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12.やっとの再会

 自分から会いに行く時以外、私がフィニアス様と会うのはどうしていつもいきなりなのだろう。

 領地の屋敷の場所を知っているということはお義父様の仕業だろう。

 事前に教えられていたら私はきっと、逃げていたかもしれない。

 面と向かって会う勇気がないことをよくわかっている。


「お義父様の……裏切者ッ!」

「俺がいうのも何だが、第一声がそれなのはどうなんだ」

「……?僕もう帰って良い?」


 問いかけてくるジーニアス様の顔には「めんどくさいことになりそうだから帰りたい」と書いている。

 不愛想なのに雄弁に語ってくるのはやめてほしい。

 返事を待たずに、ジーニアス様が手をあげて帰っていく。

 マイペースで自由なところは姉のリリス様によく似ている。

 

「……」

「……」


 ジーニアス様が帰ったあと、フィニアス様が屋敷内へと歩いてきて私の前に立つ。

 一体私は何を言えばいいのだろう。

 もじもじと指を合わせながらもごもごと口ごもる。

 会いたいと思っていたけれど、会えるとは思っていなかった。

 顔を見ることもできず、私とフィニアス様のつま先をじぃっと眺めていると、フィニアス様が咳払いをした。


「あー、もしかして、俺は邪魔を、してしまったのだろうか」

「邪魔とは」


 ジーニアス様はお帰りになるところだったので、そこにフィニアス様が現れたことは特に何の邪魔にもなっていない。

 急な来訪には驚いたが、お義父様の計らいなのであれば、執事あたりには話は通っているだろう。

 私もこの後の用事は特になく、庭のキャベツ畑を眺めるか草むしりをさせてもらうかだけだ。


「その、さっきのやつと……」

「ジーニアス様と?」

「テイル嬢の……」

「私の?」


 言いにくそうに話すフィニアス様の言葉はどうにも要領を得なくて、察しの良くない私は繰り返す作業をするだけだ。

 察してほしいと言いたげなフィニアス様はわかっているのだけど、察することができない。

 はっきり言ってくれないものだろうか。


「……。さっきのやつと良い仲じゃないのか?」


 良い仲、というのはなんだろうか。

 ジーニアス様と仲が良いかといわれれば、悪くはないと思うが、友達というような存在ではない。

 どちらかといえば、お義兄様とジーニアス様の方が面識があるくらいではないだろうか。

 ジーニアス様はああ見えてリリス様に懐いていて、その婚約者のお義兄様を尊敬している。

 この度の私の家庭教師を受けてくれているのは、お義兄様の頼みもあってだ。


「どちらかといえば、お義兄様と良い仲だと思いますわ」

「は?」

「?」


 フィニアス様の言いたいことがさっぱりわからない私とでは全く話がかみ合っていないのか、怪訝そうな顔のままだ。


「テイル嬢は、さっきのやつを好いているのではないか?」

「へ!?」


 遠まわしな言い方では埒が明かないと思ったのか、フィニアス様が言い直した。

 その言い方ではさすがの私もきちんと理解できて、思わず大声で間抜けな声を出してしまった。


「ち、違いますわ!私が好きなのはフィニアス様ですもの。ジーニアス様のお顔も整っているとは思いますが、フィニアス様は別格ですわ!そういえば少しお痩せになりまして?元々ほっそりとして凛々しかったお顔がこけておりますわ。あぁ、それさえもほの暗さのある麗しさに変えていらっしゃるのですわね」


 いつも通り言い切った私は、いつも通りほぅと惚けた息を吐いた。

 視界の端に映る使用人たちはそんな私の姿を初めてみるためか、ぎょっと驚いた顔をしてなぜか顔を赤くしている。

 

「フィニアス様?」


 いつもならここで冷たく流すフィニアス様なのに、何の言葉も帰ってこなくて、きょとんとしてしまった。

 改めてフィニアス様のお顔を見ると、その顔は熟れたりんごのように真っ赤に染まっている。


「え、あの……」


 思っていなかった反応だ。

 初めてフィニアス様と言葉を交わしたときでさえ「なんだこいつは」という珍獣を見る目で見られていたというのに。

 どうしよう。気まずい。


「あ、あの、立ち話も何ですので、中に、どうぞ……」

「あ、あぁ」


 屋敷に招き入れれば、使用人たちが右へ左へと走り回り始めた。

「お嬢様の!お嬢様の特別な方です!おもてなしを!」と屋敷の奥で叫ぶ声が聞こえて、さすがの私もぽっと頬を染めてしまう。

 応接室へとお通しすれば、メイドが最高級の紅茶を置いていく。

 私に出されたことのないその紅茶の香りは高く、よほどのことがない限り出されないのだろうか。


「お恥ずかしいところを、すみません」


 あまりの慌ただしさに謝れば、フィニアス様は構わないとおっしゃってくれた。

 圧倒されているだろうに。

 メイドと使用人は香り高い紅茶と、フルーツタルトを置いて応接室から出ていった。

 なんの気を回しているというのだろう、応接室には私とフィニアス様の2人だけとなる。


「フィニアス様、どうしてこちらに」

「どうして、と言われたら、どうしてなんだろうな。テイル嬢に会わなくてはいけないと。会いたいと思ったからなのだが」

「はぇ……っ」


 どうしたというのだフィニアス様は。

 フィニアス様が出てくる夢は幾度となく見てきたが、その中でもフィニアス様はこんなことを言ったりしていない。

 こんな、こんな……。

 ぶわぁっと赤くなった私の顔をみて、フィニアス様がほほ笑む。

 え?ほほえ……?


「精霊さんたち!?悪戯はそこまでにして!?」

「本物だが?」


 私の頭はもう9割パニックだ。

 1割の余力で逃げ出さずにいるのを褒めてほしい。


「フィニアス様?え?フィニアス、様が?え?」

「テイル嬢。俺は、君に会いたかった。顔をもっと見せてくれ」


 あわわ、とパニックを続ける私の隣へと、フィニアス様が座ってくるものだから、もう落ち着くことなんて不可能だった。

 隣に座り、私の頬に触れてくるその手がひどく熱い。

 端正なお顔をこんな近くで見たことが今までであっただろうか。

 いや、ない。むしろ、こうして私の顔に触れてくるなんてこと一度もなく、触れてくる手の熱さに驚いてしまった。

 こんなにも熱い手で、頬を……。


「フィニアス様?熱が、ありまして?」

「いや、……だが、そう、だな。少しばかりねむ」


 その言葉を最後にフィニアス様の頭がずるりと落ちていき、ぽすんと私の膝に落ちた。

 柔らかな深い緑を混ぜた黒髪が膝に広がる。

 心地よいほどの重さの頭からはすぅすぅという寝息が聞こえた。


「まぁ。……ごゆっくり」


 そっと扉を開けて様子を見に来たメイドが口に手を当てて下がっていく。

 私はかちんこちんに固まっていたため、それに気づくことはできなかった。


「……え?」

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