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コラボカフェ?

挿絵(By みてみん)

 推しぬいにテーブルを占拠され、すっかり様変わりした店内。まるで聖地を土足で踏み荒らされたような、苦々しい気持ちが胸の奥に沸き起こる。


 リッジウェイさんが目を丸くして、ポツリとつぶやいた。


「すごいね。これ……一体どうしちゃったんだろう?」


「何かの『推し活』に巻き込まれたっぽいです。完全にコラボカフェ化してますね」


「コラボカフェ?」


「最近流行ってるんですよ。アニメやゲームとコラボして、メニューやインテリアで作品の世界観を表現したカフェのことで」


 説明しながら、苦い記憶が蘇る。


「俺も以前、好きなゲームのコラボに友達と行ったことがあるんです。でも、注文すると1枚もらえるランダムコースターで推しキャラが出るまで、友達はバカ高い色付き砂糖水を何杯も飲む羽目になって」


「えー……それは……気の毒だね。経営的にはそのほうが儲かるんだろうけど、お腹を壊しそう」


「はい。だから最後の1杯なんかは手もつけずに残していて、なんだかなぁって思いました」


「うわー……」


 リッジウェイさんが苦笑いする。


「コラボカフェも、せっかくやるなら世界観そのものを楽しめるような、満足度の高いメニューを提供すればいいのにね」


「そうですね。でも、そんな誠実な店なんてまずないと思います」


 俺は断言した。リッジウェイさんはどこか困ったような、それでいて何か含みのある顔で微笑んでいた。


 俺はメニューをお出しするとき、それとなくお客さんに来店の理由を聞いてみた。


 すると、最近公開された実写映画の影響らしいことがわかった。人気俳優が主演を務める漫画原作の映画で、主人公がイギリス留学中に通うティールームが、うちの店とそっくりなのだという。


 原作ファンと俳優のファンが、同時に押し寄せてしまったというわけだ。


(このお客さんたちを、一体どう迎えればいいんだろう)


 とりあえず、アンティークに慣れていない人が多そうだから、比較的丈夫なヴィンテージのカップを中心に使おう。劇中に出てくるメニューに注文が集中するはずだから、早めにリッジウェイさんに伝えて追加で作ってもらわなければ。


 今のところは、そのくらいしか思いつかない。



 作品に出ていたのは、スコーンと紅茶のセットのようだった。俺は注文の品をテーブルに並べ、いつものようにカップの紹介をした。


「こちらはコールポートの『エデン』というカップで、1950年代のヴィンテージです」


挿絵(By みてみん)


 カップの縁を彩る、太い金のスクロール。外側も内側も白一色で仕立てられた、シンプルかつ上品な一品だ。器そのものの造形美を楽しむような作品なのだが――


「可愛い〜!」


 お客さんたちは俺の説明もそこそこに、ぬいを皿の横やカップの前に並べ、夢中でスマホのシャッターを切り始めた。


 誰も、カップそのものを見ていない。


 じわじわと、胸の奥から苛立ちがこみ上げてくる。顔には出さなかったつもりだったが、空になったトレイを抱えてキッチンへ戻ると、リッジウェイさんに呼び止められた。


「石野君。笑顔、笑顔」


 ハッとした。


 ここで働く以上、どんなお客さんに対しても最高のサービスを提供しなければならない。それが『ローズアンドクラウン』の――俺たちのプライドなのだから。


 リッジウェイさんはすでに、追加のスコーンをオーブンに入れている。その手際の良さに、少しだけ肩の力が抜けた。


 初めてヴィンテージに触れるお客さんに、その魅力を少しでも伝えたい。俺は深呼吸をひとつすると、気を取り直して次のテーブルへと向かった。


*


 気づけば、もう予備校に行かなければならない時間になっていた。


 店の外には、相変わらず長い列ができている。この後の怒涛の忙しさが目に浮かぶようだ。手伝いたい。予備校なんて休みたい。このまま黙ってここにいれば――


「はい、石野くんのサンドイッチ。お疲れ様」


 リッジウェイさんがニコッと笑って、アルミホイルの包みを差し出してきた。


 俺は思わず固まってしまった。こんなに戦場のような忙しさの中で、俺の時間のことまで気にかけてくれていたなんて。


「あ、ありがとうございます……! お手伝いできなくてすみません」


「石野君がいろいろ教えてくれて助かったよ。お客さんたちに楽しんでもらえて、本当によかったね」


 リッジウェイさんが、温かい眼差しでフロアを眺める。俺もその視線を追った。


 テーブルを囲むお客さんたちは、みんな笑顔で焼き立てのスコーンを頬張っている。紅茶を飲み、ふとした拍子に「あ、このカップすごく綺麗……」と愛でながら、思い思いの幸せな時間を過ごしていた。


 作品というフィルター越しだったとしても、彼女たちにとってこれが特別な体験になったのなら。そしてそれがきっかけで、いつかフィルターなしでアンティークそのものを好きになってくれたなら――


 それは、とても素晴らしいことなんじゃないだろうか。


 アルミホイルの包みを抱え、俺は「お先に失礼します!」と元気よく声を張ってキッチンを後にした。

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