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形見の腕輪

 街道へたどり着いたところで、スコルはようやく足を止めた。背後の森は、夕闇の中で不気味なほど静まり返っている。


「危なかった……。家にお母さんの腕輪があったみたいなのに、連れ出しちゃってごめんね、エマちゃん」


 申し訳なさそうにスコルが頭を下げる。


 するとエマは、小さく首を横に振った。


「いいんです。むしろ、助かりました。あのまま家に戻っていたら、どうなっていたか分かりませんし……」


 その隣で、サラが興奮気味に声を上げた。


「でも、あの大きな魔物が空から飛んできたときは、本当にびっくりしたよ!」


 まだ恐怖が残っているのか、サラは胸元をぎゅっと押さえている。


「これから、どうしたものかねぇ……」


 ミアが不安げに呟いた。


 すると、フェルが落ち着いた声で言った。


『ワシにひとつ考えがある。当面は、スコルの家で過ごせばよい』


「よかったら、しばらく僕の家に来ませんか? 弟たちもいますけど、まだ小さいですし、きっと大丈夫です」


 エマとサラは顔を見合わせ、ほっとしたように微笑んだ。


 こうして一行は、赤く染まり始めた夕暮れの街道を、スコルの家へ向かって走り出した。



 家へたどり着く頃には、空はすっかり夜の色に染まっていた。


「スコルさんって、マルビから来てたんですね!?」


 ミアが驚いたように目を丸くした。


「ええ。でも、このスキルのことは秘密にしておいてくださいね」


 スコルは少し困ったように笑った。


「もちろんですとも。勝手に喋ったりしませんよ」


 ミアが穏やかに頷く。


 そうしてスコルは戸を開け、三人を家の中へ招き入れた。


 すると、奥からぱたぱたと足音が響き、六歳の双子が勢いよく駆け寄ってくる。


「おにーちゃん、おかえりー!」


「遅かったー!」


「ただいま。今日はお客さんがいるんだ」


 スコルはそう言って、三人へ視線を向けた。


「この人はミアさん。それから、エマちゃんとサラちゃん。しばらく一緒に暮らすことになるから、仲良くしてね」


 双子はきょとんとしたあと、元気よく頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


 すると、エマは少し緊張した様子で会釈をした。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 その隣で、十二歳のサラは興味津々に部屋を見回している。


