幽霊屋敷
幽霊屋敷へ向かう道すがら、不意に店主が口を開いた。
「そういえば、まだお名前を伺っておりませんでしたな。私はレスター商会の店主、レスターと申します」
「僕はスコル・ハーバリーです」
スコルが名乗ると、レスターは感心したように頷いた。
「ハーバリーさんは、冒険者でいらっしゃいますかな?」
「えっ、わかるんですか?」
スコルは思わず声を上げた。
「実は今日、ついさっき登録したばかりなんですけどね」
憧れだった冒険者に見られたことが嬉しかったのか、その表情はどこか誇らしげだった。
しかし、レスターは苦笑を浮かべる。
「わかるというより、推測ですよ。このハヌンでは不動産を購入するために、何らかのギルドへ加盟していることが条件になっています」
「そうみたいですね」
「ええ。そして、あなたくらいの年齢でギルドに所属し、なおかつ家を買えるほどの資金を用意できる職業となると、冒険者が一番可能性が高いのです」
なるほど、とスコルは静かに頷いた。
レスターが冒険者だと見抜いたのは、ひょっとしたら、自分の体中から“歴戦の強者”のオーラでも溢れ出ているのではないか、と思ってようだ。
……完全な勘違いである。実際は、単なる状況証拠からの推理だったらしい。
「そういうことでしたか……」
少しだけ肩を落としながら、スコルは苦笑した。
その様子を見て、レスターは小さく笑ったのだった。
そうこうしているうちに、幽霊屋敷と噂される家へとたどり着いた。
「こちらが、ご紹介する屋敷になります」
レスターが足を止めて言った。
スコルは思わず目を見張った。
幽霊屋敷と聞いていたため、スコルは崩れかけた廃屋を想像していた。しかし目の前にあるのは、多少荒れているとはいえ、十分に立派な邸宅だった。
小高い丘の上に建つその屋敷は、アイボリー色のレンガで造られた瀟洒な建物で、周囲の家々よりひと回りどころか二回りは大きく、堂々とした存在感を放っている。
庭には雑草が伸び放題になっていたものの、屋敷そのものに大きな傷みは見られない。窓ガラスも割れておらず、外壁も比較的きれいなままだ。レスターが最低限の管理を続けていたようだ。
「すごく立派な家ですね」
感心したようにスコルが言う。
「ええ」
レスターは満足そうに頷いた。
「今は少々荒れておりますが、元はかなりの上物です。庭を整え、室内を掃除すれば、すぐにでも住めるでしょう」
そう言いながら、彼は丘の上にそびえる屋敷を見上げた。
「こんな家が、いつまでも買い手も借り手もつかずに残っているとは、残念ですな……」
そして懐から鍵を取り出し、玄関の錠を外す。
ガチャリ、と重たい音を立てて扉が開いた。
「さあ、お入りください」
スコルは一歩、屋敷の中へ足を踏み入れた。
中は意外なほど整っていた。
家具こそほとんど置かれていないものの、床には埃があまり積もっておらず、壁や天井にも目立った傷みはない。
ただ――。
長い間換気されていなかったのだろう。
湿った木材と古い壁紙が混ざったような、かすかなカビの匂いが鼻をついた。
そして何より気になったのは、空気の冷たさだった。
「……あれ?」
スコルは腕をさすった。
「なんだか寒くないですか?」
外は穏やかな陽気だったにもかかわらず、屋敷の中だけ季節が一つ戻ったかのように冷えている。
「そうなのですよ」
レスターは困ったように笑った。
「この屋敷、夏場でも妙に冷えるのです。暖炉に火を入れても、なかなか暖まらないそうでして……」
そのときだった。
――ドォンッ!
