上級冒険者
ハヌンへ戻った翌日、スコルは王都の武具屋を巡っていた。
レベルも300を超えた今、これからはさらに危険な魔物が棲む森で鍛錬を積むつもりだ。そのため、新たな装備を探していたのである。
『さすがは王都だ。武具の質が違うな』
店先に並ぶ剣や槍、鎧を眺めながらフェルが感心した。
しかし、どの店を見ても、今のスコルの実力に見合う装備は見つからない。性能は悪くないが、決め手に欠けるものばかりだった。
「そういえば、この近くに大きな万屋があったよね。せっかくだし、覗いてみない?」
とスコルが提案した。
『うむ。以前のように思わぬ掘り出し物が眠っているやもしれぬ。行ってみるか』
スコルは武具屋街を後にし、ほどなくして巨大な万屋の前へとたどり着いた。
『ほう……これは見事な店構えだな』
フェルは思わず感嘆の声を漏らした。
店内へ足を踏み入れると、そこには武具や防具はもちろん、魔道具、薬草、日用品、古びた骨董品まで、ありとあらゆる品々が所狭しと並べられていた。店は四階建てで、吹き抜けの空間には客たちの話し声と店員の威勢のいい呼び込みが響き渡り、その活気にスコルは思わず目を見張った。
「何かお探しでしょうか?」
若い店員が、にこやかな笑みを浮かべて声をかけてきた。
『ちょうどよい。傑作級以上の盾を置いておるか聞いてみてはくれぬか』
とフェルが言った。
「傑作級以上の盾は置いてありますか?」
スコルが尋ねる。
アイテムには品質を示す等級が存在する。
一般級、名品級、秘蔵級、傑作級、伝説級、そして神話級。
価値も性能も、この順に高くなっていく。
店員は少し考えるように顎へ手を添えた。
「申し訳ありません。現在、魔法剣士の方におすすめできる傑作級以上の盾は在庫を切らしております。差し支えなければ、今はどのような盾をお使いでしょうか?」
「実は、まだ盾は持っていないんです」
すると店員は表情を明るくした。
「それでしたら、ぴったりの商品がございます」
そう言って店の奥へ引っ込むと、一枚の盾を抱えて戻ってきた。
「こちらはサンド・スネークの鱗盾です。灼熱の砂漠に生息するサンド・スネークの鱗から作られたもので、等級は名品級。全属性にほどよい耐性を備えた、非常に扱いやすい盾です。
性能は申し分ないのですが、見た目が少々荒々しいため、冒険者の方にはあまり人気がありません。未使用品で銀貨十五枚になります」
『サンド・スネークの鱗盾で銀貨十五枚か。悪くない値だな。当面はこれで十分かもしれぬな』
フェルは満足そうに頷いた。
『それをもらおうか。それと、ついでに"雷鳴の真珠"を扱っておるか尋ねてみよ』
「では、この盾をお願いします。それと――"雷鳴の真珠"は置いてありますか?」
スコルが尋ねると、店員は目を丸くした。
「ら、雷鳴の真珠ですか!? 申し訳ありませんが、当店にはございません。そのような高位の品は滅多に市場へ出回らないものでして……」
(雷鳴の真珠って何?)
スコルは念話でフェルに尋ねた。
『雷の古代精霊の卵だ』
(ええっ!? 星霜の鱗みたいなもの!?)