「わぁ、ここがスコルお兄ちゃんのお家なんだ!」


「狭いけど、ゆっくりしていってね」


 スコルが少し照れくさそうに言った。


 荷物を下ろして落ち着いたところで、スコルはエマへ視線を向ける。


「明日、探しに行こうと思うんだけど……お母さんの腕輪って、どんなものなの?」


 その問いに、エマは大事な記憶を辿るように胸元へ手を当てた。


「お母さんの形見なんです。縮界シュリンクスフィアの腕輪で……。大切な物だから、普段は棚の下に隠してあるんです」


 そこまで言うと、エマは悔しそうに俯いた。


「ちゃんと身につけておけばよかったです…」


「そっか……」


 スコルは静かに頷いた。


 どうやら、スコルが以前サラへ贈った本や、ミアへ渡した金貨も、その縮界シュリンクスフィアの腕輪の中に保管されているらしい。


「じゃあ、絶対に取り戻さないとね」


 スコルがそう言うと、エマは不安そうな顔をしながらも、小さく頷いた。



 翌朝――。


 ミアとサラはスコルの家に残り、スコルとエマの二人だけで一度アシネ村へ戻ることになった。


 出発の準備を終えたスコルは、家の前に背負子を置いた。


「エマちゃん、この背負子に座ってもらえるかな」


 そう声をかけたものの、エマはなぜかその場に立ったまま動かない。


「エマちゃん?」


 不思議に思って呼びかけると、エマははっと我に返ったように肩を震わせた。


「あっ、ご、ごめんなさい。背負子に座るんですね」


 どこか残念そうな、恥ずかしそうな表情を浮かべながら、エマは背負子に腰を下ろした。


 どうやら昨日のことがよほど印象に残っていたらしい。


 スコルに抱きかかえられて移動するものだと、勝手に思い込んでいたようだった。


「それじゃあ、行こうか」


「はい」


 スコルが歩き出した次の瞬間、その身体は風を置き去りにする勢いで街道を駆け抜けた。


 そうして二人は街道を進み――やがて、二人はアシネ村へたどり着いた。



 だが――そこにあったのは、かつての村の姿ではなかった。


 建物は無残に焼き払われ、黒く焦げた柱だけが、墓標のように突き立っている。焼け焦げた木材の匂いが辺り一帯に充満し、風が吹くたび、灰が静かに舞い上がった。


「そんな……」


 エマの唇から、か細い声が漏れる。


 昨日まで人が暮らしていたとは思えないほど静まり返っていた。聞こえるのは、どこかで崩れ落ちる木片の音だけ。


 エマは呆然と村を見つめていた。


「ごめん……僕がしくじったせいで……」


 焼け跡を見つめながら、スコルは苦しそうに呟いた。


 するとエマは、静かに首を横へ振る。


「別に、スコルさんのせいじゃありませんよ。……いつか、こうなるかもしれないって、思っていましたから」


 そう言うエマの瞳には、信じたくない現実を前にした深い悲しみと絶望が滲んでいた。


 しばしの沈黙のあと、エマは小さく息を吐き、無理やり気持ちを切り替えるように顔を上げた。


「……こうなってしまった以上、仕方ありません。まずは腕輪を探しましょう」


「棚の下に隠したんだっけ?」


 スコルはそう言いながら、焼け落ちた家の中を慎重に探し始めた。


 崩れた木材をどけ、灰を払いながら進んでいくと、やがて焼け残った棚の底板らしきものが目に入る。


「それです! その下に隠したんです!」


 エマが身を乗り出すようにして叫んだ。


 スコルは急いで炭化した板を持ち上げる。


 ――だが。


 その下には、何もなかった。


「うそ……」


 エマの顔から血の気が引いていく。


 すると、フェルが低い声で言った。


『ゴブリンどもは、こういう物を見つけ出す嗅覚だけは妙に鋭い。おそらく、持ち去ったのだろうな』


 その言葉に、焼け跡の静けさが、いっそう重く感じられた。


『案ずるな。ゴブリンどもには、光り物を集める習性がある。どうせ腕輪の使い方など分からぬ。取り返せば済む話だ』


 フェルは落ち着いた声でそう言った。


(……取り返せるの?)


