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ゴブリンキング

「ゴブリンキングに……!? それって、バグベアよりもずっと強いんだろ……?」


 スコルの声がわずかに震えた。


『バグベアやホブゴブリンは、冒険者ギルドの定める討伐等級で言えば中位ミドルクラスだ』


 フェルは淡々と続ける。


中位ミドルクラスを単独で討伐するには、最低でもレベル100は必要とされておる。お主はまだそこに達しておらぬが、ワシの加護によって能力が底上げされているから、バグベアを倒せた』


「じゃあ、ゴブリンキングは……?」


 スコルは固唾を呑んだ。


『その一つ上――上位ハイクラスだ』


 その言葉に、スコルの背筋を冷たいものが走った。


上位ハイクラスだと、どれくらいのレベルが必要なんだ?」


『最低でもレベル200。今のお主では足りぬ』


 フェルの声は重かった。


「そんな……じゃあ、どうするんだよ!?」


 焦りを隠せず、スコルは叫んだ。


 その瞬間だった。


 洞窟の入口を塞いでいた岩壁が、ミシ……ミシ……と不気味な音を立て始めた。


 まるで内側から何かが押し広げているかのように。


 地面が微かに震える。


 岩の隙間から漏れ出した禍々しい魔力が、周囲の空気を歪ませた。


『来るぞ――!!』


 フェルが鋭く叫ぶ。


 スコルは反射的に後方へ飛び退いた。


 次の瞬間――


 轟音とともに岩壁が爆散した。


 砕け散った岩片が雨のように降り注ぐ。


 そして、立ちこめる土煙の奥から、ゆっくりと巨大な影が姿を現した。


 バグベアの倍はあろうかという巨体。


 筋肉の鎧に覆われた漆黒の肉体。


 血のように赤く輝く双眸。


 その手には、人間の大剣すら玩具に見えるほどの巨大な斧が握られていた。


「なっ……!?」


 圧倒的な威圧感にスコルは息を呑む。


 存在するだけで周囲の空気が重くなる。


 それはもはやホブゴブリンではなかった。


 ゴブリンの王――ゴブリンキングへと進化した怪物が、ついにその姿を現したのだ。



 ゴブリンキングはスコルの姿を認めるや否や、


「ギ、ギギ……ギガァァァッ!!」


 獣の咆哮にも似た雄叫びを上げ、巨大な戦斧を振りかざして突進してきた。


「うわっ!?」


 スコルは咄嗟に身を翻し、間一髪でその一撃を回避する。


 振り下ろされた斧が地面に深々と突き刺さり、周囲の岩盤が砕け散った。


 その隙を見逃さず、スコルは一気に踏み込む。


徹骨穿心ディープ・インペイル!!」


 必殺技ウルトが閃光を伴って放たれ、ゴブリンキングの右肩を貫いた。


 ――だが。


「なっ……!?」


 手応えがあまりにも浅い。


 肩口の肉をわずかに抉っただけで、致命傷どころかまともなダメージすら与えられていなかった。


 ゴブリンキングは怯むことなく斧を引き抜き、そのまま薙ぎ払う。


 スコルは慌てて後方へ飛び退いた。


 風圧だけで頬が切れ、血が滲む。


「ウルトが通用しないんだけど……!!」


『やはり今のお主では、上位ハイクラスの防御を突破するには打撃力が足りぬか』


 フェルの声は冷静だった。


 だが、その言葉はスコルにとって絶望的だった。


 ゴブリンキングが再び地を蹴る。


 巨体とは思えぬ速度だった。


「速いっ!?」


 斧が横薙ぎに振るわれる。


 スコルは反射的に身を沈めた。


 直後、背後の岩壁が斬り裂かれ、蜘蛛の巣状の亀裂が一気に広がった。


 もし直撃していれば、身体ごと真っ二つだっただろう。


「くっ……!」


 スコルは歯を食いしばりながら懐へ潜り込む。


 そして再び、


徹骨穿心ディープ・インペイル!!」


 渾身の一撃を腹部へ叩き込んだ。


 しかし――


 ゴブリンキングの巨体がわずかによろめいただけだった。


「そんな……」


 攻撃が通らない。


 だが相手の一撃は致命傷になる。


 戦いが長引くほど不利になるのは明らかだった。


 スコルの額を汗が伝う。


 呼吸も徐々に荒くなっていく。


 対するゴブリンキングには疲労の色すら見えない。


 やがてスコルは防戦一方となり、洞窟の壁際へと追い詰められていった。


「ど、どうすればいいんだ!?」


 迫り来る斧をかわしながら叫ぶ。


「やっぱり一度撤退したほうがいいんじゃないのか!?」


『いや――ここで倒す』


 フェルは即座に否定した。


『父君を探すのであろう? その先には奴隷商人どもがおる。上位ハイクラス程度の敵を越えられねば、その連中を相手にすることなど到底できぬ』


「でも、このままじゃ――!」


『案ずるな、手はある』


 フェルの声には、揺るぎない確信があった。



 その直後――


「ギガァァァァァッ!!」


 ゴブリンキングが咆哮を轟かせた。


 洞窟全体が震え、天井から小石がぱらぱらと降り注ぐ。奴は巨大な斧を頭上高く掲げると、獰猛な笑みを浮かべた。


『まずい! そこを離れろ!!』


 フェルの叫びに、スコルは反射的に地を蹴った。


 次の瞬間――


 バキバキバキッ!!


