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ぬい服の店

挿絵(By みてみん)

「ミニチュアのティーセットなら、こんなのもあるよ」


 そう言って、リッジウェイさんが奥からいくつか別の箱を出して見せてくれた。

 ウェッジウッドの繊細な浮き彫りが施された青いジャスパーウェア、ロイヤルドルトンのかわいらしい絵本柄、そしてコールポートのクラシカルなウィローパターン。どれも王室御用達の名窯が手がけた、なんとも贅沢で本格的なおもちゃだ。

 ティーカップはどれも3センチほどの大きさで、シルバニアファミリーやリカちゃんのミニチュア食器と比べるとかなり大きい。けれど、この手のひらサイズの「ぬいたち」には、驚くほどぴったりなスケール感だった。


 ディスプレイを任された俺は、とりあえず参考になりそうなものはないかと、仕事帰りにぬいの洋服やグッズを扱う専門店を巡ってみることにした。スマホで検索すると、運良く徒歩圏内に数店舗ある。


 布が詰まったキャリーケースは、バックヤードにそのまま一晩置かせてもらい、紙袋にぬいを入れただけの身軽な状態で街に繰り出す。


 アニメグッズの専門店がひしめく通りの、小さな雑居ビルに入る。エレベーター待ちの列に並ぶお客さんたちは、皆バッグに透明ケース入りのぬいをぶら下げていた。俺の知らないところで、ぬい活ブームがここまでの熱量を帯びていたことに驚かされる。


 店に着くと、狭い店内にぎっしりと小さな洋服が並んでいた。女性客でひしめき合う中、大の男は当然俺ひとりだ。周囲のお客さんたちは持参したぬいを取り出し、真剣な眼差しで試着させている。


 俺も、紙袋の中から例の3体をこっそり取り出した。微妙なサイズや体型の違いで着られる服が限られるらしいし、持ってきて正解だったかもしれない。


 デフォルトのエプロン姿も捨てがたいけど、あのコールポートのミニチュアティーセットに合わせるなら、もう少しクラシカルでフォーマルな装いの方が映える気がする。


 タキシード、スーツ、それから――王侯貴族風の衣装なんかも似合いそうだ。


 実物のふたりがそんなコスプレをしたら絶対かっこいいだろうな、なんて想像しながら、まずリッジウェイさんのぬいを手に取った。


 背中にマジックテープが付いていて、簡単に服を脱がせられる仕様になっている。相手がぬいぐるみだと分かっていても、なんだか妙に恥ずかしい。以前海に行った時に見たリッジウェイさんの水着姿がふと頭をよぎり、慌てて首を振る。

 ……俺は何を考えてるんだ。変態か。


 服を脱がせてみると、なんとご丁寧に下着まで穿いていた。西田さん、仕事が細かすぎる。さすがだ。


 気を取り直して、まずタキシードを着せてみる。カチっとしたシルエットが決まっていて、気品ある知的な印象だ。


 次はスーツ。これも良い。大人の色気が漂う落ち着いた雰囲気だ。ただ、どちらかというと紅茶よりコーヒーが似合う気もする。


 そして最後は、王子様風の衣装。


 ……似合う。圧倒的に似合う。これが一番しっくりくる。


 昔のイギリスの宮殿みたいな世界観にして、リッジウェイさんとミーキンさんは高貴な王子様。となると……俺も王子様でいいんだろうか? いや、それは違う気がする。俺はおふたりにお仕えする忠実な従者、というポジションにしておこう。


 次は、家具と背景だ。


 店の一角には撮影スポットが設置されていて、ぬいぐるみ用の小さな部屋がいくつか用意されていた。豪華なアンティーク調の部屋を選び、王子様の衣装を纏ったリッジウェイさんのぬいを中央の玉座に座らせてみる。スマホのカメラを構えてシャッターを切ると、画面の中に完璧な「一枚の肖像画」が出来上がった。


 ――よし、決まった。


 AI画像生成でこんな雰囲気の重厚な背景を作って、プリントアウトしたものをディスプレイの壁紙にしよう。その手前に、ミニチュアの家具とあのティーセットを配置すれば……!


 衣装代と家具代を合わせると、財布から飛んでいく金額は思っていたより張った。けれど、夢の世界を作り出すんだ。生半可な妥協はしたくない。全部自腹にはなるけど、俺の心に迷いはなかった。

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