メイド服お披露目
翌朝、キャリーケースを引きずって教室に入ると、女子たちの人だかりができていた。
その中心にいたのは、メイド服に身を包んだ宮崎さんだった。「可愛い!」「すごーい!」と、周りを囲む女子たちの目が輝いている。
「おはよう。宮崎さん、すげえじゃん。もう出来たの?」
「石野くん、おはよう。これ、試作品なんだ……どうかな」
髪は頭の後ろでお団子にまとめられ、繊細なレースのヘッドドレスで留められている。漆黒のワンピースの襟元と袖口には幅広のレース。肩ひもと裾にはたっぷりのフリルがあしらわれた真っ白なエプロン。膝下まである少し長めのスカート丈が、本場の英国メイドを思わせる清楚な品を醸し出していた。
宮崎さんは、どこか恥ずかしそうにこちらを見つめている。
「すごくいいと思う。よく似合ってるよ」
「そ、そうかな……」
視線を外し、小さく微笑む宮崎さん。
そこへ、欠伸を噛み殺しながら鈴木と山田が入ってきた。
宮崎さんの姿に気づいた瞬間、鈴木の顔がみるみる赤く染まっていく。人間の顔がここまで色づくのかと思うほどの極彩色になり、聞こえるか聞こえないかの声で「……可愛すぎる……」と絞り出す。今にも鼻血を出しかねない勢いだった。
一方の山田は、感心したようにポツリと言う。
「メイド服はミニスカ一択だと思ってたけど……膝下の方が、清楚で品があっていいな」
鈴木が、いきなり俺の肩を揺さぶってきた。
「お前、これ見て何とも思わねえのかよ!」
「え? いいんじゃね。宮崎さんに呼び込みしてもらったら、絶対お客さんの受けもいいだろ」
「はぁ!? 俺は他の男に見せたくねえって思っちまったぞ。っていうかお前、反応薄すぎだろ。あの山田でさえ、さっきからじっと見てんじゃねーか!」
確かに。二次元にしか興味がないはずの山田を釘付けにするとは、宮崎さんの衣装制作能力とコスプレの完成度は伊達じゃない。
「お前、それでも男かよ!?」
「……」
言われてみれば、宮崎さんは顔立ちも整っているし、スタイルもいい。メイド服も驚くほど似合っている。けれど俺にとっては、それ以上でもそれ以下でもなかった。画面の向こうの、興味のないアイドルを眺めているような、どこか他人事めいた冷めた感覚。
――あの人と話しているときの、あの落ち着かなさとは、まるで違う。
「あー……たぶん俺、宮崎さんみたいなタイプは好みじゃないんだと思う」
その場を収めるつもりで適当に答えると、鈴木は愕然とした顔になった。
「お前……じゃあどんな女が好みなんだよ! 熟女か!? ロリコンか!?」
「あーもう、うるせえな。どっちでもねえよ」
「じゃあ何なんだよ!」
これ以上付き合いきれず、俺は完全に無視を決め込んだ。
*
昼休み。実行メンバーは、再び机を突き合わせてお弁当を食べながら打ち合わせをしていた。
「裏方専門が十五人、当日フロアに出られるのが二十五人。シフト制で、店には常に六人くらいいてもらえばいいかな」
「六人いれば十分だと思う。教室をゆったり使っても三十席くらいだろ」
「だよね。シフトに入ってない子には、チラシ配りで校内を回ってもらおうか」
女子生徒がメイドとして給仕をし、男子は厨房で紅茶を淹れたりスコーンを皿に載せて渡す役目。手が足りなくなったときだけ、男子もフロアに顔を出す――そんな体制に落ち着いた。
「メイドカフェにつきものの接客サービスって、どのくらいやるんだ?」
当日メイド服を着ることになった鈴木が尋ねる。
「ノリノリでやれる子と恥ずかしがる子がいるから迷うんだよね……メニューに『スマイル』とか『おいしくなるおまじない』って書いておいて、注文を受けたら対応できる子が担当する、とかどうかな」
「……俺もやんのか。ダチ相手ならギャグで済むけど、初対面の客に『萌え萌えキュン』は流石にキツいだろ……!」
頭を抱える鈴木に、俺と山田は思わず吹き出した。
「燕尾服の採寸をしたいんだけど、石野くん、今からいい?」
「あ、うん」
巻き尺を手にした宮崎さんが立ち上がり、俺の肩幅や腕の長さを測り始める。手が触れるたび、横から鈴木の嫉妬まじりのジト目が飛んでくるのが分かった。
「石野くんって、手足が長くて細身だから、燕尾服が綺麗に映えそうだね」
「え、そう?」
測り終えると、宮崎さんはスマホのメモ帳に手際よく数字を打ち込んでいく。
「山田くんは当日、何時間くらい店にいられそう?」
「俺は……化学部の体験コーナーにいる時間の方が長くなりそう」
「そっか。両日フルでいられる人には専用の衣装を作るけど、短時間しかいられない男子はサイズが合うものをシェアしてもらおうと思って」
「分かった。じゃあ体型が似てるやつのを借りるよ」
「うん。多めに用意しておくね」
「えーと、俺は?」と、鈴木がソワソワしながら尋ねると、宮崎さんは「L サイズのワンピース、ゆったりしてるから測らなくて大丈夫だよ」と巻き尺を裁縫箱にしまった。俺と山田は笑いを嚙み殺していた。
テキパキと課題をこなし、次々と物事を決めていく宮崎さん。彼女の手腕のおかげで、俺たちの「英国風メイドカフェ」は、少しずつ形を成し始めていた。