思わず息をのむ。
「もしご希望でしたら、お探しすることは可能です。ただ……入手できる保証まではいたしかねます」
店員は申し訳なさそうに続けた。
「ちなみに値段は…、どれくらい掛かるんですか?」
「少なくとも、金貨200枚はご用意いただく必要があります」
「に、200枚ですか!?」
予想をはるかに超える金額に、スコルは目を見開いた。
「……いえ、手配は結構です。この盾だけお願いします」
そう言って、スコルは苦笑しながら盾を受け取ることにした。
その後、スコルは魔道具屋でハイポーションを買い足すと、危険な魔物が棲む森へ向かうことにした。
冒険者ギルドで配布されている魔物生息地図によれば、ハヌン湖の西側に広がる森をひたすら奥へ進み、山脈の麓に近づくほど、強力な魔物が姿を現すという。
そこには、上位クラス、猛将クラス、そして覇王クラスの魔物まで生息しているという。
なお、覇王クラスを単独で討伐するには、少なくともレベル400以上が必要だとされている。
スコルはハヌン湖を越え、西の森へ足を踏み入れた。
「そうだ。今のうちに、サンド・スネークの鱗盾を装備しておこうかな」
スコルはそう呟くと、インベントリから魔魂パペットを取り出し、人形の左腕に、サンド・スネークの鱗盾を取り付けた。
装備を確認してから、スコルは魔魂パペットを再びインベントリへ収納した。
これで、実際に盾を手に持たずとも、左腕を盾として扱えるようになる。
『うむ。これで左腕による防御が可能になったな』
フェルが満足そうに言う。
「でもさ。魔魂パペットに盾を装備している状態で、僕自身が別の盾を装備したら……パペットのほうの効果は無効になるんだよね?」
『当然だ』
フェルは即答した。
『戦士系の職業以外は、同種の装備効果を重ねて得ることはできぬ。実体に装備したものが優先され、魔魂パペットに預けた装備の効果は失われる』
魔魂パペットは、人形に装備品を着せたままインベントリへ収納しておくだけで、その装備の恩恵を常時得られる古代魔導器だ。
しかし、新たに同じ部位の装備を身につければ、魔魂パペットによる効果は無効化されてしまう。
例外は、戦士系の職業だけだった。
戦士系の者であれば、実際に身につけた装備と、魔魂パペットに預けた装備――その両方の効果を失わずに得られるという。
「じゃあ……アークレインはどうだったの?」
スコルはふと思い出したように尋ねた。
「フェルは前に、アークレインが戦場では漆黒の鎧を身につけていたって言ってたよね。あの人は魔魂パペットを使っていなかったの?」
アークレイン――千年前、数々の魔王軍を打ち破ったと伝えられる伝説の勇者。
『いや。あやつも魔魂パペットを使っておったぞ』
「えっ? でも、それじゃ鎧の効果は重ならないんじゃ……」
『重複しておったのだ』
「どういうこと?」
フェルは少しだけ懐かしむように沈黙したあと、静かに答えた。
『アークレインが身につけていたのは、魔影装――黔』
『神話級に分類される、特別な鎧だ』
「神話級の鎧……」
『あの鎧には、“重複装備を可能にする”という固有の力が備わっていた。ゆえにアークレインは、自身の身体に鎧をまといながら、魔魂パペットに預けた装備の効果まで同時に得ていたのだ』
「なるほど……。戦場で黒い鎧を身につけていたってのは、そういうことだったのか」
そう言って、スコルは森の奥へ、さらに奥へと足を踏み入れた。
木々の隙間を縫うように、西へ向かってひたすら進む。
やがて視界の先に、小高い丘が見えてきた。
その頂には、白い石で造られた円筒状の祠が、ひっそりと佇んでいる。
『あれがフォルレーテンの祠か』
フェルが低く呟いた。
フォルレーテン――旅人と境界を司る女神が祀られた祠である。
この祠を越えた先から、ミルグリード山脈の麓へと続く深い森が始まる。
そこは別名、“帰らずの森”と呼ばれていた。
森へ踏み込んだ冒険者の多くが命を落とし、戻ることがなかったためだ。
山脈から流れ込む濃密なマナに引き寄せられた強力な魔物たちが、森の奥深くに巣食っている。
祠の向こうに広がる木立は、こちら側の森よりもなお深く、陽の光さえ拒むように黒々としていた。
『覚悟はできておるか?』
フェルの問いに、スコルは迷うことなく頷いた。
「うん。できてるよ。行こうか」
スコルは“帰らずの森”を前にしても、臆してはいなかった。
理由は単純だ。
彼には、高速で移動できるスキルがある。
たとえ正面からでは敵わない強敵と遭遇したとしても、危険を察知した時点で距離を取れる。
普通の冒険者なら逃げ切れないような相手であっても、スコルなら退避できるのだ。
しばらく森の中を進んだところで、フェルが足を止めるように告げた。
『オーガが二体おる。わかるか?』
「あれだね」
スコルは木々の向こうへ目を凝らした。
太い腕を揺らしながら歩く、二体の巨躯。その姿を捉えるや否や、スコルは地を蹴った。
必殺技――徹骨穿心!!
