幕間 ベランダの星空
夜のマンションのベランダ。ミーキンは湯気が立ち上るマグカップを片手に、満天の星を眺めながら夜風に当たっていた。
サッシが開く音がして、後から出てきたリッジウェイが手すりに寄りかかり、眼下に広がる街の夜景に目を向ける。
「……涼しくなったな」
「もう十月だからね」
「そっか、もう十月か」
リッジウェイがふと思い出したように続ける。
「ハロウィンの飾り付け、どうする?」
「うーん……店の雰囲気を壊さない、うるさくならない程度なら少しやってみてもいいと思うけど」
「だよな。イギリスではそこまでじゃないしな」
「石野君にアイデア出してもらおうか?」
「そうだね。彼ならきっと張り切って考えてくれそうだけど……文化祭が終わるまでは待ってあげようか。あ、そういえば、俺たちの分って文化祭の招待券をくれたんだ。石野君の手作りのやつ」
「へぇ、見せて」
ポケットから取り出したカードを差し出すと、ミーキンはそれを受け取り、リビングから漏れる明かりにかざした。
「おー、すごくちゃんとしてる。このメイドさんのイラストも可愛いし、字も丁寧できれいだな。『ドリンク&焼き菓子付き』か」
「『お金を払うよ』って言ったんだけどさ、『今までたくさんお世話になったので、これくらいさせてください』って強く念を押されちゃってね」
「あはは、石野君らしいな」
「うん」
リッジウェイは招待券に目を落としたまま、少し声を落とした。
「……あ、でも今日、学校のお友達と店のキッチンでスコーンを作っていただろう?あの時、言いたいことはハッキリ言っていたし、言葉遣いもすごくラフな感じでさ。ああ、彼も普通の男の子なんだなと思って、なんだか安心したんだよ」
「そっか。俺たちの前だとすぐ遠慮するし、いい子すぎちゃうからな」
「でも、わざと表面上の顔を使い分けているって感じじゃなくて、相手との距離感で自然とそうなっちゃってる、みたいな」
「うん、そんな気がする。素直で根が優しい子だからね」
二人は微笑み合い、再び静かな夜空を見上げた。月のない夜は、その分だけ星が濃い。秋の夜風が心地よく頬を撫でていく。
その時、星々の間をひときわ強い光の筋がすーっと横切った。
「流れ星!」
「文化祭成功しますように!」
一瞬で消えた光の余韻を追いかけながら、リッジウェイが楽しそうに笑う。
「……間に合ったかな?」
「ばっちり届いたと思うよ」
ふたりは手の中の小さな招待券を見つめながら、静かに頷いた。