 スコルは不安を滲ませながら、念話で問い返す。


『今までは、この村を守る必要があったゆえ、使える手段にも限りがあった。だが、もう守るべきものは失われた』


 フェルの声が低くなる。


『これからは攻めるだけだ。そうなれば、打てる手はいくらでもある。――必ず取り返す、とエマに言ってやれ』


 その言葉を聞き、スコルはゆっくりと顔を上げた。


「エマちゃん、腕輪のことは大丈夫だよ」


 スコルは安心させるように微笑む。


「奴らは、ただ光るものを集めてるだけなんだ。きっと、ゴブリン村に置いてある。だから……必ず僕が取り返すよ」


「……ほんとうですか?」


 エマは不安げに揺れる瞳でスコルを見つめた。


「うん。約束する」


 スコルが力強く頷くと、エマの表情もわずかに和らいだ。


「……ありがとうございます」


 その声には、かすかな希望が滲んでいた。


「じゃあ、他に何か残ってないか、村を見て回ろうか」


 スコルはそう言って、焼け跡の奥へ視線を向けた。



 その後、二人で村の中を見て回ったが、残っていたのは、焼け残った家の残骸と、荒れ果てた畑ばかりだった。


 見回りを終え、引き返そうとした――その時だった。


「あれ、何ですか?」


 エマがふと足を止め、茂みの中へ入っていく。


 しばらくして戻ってきたエマの手には、こぶし大の紅い魔石が握られていた。


「これって……あの白いキツネの魔石ですよね? 高価な物なんじゃないですか?」


「そういえば、カゼカマイタチの魔石、回収してなかったな」


 スコルは思い出したように呟く。


 すると、フェルが鼻を鳴らした。


『カゼカマイタチは、白い毛皮に価値があるのであって、魔石そのものは大した値にはならぬぞ』


「そうなんだ。……よかったら、それエマちゃんにあげるよ。そこまで価値がある物ではないけど」


 スコルがそう言うと、エマは少し驚いたように目を瞬かせた。


「ありがとうございます。……そうだ、スコルさんのお家にも、パン焼き用の石窯ありましたよね?」


「うん、あるけど……母さんが亡くなってから、ずっと使ってないな」


 スコルは懐かしむように言った。


「だったら、この魔石を売ってパン粉を買いませんか? せっかく石窯があるんですし」


「でも、パン粉代くらい僕が出すよ?」


 するとエマは、やんわりと首を横に振った。


「この前、たくさんパン粉をもらいましたから。だから、これはみんなのために使いたいんです」


 その言葉に、スコルは少し照れくさそうに笑った。


 そうして二人は、近くの町ストライザードへ向かうことにした。


 道中、スコルが確認するように尋ねる。


「町は分かるよね?」


「はい。何度も来たことがありますから」


 エマは小さく頷いた。


 町の入口が見えてきたところで、スコルは近くの森へ目を向けた。


「じゃあ、僕はそこの森で薪を拾ってくるよ。買い物が終わったら、町の入口で待ち合わせしよう」


「わかりました」


 エマはそう言うと、魔石を大事そうに抱えながら町の中へ消えていった。



 その姿を見送ったあと、スコルは一人、近くの森へ足を踏み入れる。


「エマちゃんに、“必ず取り返す”って言っちゃったけど……本当に大丈夫だよね?」


 不安そうに尋ねると、フェルは落ち着き払った声で答えた。


『案ずるな。――策はある』


「策って、どんなの?」


 スコルは地面に落ちている薪になりそうな枝を拾い集めながら尋ねた。


 するとフェルは、少し間を置いてから口を開いた。


『その前に、一つ話しておきたいことがある。形見の腕輪を取り戻したら……皆でハヌンへ移り住まぬか?』


「えっ!? もう住むの!?」


 スコルは思わず声を上げた。


「それに、家を買うお金なんてないよ? それと、エマちゃんたちまで連れていく気?」


『家など、最初は借りればよい』


 フェルは落ち着き払って言う。


『あれほど村が荒廃してしまっては、たとえゴブリンの脅威が消えたとしても、アシネ村に人が戻ることはあるまい』


 スコルは黙って耳を傾けた。


『かといって、マルビにいつまでも留まるわけにもいかぬ。――何より、お主はいずれ父君を探しに行くのであろう?』


「それは……」


『その時、弟たちの面倒は誰が見る?』


 フェルの言葉に、スコルの手が止まる。


『ここ数日、共に過ごしてきたことで、あの三人とも十分に打ち解けたはずだ。ミア殿たちが家にいてくれれば、お主としても安心できるのではないか?』


