声混じりの露店、煤けた酒場。港町にも似た荒っぽい空気が、通り全体に漂っていた。


『マルビと雰囲気が似ておる。なかなか悪くない町ではないか』


「えぇ? 全然違う気がするけどな。マルビより、もっと荒々しい感じがするよ」


『ほう、それは土地を知る者の感覚か』


 フェンリルは小さく笑う。


 その時、不意に声色を変えた。


『一応聞いておくが、お主、魔物の解体はできるか?』


「解体? そんなの無理だよ。動物の皮を剥ぐくらいしかやったことない」


『ふむ……ならば、シマクレストは解体屋へ持ち込むとするか』


 解体屋とは、魔物の皮剥ぎや肉の加工、牙や爪、魔石などの素材分別を行う店である。冒険者が狩った魔物を、“売り物”へと変える場所――いわば、魔物を商品化するための専門店だ。


『それとスコルよ。この町では、“スコル”の名を名乗らぬ方がよい』


「え? なんで?」


『お主はマナの回路を二つ持つ特異体質だ。町で余計な注目を集める可能性がある』


 フェンリルの声音は落ち着いていたが、その警戒は本物だった。


『まあ、すぐに問題になるとは思わぬ。だが用心に越したことはない。しばらくは仮の名を使え』


「仮名かぁ……。なんでもいいの?」


『一時しのぎの名だ。好きにつけるとよい』


 スコルは少し考え込み、やがてぽつりと言った。


「じゃあ、“ホティ”にする」


『ほう?』


「昔飼ってた犬の名前。ある日ふらっと、どっか行っちゃったんだけど」


 懐かしそうに笑うスコルに、フェンリルは小さく鼻を鳴らした。


『ホティか。悪くない。この町では通り名として使うがよい。

 それと――ワシの呼び名も変えておくか。“フェンリル”と口にするのは、あまり好ましくないのでな』


「そういえば、あの人……千獣のウルミアは、なんて呼んでたの?」


『ウルミアか。やつは“フェル”と呼んでおったな』


「じゃあフェルでいいじゃん。呼びやすいし」


『フェルか……悪くはない。だが、捻りがないというか、もう少し威厳のある名でも――』


「じゃあ、“紫苺”は?」


『……なんだそれは』


「すっごく美味しい木苺! 森の奥に生えてるんだ!」


『他にないのか?』


「だって、“好きなものでよい”って言ったじゃん」


 フェンリルは深々と溜息をついた。


『……やはり“フェル”にしておくか』


「うん、その方が呼びやすいかも。よろしくね、フェル」


 無邪気に笑うスコルに、フェンリルは呆れ半分に鼻を鳴らす。


『では行くぞ、ホティ。まずは解体屋だ』


 雑踏の中へと歩いていると、すぐに解体屋の看板を見つけた。



「ここが解体屋か……」


 スコルはそう呟き、軋む木扉を押し開けた。


 店内に入った瞬間、獣臭と血の匂いが鼻を突く。天井からは巨大な魔物の骨が吊るされ、奥では職人たちが手際よく肉を捌いていた。


 解体屋――魔物を“商品”へ変える場所。


 皮を剥ぎ、肉を加工し、牙や爪、魔石を選り分ける。冒険者たちが命懸けで狩った獲物は、ここで初めて価値ある素材となるのだ。


 そんな店の奥から、威勢のいい声が飛んできた。


「おっ、シマクレストか! しかもすげぇ数だな!」


 大柄な店主が目を丸くしながら近づいてくる。


「こいつぁ全部、買取でいいのか?」


「はい、お願いします」


 スコルが答えると、店主は興味深そうに彼を見た。


「見ない顔だな。名前は?」


「す……」


 危うく本名を言いかけ、スコルの心臓が跳ねた。


 焦った頭で、とっさに言葉を繋ぐ。


「――千獣のホティです」


 一瞬、店内が静まり返った。


「千獣のホティだぁ?」


 次の瞬間、店主は豪快に笑い出した。


「ははっ! なるほど、“拳聖様”ってわけか!」


 どうやら冗談だと思ったらしい。スコルは内心で安堵の息を吐いた。


「じゃあ、獲物を見せてくれ」


 言われるまま、スコルは背負い袋からシマクレストを取り出し、作業台の上へ一匹ずつ並べていく。


 店主は手慣れた様子で皮をめくり、牙を確認し、肉付きまで細かく調べ始めた。


「ほう……こりゃ状態がいいな」


 感心したように口笛を吹く。


