第9話 筋書き通りの展開は、私たちで戦います
美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウスの一人赤毛のラルシルは、真っ赤に染まった手拳を振り払い、乾いた地べたに血糊の飛沫が飛び散った。
「はい、一人目排除」
何の躊躇いも感情もなく忠実に次のターゲットへ移行する赤毛のラルシルに対して、慄き後退りする近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルの団員は剣を構えたまま守りに入った。
その中でただ一人、メリッサだけ攻勢を保ったまま、赤毛のラルシルと対峙し、間合いを詰めていた。
「メイドさんは茶菓子を用意して接待でもしてろ」
メリッサは、目の前で対峙する可憐なメイド姿の赤毛の少女、ラルシルへと挑発の言葉を投げつけた。
「メイドさんじゃない。俺は美少女ゴーレムだ。茶菓子は知らん」
「ゴーレム?あなたゴーレムなの。土くれの人形のマスターは誰?」
「俺のマスターは、琉人様だけだ。マスターの命令よりお前を排除する」
「琉人。百瀬琉人って事。団長ッ!このゴーレムのマスターは、百瀬琉人でありますッ!」
黒髪三つ編みおさげのロニハと交戦している最中、団長エリザベータはメリッサの言葉を耳にし、宝玉の光が指し示すゴーレムら後方の方角にいるのは百瀬琉人であるとメリッサの言葉で確信を持てた。
「よそ見は厳禁ですよ」
黒髪の三つ編みを揺らし、攻勢の手を緩めず胸を狙い打つロニハ。その拳を寸前で躱した団長エリザベータは、そのままの勢いでメリッサに言葉を返した。
「メリッサっよくやったっ!女王陛下へ伝令の神聖魔術を放つ」
「お願いします団長ッ!」
黒髪三つ編みおさげのロニハから繰り出す拳の連打が雨のように降り注ぎ、エリザベータに反撃の隙すら与えない中、エリザベータは神聖魔術ヌンティウス・アンゲリ(天使の伝令)を放ち女王エザベラアルーシャへ百瀬琉人を捕捉した旨を伝えた。
女王エザベラアルーシャからの報告する命令の任が完了したエリザベータは、交戦しているゴーレムの桁違いな戦力の差が縮まることはない判断し退却する号令を団員へ告げた。
「任が完了したッ!私とメリッサがゴーレムを引き付けるッ!全員退却ッ!」
エリザベータが発した退却命令を耳した他の美少女ゴーレムらは、戦況をただ見守っていた姿勢を一転、攻勢に転じると、退却しはじめた近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルの団員へ拳を繰り出した。
金髪セミロングのハスウールの黒き拳の極限まで研ぎ澄まされた一撃が、大気を切り裂く鋭い音を響かせ、翼竜に跨ろうと背後を見せた団員が吹き飛ばし、乾いた地べたに叩きつけた。
悶絶する団員の息の根を止めようとしたそのハスウールの拳を、寸でのところで鋭く研ぎ澄まされたレイピアの剣先で弾き、エリザベータは瀕死の重傷を負った団員を抱えて後方へ跳躍した。
「くっ!ここまでか。強すぎる」
退却を諦め聖騎士らしく命を散らそうと覚悟したその時だった。
天空と大地が激しく震え、眩しい清冽な光が辺り一面を白く照らした。
天上の頂から降り注ぎ、空の割れ目から溢れ出したのは、何百もの聖歌隊が声を重ねたよう調べが雨のように降り注ぐ。
神々の調べと共に冥府の王アルベルススとその眷属64柱の神々が、ここ魔物の森バァグーガへ降臨し、百瀬琉人を討伐し創造神メヨーテセシュルを奪還するため舞い降りたのだった。
「何人もたりとも百瀬琉人の討伐を妨げるものどもは、我ら神々による神の鉄槌で死に絶えよう」