 頭上の岩盤が砕け、轟音とともに落下する。


 さっきまでスコルがいた場所に、巨大な岩塊が叩きつけられた。


 地面が揺れ、土煙が舞い上がる。


「うわっ!?」


『今のは奴のスキル――崩落重圧ケイブクラッシャーだ。天井を崩し、岩盤ごと押し潰す技だ』


 フェルは冷静に続けた。


『狭い洞窟内では分が悪い。このままでは身動きが取れん。外へ出るぞ!』


「分かった!」


 スコルは踵を返し、洞窟の出口へ向かって駆け出した。


 背後では怒り狂ったゴブリンキングが咆哮を上げながら追ってくる。


 洞窟を飛び出し、開けた場所まで走ったところで、スコルは息を整えながら尋ねた。


「それで、どんな手があるんだ?」


『お主、今何を握っておる?』


「何って……魔法剣だけど――」


 そこまで言って、スコルははっと目を見開いた。


「……あっ!」


 フェルがニヤリと笑う気配がした。


『ようやく気付いたか』


「そうだった! 僕は――」


『何のために洗礼を受けたと思っておるのだ』


 フェルの言葉に、スコルは握った魔法剣へ視線を落とした。


 魔法剣士――その力を使う時が、ついに来たのた。



『魔法剣は、ただの武器ではない』


 フェルの声が静かに響く。


『その剣には、マナが流れる回路が刻まれておる。そしてマナとは、魂の輝きであり、命そのものの奔流だ。

 ゆえに、剣とお主は別々の存在であってはならぬ。ただマナを流し込むだけでは不十分だ。己の魂を刃に重ね、刻み込み、一つになるのだ』


「魂を……剣に?」


『うむ』


 フェルは続けた。


『魔法剣士は魔法を操る代償として、純粋な剣士ほどの剣技を磨くことが難しい。力も技も、真っ向勝負では一歩劣ることもある。

 だからこそ魔法剣士には、その差を覆す切り札が用意されている』


 フェルの声が低くなる。


『魂と剣を一体化させ、その力を極限まで引き出す奥義――』


 そして厳かに、その名が告げられた。


『固有スキル、霊装剣エンチャンテッド・スピリット・ブレイドだ』


霊装剣エンチャンテッド・スピリット・ブレイド……。どうすれば使えるんだ?」


『剣の波長を感じ取れ。刃に残る魂の残響を捉え、その奥へマナを浸透させるのだ』


 フェルの声が鋭くなる。


『そして剣が応えた瞬間――お主の全てを叩き込め!』


 スコルは目を閉じ、意識を手の中の魔法剣へと沈めていく。


 冷たく無機質だったはずの刃の奥に、微かな鼓動があった。


 まるで眠れる獣の心音。


 そこへマナを流し込む。


 すると剣が震えた。


 否――応えた。


 刃の奥から熱が湧き上がり、スコルのマナと絡み合う。


『それだ! それが“結びの刻”だ!』


 フェルが叫ぶ。


『迷うな! 一つになれ!』


「うおおおおっ!!」


 スコルは一気に意識を同調させた。


 瞬間――魔法剣が眩い光を放つ。



『——スキル”霊装剣”を獲得しました。』



 奔流のような力が腕を駆け上がり、脳髄を貫いた。


 剣の感触が手から消える。


 違う。剣が消えたのではない。


 剣そのものが、自分の身体の一部になったのだ。


 刃の先端まで神経が通ったかのように感じる。


 振らずとも分かる。


 斬れる。何でも斬れる。


 そんな錯覚すら抱かせる圧倒的な全能感。


「これが……!」


 スコルは輝く剣を握りしめた。


「これが、“霊装剣”……!」


 その光こそ、剣と魂が完全に結びついた証だった。


 対するゴブリンキングは、その輝きを目にした途端、動きを止めた。


「ギ……」


 低い唸り声を漏らしながら、大斧を構え直す。


 獣のような本能が告げているのだろう。


 目の前の獲物は、もはや先ほどまでの少年ではない、と。


 霊装剣から放たれる異質な気配に、ゴブリンキングは初めて明確な警戒の色を見せた。



『奴は……本気になったようだ』


 フェルの声が低く響く。


 次の瞬間、ゴブリンキングが大斧を地面へ叩きつけた。


 大地が抉れ、斧身に込められた膨大な魔力が地中へと流れ込む。


「ギガァァァァァッ!!」


 ゴブリンキングが斧を振り上げる。


 その軌跡をなぞるように大地が裂けた。


 ――大震破砕テクトニックバースト


 地中に蓄積された魔力が一斉に炸裂する。


 爆ぜた大地は岩盤を砕き、土砂を巻き上げながら天へ噴き上がった。


 まるで火山の噴火だった。


 岩塊が雨のように降り注ぎ、足場そのものが崩壊していく。


「っ!?」


 スコルは間一髪で跳び退く。


 背後で岩塊が炸裂し、衝撃波が全身を叩いた。


 だが、安堵する暇はない。


「ガァァァァァァッ!!」


 咆哮とともに、ゴブリンキングが踏み込んだ。


 巨体とは思えぬ速度。


 大斧が唸りを上げ、スコルの頭上へ振り下ろされる。


 スコルは咄嗟に霊装剣を斜めに構え、その一撃を受け流そうとした。


 ――だが。


 ガギィィィンッ!!