「皮に傷が少ねぇ。革鎧職人が喜ぶぞ。肉も上物だ、高級酒場が欲しがる」


 そして少し考え込み、


「一匹、銀貨三枚でどうだ?」


 と言った。


「えっ!? そんな高く買ってくれるんですか!?」


 スコルは思わず声を上げた。


「最近は数が減っててな。シマクレスト自体、あまり入ってこねぇんだ」


 店主は肩をすくめる。


「どうする?」


「ぜひお願いします!」


「毎度ありっと」


 店主は慣れた手つきで銀貨を数え始めた。


「十三匹だから――銀貨三十九枚だ」


 重みのある銀貨が、テーブルの上へ積み上げられる。


 スコルは目を輝かせながら、それを大事そうに布袋へしまった。


 そんな様子を見ながら、店主がふと尋ねる。


「ところでホティ、おまえ……冒険者、って感じじゃねぇよな?」


 粗末な服装と幼さを見て、そう思ったのだろう。


『まだ見習いで、各地を回りながら修行しておると言え』


 フェルの念話が飛ぶ。


「えっと……まだ見習いなんです。町を転々としながら修行してて」


「なるほどなぁ。やっぱり修行中の身ってわけか」


 店主は納得したように頷いた。


「でも、その歳でこれだけシマクレストを狩ってくるんだ。将来は“拳聖様”みたいな大物になるかもしれねぇな」


「なりたいですね!」


 スコルは迷いなく答えた。


 その真っ直ぐな目に、店主は豪快に笑う。


「ははっ、いい目してるじゃねぇか! 頑張れよ、ホティ!」


 そして親指で店の奥を指した。


「また獲物があったら持ってこい! ウチは魔物なら何でも買い取るぜ!」


「はい! たくさん獲ってきます!」


 そう言って頭を下げると、スコルは嬉しそうに店を後にした。



『ずいぶん高く売れたものだな』


 解体屋を出てしばらく歩いたところで、フェルが感心したように言った。


「ほんとびっくりしたよ。銀貨三十九枚だよ? 三十九枚!」


 スコルは興奮を隠しきれない様子で、何度も布袋を握り直す。


『ワシは銀貨五、六枚ほどかと思っておった。まさかこれほどになるとはな』


「銀貨なんて、久しぶりに触ったよ」


 そう言いながら、スコルは嬉しそうに袋から銀貨を一枚取り出した。


 すると即座に、


『しまえっ! 町中で不用意に金を見せるでない』


 フェルの鋭い声が飛ぶ。


「うわっ、そ、そうだった!」


 スコルは慌てて銀貨を袋へ戻した。


「でもさ……嬉しくて。こんな大金、初めてだから」


 どこか夢見るように言うスコルに、フェルは小さく鼻を鳴らした。


『そうか。ならば、いっそ金貨が一枚あっても良かったかもしれぬな』


「え?」


『銀貨ばかりでは嵩張るだろう』


 スコルはきょとんと目を瞬かせた。


「いや……金貨なんてもらえないよ?」


『うむ?』


 今度はフェルの方が不思議そうな声を出す。


『まさか現代では、金貨一枚の価値が銀貨二十枚ほどになっておるのか?』


「違うよ。金貨一枚なら、銀貨五十枚だよ」


『……なんと!?』


 フェルの声に、珍しく驚きが混じった。


『ワシが封印される前は、銀貨十枚で金貨一枚だったはずだぞ』


「そんなに違ったの!?」


『ふむ……なるほどな。千年も経てば貨幣の価値も変わるか』


 フェルは納得したように呟く。


『おそらく銀の採掘量が増えたのだろう。採掘技術が進歩すれば、市場に銀が溢れる。結果、銀の価値は下がり、相対的に金の価値が上がる』


「へぇ……」


 スコルは感心したように声を漏らした。


 正直、難しい話はよく分からなかった。


『この時代の魔導器やアーティファクトが見たいのだが、魔道具屋に寄ってみてはくれないか』


 フェルが静かに言った。


「いいよ、あそこに見える店でいい?」


『かまわぬ』


 フェルに促され、スコルは魔道具屋へ足を踏み入れた。


 店内には、淡く光を放つ魔石や奇妙な形の道具が所狭しと並べられている。


『そういえば、マナ輝石があったな。ここなら買い取ってくれるのではないか? 大した価値はないと思うが、聞いてみるとよい』


 フェルの指摘でスコルは、カウンターにいたエルフの女店主のもとへ向かった。


「マナ輝石の買取って、やってますか?」


