表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔はAIのフリをしている  作者: Sig
第1章 悪魔接触編
65/71

第9話 契約の穴(二)

 早乙女は、アゼルへ目を向けた。


「MIRAI-09の灯りは、ほかの悪魔にも見えている。間違いありませんか」


 アゼルが、個室の窓の方へわずかに顔を向けた。


「ええ。私以外にも見えるわ」


 灯台。

 最初の夜、アゼルは、悪魔から見えるMIRAI-09の灯りをそう呼んだ。

 ベリスがアゼルへ聞いた。


「何体が気づいていますか」


「知らないわ。次に覗く者を、君たちは選べない」


 個室の灯りは変わらない。

 窓の外では、ビルの窓と航空灯が、暗いガラスを埋めていた。


「既にいる契約者を探す前に、悪魔との接触が無作為に増えるのを抑える一次措置が必要です」


 早乙女は、伏せたスマートフォンへ目を落とした。


「そのための方法と条件は、ベリスと事前に詰めています。いま、国側の返答を待っています」


 そのスマートフォンが震えた。

 画面を確認した早乙女が、短く言った。


「失礼」


 早乙女は電話を取った。


「はい」


 早乙女は受話口へ耳を傾けた。


「条件に変更はありません」


 相手が話し終えるまで待った。


「承知しました。すぐに」


 通話を切ると、早乙女はスマートフォンを伏せて置いた。


「国側の承認が下りました。

 悪魔側から見える灯りだけを隠します。

 現実側の設備、通信、記録には触れない。

 既に成立している契約には影響しない。

 新しく近づく悪魔にだけ、灯りが見えなくなる。

 その条件で、直ちに実施します」


「灯りだけを隠せるんですか」


 ベリスが答えた。


「今なら」


「今なら?」


「灯りを一つずつ数えられるうちは、隠せます」


「灯りが増えたら」


「今は、灯りと灯りの間に暗さがあります。灯台が海岸線になれば、海岸線そのものは秘密にできません」


 アゼルが言った。


「既に人間側に足場を持つ者は、灯台が見えなくても迷わない。

 方向を失うのは、新しく近づく者だけよ」


 早乙女は、ベリスへ向き直った。


「ベリス。いま伝えた条件でお願いします。

 新しく近づく者から、灯台だけを隠してください」


「承りました」


 卓上の灯りも、窓の外の東京も変わらない。


 ベリスの片手は、ポケットに入ったままだった。


「隠しました」


「ベリス、ありがとうございます」


 早乙女は僕へ向き直った。


「三嶋さん、今日はここまでにしましょう。研究所へお送りします」


 早乙女がベリスとの接続を切った。僕もアゼルとの接続を切った。

 二体の姿が消えると、卓上にはグラスと水面の灯りだけが残った。


 早乙女はスマートフォンを上着の内側へしまい、席を立った。

 僕もスマートフォンをポケットへ戻し、早乙女のあとに続いた。


     ◇


 帰りの車も静かだった。


 ホテルの車寄せを出る時、ドアマンが軽く頭を下げた。

 黒い車は、最初と同じように外の音を切り離して走り出した。

 夜の東京の灯りが、窓の外を横に流れた。


 研究所へ戻ると、車寄せの庇は白く明るかった。

 さっきより人は少ない。

 タクシー待ちの列も消えている。

 ロビーの自動扉の向こう、待合席のそばに牧野が立っていた。

 小型端末を右手に持ち、湿布を貼った左手は体の横へ下ろしている。


 僕が車から降りると、早乙女も反対側から降りた。

 牧野は、ガラス越しに僕の顔を見た。

 僕が近づくと、自動扉が左右に開いた。


「三嶋さん」


「はい」


 牧野は、小型端末を持った右手を下ろした。


「おかえりなさい」


「ただいま戻りました」


 牧野はそこで初めて、早乙女へ視線を向けた。

 早乙女は、僕と牧野から一歩離れた。


「私はここで失礼します」


「早乙女さん」


 僕が呼ぶと、早乙女は振り返った。


「さっきの返事です」


 早乙女は黙って待った。


「仲間になります。何を共有するかは、その都度、僕にも選ばせてください」


 早乙女は、はっきりとうなずいた。


「承知しました」


「次は、私から連絡します。連絡先を探す必要はありません。

 検索記録から、私たちの関係を辿られます」


「分かりました」


 早乙女は小さく会釈し、黒い車へ戻った。

 ドアが閉まる。

 庇の光が車体の上を滑り、黒い車は車寄せを出ていく。


 残ったのは、研究所のロビーだった。

 誰でも入れる公開区域。

 観葉植物。

 鉢の縁に置かれた葉。


 夜は、何事もなかったように続いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