食器どうする?
文化祭で英国風メイドカフェをすることになり、衣装もメニューも、サービスの内容もほぼ決まりつつあった。だが、俺の一番の悩みはまだ解決されずにいた。
――食器だ。
「紙コップや紙皿でいいんじゃね?」
鈴木が軽く言う。
「そうだよね、後で洗うのも大変だし」
宮崎さんも便乗するように、使い捨てのプラスチック容器を提案してくれた。
俺の顔色をちらりと窺いながら、山田が自信満々に言い放つ。
「陶器の皿でも、上にサランラップを貼っておけば、使い終わった後剥がすだけで洗う手間が省けるぞ!防災訓練でやってた!」
俺は頭を抱えた。
どんなにおいしいお菓子や紅茶を用意しても、紙皿や紙コップじゃ味気ない。プラスチックだって同じだ。ましてやお皿にラップを敷くなんて、雰囲気が台無しで問題外だ。
「……やっぱり俺、どうしても『本物』の器を使いたいんだよなぁ」
ポツリと呟くと、山田が「うーん」と唸って腕を組んだ。
「まぁ、湊の気持ちもわかるけどな。洗い場が教室にないのが一番の問題なんだよ……あ、そうだ」
何かを思いついたように、山田がポンと手を打つ。
「科学部の実験タイムの合間だけだったら、科学室の流しを使ってもいいぞ。スケジュール渡すから、食器を溜めておいて、その時間になったらみんなで一気に洗って拭けばよくないか?」
「まじで!?」
「おう。俺から部員に言っとくよ」
「ほんとにいいのか!まじで助かる!」
正直、この中では一番頼りにしていなかった分、山田の思わぬファインプレーには心底感動した。やっぱり『持つべきものは友』だ。
洗い場の問題がクリアされたら、あとは肝心の「食器集め」だ。
「俺の家にあるお客様用のやつを持ってくれば、全部で十二人分くらいかな……」
「私の家にもあるよ。ウェッジウッドとか、ロイヤルアルバートとか」
宮崎さんが指を折りながら言う。
「俺んちはそんな高級そうなのなさそうだけど、普通の洋食器でいいなら持ってくる」
鈴木が付け加えると、
「うちは確か、祖母の家にたくさんあった気がするな。今度遊びに行ったとき見てみるよ」
山田も乗ってきた。
「これ、クラスの連中にも呼びかけてみようぜ」
鈴木の提案で、帰りの会でクラス全員に協力を仰ぐことになった。
「えー、文化祭のカフェで使うティーカップ、コーヒーカップ、お皿、ケーキフォークやスプーンを貸してくれる人は、家から持ってきてほしいです」
黒板の前に立ち、俺はクラスのみんなに向かって呼びかけた。
「メーカーは問いません。万が一割れてしまっても弁償ができないので、高級すぎるものは避けてもらえると助かります。あと……できれば『陶器』よりも丈夫な『磁器』を持ってきてもらえると嬉しいです」
最後の一文を聞いて、クラスのみんなの頭上に「?」が浮かんだのが見えた。
「陶器と磁器って、何が違うの?」
誰かが尋ねる。
「あ、見分け方は――陶器は厚みがあって光を通さないやつ。磁器は透き通るくらい白くて光を通して、指で軽く弾くと『キン』って高い鈴みたいな音が鳴る方です」
「へぇ〜」「ふーん」
みんな納得したような顔でメモを取ってくれた。それだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
*
翌朝。教室に入るなり、さっそくクラスメイトがスマホを片手に声をかけてきた。
「石野、うちにこれがあったんだけど、使ってもいいのかな?」
見せられた写真に、俺は思わず声を上げた。
「これ、ミントンのハドンホールじゃん!イギリスで昔、王室御用達だった有名なブランドの器だよ!」
「へー、そうなんだ。全然知らなかった。よく見たら家のタオルとキッチンマットも同じ柄だったんだよね。だいぶ前にセールの安売りで買ったやつらしいから、使っていいってさ」
「いいの!?ありがとう、めちゃくちゃ助かる!」
「うちのこれはどう?」
また別のクラスメイトが、スマホの画面を差し出してきた。
「これは日本の『ノリタケ』だね。丈夫で使いやすくて、すごく品質が良いものだよ。ノリタケは百年以上前からイギリスにも輸出されてて、向こうでも大人気だったんだ」
「へぇーっ!すごい、お前めちゃくちゃ詳しいんだな!」
ひとり、またひとりと、声をかけてくれる。食器が集まってくるにつれて、俺の胸はワクワクとした高揚感でいっぱいになっていった。
普段はあまり話さないクラスメイトとも、食器の話題をきっかけに言葉を交わせたり、その人の家の雰囲気が少し垣間見えたりする。新しい発見の連続だった。
もうすぐ文化祭。
大好きな紅茶とお菓子、そしてみんなが集めてくれた素敵な食器たち。
どうか文化祭が、大成功しますように――。