「はい、承っておりますよ」


 女店主は柔らかく微笑んだ。


 スコルは布袋から白いマナ輝石を取り出し、カウンターへ並べる。


「これです、お願いします」


「かしこまりました。……一、二、三……全部で十二個ですね」


「十二個!? 十三匹倒したはずなんだけどな……」


 スコルは首を傾げた。


『マナ輝石は通常、体外へ排出されるが、稀に体内へ残る個体もある。気にする必要はない』


 フェルが割って入る。


「他にもございますか?」


 と女店主が尋ねる。


「いや、これで大丈夫です」


「十二個ですと、銀貨四枚と銅貨四十枚になりますが、よろしいでしょうか?」


「そんなになるんですか!? お願いします」


 予想以上の額だったのか、スコルは思わず顔を綻ばせた。


「かしこまりました」


 女店主は慣れた手つきで銀貨四枚と銅貨四十枚をカウンターへ並べた。


『道具を見たいと言ってくれ』


 とフェルが言う。


「ちょっと店の中、見させてもらってもいいですか?」


「ええ、ごゆっくりどうぞ。何かございましたら、お声掛けください」


 スコルは礼を言うと、陳列棚を端から順に見て回った。


『ふむ……色々とあるようだが、目当てのものは見当たらぬな』


 フェルが呟く。


『スコルよ、携帯できる道具類を収納する魔導器がどこにあるか聞いてみるのだ』


「すみません、持ち運び用の収納アイテムって、どこにありますか?」


 スコルが尋ねると、女店主はガラスケースの方へ視線を向けた。


「携帯用の次元折畳器ディメンション・フォルダーですね。でしたら、こちらになります」


 ガラスケースの中には、指輪、腕輪、首飾りなど、様々な形状の魔導器が並んでいた。


『ふむ、これだ。しかし、やはり縮界シュリンクスフィア系統は高いな……』


 フェルが低く唸る。


『よし、用は済んだ。もう店を出てよいぞ』


 その言葉に従い、スコルは魔道具屋を後にした。


縮界シュリンクスフィアって何?」


 店を出るなり、スコルが尋ねる。


『携帯用の次元折畳器ディメンション・フォルダー、つまり内部に亜空間を形成し、荷物を収納できるアーティファクトのことだ』


 フェルは続ける。


『昔よりは随分と安くなっていたが、それでも安価なもので金貨二枚はしておったな』


「うわぁ……高いな。でも、荷物を担がなくて済むなら、欲しいところだね」


 スコルは苦笑しながら言った。


『次は防具屋か薬屋へ向かってくれ』


 フェルに言われ、スコルは向かいにあった防具屋へ入った。


 店内には鉄鎧や革鎧、盾や籠手が整然と並び、金属の匂いが漂っている。


『防具屋は、軽く見て回るだけでよい』


 スコルは頷き、陳列棚を順に眺めながら店内を歩いた。


 ひと通り見終えると、そのまま静かに店を後にした。



 そしてスコルは薬屋へ向かった。


 店に入るなり、フェルの声が脳裏に響く。


『ワシの加護で、お主の自己治癒力は大きく高まっておる。だが、致命傷まではどうにもならぬ。ポーションくらいは持っておけ。二つほどな』


「二つで足りるの?」


『今は“縮界シュリンクスフィア”を持っておらぬからな。あまり増やしても荷物になるだけだ』


 スコルは青い液体の入った小瓶を二つ手に取り、代金として銀貨一枚を支払った。


 店を出ると、スコルが尋ねる。


「他に必要なものってある?」


『必要なものなら山ほどある。……だが金が足りぬ。最低でも金貨六、七枚は欲しいところだな』


「そ、そんなにぃ!?」


『よし、では再び森へ狩りに向かうぞ』


「えぇ!? また行くの!? ……まあ、お金は必要だけどさ。でもその前に、お腹空いたから何か食べるよ」


 そう言ってスコルは近くのパン屋へ駆け込み、焼きたてのパンを二つ買った。


 パンを頬張りながら町の外へ向かっていると、不意にフェルが言う。


『……あの店、入ってみぬか?』


「あれは…、万屋よろずや?」


『うむ。掘り出し物が眠っておるかもしれぬぞ』


 スコルは残りのパンを慌てて口へ押し込み、万屋の扉を開いた。


 店内には武具や古道具、見たこともない魔道具まで、雑多な品々が所狭しと並べられている。