 凄まじい衝撃が腕を貫く。


「ぐっ……!」


 バグベアとは比べものにならない。


 まるで山そのものが落ちてきたかのような重圧だった。


 足元の地面が砕け、膝が沈み、骨が軋む。


「くっ……なんて力だ……!」


 霊装剣によって強化された今ですら、この有様。


 純粋な膂力だけなら、スコルはゴブリンキングに遠く及ばない。


 それほどまでに、目の前の魔物は規格外だった。



 ゴブリンキングの猛攻に、スコルは何度も吹き飛ばされる。


「くっ……!」


『何をしておる!』


「だって、力が違いすぎる!」


 ゴブリンキングは大斧を振るうたびに地面を砕き、岩を吹き飛ばす。


 まともに打ち合えば負ける。


『霊装剣とはただ力を増す技ではない!』


 フェルが叫ぶ。


「え?」


『剣と一体になったのであろう!』


 ここでスコルが気付いた。剣になった感覚、刃先まで神経が通っている感覚。


 風、空気、敵の重心、筋肉の動き。すべてが伝わってきた。


『見るのだ、奴の力ではなく、奴の流れを』


 ゴブリンキングが突進。


 今までなら見えなかったが、今は違う。霊装剣を通じて、マナの流れが見える。


 右肩、右腕、大斧。そこへ膨大なマナが集中している。


「見えた!」


 スコルは初めて回避ではなく、紙一重で踏み込んだ。


 ゴブリンキングの脇を抜け、斬る。


 傷は浅い。


 だがキングが苦しそうに吠える。


『そこだ。奴の核となるマナ回路だ』


 傷を負ったゴブリンキングは激怒し、全身から魔力を噴出し、体が巨大化した。



「ギガアアアアアアア!!」


 森が揺れた。


 最後の大技。


 超巨大な大震破砕テクトニックバースト


 地面が崩壊し、逃げ場がない。


『今だ、スコル!』


 フェルが叫ぶ。


『魂を刃に刻み込め!』


 スコルは霊装剣へ全マナを注ぐと、剣が緑色に輝いた。


『お主の意志を形にしろ!』


 その瞬間、スコルは理解した。


 剣は自分、自分は剣。ならば――。


徹骨穿心ディープ・インペイル!!」


 霊装剣から巨大な斬撃が放たれる。



 ゴブリンキングの大斧が止まった。



 ズルリ――


 胸に深く突き刺さった。


 ゴブリンキングは目を見開いた。


 信じられないものを見るように。


「……ギ……」


 震える喉から掠れた声が漏れる。


 次の瞬間、その巨体がぐらりと傾いた。


 ドォォォンッ!!