鋭く踏み込んだ一撃が、一体目の胸を貫く。
間髪入れずに身を翻し、二体目へと刃を走らせた。
二体のオーガは、反撃する間もなく地面へ崩れ落ちた。
『ふむ。上位クラス程度では、もはや相手にならぬか』
フェルの言葉に、スコルは小さく頷く。
倒れたオーガの亡骸と魔石をインベントリへ収納すると、さらに森の奥へと進んだ。
その途中、フェルが弾んだ声を上げる。
『おっ、小鬼眼がおるぞ』
「小鬼眼?」
『サイクロプスの下位個体だ。とはいえ、猛将クラスに分類される魔物だ。気を抜くな』
木々の合間に、ひとつ目の巨体が立っていた。
額の中央にある大きな眼球が、ゆっくりと周囲を見回している。
猛将クラスの魔物を単独で討伐するには、レベル300以上が必要とされている。
今のスコルにとっては、己の実力を測るのにうってつけの相手だった。
「――徹骨穿心!!」
スコルは先制を狙って突っ込んだ。
しかし、小鬼眼は巨体に似合わぬ素早さで身をひねり、鋭い突きをかわす。
「避けた……!」
ならば、とスコルはすぐに体勢を立て直した。
ダブルアーツ必殺技――渦天穿墜!!
剣に渦巻くような超高速回転が宿る。
スコルの放った一撃は、小鬼眼の右肩を貫いた。
だが、巨体を揺らしただけで、まだ倒れない。
小鬼眼は傷口から血を噴き出しながら、怒りに満ちた咆哮を上げた。
スコルは退かない。
再び踏み込み、同じ技を放つ。
「渦天穿墜!!」
回転をまとった一撃が、その腹部を深々と貫いた。
小鬼眼は苦悶の声を漏らし、数歩よろめく。
そして、そのまま巨木を巻き込むように倒れ伏した。
『見事だ。お主なら、猛将クラスでも十分に戦えるようだな』
フェルの言葉を聞きながら、スコルは倒れた小鬼眼を見つめた。
簡単な相手ではなかった。だが――勝てない相手でもなかった。
その後もスコルは、猛将クラスの魔物を次々と斬り伏せていった。
だが――。
不意に、遠方から肌を刺すような黒い気配が押し寄せてきた。
『覇王クラスが、ついに来たか…』
フェルの声が、低く響く。
木々の隙間から現れたそれは、ゆっくりと、しかし確実にこちらへ近づいてきた。
『カース・レオだな』
漆黒の鬣を揺らす巨大な獅子。
その全身は、周囲の草木さえ萎れさせるような暗黒闘気に包まれていた。吐き出される気配そのものが、呪いとなって辺りへ滲み出している。
スコルは相手の姿を認めるや否や、間合いを詰めた。
「――必殺技!」
剣を引き絞り、渾身の一撃を叩き込む。
「渦天穿墜!!」
螺旋を描く斬撃が、カース・レオの胴をまともに捉えた。
だが――硬い。
刃は黒い毛皮を裂いたものの、致命傷には程遠かった。
「うわ……これは、効いてないね……」
『さすがに格上の覇王クラスだ。スキルなしで押し切るのは厳しいか』
フェルの言葉に、スコルは小さくうなずく。
「なら、こっちでいく」
スコルは剣を握り直し、魔力を流し込んだ。
「霊装剣!」
刀身が淡い緑光を帯び、スコルは再び踏み込む。
「渦天穿墜!!」
緑の軌跡を引く一閃が、カース・レオの胴を切り裂いた。
今度は確かに肉を断った。
しかし、傷は浅い。
カース・レオは唸り声を上げると、巨大な前脚を振り上げた。
黒い爪が、空気を裂く。
スコルは咄嗟に身を翻し、その一撃をかわした。
爪が地面を抉り、黒い瘴気が爆ぜるように広がった。
『奴の攻撃を受けるな。瘴気を浴びれば、身体の自由を奪われるぞ。距離を取れ』
フェルが鋭く告げる。
『氷の精霊キオネーシアの加護も受けたことだ。ちょうどよい――氷魔法を試してみるか』
「そうだね」
スコルは距離を取り、空いた左手をカース・レオへ向けた。
「霜刃!」
冷気とともに生み出された氷の刃が、一直線に飛ぶ。
刃はカース・レオの肩へ突き刺さった。