どこか屋敷の奥から、何か重いものが落ちたような音が響いた。
スコルは反射的に音のした方へ視線を向ける。
レスターの顔がわずかに引きつった。
「わ、私は外でお待ちしておりますので……どうぞごゆっくりご見学ください」
そう言うと、彼は地下室用のランプを床に置き、逃げるように玄関から外へ出ていった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
『たしかに冷えるな……』
フェルが呟く。
『これはただの寒さではない。それに何かの気配も感じる』
「うん」
スコルは静かに頷いた。
「不思議なマナを感じるね。人間のものとも魔物のものとも違う感じだ」
ランプを手に取ると、スコルは慎重に屋敷の探索を始めた。
まずは一階から見て回る。
応接室、食堂、台所。
どの部屋も綺麗に片付いており、人が慌てて逃げ出したような痕跡もない。
だが、どの部屋にいても妙な冷気だけは消えなかった。
まるで屋敷全体が、見えない何かを隠しているかのようだった。
やがてスコルは二階へ上がった。
一つずつ部屋を確認していくが、やはり異常らしい異常は見当たらない。
最後の部屋の窓を開けた瞬間だった。
「うわ……!」
思わず声が漏れる。
窓の向こうには大きな湖が広がり、遠くの森まで見渡せる絶景だった。
「これは凄いね!」
スコルの顔が明るくなる。
「こんな景色なら、エマちゃんたちもきっと気に入ると思うよ」
『ふむ。眺めは文句なしだな』
フェルも感心したように言った。
結局、二階では特に異変らしいものは見つからなかった。
だが――。
スコルには確信があった。
姿は見えず、気配も掴めない。だが、この屋敷には、確かに何かがいる。
それからスコルは、まだ調べていなかった地下室へ向かった。
レスターが置いていったランプに火を灯し、軋む木の階段を一段ずつ慎重に降りていく。
地下へ近づくにつれ、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
そのときだった。
『む……?』
フェルが訝しげな声を漏らした。
『この気配……どこかで感じたことがあるぞ』
「え?」
スコルは足を止めた。
「やっぱり幽霊は地下にいるの?」
『いや……待て。少し考えさせてくれ』
フェルはそう言うと黙り込んだ。
スコルは首を傾げながらも探索を続ける。
地下室は思いのほか広く、古い棚や木箱が並んでいるだけだった。壁にも床にも不自然な痕跡は見当たらない。
しばらく見て回ったが、怪しいものは何一つ見つからなかった。
「……何もおかしなところはないね」
スコルが肩をすくめた、その時。
『――思い出したぞ』
突然、フェルが声を上げた。
『この気配は幽霊などではない』
「違うの?」
スコルは目を丸くする。
「じゃあ、いったい何なんだ?」
フェルは確信を得たような口調で答えた。
『これは――』
フェルはそこで言葉を切った。
そして次の瞬間、信じられないことを言った。
『よし。この家、買うぞ!』
「ええっ!?」
スコルは思わず声を裏返した。
「ちょっと待ってよ! この気配の正体は何なの!?」
『今は知らぬほうがお主のためだ』
フェルは妙に楽しそうな声で答える。
『安心しろ。家を買ったらちゃんと教えてやる』
「いやいや、まったく安心できないんだけど!?」
スコルは頭を抱えた。
「金貨二十枚だよ!? それに本当に幽霊屋敷だったらどうするのさ。エマちゃんだって怖がるだろうし……」
『だから問題ないと言っておるだろう』
フェルはきっぱりと言い切った。
『むしろ、この値段で手に入るなら破格だ。逃せば後悔するぞ』
スコルは地下室を見回した。
確かに家そのものは悪くない。
広い庭があり、見晴らしもいい。
部屋数も十分で、エマたちと暮らすには申し分ない広さだ。
何より、この値段でこれほどの家など普通は手に入らない。
だが――。
