ホームルーム
朝のホームルームでは、席替えのくじ引きがあった。
俺は前の席だった宮崎さんとは離れたポジションになり、内心少しほっとしていた。
というのも、夏休みに予備校の休み時間で「LINE交換しよう」と言われたついでにデートに誘われ、鈴木の指示通り「俺、好きな人いるから」と断ってしまっていたからだ。
だが宮崎さんは特に気にする素振りも見せなかった。モテる女子には他にいくらでも相手がいるのだろう。休みが明けた今も、何事もなかったかのように普通のクラスメイトとして接してくれている。それが逆に、こっちの方が変に意識してしまいそうで居心地が悪い。
ちなみに席替えの結果、鈴木と宮崎さんは山田を挟んで隣同士になった。
完全にお邪魔虫となった山田は、鈴木が宮崎さんをチラ見する際の「障害物」以外の何者でもない。しかも厄介なことに、山田はそれにちゃんと気づいている。鈴木の視線が宮崎さんに向かうたび、さりげなく身を縮めて、自分の頭を「障害物」の位置からずらそうとするのだ。俺は後ろの席から、そんなダチふたりの挙動不審な頭の動きを嫌でも視界に入れさせられる羽目になった。
そのまま、2学期の役員を決める流れになった。
学級委員が黒板の前に立ち、11月に行われる文化祭について話し始めた。クラスごとに出し物をするのだが、飲食店が定番で、お化け屋敷や脱出ゲームなんかも人気だ。
「……というわけで、クラスの催し物の実行メンバーに立候補する人はいませんか?」
当然、誰も手を挙げない。静まり返る教室。
「物理的に無理だろ、忙しいし」
どこかの運動部員がボソッと呟いた。すると学級委員はため息をつき、標的を変える。
「じゃあ……部活が忙しくない文化部か帰宅部の中で、誰か推薦したい人はいますか?」
その瞬間、「はい!」と勢いよく手が上がった。宮崎さんだった。
「石野くんがいいと思います!」
(まじかよ……!?)
思わず背筋が凍りつく。宮崎さんはクラスを振り返り、爽やかに微笑んだ。
「石野くん、ティールームでバイトしてるから。もしうちのクラスも飲食店をやるとしたら、一番適任かなって思って」
「へー、石野ってそんなとこでバイトしてんだ」
「カフェとかやったら面白そうじゃん」
パラパラと賛同の声が上がり始め、俺の顔からスーッと血の気が引いていく。断ったはずのデートの件を、まさかこんな形で回収されるとは思ってもいなかった。
前方の鈴木と山田が、こちらを向いて「哀れみの目」を向けてきた。だが、こいつらが「俺が代わりにやるよ」なんて言うつもりは毛頭ないのだ。それどころか、鈴木の目にはどこか面白がっている色さえ見える。
なんとなくクラスの雰囲気が「カフェ出店」に傾いていく。まずい、本当にまずい。
「あ、あのさ!」
俺はたまらず声を張り上げた。
「俺、バイトが忙しいから! 放課後残って準備するとか、マジで無理だから!」
言った。言えた。頼む、これで納得してくれ。
「あ、それなら大丈夫だよ!」
宮崎さんがくるりと振り向き、満面の笑みで言った。
「私も実行メンバーになるし、石野くんのバイトに支障が出ないように、みんなでシフト組んで協力すればいいじゃん」
「俺も全面的に協力する!」
ここぞとばかりに鈴木が宮崎さんに良いところを見せようとアピールを重ねる。さっきまでの「哀れみの目」はどこへ行ったのか、掌返しも甚だしい。
「いいねそれ!」「石野よろしくー!」
どこからともなく拍手が起こり、あっという間にクラスの意見がまとまってしまった。
最悪だ。
こうして俺は、2学期初日からとんでもない厄介ごとを押し付けられたのだった。