だが、初級魔法の氷魔法では、巨体をわずかに揺らしただけだった。
「これでも足りないか……」
ならば、とスコルは魔力をさらに練り上げる。
「氷柱槍!」
空中に生まれた巨大な氷槍が、轟音とともに射出された。
鋭い槍はカース・レオの脇腹へ深々と突き刺さる。
黒い獅子が、初めて苦痛の咆哮を上げた。
『ふむ。やはり中級魔法となると、威力が違うな』
フェルの声に、スコルは剣を構え直した。
手応えはあったが…、その時、カース・レオが大きく口を開いた。
喉の奥で、黒紫の瘴気が渦を巻く。
次の瞬間――。
濁流のような瘴気が、スコルめがけて吐き出された。
「っ!」
スコルは咄嗟に横へ跳び、その射線から逃れる。
瘴気は彼のいた場所を飲み込み、地面へ触れた途端、じゅう、と不気味な音を立てた。草木は黒く変色し、みるみるうちに枯れ果てていく。
スコルはさらに後方へ退き、カース・レオとの距離を取った。
しかし、敵は追撃の手を緩めない。
カース・レオは再び大口を開き、二度、三度と瘴気の奔流を吐き出してくる。
スコルは木々の陰へ身を滑らせながら、辛うじてそれらをかわした。
『これでは近づけぬな』
フェルが低く言う。
『ならば、精霊の力を試してみるか。名を呼べば、召喚できる』
「わかった」
スコルは頷き、頭上の空へ向かって呼びかけた。
「キオネーシア!」
その名が響いた瞬間、周囲の空気が凍てつくように冷えた。
淡い氷光がスコルの頭上へ集まり、やがてひとつの人影を形作っていく。
現れたのは、白銀の髪を風になびかせる氷の精霊――キオネーシアだった。
背には六枚の氷翼。
翼が羽ばたくたび、砕けた氷の粒子のような淡い光が、夜気へ静かに舞い散る。
以前に見た時よりも、その姿は人の背丈ほどになっていた。
「大きくなってる……」
スコルが目を見開くと、キオネーシアは静かに彼を見下ろした。
『精霊の加護には、二つの強化がある』
フェルが説明を続ける。
『ひとつは、術の威力を倍加させる“ダブル・インパクト”。もうひとつは、同じ術を連続して放つ“ミラージュ・レイド”だ』
カース・レオは瘴気をまといながら、こちらを鋭く睨みつけている。
『どちらも通常のおおよそ二回分のマナを消費する。ただし、“ミラージュ・レイド”の方が、消費はやや少ない』
フェルの声に、スコルは氷の精霊を見上げた。
『今回は、氷柱槍に“ミラージュ・レイド”を重ねるぞ』
「連続で撃てるなら、あの瘴気の隙間を作れるかもしれないね」
スコルは手を前へ突き出し、魔力を練り始めた。
その隣で、キオネーシアの六枚の氷翼が、いっそう強く輝き始める。
氷の粒子が舞い上がり、周囲の空気を白く染めていった。
「――氷柱槍!」
スコルが突き出した手の先で、冷気が渦を巻く。
次の瞬間、鋭く尖った氷の槍が生み出され、カース・レオへと一直線に射出された。
だが、それだけでは終わらない。
スコルの頭上で羽ばたくキオネーシアが、六枚の氷翼から淡い光を散らしながら、同じ術式を展開する。
もう一本の氷槍が、わずかな間を置いて放たれた。
一発目がカース・レオの肩口を穿ち、巨体を大きく仰け反らせる。
そして二発目が、その隙を逃さず脇腹へ深々と突き刺さった。
カース・レオは苦痛の咆哮を上げ、黒い瘴気を撒き散らしながら数歩後退する。
その巨体が、初めて大きくよろめいた。
『今だ! 必殺技でとどめを刺せ!』
「わかった!」
スコルは地を蹴った。
カース・レオが体勢を立て直すよりも早く、一直線に間合いへ踏み込む。
緑の光をまとった剣を、胸元へ向けて突き出した。
「渦天穿墜!!」
螺旋を描く斬撃が、カース・レオの胸を深々と貫く。
黒い獅子の身体が大きく跳ねた。
やがて、その巨体は地面へ崩れ落ちる。
周囲に漂っていた暗黒闘気が、霧が晴れるように少しずつ薄れていった。