「本当に大丈夫なんだろうね……?」
『ああ。ワシを信じろ』
迷いのないフェルの言葉だった。
スコルは腕を組み、しばらく唸った。
やがて大きく息を吐く。
「……よし、わかった!」
そう言って顔を上げた。
「買おう!」
『うむ、それでいい』
どこか満足そうにフェルが答えた。
こうしてスコルは地下室を後にし、契約のためレスターのもとへ向かった。
「レスターさん、この家を買います」
スコルがそう告げると、レスターは目を丸くした。
「ほ、本当ですか!?」
思わず身を乗り出して尋ねる。
「はい。幽霊のことは、なんとかなりそうなので」
スコルが答えると、レスターはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「そうですか……」
そう呟きながら、屋敷へ視線を向ける。
「この屋敷は立派な造りですからな。空き家のまま朽ちていくのを見るのは忍びなくて……。誰かに住んでもらえるのなら、私としても嬉しい限りです」
その表情には、商人としてだけではなく、長年この土地を見てきた者としての感慨が滲んでいた。
そして気を取り直したように、レスターはスコルへ向き直る。
「では、お買い上げということでよろしいですかな?」
「はい。今すぐ購入します」
スコルが力強く頷くと、レスターは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! それでは契約の手続きをいたしましょう」
こうして二人は屋敷を後にし、レスター商会へ戻った。
そこで売買契約書が用意され、スコルは人生で初めて家を購入することになった。
契約書への署名と代金の支払いが終わると、レスターは丁寧に書類をまとめてスコルへ差し出した。
「では、こちらが契約書の写しと、代金を確かに受領した証となる領収書でございます」
スコルがそれを受け取ると、レスターは穏やかな笑みを浮かべた。
「そして――今この時をもちまして、あの屋敷は正式にハーバリー様の所有となります」
「本当ですか!?」
スコルは思わず身を乗り出した。
「じゃあ、もう住んでもいいんですか?」
「もちろんでございます」
レスターはにこやかに頷いた。
「今日からはご自由にお使いください。家具を運び込もうが、改築しようが、すべて所有者であるあなたのご判断です」
その言葉を聞いた瞬間、スコルの胸に実感が込み上げてきた。
自分の家だ。故郷を失い、借家住まいである自分が、ついに帰る場所を手に入れたのである。
「それと、もう一つご説明がございます。
この街では、家屋の所有者を市庁舎の文書庫にある台帳へ登録する決まりになっております」
「台帳ですか」
「はい。登録が完了しますと正式な権利書が発行されますので、準備が整いましたらお渡しいたします。おそらく一週間ほどで手続きが終わるでしょう」
そう言うと、レスターは最後に一つの鍵を差し出した。
鈍い銀色の、大きく重厚な鍵だった。
「あの屋敷の鍵でございます」
スコルは両手でそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「一週間後にまたお越しください。その時に権利書をお渡しいたします」
「わかりました」
スコルは契約書の写しと領収書をインベントリへしまい、大切そうに鍵を握りしめた。
こうしてスコルは、生まれて初めて自分の家を手に入れたのだった。
そして我が家となった屋敷へ向けて、期待と少しの不安を胸にレスター商会を後にした。
屋敷へ向かう前に、フェルから「地下室を調べるから明かりが必要だ」と言われたため、スコルは店でランプと蝋燭を買い込んだ。
そして、我が家となった屋敷へ到着し、玄関をくぐるなり、スコルは待ちきれない様子で尋ねた。
「さあ、教えてもらおうか。あの気配は幽霊じゃないんだろう? じゃあ一体なんなのさ?」
『うむ。その答えは地下にある。地下室へ向かってくれ』
