氷の古代精霊
街道をひたすら北へと進み、スコルは海を目指した。
目的は、もちろん北部の海沿いに広がる森や草原に自生するという氷晶花を見つけることだ。
しかし、その地へ辿り着くまでの道のりは遠い。途中、テベルト王国の北に位置するゲシターノ王国との国境へ至り、関所で足を止めた。
スコルは冒険者ギルドから支給された銀級のプレートを提示し、滞りなく関所を通過する。この大陸では、紛争地域でもない限り、身分証さえあれば国境を簡単に越えることができる。
さらにゲシターノ王国を縦断し、その先にあるカルス王国へ入国したスコルは、なおも北を目指して歩き続けた。
長い旅路の末、ようやく視界の先に紺碧の海が姿を現す。
だが、その頃には太陽は水平線の彼方へ沈み、あたりは夕闇に包まれていた。
スコルは無理をせず、近くの港町ジードで一夜を明かすことにした。
翌朝――。
夜明けとともに宿を出たスコルは、氷晶花を探すため、潮風が吹き抜ける海辺の草原へと足を踏み入れた。
草原を隅々まで歩き回り、海沿いの森にも分け入った。しかし、それらしい花は一輪として見当たらない。
結局、その日は何の成果も得られないまま、日が暮れてしまった。
翌日も朝早くから探索を再開した。
岩場の隙間を覗き、森の奥まで足を延ばし、海岸線を何度も往復した。それでも氷晶花は姿を現さない。
気づけば空は茜色に染まり、二日目の探索も空しく終わろうとしていた。
「本当に氷晶花なんて花、存在するの?」
疲れを滲ませながら、スコルは思わず愚痴をこぼした。
『ある。氷晶花は極めて希少な花だ。そう簡単に見つかるものではない。だからこそ、遠距離でも連絡が取れるよう、先にシーフォンを契約したのだ。焦る必要はない。海沿いのどこかには必ず咲いておる』
フェルは落ち着いた口調でそう言った。
「……そうだよね。見つかるまで探すしかないか」
スコルは小さく息を吐くと、夕暮れに染まる海を背に港町ジードへ戻ろうと踵を返した。
――その時だった。
少し離れた場所から怒鳴り声が聞こえてきた。
「さっさと金を出せ!」
「痛い目に遭いたくなければ、おとなしく従え!」
声のする方へ目を向けると、一人の老人が三人組の覆面の男たちに取り囲まれていた。
男たちは剣を抜き、老人の喉元へ刃を突きつけている。
どう見ても強盗だった。
「やめろ!」
スコルは地面を蹴ると、一気に間合いを詰めた。
「んっ――!」
覆面の男が振り向くより早く、スコルの剣が閃く。
キィンッ!
鋭い金属音とともに、男たちの剣が次々と弾き飛ばされた。
「ぐっ!」
「こ、こいつ……!」
三人は慌てて剣を拾おうとするが、その隙をスコルは見逃さない。
一瞬で懐へ入り込み、柄で一人の腹を打ち据え、続けざまに残る二人を蹴り飛ばした。
冒険者でもなければ剣術の心得もない男たちは、まるで相手にならなかった。
「くそっ! 逃げるぞ!」
勝ち目がないと悟った三人は、這うように立ち上がると、一目散にその場から逃げ去っていった。
スコルは老人のもとへ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます! 村のみんなで育てた海産物を売ったお金を、奪われるところでした」
老人は胸をなで下ろし、何度も頭を下げた。
「あの男たちは何者だったんですか?」
「私にもわかりません。ただ……私がお金を持っていることを知っていたようなのです」
老人は不安そうな表情で答えた。
「それは危なかったですね。よければ家まで送りましょうか?」
「本当ですか!? 村はすぐそこなんです。ぜひ、お願いします」
老人は安堵したように微笑んだ。
老人の名はモワ。近くにあるカイーシャ村の村長だった。
話を聞くと、この日は村で採れた海産物をジードの町で売り、その帰り道だったという。今回は珍しい魚介や高値で取引される品が多く、普段以上の売り上げになったらしい。