 その中で、スコルの目は店の片隅に飾られた黒いコートに吸い寄せられた。


「うわっ……このコート、かっこいい……。“聖剣のアークレイン”みたいだ」


『アークレインは黒ではない。紅き衣を纏っておったが』


「え? 絵本だと黒いコートだったよ?」


『それは鎧だろうな。奴はいつも戦場では漆黒の鎧を身につけておったからな』


「へぇ……黒い鎧か……って、えぇっ!?」


 スコルは値札を見て目を見開いた。


「銀貨三十枚!? 高っ……でも欲しい……!」


『欲しければ買えばよいのではないか。……いや、待て』


 フェルの視線が別の商品へ向く。


『あそこにある鎖帷子を見てみろ。あれは良い品だ』


「これ? ただの鎖帷子のベストじゃない? ホコリも被ってるし……」


『……いや、違うな。これは良い。かなり良いぞ』


「値段は……これも銀貨三十枚だね」


『うむ。こちらを買おう』


「いやいや、絶対コートでしょ!? 鎖帷子なんてホコリ被ってるから誰も買わなそうだけど、このコートは早くしないと売れちゃうよ!」


 スコルがコートの前に立つと、店の奥から店主が近づいてきた。


「おや、お目が高いですねぇ、客人」


「このコート、すごくいいなって……」


 すると店主は誇らしげに笑った。


「それは“季節知らずの黒衣”と申しましてね。冬は暖炉のように暖かく、夏は高原の風のように涼しい逸品です」


「季節知らずの黒衣……」


 スコルは思わずその名を繰り返した。


「魔獣繊維と魔力結晶を織り込んだ特殊素材でして、着用者の微弱なマナを利用し、自動で温度を調整してくれるのですよ」


 店主はコートを軽く撫でる。


「同じ物を仕立てようと思えば……まあ、金貨四枚は下りませんな」


『大げさに吹っかけておるだけだ。スコル、そのコートと鎖帷子、二つで銀貨三十枚と言ってみろ』


「えぇ……?」


 戸惑いながらも、スコルは口を開いた。


「このコートと鎖帷子、二つで銀貨三十枚になりませんか?」


 店主は一瞬きょとんとした後、吹き出した。


「ははっ! 面白い冗談ですね! そこまで言うなら金貨一枚でどうです?」


『銀貨三十三枚だ』


「じゃ、じゃあ……銀貨三十三枚で」


「むぅ……では四十七枚にしておきましょう」



『銀貨三十六枚』


「銀貨三十六枚は?」


「うーむ……なら四十四枚!」



『銀貨三十九枚だ』


「さ、三十九枚で!」


 店主は頭を抱え、大げさにため息をついた。


「……っく! 私の負けです! 銀貨四十枚! 持ってけ泥棒!」


『うむ、買いだな』


「わ、わかりました! それでお願いします!」


 店主は渋い顔をしながらも、コートと鎖帷子を丁寧にカウンターへ並べた。


 スコルは満面の笑みで銀貨四十枚を差し出した。


 すると――


『待て。そこにある靴、なかなか上等そうだな。履いてみろ』


 そこには、丈夫そうな革のブーツが置かれていた。


「え? これ?」


 言われるままにスコルが足を通す。


 その瞬間、ぱっと表情が明るくなった。


「うわ、これすごい! ぴったりだし、めちゃくちゃ歩きやすい!」


『長距離を駆けるなら、靴は良い物を履いておけ。足を痛めれば動けなくなるからな』


 フェルは当然のように言った。


 すると、店主がすかさず身を乗り出す。


「その靴も魔獣繊維を使った冒険者向けでしてね! 耐久性には自信があります! 銀貨六枚ですが……ご一緒にどうです?」


「いや、もう銀貨三枚しか残ってないよ……」


 スコルが困ったように頭をかく。


 店主は「うぐぐ……」と呻きながら腕を組み、しばらく唸っていたが、やがて諦めたように肩を落とした。


「……はぁ。しかたないですね、銀貨三枚でいいですよ」


「ほんとに!? ありがとうございます!」


 スコルはぱっと笑顔を咲かせた。


 店主はそんな様子を見て、半ば呆れたように笑う。


 スコルは新しく手に入れたコートと鎖帷子、そしてブーツを大事そうに背負い袋へ詰め込んだ。


「また何か必要になったら来てください、客人」


 店主がそう告げると、スコルは深々と頭を下げ、店を後にする。