フェルは落ち着いた声で言った。
スコルはランプに火を灯し、薄暗い階段を下りていく。
地下へ進むにつれ、ひんやりとした空気が肌を刺した。
「やっぱり冷えるな……」
レンガ造りの壁を見回しながら、スコルは肩をすくめる。
「それに気味が悪い。ほんとに幽霊じゃないんだよね……?」
『安心せい』
フェルはそう答えると、
『あの古い棚を調べてみてくれ』
と言った。
スコルはランプを掲げ、棚を照らした。
古びた木製の棚には埃が積もっているが、それ以外に変わったところはない。
「特に何もなさそうだけど?」
『ならば、その棚をどけてみよ』
言われるままにスコルは棚へ手をかけた。
ギギギ……。
重たい音を立てながら棚が動く。
その奥から現れたのは、ただのレンガ造りの壁だった。
「ほら、やっぱり何もないじゃないか」
スコルは呆れたように肩を落とした。
「もう正体を教えてよ」
しかしフェルは即答した。
『見れば分かる。壁に何か仕掛けがないか探ってみるのだ』
「仕掛けぇ?」
半信半疑のまま、スコルは壁へ近づく。
ランプを脇に置き、指先で一つひとつレンガをなぞっていく。
ひんやりとした感触が掌に伝わった。
「冷たいな……。でも、やっぱり何も――」
その時だった。
カタッ。
指先に触れていた一枚のレンガが、わずかに沈み込んだ。
スコルは思わず息を呑む。
「な、なんだこれ!?」
さらに押してみると、そのレンガは確かに動いた。
「フェル! このレンガ、動くよ!」
『そこだ! そこを調べるのだ!』
フェルの声にも珍しく興奮が混じる。
スコルは慎重にレンガの隙間へ指を差し込み、ゆっくりと引き抜いた。
ゴリッ……。
長年誰にも触れられなかったであろうレンガが外れる。
その奥には、人の拳ほどの小さな穴がぽっかりと口を開けていた。
冷たい空気が、その暗い穴の中から静かに流れ出してくる。
スコルはごくりと唾を飲み込み、恐る恐る中を覗き込んだ――。
穴の奥には、ターコイズブルーに輝く石が収められていた。
まるで上質なアクアマリンのような透明感を持ちながら、その表面には木の年輪を思わせる筋が幾重にも刻まれている。
スコルはそっと手を伸ばし、その石を取り出した。
「うわっ……冷たい!」
思わず声を上げる。
石は氷そのもののような冷気を放っていた。
『やはりあったか……。ワシの睨んだ通りだ』
フェルが満足そうに呟く。
「これ、一体何なんだ?」
『それは星霜の鱗だ。別名――精霊の卵とも呼ばれておる』
「精霊の卵!?」
スコルは驚いて石を見つめた。
『しかも氷の精霊のだ。まだ眠りについておるが、常に冷気を放ち続ける性質がある』
フェルは続けた。
『この屋敷が異様に冷え込んでいたのも、星霜の鱗から漏れ出した冷気が長年蓄積していたからであろう。そして夜ごとに聞こえていた物音も、幽霊の仕業ではない』
「じゃあ何だったの?」
『“家鳴り”だ。極端な冷気にさらされた木材や金属が、気温の変化によって膨張と収縮を繰り返し、そのたびに軋みや衝撃音を立てていたのだろう。人の気配もない屋敷で突然音が鳴れば、誰しも幽霊を疑う』
フェルは肩をすくめるような口調で続けた。
『人々は冷気の気配を亡霊の存在と結び付け、家鳴りを怪異の証拠と思い込んでいたのだ。だが実際は、すべてこの星霜の鱗が引き起こした現象だったというわけだ』
「なるほど……。全ての原因はこれだったのか」
スコルは感心しながら石を眺める。
すると、穴の奥にまだ何かが残っていることに気づいた。
「あれ? まだ何か入ってる」
再び手を差し込み、小さな金属製の輪を引っ張り出す。
ランプの光を受け、それは鈍い銀色の輝きを放った。
「指輪だ。指輪もあったよ」
『ほう……』
フェルの声色が変わる。
スコルが指輪を掲げると、フェルはどこか納得したように言った。
『それは縮界の指輪だな』
「これが?」
『なるほど……そういうことだったか』
