↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔はAIのフリをしている  作者: Sig
第2章 契約者顕在化編
102/105

第19話 各国の異常ログ(二)

 キリエは、長いメッセージの冒頭と、スマートフォンを預ける項目を並べた。

 連絡が切れる前に経緯を残した理由が、そこでつながった。


「公開されている事故記録から、この条件に合う物流施設を探します」


 橘が検索条件を組んだ。

 物流施設。冷凍設備からのガス漏れ。危険区画から救出された三人。


 だが、国も発生日も施設名も分からない。

 条件に近い事故は複数の国で見つかり、一件には絞れなかった。


 橘は、画面に残った候補を示した。


「候補が多すぎます。事故を一件に絞れなければ、非公開の搬送先を問い合わせる相手も決められません」


 キリエは、既読のつかない会話欄を見た。


「私も取次者も、相手の本名や勤務先を知りません」


 火曜便の会話欄へは、いまもメッセージを送れる。

 だが、相手の搬送先を突き止める手掛かりはなかった。


 一年分の短い報告は、その週まで相手が連絡できた証拠にはなった。

 いま相手がいる場所を示す手掛かりには、一つもならなかった。

 キリエは確認文を重ねて送らず、橘が組んだ検索結果を見つめた。


 長いメッセージの最後には、こうあった。


[VEIL/キリエ共有画面・受信文]

 同じように追加検査や転院を求められた人には、行き先と予定を、先に誰かへ伝えるよう言ってください。

 スマートフォンを預けるなら、その間の連絡方法も決めておくように。


 橘は、検索条件を保存した。

 新しい事故記録が公開されれば、もう一度照合できる。


 キリエは、火曜便が残した警告だけを、個人や事故を特定できない文面に整えた。


[VEIL/個別送信]

 けがや体調不良から、以前より早く回復するようになった人へ。

 その回復を理由に追加検査や転院を求められた時は、行き先と予定を、先に信頼できる人へ知らせてください。

 スマートフォンを預けるなら、預けている間の連絡方法も決めておいてください。


 キリエは、その警告を、VEILで連絡を保っている相手へ一通ずつ送った。

 火曜便の本名も、国も、現在地も、最後まで空欄のままだった。


 同じ空欄を作らないために、今後つながる相手全員の氏名と所在を集めておくのか。

 火曜便を救えなかった事実は、次の誰かを常時追跡する理由にもなり得た。

 異常を見逃さず、人を追跡対象にし続けないための線引きが必要だった。


     ◇


 その日の午後、玲央たちは、各国で報告された異常事例を今後も追うか決める審査に臨んだ。


 各国の医療記録や事故記録そのものは、会議では共有されない。

 会議には、各国から届いた報告を整理する記録担当として、野島誠が加わっていた。

 野島が用意したのは、施設名と人名を外し、異常の内容だけを抜き出した要約だった。

 火曜便の捜索条件も、候補を絞れないまま、公開情報の照合待ちとして審査へ残された。


 牧野は、各国の要約を並べる比較表を開き、最初に記載しない情報を決めた。


[各国事例の比較表/記載しない情報]

 氏名、施設名、連絡先。


 最初に開かれたのは、医療分野の要約だった。


 国名の代わりに、国ごとの番号だけが付いていた。


[医療分野/匿名要約]

 夢の内容を記録する支援AIには、標準音声が設定されていた。

 当日の録音には、設定とは異なる声が残っていた。

 同席していた家族は、亡くなった親族の声に似ていたと証言した。

 その親族の音声資料は残っておらず、照合はできない。


 病院名も、家族の氏名も伏せられていた。


「医療支援AIの声が、聞き手を安心させるよう調整されることはあります」


 玲央が言った。


「家族の証言だけでは、ほかの事例と同じ異常だとは決めません」


 野島は、未統合の印を付けた。


 次に、法務分野の要約が開かれた。


[法務分野/匿名要約]

 法務支援AIに与えられていたのは、契約書を要約する役割だけだった。

 ところが打ち合わせ中、まだ誰も承認していない契約案を、三度「承認されました」と告げた。

 システム上の承認記録はなく、契約も成立していなかった。


「生成AIの誤回答でも起こり得ます」


 玲央は、法務の要約にも未統合の印を付けた。


 三つ目の要約には、数理分野の二件がまとめられていた。


[数理分野/匿名要約]

 災害保険の給付案を比べるAIが、画面にない案を勧めた。

 理由には避難生活への影響が挙げられていたが、その影響は計算項目に設定されていなかった。

 農業補助の審査AIも、農家の生活への影響を理由に、画面にない案を勧めた。

 標準モデルでは、どちらの回答も再現できなかった。


 画面にない案と、計算にない生活事情は、ラーフルの案件にもあった。


「設定ミスや、別の計算処理が混ざっただけでも起こり得ます」


 玲央は、原因の断定を避ける文としてそのまま残した。


 野島は、三つの分野を同じ原因の事例としてまとめなかった。

 比較表には、互いに離れた場所で似た逸脱が起きたという事実だけを残した。


 亡くなった人の声。まだない承認。計算に入っていない生活事情。

 どのAIも、与えられていないはずの記憶や判断に触れたように見えた。

 似ていることと、同じものが動かしたと証明することの間には、まだ空白があった。


[各国事例の比較表/未統合]

 設定や権限の範囲を外れた応答。

 通常の誤作動との違いは未確定。


     ◇


 次に、キリエが事前に送った報告が、共有画面に開かれた。


 当事者がVEILで共有を許した情報と、公開情報を照合したものだ。

 発生地は外され、会話相手の一覧にもなっていない。


[キリエ報告/公開情報と本人提供分]

 暗号鍵管理AIが、利用者の幼少期の呼称で承認を求めた。

 義体支援AIが、操作者の意思決定前に停止動作を選んだ。

 会議アバターが、割り当てられていない発話権限を使った。


 それぞれの異常ログが出た後、本人へ提示された支援内容も添えられていた。


 研究招聘状。

 治療費支援。

 長期滞在資格の手配。


 一件ずつなら、研究や治療のための正当な支援に見える。


「三件とも、囲い込みの動きが始まっていると記録しますか」


 野島が聞いた。


「断定はできません。どれも正当な支援の可能性があります」


 橘が答えた。


「ただ、招聘を受けた後に連絡が切れた一件は残してください。本人が断れたか、滞在先から戻れたかが分かりません」


 牧野が言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。