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11.テイルの養父

 青年は最近買われた男だったらしい。

 飼い主である小太りの男は、カフェで見せびらかし、魔法を見世物にねだったそうだ。

 様子を見る限り、まともに扱われていなかったようで、不安定な精神では魔法も制御できず此度の火事が起きてしまったと。

 奴隷と言えど、何をしてもいいというわけではない。

 小太りの男を殴りつけ、半ば脅すようにして青年を譲り受けた。

 騎士服を着てなくてよかったというべきか。


 テイルのことが気になるものの、屋敷へと青年を連れ帰ったあとメイドに後は任せた。

 メイドはリンベルンの生き残りの1人だ、青年が意識を取り戻しても宥めてくれるだろう。

 俺が近くにいるよりもきっとその方が良い。

 

 俺自身も煤だらけの体を清めて、カウチで横になる。

 疲労で体が重く、カウチに泥のように沈みこむ。

 照明が眩しくて手で隠せば、白髪赤目のテイルが蘇ってきた。


 戦のあと、捕らえられたリンベルンの民の中にあの少女がいないことは確認していた。

 それは捕まっていないことへの安心感と共に、所在が分からない不安感があった。

 テイルは養子だということは知っていた。

 奴隷ではなく養子として迎えられていて、真っすぐで裏表のない性格に育っていることから、大切に愛されて育ってきたのだとわかる。

 結婚する気がない、ということも理解ができるというものだ。

 目の当てた手がジワリと濡れた。


 ■□■□


 どうやらカウチで寝てしまっていた俺は、翌日の朝早くから、傍使えに起こされた。

 テオドールから、いよいよだと連絡が来たのだ。


「そうか」


 それだけ呟いて、王宮へと向かう。

 これから忙しくなるとわかっているのに、無性にテイルのところへ行きたかった。

 「さようなら」といっていたが、俺はもう一度テイルに会って、もう一度確かめたかったのだ。

 

 その願いは、数週間叶うことがなかった。

 テオドールの即位や、王を指示していたものの一掃、即位式の警備案、そしてテオドールと水面下で進めていたことへの準備など、やる事があまりにも多かったからだ。

 3日に1回眠ることができればいい方で、中々屋敷に帰れずあの青年がどうしているのか見る暇がなかった。

 報告によれば当初は警戒していたようだが、メイドがうまくしてくれているとのことで胸を撫でおろした。

 名は『ダミアン』というらしい。

 今は何もさせずに、回復に専念しろと伝えている。


 ようやっと時間を作ることができた俺は、逸る足を抑えてテイルの屋敷へとやってきていた。

 応接室に通された俺の前には、テイルの養父であるカルロと向かい合っている。

 話す内容はわかっているのか、お茶を用意させたあと、人払いをしたため応接室には俺とカルロの2人だけだ。


「本日はお越しいただいてありがとうございます。また、テイルを助けていただいたそうで、重ねてお礼申し上げます。正式にお礼できないことについては、ご理解お願いします」

「良い。俺は特別何もしていない」

「さようですか」


 試すような、探るような雰囲気を感じるのは気のせいじゃないだろう。

 不快に感じないのは、テイルを大事に思っているからこそだと俺がわかっているからだ。


「--私たちにとって、テイルは恩人の子であり可愛い我が娘です。実の子のように育ててきました」


 カルロがおもむろに話し始める。

 話を遮ることなく、俺は静かに聞き続けた。


「この国がテイルにしたことはなかったことにはできません。奪ったものは多いのですから。それでも、テイルは大好きだと言ってくれるのですよ。私と妻と息子と、そしてあなたのことを」

「……」


 まさかとは思うが、顔を合わせるたびに聞かされていたことを、家族にも話しているんじゃないだろうか。

 いや、むしろ人前であれだけ恥ずかしげもなく語るのだから、家族にはもっと赤裸々に話しているのかもしれない。

 さすがに気まずいもので、口の端が思いっきり下がるのを抑えられない。

 俺の口は今盛大にへの形をしていることだろう。

 カルロはそんな俺の顔を苦笑いで見ている。


「その様子では、テイルの秘密は隠してくれると思っていいですかな?」

「誓おう。誰にも言わない。--それに、近い未来隠さなくてもよくなるだろう」


 カルロは優し気な目元をまん丸にしている。

 これ以上深くいうことはできないが、テイルを守ってきてくれた者へは許されるだろう。

 口はしかりと重いことはわかっている。


「それは、良かった……」


 膝の上で組んだ手に、視線を落としてカルロは呟いた。

 ぽたりぽたりと落ちる雫を見るほど、無粋ではなく紅茶を口に含む。

 数分、静かに時間が流れる。


「テイルは領地へといっています。会いに行かれるなら連絡は不要です。逃げるかもしれませんからな」

「良いのか?」

「えぇ。それがきっとテイルのためにもなります」


 そういって笑うカルロの顔は、父親の顔をしていた。



 しかし、忙しさを極めている俺に数日の余裕なんてあるわけもなく、そこから睡眠時間を削り最低限の睡眠時間のみで激務を終わらせ、やっと絞り出したカルロの領地へとやってきていたわけだが。

 教えてもらっていた屋敷についてみれば、テイルが若い男と顔を寄せ合っているなんて、誰が想像したというのだろうか。

 疲労と眠気にやられた頭では、理解ができずに固まった俺とテイルの目があった。

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