「だからでしょうか……。あの連中は、最初から私が大金を持っていると知っているような様子でした」
モワは険しい表情でそう呟いた。
偶然の強盗ではなく、誰かが情報を流した可能性もある――。
スコルはそんな嫌な予感を胸に抱きながら、モワとともにカイーシャ村への道を歩いた。
しばらく歩いたところで、モワが口を開いた。
「スコルさんはテベルトから来られたそうですが、こんな辺境まで何をしに?」
「実は、氷晶花という花を探しているんです。でも、なかなか見つからなくて……」
すると、モワは「ああ」と思い出したように頷いた。
「氷晶花ですか。確かに滅多に見かける花ではありませんな。しかし、一か所だけ、比較的よく咲く場所に心当たりがあります。よろしければ、明日ご案内しましょう」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
思いがけない朗報に、スコルの表情が明るくなった。
そうして話をしながら歩いているうちに、二人はカイーシャ村へと到着した。空はすっかり茜色を失い、村は夜の静けさに包まれていた。
「助けていただいたお礼です。どうか今夜は私の家に泊まっていってください。それと、ささやかですが夕食もご馳走させてください」
モワの厚意に甘えることにしたスコルは、村長の家へ案内された。
食卓には、その日に獲れたばかりの魚や貝、海藻を使った料理が並び、潮の香りが食欲をそそる。スコルは久しぶりの豪勢な海の幸に舌鼓を打ち、心も体も満たされていった。
食事を終えると、モワは今は村を離れて暮らしている息子が使っていた部屋へ案内してくれた。
「ここを使ってください。ゆっくり休んでくださいな」
「ありがとうございます。本当に助かります」
こうしてスコルは、その夜をモワの家で過ごすことになった。
翌朝、モワの案内で氷晶花が咲くという場所へ向かう予定だ。ようやく目的の花へたどり着けるかもしれない――そんな期待を胸に、スコルは静かに眠りについた。
村人たちが寝静まった深夜――。
突如、外から何かが壊れるような大きな音と、悲鳴が村中に響き渡った。
スコルが飛び起きて窓の外を見ると、覆面を被った十人ほどの男たちが村人を取り囲み、そのうちの一人は剣を首筋に突きつけ、人質にしていた。
「金貨百枚があることはわかってる! さっさと持ってこい!」
「さもないと、こいつの命はないぞ!」
男たちは村人たちを脅しながら怒鳴り散らしている。
その声を聞いたモワは顔を強張らせた。
「やはり夕方の連中か……。仲間を連れて戻ってきたのだな」
どうやら、夕方にモワを襲った強盗たちが、さらに仲間を引き連れて押しかけてきたようだった。
「確かに今日の売り上げはあった。しかし、金貨百枚などあるはずがない。夕方も同じことを言っていたが、一体何を根拠にそんな話をしているのだ……」
モワは困惑した様子で呟いた。
「ここは危険です。家の中から出ないでください」
そう言い残すと、スコルは静かに扉を開け、外へ踏み出した。
「その人を離せ」
凛とした声が夜の村に響く。
覆面の男の一人がスコルを見るなり、顔色を変えた。
「こ、こいつだ! 夕方、俺たちを返り討ちにした奴は!」
「やっぱり、お前たちだったか」
スコルは剣を抜くと、一気に間合いを詰めた。
男たちは数では勝っていたものの、やはり、まともに剣術を修めた者は一人もいない。スコルの剣はまるで風のように駆け抜け、男たちは次々と武器を弾き飛ばされ、地面へ倒れていった。
勝ち目がないと悟った強盗たちは、人質を突き飛ばすようにして我先に逃げ出した。
しかし、スコルは最後尾を走っていた一人だけは逃がさなかった。
素早く回り込むと、その男を地面へ押さえつけ、縄で両手を縛り上げた。
