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 降り立った王都の港は、町のものとはまったく違った。

 何が違うといえば、それはもうすべてが違うんだけど、まずは広さ、そして次に活気。人の数も船の数も町の比ではない。それは、ここが王都の港だからということの他にも理由がある。


 王都は四方を海に囲まれた、ほぼひし形になった島なのである。そのために港は船の発着地という役割のみならず、王都への玄関口という大きな役割をも担うことになる。というのは王都へ来るにあたってアルちゃんや駐在さんから教えてもらったことなのだけど。そりゃあ人も多ければ活気も桁違いだよね。

 そして王都はその中心に王城を構え、そこから東西南北に4つの港がある。教えてもらったことには、それぞれに役割が違うらしい。わたしたちの降り立った北の港は王城の真後ろにあたり、すぐそばに騎士団関係の建物が密集する地帯である。主に騎士団への物資はここへ届くらしい。そのためこの北の港は、活気がある中に怖い顔をした強そうな人や、白く光る鎧を身にまとった人などが歩いているために少し物々しい雰囲気がある。

 怖い顔には駐在さんで慣れていると思っていたわたしでも怖い顔をした人が通ったので緊張してしまう。セイくんは北の港に船をつけたのは初めてらしく、セイくんもちょっとびびっていた。わたしより長い間駐在さんの顔を見てるセイくんでもだめか。上には上がいるんだなあ。しかしアルちゃんは思っていた以上につわものだった。



「あっゴーロさん!荷車お願いできますか?」



 なんとその駐在さんよりも怖い顔の人を呼び止めてそう言ったのだ。アルちゃんにゴーロさんと呼ばれたその怖い顔の人は親しげにアルちゃんをリトルと呼んであいさつすると、アルちゃんのお願いに対して了承の返事をして走り去った。笑った顔も怖かったけれど、悪い人じゃないなとわかる笑顔だった。ゴーロさんはものの数十秒で荷車をひいて戻ってきてくれた。



「久しぶりだなリトル」

「久しぶりって、先週会ったばかりじゃないですか」

「そうだったか?っはっはっは」


 確実に何人かはやっていそうな顔のゴーロさんと、アルちゃんは親しげに言葉を交わしている。悪い人ではないんだろうな、という思いとは裏腹にわたしとセイくんはびびってしまってそんな2人に声をかけることができない。思わずセイくんの手をぎゅっと握ってしまうと、思い切り振り払われた。ご、ごめん、でもそんな力いっぱい振り払わなくても。



「じゃあ荷物を運び出すか」

「はい、お願いします」


 気が付くとアルちゃんとゴーロさんはそんな会話をしていた。なんとこのゴーロさんは荷車を持ってきてくれただけではなく荷物を運び出すことまで手伝ってくれるらしい。この世界には怖い顔した人は優しいという法則でもあるのだろうか。

 ゴーロさんはようやくわたしたちに気が付いたようだった。


「ん?今日は一人じゃないのか?」

「あ、そうでした紹介します、セイくんアカネちゃん、こちら騎士団員のゴーロさん、いつも納品の時にお世話になってる方です、ゴーロさん、こちら友達のセイくんとアカネちゃんです、セイくんは船で送ってくれて、アカネちゃんは納品のお手伝いをしてくれるんです、それと私と一緒に王都観光に」


 アルちゃんの紹介を受けて、ゴーロさんは、へえと笑った。


「リトルの友達に会うのは初めてだな、リトルをよろしく頼むぜ」

「は、ひゃい」



 逆らったら殺される、と錯覚してしまうような笑顔に思わず声が裏返る。


「何だそんなびびった声出して」

「びびってるんですよ、ゴーロさんすごく顔が怖いんですから」

「お前んとこの師匠よかマシだろ」

「師匠はたしかに殺し屋のような目をしてますけど顔に傷はありません」


 ゴーロさんは納得いかない、みたいな顔をしながらもそれ以上は反論しなかった。ごめんなさい、慣れないだけで悪い人じゃないのはわかってるんです。納得いかない、みたいな顔をしながらも荷物の運び出しを手伝ってくれるあたり悪い人じゃないのはわかっているんですゴーロさん、ただ慣れないだけで。

 

 さて、共同作業というのは人の心と心を通わせる力を持っているとわたしは思うのです。つまり荷物の運び出しはわたしたちとゴーロさんの心の距離をほんの少しだけ近づける力を発揮した。その結果荷物をすべて荷車に積み終えたころ、わたしはほんの少しだけゴーロさんの怖い顔に慣れることができた。

 そしてゴーロさんは荷車を騎士団の本部へひいていくところまで手伝ってくれると言った。ほんとにいい人だ。まだまだその怖い顔に慣れなくてごめんなさい。わたしたちは一度町に帰るセイくんを見送ってから魔法製品を納品しに騎士団本部へ向かった。


 ゴーロさんが後ろから荷車を押してくれたので荷車は軽く、騎士団本部の門前まではあっという間だった。

 たどり着いた騎士団本部の門は高くそびえたっていた。周囲が門と同じ高さの塀で囲まれているさまは、とても威圧感を感じるものだった。

 アルちゃんは門の端の方へ行くと、そこにあった小さな扉のドアノックを4回鳴らした。するとその小さな扉が開き、中から若い男性が体をかがめて出てくる。


「アルミニ・アイザックです、セラ・ワイキーからの魔法製品を納品しに参りました」


 若い男性はアルちゃんの言葉を聞くとこちらの荷車を見て、それからもう一度アルちゃんへ向き直る。



「ご苦労様です、門を開けますね」

「お願いします」


 それから若い男性がまた体をかがめて小さな扉の向こうへ戻って少しすると目の前の門が動き出した。そしてほどなく開いた門は、ちょうどこの荷車が通るほどの幅と、大柄な人が立って通れるぐらいの高さの口だけを開いていた。





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