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 ミヤコトビウオたちは今日もわたしたちの船を王都へと運んでくれた。

 ミヤコトビウオに運ばれて北の港に着くと、そこは以前と変わらず活気に満ち溢れていた。


 港までは騎士団の人が迎えに来てくれるということで待っていると、荷車を引く音が聞こえてきた。



「おう悪いな、待たせたか」


 荷車を引いて現れたのは、駐在さんよりもはるかに顔の怖い、あのゴーロさんだった。お、おじさん落ち着いて、顔は怖いけどちゃんといい人ですから。駐在さんも顔は怖いけどいい人でしょう、それと同じですよだからおじさん震えないで。

 ゴーロさんお久しぶりです、と声をかけるとゴーロさんは、覚えててくれたのかと凶悪な笑顔を見せてくれた。この怖い顔にほんの少しだけ慣れたと思ったのに、ブランクがつらい。



「じゃ、荷物を運び出すか、おう船長、悪いが手伝ってくれるか」

「は、ひゃい」


 おじさんの声が裏返った。



「なんだそんなびびったような声出して」

「びびってるんですよ…」


 おじさん大丈夫です、いい人ですから、ほら駐在さんもそうでしょう?と声をかけるとおじさんは少しだけ落ち着いた様子だった。ゴーロさんも、まあいいかみたいな表情をしただけでその後は気にした様子もなくどんどんと荷物を運び出していく。


 荷物はあっという間に運び出され、荷車に積まれた。そして漁船で帰っていくおじさんを見送ると、わたしたちは騎士団本部を目指して歩きはじめる。


「アカネちゃん、だったな」


 ゴーロさんに突然名前を呼ばれて心臓がドキンと音を立てて跳ねた。まだ慣れない怖い顔に名前を呼ばれるとなにか、言い知れぬ恐怖を感じてしまったのだ。ゴーロさんはいい人、いい人、と自分に言い聞かせてわたしは口を開く。


「あの、今回は、お仕事ですから、ぜひ掃除屋と呼んでください」

「そうか?」

「はい、お仕事ですから」


 自分の笑顔がひきつっていたのはわかる。けれどゴーロさんは気にした様子もなく、じゃあ掃除屋さん今回はよろしく頼むぜ、とまたあの凶悪な笑顔を見せてくれるのだった。


 わたしが掃除屋と呼んでもらいたいのは、別に怖い顔したゴーロさんに名前を呼ばれるのが怖いからじゃない。わたしがいま、掃除屋としてここにいると自覚するためだった。そうすればこれが一人前になるための一歩だと思える。わたしなりの努力なのだ。


 騎士団本部の門前に到着するとすでに若い騎士団員がわたしたちの到着を待っていた。そして高くそびえる門の下だけが開くと、わたしたちはそれをくぐって騎士団本部の敷地内へと侵入するのだった。



「じゃ、俺は荷物を部屋に運んでおくぜ、掃除屋さん」

「あっはい、ありがとうございます」


 ゴーロさんが去っていくと、先ほど門を開けてくれた若い騎士団員が、案内しますと声をかけてきた。彼について、いよいよこの眼前にそびえる、いつか文化祭に行った金持ち私立の学校みたいな建物の中へ入るのだ。わたしは心の中で気合いを入れる。

 騎士団本部の建物内部は、見たところ木造のようだった。床も、壁も、階段さえも美しい木目を見せていた。外は石壁のようなあんなにも重厚な作りに見えて、やはり金持ち私立の学校みたいだったのに、内部はうってかわって木造校舎のようだった。実は外は土壁とかなんだろうか。

 少し壁を触ってみると、覚えのある感触だった。これは、魔法製品と同じ。だとするとこの床板や壁の材質も魔法技師によってなんらかの加工がされたものなのかもしれない。もしかして、外の壁もそうなのかな。なんかいろいろと便利だなあ。


 そうして若い騎士団員の人に案内されたのは、ある部屋の前だった。

 団員の人が扉をノックすると、中から、入れと言う返事。それを受けて団員の人が扉を開けると、中へどうぞと促されたのでわたしは一歩前へ、そして扉の中へと進んでいく。


 扉の中には、一人の紳士が待っていた。



「やあ、久しぶり、アカネさん」

「アルベルトさん」


 テーブルの前で立っていた丸メガネの似合う紳士は、アルちゃんの叔父さま、アルベルトさんだった。



「この度は我々の依頼を引き受けてくれてありがとう、騎士団本部の隊長としてお礼を言わせてもらうよ」

「いえ、こちらこそこんな大きな依頼、ありがとうございます」


 そうか、アルベルトさんは隊長と呼ばれていた。偉い人なのだった。アルベルトさんは穏やかな微笑みでお礼の言葉を言ったあと、少しだけ困ったように眉尻を下げた。



「実はアルの叔父さんとしては、ひとつ謝らなければならないんだ」


 そしてそんなことを言ったアルベルトさんに、わたしは不思議そうな顔をしてしまう。


「アルにね、手紙で、友達を寂しがらせるようなことをしてって叱られてしまったんだよ」


 な、なんとアルちゃん。そんなことを。アカネさんが前向きに引き受けてくれたから許してもらえたけれど、とアルベルトさんは言う。



「申し訳なかった」

「い、いいえ、たしかに寂しくないと言ったらうそになりますけど、この仕事が楽しみでもありますから、気にしないでください」


 わたしの言葉にアルベルトさんは、そうかい?と言ってまた穏やかな微笑みを見せてくれた。

 それから、立ち話もなんだからとアルベルトさんはソファに腰掛けることををすすめてくれる。足の短いテーブルを挟んだ向こう側のソファにアルベルトさんが腰掛けるのを見てから、わたしも目の前のソファに腰掛けた。アルベルトさんと向い合せに座る形になると、アルベルトさんの方から口火を切る。



「本当は総長にも会ってもらいたかったんだけど、あいにく視察が入っていてね、明日には会えるから楽しみにしておいてほしい」


 そう言って再び隊長の顔になったアルベルトさんと向い合せになった状態で、まずは打ち合わせが始まるのだった。








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