 大地を揺らす轟音とともに、ゴブリンキングは地面へと崩れ落ちる。


 もう動かない。


 握られていた大斧が力なく転がり、辺りに静寂が訪れた。


「はぁ……はぁ……」


 スコルは荒い息を吐きながら、その姿を見つめる。


 そして――


「やった……」


 実感が込み上げてくる。


「やったぁぁぁぁ!!」


 スコルは思わず拳を突き上げた。


「倒した! 本当に倒したんだ!」


 アシネ村を壊滅させたゴブリンの王を、自分の手で討ち取ったのだ。


 興奮と達成感で胸がいっぱいになる。


 そんなスコルへ、フェルが満足そうに言った。


『うむ。見事だ』


 その声には誇らしさが滲んでいた。


『霊装剣を初戦でここまで使いこなすとはな。正直、我もここまでとは思わなんだ』


「えへへ……」


 スコルは照れくさそうに頭をかく。


『よくやった、スコル』


 その一言が、どんな褒美よりも嬉しかった。



 それからスコルは、奪われたエマの腕輪を探すため、ゴブリン村の捜索を始めた。


 粗末な木造の小屋を一軒ずつ調べて回る。


 しかし、どこを探しても腕輪は見つからない。


「ないな……」


『まだ探しておらぬ場所があるだろう』


 フェルに言われ、スコルは顔を上げた。


 ゴブリンキングがいた洞窟だ。


 先ほどは戦闘でそれどころではなかったが、今なら調べられる。


 スコルは洞窟の奥へと足を踏み入れた。


 しばらく進むと、広間のような空間に辿り着く。


 そこには大量のガラクタが山のように積み上げられていた。


 壊れた食器、錆びた剣や槍、割れた壺。


 旅人や商人から奪ったのだろうか、様々な品が無造作に放り込まれている。


「まるでゴミ捨て場だね」


『ゴブリンらしいな』


 スコルは山を崩しながら、一つひとつ確認していく。


 そして――


「あっ!」


 ガラクタの隙間から銀色の光が覗いた。


 慌てて引っ張り出す。


 それは見覚えのある腕輪だった。


「見つけた! 縮界の腕輪だ!」


 スコルは思わず声を上げた。


 失くしたと思っていた品が戻ってきたことに、胸が熱くなる。


『うむ。見つかって何よりだ』


 フェルも安堵したように言う。


 その時だった。


『ん?』


「どうしたの?」


『その近くにある短剣だ。少し見せてみろ』


 言われるまま、スコルはガラクタの中から一本の短剣を拾い上げた。


 鞘は朽ち、刀身も赤茶けた錆に覆われている。


 どう見ても古びた代物だった。


「これ? でも、ボロボロだよ?」


『確かに年代物だ。しかし、その造りは見事だな。錆に隠れておるが、なかなかの業物と見た』


 フェルは興味深そうに続けた。


『万屋へ持ち込めば、それなりの値が付くかもしれぬぞ』


「へぇ……そうなのか」


 スコルは短剣を改めて眺めた。


 見た目はただの錆びた短剣だが、フェルが言うのなら何かあるのだろう。


「じゃあ、とりあえず持って帰るか」


 そう言うと、スコルは縮界の腕輪と共に短剣をインベントリへ収納した。



 そして洞窟を出ようとした、その時だった。


『待て……あれは何だ?』


 フェルの声に、スコルは足を止めた。


 視線の先――洞窟のさらに奥で、何かがかすかに光を放っている。


「なんだろう……?」


 慎重に近づいていく。


 やがてその正体が見えた瞬間、スコルは思わず息を呑んだ。


 そこには、魔石が山のように積み上げられていた。


 赤や青、緑に輝く魔石が無数に折り重なり、洞窟の壁を幻想的な光で照らしている。


「すごい……! こんなにたくさんの魔石、初めて見た!」


『ほう……これは当たりだな』


 フェルも感心したように言った。


『稀に魔石を蒐集する習性を持つゴブリンがおると聞いたことがある。この村もそうだったのだろう。ざっと見ても五千、六千個はありそうだ』