カース・レオは二度と立ち上がらなかった。
『うむ。格上の覇王クラスを討ち取るとは、見事だ』
フェルの声には、わずかな満足げな響きがあった。
「でも、かなり手強かったね」
スコルは荒い息を整えながら、倒れたカース・レオを見つめる。
霊装剣で底上げした中級剣術を二発。
さらに、中級魔法を三発。
それだけの攻撃を重ねて、ようやく仕留めることができたのだ。
覇王クラス――その強さを、スコルは改めて思い知らされていた。
その後もスコルは狩りを続けた。
フェルの索敵能力のおかげで、気がつけばその日だけで70体近い魔物を討ち取っていた。
レベルは343に到達していたが、そこで満足せず、スコルはいったん家へ戻った。
それから翌日も。
その翌日も、さらにその翌日も――。
スコルは森へ赴き、凄まじい勢いで魔物を狩り続けた。
猛将クラスとの戦いを経たことで、以前よりも魔物との戦い方が見えてきたのだ。剣術と魔法を的確に使い分け、危険な相手には無闇に踏み込まず、隙を見極めながら着実に体力を削っていく。
そうして数日後。
ついにスコルのレベルは、402にまで到達した。
冒険者ランク・金級への昇格条件は、レベル400以上。
そして、討伐案件を300件以上こなしていることだ。
銅級への昇格時には100件、銀級への昇格時には200件の討伐案件を消費している。
だが、スコルはフェイドマウスの駆除だけで、すでに634件もの討伐案件を達成していた。
必要な条件は、すべて満たしている。
「これで、金級に上がれるんだね」
スコルは自分のプレートを見つめ、小さく息を吐いた。
ここまで来るまでに、数え切れないほどの魔物と戦ってきた。
そして今、次の段階へ進む時が来たのだ。
スコルは金級への昇格を申請するため、冒険者ギルドへ向かった。
「おめでとうございます。スコル・ハーバリー様の金級への昇格が認められました」
冒険者ギルドの受付嬢は、にこやかな笑みを浮かべながら、一枚のプレートを差し出した。
それは、これまでの銀級とは異なる、鈍くも気品ある金色の冒険者プレートだった。
「ありがとうございます」
スコルは両手でそれを受け取る。
「冒険者登録から一月もしないで金級へ昇格された方は、私も初めて見ました」
受付嬢は感心したように目を丸くしていた。
スコルは冒険者として登録してから、わずか半月ほどで金級へと昇格したのだ。
『うむ。お主もついに上級冒険者だな』
フェルが満足げに言う。
『この調子なら、父君を救い出しに行く日も、そう遠くはないかもしれぬ』
金級以上の冒険者は、上級冒険者と呼ばれる。
スコルは手の中の金色のプレートを見つめ、静かに頷いた。
「うん。もっと強くならないとね」
「それと、もう一件お伝えしたいことがございます」
受付嬢は、思い出したように続けた。
「創聖ヘファイストス学園の方から、ハーバリー様に大切なお話があるので、学園までお越しいただきたいとの伝言を預かっております」
「学園の人が、僕に?」
スコルは首をかしげた。
「おそらく、学園へのお誘いではないでしょうか。創聖ヘファイストス学園では、ときおり優秀な生徒を直接スカウトしているそうですから」
受付嬢はそう言って、微笑んだ。
だが、スコルには学園へ通うつもりはなかった。
父を救い出すという目的がある以上、何年も学び舎に通っている余裕はないと思えたからだ。
そのため、わざわざ足を運ぶべきか迷っていると――。
『エマとサラが、いずれ世話になるかもしれぬ』
フェルが言った。
『お主にその気がなくとも、話くらいは聞いておいた方がよいだろう』
「……そうだね」
エマとサラのことを考えれば、学園の話を無下に断るわけにもいかない。
スコルは考えを改め、創聖ヘファイストス学園へ向かうことにした。




