ミーティング
夜、ベッドの上でスマホを開くと、通知が来ていた。
宮崎さんだ。
宮崎さんが作ってくれたグループLINEには、俺と鈴木と山田が入っている。こうしたやり取りが文化祭まで続くのかと思うと憂鬱になる。
『衣装のことについて決めたいから、明日のお昼休み、お弁当を持って集まろう』
メッセージを見て、鈴木の大喜びする顔が目に浮かぶ。俺はため息をひとつ吐いて画面を閉じた。
翌日の昼休み。俺は、宮崎さん、上機嫌な鈴木、鈴木を微笑ましく見守る山田の4人で弁当を囲んでいた。早々に箸を動かしていた宮崎さんが、こう切り出した。
「女子のメイド服なんだけど、安く済ませたいなら、自分たちで作った方がいいと思うんだよね」
「えっ、作るの? 大変じゃね?」
驚いて思わず聞くと、宮崎さんは淡々と返してきた。
「私、中等部の時は演劇部で衣装係だったんだ。今は手芸部だから部活の時間も使えるし、家にミシンがある子には縫い方を教えてあげられるよ。日暮里の生地屋なら1メートル100円くらいで買えたりするから、一人1000円もかからないと思う」
「さすが宮崎、マジで頼りになるわ〜」
鈴木がここぞとばかりに持ち上げ、山田も「なるほど」と頷く。
「みんなで生地を買いに行こうよ。今度の土曜日が良いと思うけど」
「俺、昼からバイトだけど」
「開店と同時に行けば、もう買うもの決まってるし、間に合うと思うよ」
「わかった」
鈴木と山田も同時に頷いた。
「じゃあ、女子の方はそれで良いとして……男子は制服のシャツに黒ベストだっけ?」
「昨日ちょっと調べてみたんだけど、燕尾服がかっこいいかなって思って」
「燕尾服……?」
「黒いジャケットの裾が長くて、ツバメの尻尾みたいに後ろが二つに割れてるやつ。宝塚の男役の人とか、漫画の執事が着てる服だよ」
「あ、なんかわかった」
「黒い上着は同じでも、白いタイはご主人様やお客様で、黒いタイは使用人を表してたらしいよ」
鈴木が目を輝かせる。
「へえ、じゃあ俺たちは使用人だから黒タイってことか。ビシッと決めたらカッコいいじゃん!」
「……いや、お前はメイド服だろ?」
俺が苦笑交じりに突っ込むと、鈴木はハッと固まった。
「……そういや、そうだった」
鈴木は、ガックリと肩を落として顔を覆った。隣で山田が、おにぎりを一口齧りながら肩を震わせていた。
――衣装の件は宮崎さんに任せるとして、俺はメニューと内装を考えなければならない。
日持ちするお菓子で、俺たちでも大量に作れるとなると……やっぱりスコーンか。あと、一緒に出す大量の紅茶も必要だ。
その日のバイト上がり、俺はリッジウェイさんに相談することにした。
「文化祭で出すメニューのことなんですが、学校の行事なのでかなり安く提供しないといけなくて。コスパの良い紅茶って、何かご存知ですか?」
「それなら、うちの茶葉で良ければ卸価格で分けてあげられるよ」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
もう、一件解決してしまった。
「あと、お菓子はスコーンを出そうと思ってるんですが、クロテッドクリームが予算的に高くて難しいでしょうか?」
「スコーン自体に少し強めの味付けをしてみたらどうかな? チーズとかチョコチップとか。向こうでも、ピクニックの時のスコーンはクリームを使わないことが多いんだよ」
「なるほど! それいいですね!」
「閉店後なら、ここのオーブン使っていいよ。うちのは大きいから一度にたくさん焼けるし、完成したら冷凍庫で預かってあげる」
(うわ、一気に全部解決した……!)
「ありがとうございます! クラスからも何かちゃんとお礼させてもらいます」
「ふふ、そんな改まらなくてもいいよ。……あ、そうだ。当日は俺たちも遊びに行っていいかな?」
「えっ……」
今までで一番のプレッシャーが、ズシンとのしかかってきた。
メニューには希望が見えたものの、リッジウェイさんとミーキンさんが見に来るとなれば話は別だ。俺たちの素人カフェで、あの二人から合格点がもらえるとは、到底思えなかった。




