英国風メイドカフェ開店!
窓からそっと外を覗き込むと、校門の入場ゲート付近には続々とお客さんが集まってきていた。例年通り、中学受験生の親子連れが多い。
思えば俺も小五の時、両親に連れられてこの学校の文化祭を見に来たのだったな……と、しみじみ思い出が蘇る。あの頃は少し緊張していて、制服を着た中高生たちがすごく大人でかっこよく見えたけれど、いざ自分がその立場になってみると全然そんなこともなかった。
ただ、当時この学校に惹かれた一番の理由は、自由で楽しそうな空気感だった。その直感だけは間違っていなかったと思う。他校の文化祭は、日頃の研究発表をメインにして親御さんにアピールする真面目なスタイルが多いらしいから、こうして生徒の好き勝手な企画を尊重してくれるのは、それだけ学校が自分たちを信頼してくれている証拠なのかもしれない。
そんなことをつらつらと考えているうちに、入場ゲートが開く合図が聞こえた。いよいよ一般客の入場だ。
飲食店だから本格的に混むのは昼前から午後にかけてだろうと予測していたが、開店直後から早くも入口の廊下には、他クラスの生徒たちが物珍しそうに覗き込んでいた。
「うわ、C組ヤバくね!?」
「めちゃくちゃ本格的に作り込んでんじゃん!」
「えーっ、可愛い〜!」
「待って、燕尾服カッコよくない!?」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
宮崎さんが、すっと洗練されたお辞儀とともに、メイド役に徹した完璧な挨拶で迎え入れる。流石は演劇部、照れや緊張を一切感じさせない堂々とした接客だ。
こういう展示は興味本位で覗くだけで気後れして立ち去ってしまう客も多いが、知り合いが接客しているのに気づいて「入ってみようぜ」と席につく生徒も多く、あっという間に店内のテーブルはほとんど埋まってしまった。
接客の主役は女子と男メイドたちなので、俺はキッチンスペースに籠もり、次々と入る注文の用意に追われる。
スコーンはレーズンとチョコチップの二種類。保冷バッグに冷やしておいた特製スコーンを、注文が入るたびにオーブントースターでじっくりと焼き直し、焼きたての香ばしさを再現してお出しする。
紅茶はイングリッシュ・ブレックファストとアールグレイの二種類だ。大型の電気ポットでお湯を沸かし、大きめのティーポットで丁寧に淹れた紅茶を、保温機能のある卓上ポットにストックしておく。
それに加えて、事前に作っておいた大きな丸いショートブレッドと、マーマレードを練り込んだパウンドケーキ。
これが、俺たちの自慢のメニューだ。
手を止める暇もなく注文が重なっていくのに、不思議と焦りはなかった。むしろ、この忙しさが心地よい。
「鈴木、まじかよ!!」
フロアからどっと爆笑が巻き起こった。
男メイドの鈴木が、他クラスのダチのテーブルを接客しているらしい。
「うおっ、写真撮ろうぜ!スマホ出せ!」
「ご主人様〜、あいにく撮影はご遠慮させていただいております〜」
鈴木の低く太い声から繰り出される「萌え萌えキュン!」に、男子グループがゲラゲラと腹を抱えて笑っている。そのすぐ隣のテーブルでは、対照的に可愛い女子メイドがお客さんの横にしゃがみ込み、ショートブレッドにチョコペンで可愛らしいネコの絵を描いてあげていて、俺の心をほっこりとなごませてくれた。
俺はフッと口元を緩め、キッチンの作業に戻る。
するとその時、担任の先生の声と、聞き覚えのある女性のハキハキとした大きな声が廊下から近づいてくるのが聞こえた。
「――はい、鈴木の母でございます!うちの愚息がいつも大変お世話になっております……」
(……鈴木のお母さんだ!!)
俺は思わず手を止めた。
あいつ確か、「親には文化祭で何やるか秘密にしてる」って言っていなかったか……!?
「いえいえ、鈴木君はクラスのムードメーカーでしてね、今回のカフェでも大活躍で……」
担任が朗らかに返答している。
「おーい、鈴木……っ!」
ヤバいぞと知らせるべく、俺がキッチンからフロアへ顔を出した時には、既にそこに鈴木の姿はなかった。
危機を察知して間一髪で逃げ出したらしい。だが……あのパフスリーブとフリルスカートの格好のまま、一体どこへ逃げようというのだろうか。
『愚息』というお母さんの言葉が、妙に強い納得感を伴って、俺の頭の中で何度もリフレインしていた。