 スコルは少し考え込み、小さく頷いた。


「……うん。それは、そうかもしれない」


 だが、すぐに不安げな顔になる。


「でも、来てくれるかな……? ハヌンって遠いし、大都市なんでしょ?」


『だからこそだ』


 フェルは即座に答えた。


『ハヌンほどの大都市なら、仕事などいくらでもある。あの村で細々と暮らすより、はるかに未来がある』


『サラも、薬師を目指しておるのだろう? ならば、いずれ学校へ通わせることもできる』


「そっか……」


 スコルは少し嬉しそうに呟いた。


「じゃあ、エマちゃんは?」


 するとフェルは、どこか愉快そうな声で言った。


『お主が嫁にもらえばよいではないか』


「なっ――!?」


 スコルは顔を真っ赤にして立ち上がる。


「な、何言ってるんだよ!」


『くくっ、冗談だ』


 フェルは面白そうに笑った。


『エマはパン屋をやりたいと言っておっただろう。ならば、パン職人の学校へ通うのもよいのではないか?』


 その言葉に、スコルは少し想像する。


 石窯から焼きたてのパンの香りが漂い、エマが笑顔で店に立っている光景を。


「……うん。それ、いいかもしれないね」


 スコルはそう言って、小さく笑った。


「とりあえず、皆に聞いてみるよ」


『ふむ、それで策のことだが……昨日、お主はゲリラ戦がどうこうと言っておったな。その戦法で、まずは敵戦力を削れるだけ削るのだ。


 今のお主なら、上位種でもない限り、ゴブリン程度なら何体いようと問題なく仕留められる』


 とフェルが言った。


「じゃあ、その上位種はどうするの?」


 薪を抱え直しながら、スコルは不安げに尋ねた。


『実は先ほどの話にも繋がるのだがな――ハヌンへ向かい、教会で戦闘職の洗礼を受ける』


 フェルが静かに告げた。


「それって、もしかして……」


 スコルは息を呑んだ。


『うむ。魔法剣士になる』


 フェルの言葉に、スコルの胸が高鳴る。


『その気になれば、いつでもなれた。だが、魔法剣士は極めて希少な存在だ。ましてお主は、星脈を二つも備えておる。


 そのような者が洗礼を受ければ、必ずや人々の耳目を集める』


 フェルはそこで一度言葉を切り、低い声で続けた。


『職業の洗礼とは女神との契約であり、その際には真名を捧げねばならぬ。お主を知る者がおるやもしれん以上、この地で洗礼を受けるのは得策ではない。


 洗礼を受けるのであれば、多くの人々が行き交う大都市――ハヌンがよい。人の多い場所であれば、お主一人に注目が集まることも少なかろう』


「……つまり、ハヌンで魔法剣士になるんだね」


 スコルは胸の高鳴りを抑えきれず、小さく息を呑んだ。


『ふむ、そのとおりだ』


 フェルは頷いた。



 その後、スコルはエマを待たせまいと、少し早めに町の入口へ向かった。


 だが、そこにはすでにエマの姿があった。パン粉の入った大きな麻袋を抱きかかえ、待っていたのである。


「もう来てたんだ。早いね」


 とスコルが声をかけると、


「私も今来たところですよ。それより聞いてください! 魔石が銀貨一枚で売れたんです!」


 エマは嬉しそうに笑った。


「だから、こんなにたくさんパン粉が買えました」


「それはよかったね」


 とスコルも笑みを浮かべた。


 スコルは麻袋を縮界シュリンクスフィアへ収納し、エマを背負子に乗せると、そのまま家へと戻った。


 家に着くなり、スコルはエマを石窯のある部屋へ案内した。


「この窯、使えそう?」


 するとエマは石窯を一通り確認し、


「はい、大丈夫です。十分使えますよ」


 と答えた。その言葉を聞き、スコルは縮界シュリンクスフィアからパン粉の入った麻袋と薪を取り出して部屋に置いた。


 そして、


「僕はまたゴブリンの様子を調べてくるよ」


 と言い残し、再びスコルはアシネ村へ向かった。



 焼け果てたアシネ村を抜け、スコルは村の北西にそびえる山へとたどり着いた。


 そこは昨日、バグベアとの死闘が繰り広げられた場所だった。


 あの戦いで、愛用していたアーロンの剣は無残にもへし折られてしまっている。


 スコルは縮界シュリンクスフィアから新たな剣を取り出した。


 銀色の刀身を陽光にかざしながら、不思議そうに眺める。


「この魔法剣って、どうやって使うの?」


『剣には、マナをよく通すものと、ほとんど通さぬものがある。そして、その中でも特にマナ伝導率に優れたものを魔法剣と呼ぶ』