スコルは捕らえた男を村の広場まで連れて行くと、怯えていた村人たちも次々と集まってきた。
「もう大丈夫ですよ」
スコルがそう声をかけると、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
その時、一人の村人が男の覆面を勢いよく剥ぎ取った。
「お、お前……ヘッサンじゃないか!?」
驚きの声が上がる。
「知っている人なんですか?」
スコルが尋ねると、村人は信じられないという表情で頷いた。
「ああ。隣村に住んでいる男だ。昔から知っている」
どうやら、男は隣村の住人だったらしい。
「どうしてこんな真似をした! 一体、何があった!」
村人たちが口々に問い詰める。
しかし、男は唇を固く結び、うつむいたまま何も答えようとしなかった。
重苦しい沈黙が流れた、その時だった。
「まさか、お前……賭躯龍じゃないだろうな?」
一人の村人が、おそるおそる口にした。
賭躯龍――。
借金や家族の命、人には言えない弱みを握られた者たちを犯罪組織が集め、強盗や襲撃などの危険な仕事を押しつける使い捨ての実行部隊である。
その名を聞いた瞬間、男の肩がぴくりと震えた。
やがて観念したように深く息を吐き、力なく口を開いた。
「……借金があったんだ」
男はうつむいたまま、小さな声でそう呟くと、やがて観念したように重い口を開いた。
「……街を歩いていたら、知らない男に声をかけられて…」
男の話によると、その人物は「借金を一気に返せる仕事がある」と持ちかけてきたという。
藁にもすがる思いだったヘッサンは、その誘いに応じた。
指定された日時に港へ向かうと、そこには自分と同じような境遇の者たちが大勢集められていた。しかし、どんな仕事をさせられるのかは当日まで一切教えられなかったという。
「それで今日になって、あの村長が金貨100枚を持っているから、それを奪えって命令されたんだ……」
取り分は一人金貨5枚。ヘッサンは力なく俯いた。
「でも、金貨100枚なんて持ってないぞ?」
スコルが尋ねると、ヘッサンは首を横に振った。
「俺たちは命令されただけだ。本当かどうかなんて知らない……」
賭躯龍とは、このように借金や弱みにつけ込まれ、「高額な報酬が手に入る」と甘い言葉で集められた者たちのことである。
実際には報酬が支払われることはほとんどなく、利用価値がなくなれば切り捨てられる。ただ危険な仕事だけを押しつけられる、使い捨ての実行犯にすぎなかった。
とりあえず、被害が未遂に終わったこともあり、ヘッサンは夜が明け次第、隣村へ引き渡されることになった。
こうして騒動はひとまず収束し、村人たちはそれぞれ家へ戻って床についた。
翌朝。
モワは約束どおり、朝早くから氷晶花の咲く場所へ案内してくれた。
「村のすぐ近くなんです」
そう言って歩き始めてから、ほんの数分。
森の奥へ入ることもなく、小高い丘の麓にある一本の大樹の前で、モワは足を止めた。
「あそこです」
指さした先には、幹の根元を覆う柔らかな苔の上に、一輪の可憐な花が咲いていた。
周囲は木陰になっているにもかかわらず、枝葉の隙間からこぼれた木漏れ日だけが、その場所を祝福するように静かに照らしている。
花弁は透き通るような淡い水色。
朝露をまとった姿は、まるで氷を削って作られた花細工のような美しさだった。
「うわ……こんなに小さかったんだ」
スコルは思わず感嘆の声を漏らした。
花は親指ほどしかない。
しかし、その小ささとは裏腹に、人の目を惹きつけて離さない不思議な存在感を放っていた。
スコルは慎重に一輪だけ摘み取り、大切にインベントリへしまう。
「ありがとうございます。本当に助かりました。どれだけ探しても見つからなかったんですよ」
そう礼を言うと、モワは照れくさそうに笑った。
「いえいえ。お礼を言うのは私の方です。二度も強盗から助けていただきましたから」