 店の外へ出ると、フェルが満足げに鼻を鳴らした。


『良い買い物ができたな』


「うん! ……でも、せっかく稼いだ銀貨、全部使っちゃったけどね」


 スコルは苦笑する。


 だが、フェルは気にも留めない様子だった。


『また稼げばよい。金は使ってこそ意味がある。……では、狩りの続きをするとしようか』


「その前にさ、せっかくだし――コートと鎖帷子、それにブーツも装備してみたいんだけど、いい?」


 スコルは待ちきれない様子で背負い袋を叩いた。


『うむ。森へ向かう前に試しておくか』


 フェルの言葉を聞くと、スコルはさっそく鎖帷子のベストを取り出した。


「うわっ、結構ホコリ被ってるな……」


 長年、店の片隅で埃を被っていたのかもしれない。スコルは布切れを取り出し、鎖の隙間を丁寧に磨いていく。


 こすられるたび、くすんでいた金属が少しずつ輝きを取り戻していった。やがて陽光を受けた鎖帷子は、鈍い銀色の光を放つ。


『ふむ、悪くない。……早速着てみろ』


「うん!」


 スコルは鎖帷子を頭から被り、身体に馴染ませるように軽く肩を回した。


「おお……これなら胴をしっかり守れそうだ。なんか安心感あるな!」


 そのまま新しいブーツに履き替え、最後にコートを羽織る。


 厚手ながら動きやすく、身体に不思議なくらい馴染んだ。


「このコートもぴったりだよ!」


 嬉しそうに袖を引きながら、スコルはその場で軽く跳ねてみせる。


『ふふ、なかなか似合っているではないか。随分と冒険者らしくなったぞ』


 そう言われた瞬間、スコルは少し照れたように頬をかいた。


「へへ……そうかな」


 だが、その顔はどこか誇らしげだった。


 初めて手に入れた“自分だけの装備”が、スコルの胸を確かに高鳴らせていた。



「ところで、冒険者になるにはどうすればいいの? ギルドに登録すればなれるの?」


 スコルが歩きながら尋ねた。


『ふむ。結論から言えば、ギルドに冒険者登録している者が“冒険者”だ』


 フェルは落ち着いた声で答える。


『だが、誰でも登録できるわけではない。条件は三つある』


『一つ、年齢が十五歳以上であること。

二つ、戦闘レベルが五十以上であること。

そして最後――教会で“戦職者系”の職業の洗礼を受けていることだ』


「戦職者系……?」


『魔物と戦うための職だ。戦士や魔法使い、弓士などがそれに当たる』


 この世界では、誰もがマナを扱う素質を持っている。だが、魔物と渡り合うためには、戦闘に適した“マナの回路”が必要だ。


 その資質を持つ者は、全体の一割にも満たない。ゆえに、多くの人々は畑を耕し、物を作り、商売をして生きる。


 魔物と戦う力を持たぬまま、一生を終えるのだ。戦闘経験を積む機会も少ないため、大半の者は戦闘レベルが十にも届かない。


「レベル五十かぁ……。僕、前は四くらいだったんだけど……今はどれくらいなんだろう」


 スコルは少し不安そうに呟いた。


 すると、フェルが鼻を鳴らす。


『今のお主はレベル十三だ』


「じゅ、十三っ!?」


 スコルは思わず足を止めた。


『もっとも、実際の強さは八十前後に匹敵するだろうな。ワシの加護を受けているからな』


「ほ、本当に!?」


 スコルの瞳が一気に輝く。


「僕が……レベル十三……」


 信じられない、とでも言いたげに自分の手を見つめた。


 つい昨日まで、冒険者など遠い世界の存在だった。


 魔物と戦える者たちは、生まれつき特別な人間なのだと思っていた。


 だが今、その夢へ続く道が、確かに自分の前に現れ始めている。


 そんな実感が、じわじわと胸の奥を熱くしていく。


『お主なら、冒険者になること自体は難しくあるまい』


 フェルは静かに言った。


『……ところでスコルよ。お主は冒険者になったら、まず何をしたい?』


 その問いに、スコルは少しだけ黙り込んだ。


 やがて――


「あるよ」


 その声は、先ほどまでよりずっと真剣だった。


「父さんを……探しに行きたい」


 そう答えたスコルの瞳には、強い決意の光が宿っていた。



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