 どうやらゴブリンたちは、山中に落ちている魔石をせっせと集め続けていたらしい。


「ご、五千個!? そんなに!?」


 スコルは目を丸くした。


 その時、フェルが山積みの魔石の一角を見つめた。


『む……?』


「どうしたの?」


『あの金色に光っている魔石……まさか、金殻変異種オーラム・ヴァリアントのものではないか?』


「オーラム・ヴァリアント?」


『アルビノの黄金種だ。普通の個体との違いは体色だけではない。魔石までもが黄金色に変異する』


 以前倒したカゼカマイタチも白い毛並みを持つ変異種だったが、魔石そのものは通常のものと変わらなかった。


 しかし金殻変異種オーラム・ヴァリアントは違う。


 その証とも言えるのが、この黄金の魔石なのだ。


「へぇ……でも、ずいぶん小さいよ?」


 スコルは金色の魔石を摘み上げた。


 銅貨ほどしかない、小さな欠片だった。


 だが――


『その大きさでも相当な値が付くぞ』


 フェルは断言した。


『しかし、この魔石の量は凄まじいな。金貨二十枚や三十枚では済まぬかもしれんぞ』


「えっ!? そんなになるの!?」


 スコルは思わず声を上げた。


『よかったな。これなら家の一軒くらい買えるだろう』


 その言葉に、スコルの胸は高鳴った。


 ゴブリンたちの亡骸を回収するのは後回しにし、まずは魔石を売るため街へ向かうことにした。


 街へ到着したスコルは、いつもの魔道具屋を訪れた。


「魔石が何千個もあるんですけど、買い取れますか?」


 店主は少し驚いた顔をしたものの、すぐに頷いた。


「ええ、もちろん買い取れますよ」


 その返事を聞き、スコルはインベントリから魔石を次々と取り出していった。


 机の上に積み上がる魔石の山を見て、さすがの店主も目を丸くする。


「これはまた凄い量ですね……」


 そう呟きながらも、店主は手際よく鑑定を進めていった。


 パッ、パッ、パッ――。


 鑑定スキルの光が次々と魔石を照らしていく。


 そして全ての査定が終わった。


 魔石の総数は、なんと五千六百六十一個。


 店主は帳簿を確認しながら告げた。


「合計で、金貨四十一枚、銀貨二十九枚、銅貨四十枚になります。いかがなさいますか?」


「よ、四十一枚……!?」


 スコルは目を見開いた。


 確かに中には高値の付く珍しい魔石も混じっていた。


 しかし大半はありふれた魔石だ。


 それでも一つにつき銅貨十枚前後の価値がある。


 それが五千六百個以上もあったのだから、この金額になるのも当然だった。


「それでお願いします!」


 スコルは即答した。


 店主は苦笑しながら頷き、店の奥へ代金を取りに向かった。


『予想以上の金額になったな』


 フェルが満足そうに言った。


『それだけ資金があるなら、先に魔導書を買っておくのもよいだろう』


「魔導書?」


 スコルが首を傾げる。


『気づいておらぬのか? お主のレベルは既に百を超えておるぞ。ならば中級魔法ダブルキャストの魔導書と、中級剣術ダブルアーツの奥義書を読み込めるはずだ』


「えっ!?」


 スコルは慌てて魂魄こんぱくの鏡を取り出した。


 表示されたステータスを確認し、思わず声を上げる。


「本当だ! レベル百を超えてる!」


 そこには確かに――レベル101の文字が刻まれていた。


 ゴブリン村の戦いで得た経験値は、スコルが思っていた以上に大きかったらしい。


「やった……! ついに中級魔法と中級剣術が使えるんだ!」


 スコルは思わず拳を握りしめた。


 大金を手に入れただけではない。


 魔法剣士としても、一歩大きく成長していたのだった。


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