天空に神々しく響き渡る冥府の王アルベルススの声が重圧となって地上すべてを押し潰した。畏怖し慄く生きとし生けるものは、小さく蹲るだけだった。
9体のゴーレムにはその神の声は届かなかった。重圧に畏怖することも、慄くことすらもなく、平然と神々との間合いを詰めていく。
銀髪ツインテールのリファーダが可憐なメイド服の白いエプロンを右手で叩き、軽い溜息一つ吐いて、傲慢な冥府の王アルベルススを睨みつけ吐き捨てた。
「マスターを殺すだと。神々とて叶わぬ夢だ。この拳に神々は命乞いするだろう」
「哀れな土塊人形じゃて。虫けらの人種族から造られた土塊人形はゴミと同然じゃ。土の拳なんぞ命乞いする訳ないじゃろがッ!」
「じゃやってみな、金ぴかの成金風情のオッサン神様。この胸に剣を突き立ててみるがよい」
「神を侮辱しおって」
神々とメイド少女ゴーレムとの張り詰めた空気を切り裂いたのは、冥府の王アルベルススの大剣ケロベロニロニクスの頭上から降り下す縦一閃だった。
リファーダは逃げるどころか、その刃の根元へと吸い込まれるように距離を詰めた。漆黒の手袋が敵の手首に吸い付くように添えられ、振り下ろされた凶刃の勢いを殺すことなく、円の軌道へと逃がす。
リファーダの流れるようなステップで踏ん張りを無効化されたアルベルススの巨体は、大剣ケロベロニロニクスの重みに抗えず、自ら放った一撃の重力に引きずられるまま地面へと沈み込んだ。
「なんて無様。命乞いする気になったでしょ」
自尊心と尊厳を傷つけられた冥府の王アルベルススは、土を付けられた恥で憤怒の形相で叫んだ。
「この土塊如きのゴミがッ!」
冥府の王アルベルススは大剣ケロベロニロニクスを、瞬きの一間に千の牙を剥くの如く怒涛の苛烈な打撃を繰り出し、銀髪ツインテールのリファーダへ反撃の余地も与えずに追い詰めようとする。
執拗に繰り返される大剣ケロベロニロニクスの連撃。
リファーダは軽快なステップで、凶刃が届かない内側の円を踊るように回り続ける。時折放たれる鋭い刺突さえ、指先が露出した黒革の手袋の掌でそっと撫でるように軌道を逸らした。そのまま敵の突進する勢いを利用し、勢いを宙へ逃がすように放り出す。荒れ狂う鉄槌の嵐の中で、リファーダの肌をかすめることさえ、一度として叶うことはなかった。
「金ぴかオッサン神様。余りにも拍子抜けし過ぎて眠くなってきたのだが」
「鬱陶しい虫けらゴミが。ちょこまかと。これで終わりじゃッ!」
憤怒の冥府の王アルベルススから繰り出す大剣ケロベロニロニクスの連続打撃が一段と上がった。
乱舞する大剣ケロベロニロニクスの影に潜むように、リファーダは影のごとく敵の懐へ張り付き続ける。
冥府の王アルベルススは間合いを潰され、焦れて肘が突き出された。リファーダはその関節を逃げ場のない角度で絡め取ると、流れるような旋回運動で冥府の王アルベルススの巨体を宙へと放り出した。
主を失った大剣ケロベロニロニクスが虚しく地面を打つ音だけが、戦場に高く響き渡った。
舞い上がった冥府の王アルベルススの巨体を見送るリファーダの瞳に、慈悲はない。流れるような踏み込みから天を突く刺突が放たれ、無抵抗な冥府の王アルベルススの腹を貫いたのだった。冥府の王アルベルススの腹に穴が空いた巨体が地べたに転がった。
「虫けらゴミが。そんなで神が死ぬわけないだろうが」
そう言い放ち、腹に穴が開いていようが苦しそうな顔色一つ変えず、忽然と立ち上がった冥府の王アルベルススは、最期の悪足掻きなのか不敵な笑いを浮かべていた。
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