 とフェルが意味深に呟いた。


『魔法剣にはマナを巡らせるための回路が刻まれており、武器でありながら魔導器にも近い性質を持つ。

ゆえにマナを流し込めば、強度や切れ味は飛躍的に高まるのだ』


「へぇ、魔導器みたいなものなんだ」


 スコルは感心したように剣を見つめた。


 するとフェルは続ける。


『だが、しばらくは普通の剣として扱うがよい。魔法剣士となった後に、使い方を教えてやる』


「そっか」


 スコルは軽く頷くと、ふと思い出したように尋ねた。


「ところで、ハヌンへはいつ行くの?」


『早いに越したことはない。明日にでも向かうつもりだ』


 フェルはそう答えた。


「うん、分かった。それで、今からゲリラ戦をすればいいんでしょ?」


 スコルの戦略は単純だ。


 バグベアが現れるまでの間に、できるだけ多くのゴブリンを狩る。


 そしてバグベアが姿を見せたら、スキルで即座に離脱する。


 しばらく時間を置いて再び戻り、またゴブリンを狩る。


 それを繰り返し、少しずつ敵の数を削っていくつもりだった。


『うむ。その方針でよい』


 フェルは頷くように言った。


『それと、倒したゴブリンは可能な限り回収してくれ。用途はたくさんあるゆえ、売れるはずだ』


 フェルは続ける。


『もちろん魔石も忘れるな』


「分かった」


 スコルはそう答えると、遠くに立ち上る煙へ視線を向け、そのまま駆け出した。


 ゴブリンの集落へ近づくと、姿を見つけ次第、次々と討伐していく。


 倒したゴブリンの亡骸と魔石は、その都度、縮界シュリンクスフィアへ収納した。


 やがて十体ほど仕留めた頃――。


 森の奥から、あのバグベアが姿を現した。


「来た!」


 スコルは即座にスキルを発動し、その場から離脱する。


 そしてしばらく時間を置いた後、今度は別の場所から集落へ近づき、再び狩りを始めた。


 そんなことを何度か繰り返した頃、


『うむ、そろそろよいだろう』


 フェルが言った。


縮界シュリンクスフィアの収納にも限界がある。ひとつにつき、収められるのはゴブリン二十体ほどのはずだ』


「そういえば、結構入れたもんね」


『一度町へ戻り、売却してくるとしよう』


 フェルの言葉に、スコルは頷いた。


 そして一度ゴブリンの集落から離れ、回収した獲物を売るため町へ向かった。



「ゴブリンって買い取ってもらえますか?」


 スコルが町の解体屋でそう尋ねると、


「おっ、ホティじゃねぇか。もちろん買い取るぜ」


 と店主が答えた。


「じゃあ、お願いします」


 スコルはそう言うと、縮界シュリンクスフィアからゴブリンの亡骸を次々と取り出し、店の作業台へ並べていく。


 やがて亡骸は小山のように積み上がった。


「おいおい、すげぇ数だな……」


 店主は目を丸くした。


 数えてみると、全部で三十八体もあった。


「これからもまだまだ狩れそうなんですけど、買い取りって続けてもらえますか?」


 とスコルが尋ねる。


「もちろんだ。何体持ってきても構わねぇよ」


 店主は頷いた。


「昔から『ゴブリンは捨てるところがない』って言われていてな。皮も骨も内蔵も、それなりに使い道があるんだ。高値にはならねぇが、需要は結構ある」


 そう言ってから、店主は不思議そうに首を傾げた。


「ただ、今は冒険者ギルドにゴブリン討伐依頼なんて出てなかったはずだが……」


「この辺じゃないんです。森の奥にゴブリンの集落があって、そこで狩ってるんですよ」


 とスコルが答える。


「なるほどな。そういうことか」


 店主は納得したように頷いた。


「森の奥は危険だ。無茶だけはするなよ」


 そう言うと、代金として銀貨三十八枚を手渡した。


 スコルが店を出ると、フェルが口を開く。


『スコルよ。今、手持ちの金はどれほどある?』


「金貨一枚と、銀貨九十枚くらいかな。どうしたの?」


『ふむ、ならば万屋へ向かってくれ』


 とフェルは言った。


『以前、店主が話していた魔導書グリモワールの件が気になっていてな。一度話を聞いておきたい』


「グリモワール?」


『うむ。お主が魔法剣士になれば、必要になる代物だ』


 フェルの言葉に、スコルは小さく頷いた。


「分かった。じゃあ、万屋に行ってみよう」


 そう言って、スコルは万屋へ足を向けた。



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