フェルは何かに思い当たったように低く呟いた。
「どういうこと?」
スコルが首を傾げる。
フェルは少し間を置いてから説明を始めた。
『縮界系統の古代魔導器はな、体内に埋め込む魔魂石を除けば、いずれ蓄えたマナを使い果たす。おおよそ四十年ほどでマナ切れを起こすと言われておる』
「マナ切れになるとどうなるの?」
『内部に維持していた亜空間が崩壊する。すると、インベントリに収納されていた物はすべて外へ吐き出されるのだ。
この屋敷が建てられたのは六十年前。そして屋敷の主が亡くなったのは三十年前だ』
「それが関係あるの?」
『大ありだ。星霜の鱗は、インベントリに収納されている限り外部へ冷気を漏らさぬ。おそらくこの指輪に、大切に保管されていたのだろう』
フェルは確信を込めて続ける。
『だが主の死後、隠されていたため、誰も指輪にマナを補充しなかった。そして指輪はついにマナ切れを起こした』
スコルはハッとした。
「それで収納されていた物が外へ出てきたのか!」
『その通りだ』
フェルは満足そうに頷く。
「なるほど……全部繋がった」
スコルは手の中の青い石を見つめた。
長年、この屋敷を恐怖の噂で包んでいた怪現象。
その正体は幽霊ではなく、忘れ去られた遺物だったのである。
「でも、この星霜の鱗って、こんな隠し場所にしまわれていたくらいなんだから、よっぽど貴重なものなんじゃないの?」
スコルは手の中の青い石を眺めながら言った。
『確かに星霜の鱗そのものは珍しい物ではある。しかし、普通の個体であれば、そこまで厳重に隠すほどの価値はない』
フェルは含みのある声で言った。
『だが、お主が今持っているそれは別格だ。古代種の星霜の鱗でな。数そのものが極めて少なく、市場に出回ることもほとんどない』
「古代種……」
『うむ。だからこそ誰も正体に気づけなかったのだ。この気配を知る者などあまりおらぬだろうからな』
スコルは改めて石を見つめた。
透き通る青色の輝きは美しいが、とてもそんな価値があるようには見えない。
「へぇ……。やっぱり希少なものなんだな。となると、かなり高いんだろうね?」
フェルは少し考えるような間を置いた。
『そうだな……。金貨百枚は下らぬのではないか?』
「き、金貨百枚ぃっ!?」
スコルは思わず叫んだ。
「こ、こんな石ころみたいなのが!?」
スコルは慌てて両手で星霜の鱗を抱え込み、その場で固まった。
『この屋敷だけでも、本来なら金貨六十枚以上の価値はあるだろう。そこへ星霜の鱗の価値を加えれば、合わせて金貨百六十枚は超えるはずだ。
つまり、お主は金貨二十枚で金貨百六十枚分の財産を手に入れたということになる。なかなか良い買い物をしたではないか』
フェルは満足そうに言った。
「そう考えると、すごく安い買い物だったんだね……」
スコルは苦笑いを浮かべた。
「でも、なんだかレスターさんに悪い気がしてきたな。こんなものが隠されていたなんて、本人も知らなかったんだろうし」
『だからこそ、ワシは事前に話さなかったのだ』
フェルは少し得意げな声で言った。
『お主のことだ。もし星霜の鱗の存在を知っておれば、店主に正直に話していたであろう?』
「うっ……」
スコルは返す言葉に詰まった。
「たしかに、先に聞いていたら話していたかもしれない」
『そうなれば屋敷の売買は中止になるか、値段が跳ね上がるかのどちらかだ。面倒なことになっていたのは間違いない』
フェルはくつくつと喉を鳴らした。
『それに、この屋敷の秘密を見抜いたのは誰だと思う?』
「フェルだけど……」
『うむ』
フェルは満足そうに頷く。
『つまり今回は、この賢狼の知識が勝利を収めたということだな』
「はいはい、フェルのおかげだよ」
スコルが苦笑しながら答えると、
『素直でよろしい』
フェルは上機嫌そうに笑った。
地下室に漂う冷気は相変わらずだったが、幽霊屋敷の謎を解き明かした今となっては、どこか心地よくさえ感じられた。




