文化祭の催し物
今、信じられないことに、俺は教壇に立たされ、クラス中の視線を一身に浴びていた。
これまでクラスカーストの中位にひっそりと属し、目立つことをひたすら避けて生きてきた俺にとって、こんな事態は人生で初めてだった。
宮崎さんの意図が、デートの誘いを断られた腹いせなのか、単にティールームっぽいことがやりたいだけなのかは分からない。ただ、クラス全体の圧倒的な圧に押し切られた以上、もう引き受けるしかなかった。そして引き受けた以上、意地でも最後までやり切るしかない。
俺は覚悟を決め、黒板に向き直るとチョークを走らせた。
* 催し物の名称:1年C組カフェ(仮)
* 内容:飲食店
* 販売品:未定
* 実行メンバー:石野、宮崎、鈴木、山田(仮)
山田の名前に(仮)がついているのは、彼が化学部だからだ。今年は毎年恒例の「スライム製作体験」を廃止し、流行りの「スクイーズ製作体験」にリニューアルするとかで、かなりの来場者数が見込まれているらしい。
「まずはカフェのコンセプトを決めないと始まらないだろ。他のクラスと被らないように、いくつか案を出してほしいんだけど……」
俺がそう投げかけた瞬間、待ってましたとばかりに女子たちがポンポンとアイデアを出し始めた。
「大正モダンカフェ! 袴姿のウェイトレス、絶対かわいいって!」
「いや英国風メイドカフェでしょ! 黒のロングワンピに白のフリフリエプロン!」
「不思議の国のアリスカフェは? 水色のドレスにアリスエプロン映えるよ!」
K-POPが流れる韓国風カフェ、抹茶スイーツの和カフェ……次々と華やかな案が飛び交う。男子どもは完全に蚊帳の外だった。途中で誰かが「中華風にして肉まん売ろうぜ」と提案したが、あっさりスルーされていた。
黒板に並んだ候補で投票を行った結果——1年C組のコンセプトは『英国風メイドカフェ』に決定した。
俺の頭の中に、一抹の不安がよぎる。
「……男子の衣装、どうすんの?」
誰かがポツリと言った。
「ウェイターっぽく、カチッとした黒ベストとかでよくない?」
「えー、男子もメイド服でよくない?」
「それウケる!」
「ぜってー着ねえよ!」
「まあ俺は着ないけど、ノリで着たいやつが着ればいいと思う」
言い合いが続くなか、堂々と挙手した男がいた。
「はーい! 俺、着てもいいぞ!」
マジか、鈴木。
教室が爆発的な笑いの渦に包まれた。「画が汚ねえ!」「絵面が怖すぎるだろ!」「お前最高かよ!」——大ウケだ。後ろで見ていた担任まで苦笑いを浮かべている。
「受験生のご家族も見に来ますからね。おふざけはほどほどにしてくださいよ」
担任が釘を刺したその時、宮崎さんがボソッと、けれどよく通る声で言った。
「石野くんなら、似合いそうだけどな」
戦慄が走った。
(頼む……! もうこれ以上、俺をいじめないでくれ……!)
クラス中に「おお、確かに……」「ありかも……」という空気がじわじわと広がっていく。この勘違いしたノリだけは絶対に勘弁してほしい。
「俺は絶対着ない! 着せるなら代表降りるからな!」
俺が必死の形相で叫ぶと、みんな爆笑しながらも渋々納得してくれた。命拾いした……と、俺は心の底から胸を撫でおろした。