そう言って深々と頭を下げる。
スコルは「気にしないでください」と笑い返し、二人は並んで村への帰路についた。
村へ戻ると、ちょうど顔なじみの行商人が荷馬車を止め、村人たちと話をしていた。
スコルたちの姿を見つけるなり、行商人は慌てた様子で駆け寄ってくる。
「村長! 野盗に襲われたって本当か!?」
「ああ、本当に肝を冷やしたよ。だが、この方が助けてくれてな。おかげで誰一人怪我もなかった」
モワがスコルを見ながら笑顔で答えると、行商人は胸をなで下ろした。
「それは良かった……。だが、今回の件、たぶん情報を流したのはガルバの息子だ」
ガルバの息子――それは、モワたちが海産物を卸している商店の店主だった。
「最近、あいつはヤジール商会と手を組んでから、ろくでもない噂しか聞かねぇ。村長も、あいつとの取引はもうやめた方がいい」
「……ヤジール商会?」
スコルの表情が一変した。
『どうした? その名に聞き覚えでもあるのか?』
フェルが不思議そうに尋ねる。
(聞き覚えどころじゃない……)
スコルは拳をぎゅっと握り締めた。
(父さんをダンジョン詐欺に巻き込んだ商会……。その名前も、確かヤジール商会だった)
胸の奥から、静かな怒りが込み上げてくる。
「すみません。そのヤジール商会について、知っていることを教えていただけませんか?」
スコルが真剣な眼差しで尋ねると、行商人は腕を組み、小さく唸った。
「俺も詳しいことまでは知らねぇ。ただ……」
そう前置きすると、行商人はヤジール商会について知る限りの情報を語り始めた。
「ヤジール商会は、ローベリア王国に本店を構える巨大商会だ。ここ十年ほどで急激に勢力を伸ばしたって話だ。表向きは真っ当な商売をしているが、裏じゃ脅迫や詐欺、果ては暗殺にまで手を染めているって噂が絶えねぇ」
その声音には、噂話を語るというより、本気で恐れているような重みがあった。
『ローベリア王国が拠点でありながら、この国にまで手を伸ばしているとは……。よほど巨大な商会なのだな』
フェルが低く呟く。
ローベリア王国――それはテベルト王国の東方に位置する、大陸北東部最大の国家である。
千年前の“魔王大征伐”で崩壊したパクスヴェリア帝国。その広大な版図の半分を受け継ぎ、長い年月をかけて繁栄を築き上げた、由緒ある大国だ。
「それじゃあ、モワさん。どうかお気をつけて」
とスコルは微笑みながら言った。
「ええ。もうガルバの息子とは二度と取引なんてしません。本当に……スコルさんが来てくださらなかったら、どうなっていたことか」
モワは胸に手を当て、心から安堵したように頭を下げた。
「僕の方こそ、氷晶花を見つけられて助かりました。また機会があれば、お会いしましょう」
そう言ってスコルは手を振り、カイーシャ村を後にした。
村を離れ、街道を歩きながら、スコルはふと先ほど耳にした話を思い返す。
「ヤジール商会……。この国にも手を伸ばしているってことは、ハヌンにも支部か協力者がいるのかもしれないね」
『十分にあり得る話だ』
フェルは少し間を置いて続けた。
『王都へ戻ったら、一度調べてみる必要がありそうだな』
スコルは無言で頷いた。
ヤジール商会――。
その名が胸の奥に小さな棘のように引っかかり、不吉な予感だけが静かに残っていた。
『さて、ここなら人目につく心配はあるまい。では、古代精霊を召喚するとしようか』
人気のない林の中で、フェルが静かに言った。
「すぐに孵化するの?」
スコルが尋ねる。
『簡単なことだ。星霜の鱗に氷晶花を添え、「いでよ、キオネーシア」と真名を呼べばよい』
フェルに促され、スコルは慎重に星霜の鱗を掌に置き、その上へ氷晶花をそっと重ねた。
そして、大きく息を吸い込む。
「――いでよ、キオネーシア」
その瞬間だった。
スコルの指先から、するりと何かが抜け落ちるような感覚が走る。
体内のマナが、目には見えない流れとなって卵へ吸い込まれていく。
まるで長い眠りについていた命が、その力を貪るように。
トクン――。
卵が小さく脈打つ。
トクン、トクン――。
鼓動は次第に力強さを増し、その振動はスコルの手のひらへも伝わってきた。
やがて、
ピキリ……。
静寂を裂くように、小さなひび割れの音が響く。
最初は髪の毛ほどの細い亀裂だった。
しかし次の瞬間、その隙間から黄金色の光が溢れ出す。
まるで太陽の欠片が閉じ込められていたかのような、神々しい輝きだった。
光は見る間に強さを増し、周囲の木々を黄金色に染め上げていく。
パキッ。
パキパキッ――。
無数の亀裂が卵全体へと走り、殻は内側から押し広げられるように砕け始める。
砕け散った欠片は氷の結晶のように宙を舞い、陽光を受けて七色の輝きを放ちながら、ゆっくりと地面へ降り積もっていった。
「……おお……」
あまりの神秘的な光景に、スコルは思わず息を呑み、感嘆の声を漏らした。
その黄金の輝きの中心から、一つの小さな影が、ゆっくりと姿を現そうとしていた。
それは、澄み切った氷が命を宿したかのような、小さな精霊だった。
透き通る六枚の氷翼は羽ばたくたびに淡い光を散らし、白銀の髪は雪風に撫でられるように揺れる。深い翡翠色の瞳は、悠久の時を見つめてきた森の湖を思わせる静かな輝きを宿していた。
「……綺麗だ」
スコルは思わず息を呑む。
精霊は生まれたばかりの子どものような無邪気さで宙を舞い、スコルの周囲をくるりと一周した。
その軌跡には無数の光の粒――マナの残滓が星屑のように舞い、辺り一面を幻想的な輝きで満たしていく。
やがて精霊はスコルの前で静かに羽ばたきを止めると、小さな額をそっと彼の額へ重ねた。
ひんやりと澄み切った雪解け水のような冷たさ。
しかし同時に、春の日差しに包まれるような不思議な温もりが、胸の奥へ静かに広がっていく。
『……契約を。我が友よ。我が翼となる者よ』
その声は耳ではなく、魂そのものへ直接響いてきた。
スコルは迷うことなく、静かに頷く。
すると精霊の身体は柔らかな蒼白い光へと溶け、光の流れとなってスコルの胸へ吸い込まれていった。
その瞬間――
全身を凄まじい力が駆け巡る。
血液が沸き立ち、骨の一本一本にまで生命が満ちていくような感覚だった。
視界は驚くほど鮮明になり、遠くで揺れる木の葉一枚までもはっきりと映し出される。
風の囁き。
大地の底を流れる水の鼓動。
木々が芽吹き、草花が呼吸する微かな息吹。
今まで決して届くことのなかった世界の声が、一つの旋律となってスコルの心へ流れ込んできた。
『——加護“キオネーシアの霊紋”を獲得しました。』
神秘的な声が脳裏に響く。
「これが……古代精霊の力……」
思わず漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。
身体は羽根のように軽い。
まるで重力という枷から解き放たれたかのようだった。
そして何より、自分という存在が世界そのものと一本の見えない絆で結ばれたような、不思議な一体感が胸の奥から溢れ出してくる。
スコルは静かに拳を握り締めた。
その手の中には、これまでとは明らかに異なる、新たな力の鼓動が確かに宿っていた。
『成功したようだな。精霊とは、大地の息吹と星々の力から生まれし存在だ。一度契約を結べば、生涯、お主と運命を共にする。きっとこれから、お主の大きな力となってくれるだろう』
とフェルが力強く告げた。
「うん。本当に来てよかったよ」
スコルは胸に宿った新たな力を感じながら、満足そうに微笑んだ。
『うむ。目的は果たした。では、王都ハヌンへ戻るとしよう』
とフェルが頷く。
「そうだね」
スコルは最後に一度だけ辺りを見渡すと、この場所を後にした。
こうして帰路につき、王都ハヌンへと戻った。




