第35話 ようやく逢えた、愛しき人ヌロニハール
6月で終わる予定が…7月になりそうです。
最期までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!
明るく照らし出された天井も床も壁もすべて白基調で統一されている第一格納デッキに、シュラジュラス皇太子殿下から発せられた、ヌロニハールにとって意表を突く言葉によって、静謐と驚愕を織り交ぜた空気が張り詰めていた。
「私と殿下が…血縁関係って…」
唖然とヌロニハールは言葉を漏らす。
「余の愛しき人よ、ヌロニハール。余は貴女をどれほど…待ったことか」
シュラジュラス皇太子がヌロニハールへ一歩近づき、愛おしい眼差しで見つめたまま、そっとヌロニハールの腰に手を回そうとしたその時、居ても立っても居られないシャラサラサが割って入って来た。
「おにいちゃんとヌロニおねえちゃんは、きょうだいなの。それとも、いとこなの。それか、たなる、しんせきどうし?どっちがおねえちゃん?、それとも、おにいちゃん?」
そんなシャラサラサからの問いかけは、シュラジュラス皇太子の耳に入っていなかった。愛しい眼差しでヌロニハールを見詰めるシュラジュラス皇太子は、改めてヌロニハールをまざまざと見惚れていた。
ヌロニハールの温かく甘い官能的な龍涎香の薫り漂う、乳白色の艶やかなショートヘアも凛々しく、可憐さの中に凛とした眼差しをしたエメラルドグリーンの潤んだ瞳、薄紅の口元、白い柔肌が見え隠れする白いワンピース姿のその華奢な体を、抱き締めたい衝動に駆られ、自分のものにしたいという欲求を通り越した熱い欲望が、シュラジュラス皇太子殿下の心すべてを虜にしたのだった。
「ねえ、きいてる?おにいちゃんッ!」
周りが見えなくなるほど甘美な白昼夢からはっと我に返させられたシュラジュラス皇太子は、その幼い純粋無垢な声に苛立ちを覚えた。
「口数の多い小さき姫君。余とヌロニハールの間を邪魔するではない。ベルベナル」
「はっ」
「余の愛しき人との再会の場を、邪魔する者を排除せよ」
「御意」
ベルベナルはそう言葉をその場に残し、閃光一閃、剣の冷たい刃をシャラサラサへ振り上げた。
鋭き眼光のヌロニハールはすぐさまに、シャラサラサを庇おうとしたが、シュラジュラス皇太子から強引な力強さで引き寄せられ、右手を顎に添えて口元を引き寄せられて、左手は腰に手を回され、身動きが取れないでいた。
「嫌ッ!シャラサラサ様ッ!!」
無防備にひとりぽつんと床に立ち、殺意の影に覆われたベルベナルを見上げるシャラサラサ。
「お命、御免」
何の躊躇いも無くベルベナルの刃が振り下ろされた。
その刹那、一閃が横に走り、鋭い金属音が鳴り響き、ベルベナルの刃諸共、剣が横に薙ぎ払われ吹き飛び、白き壁に突き刺さった。
虚しく剣からの金属音が残響する。
見開いたヌロニハールの目に映るシャラサラサは、無傷で立ち、手にはいつの間にか剣が握られていた。
その剣先は、ベルベナルの喉元へ突きつけられていた。
「つっ強い…」
ベルベナルが額に脂汗をたらし、敗者の言葉が漏れる。
「あぶないよ、おじちゃん。いや、ベルベナルさん」
「シャラサラサ様…お姿が…」
ヌロニハールが見開いて見詰めるその先のシャラサラサは、小さき幼いシャラサラサは何処にもいなかった。ヌロニハールと同じ背丈となったシャラサラサが、白いリボンで縛ったハーフツインテールを揺らし、胸元に黒いリボンをあしらった肩出し白いブラウスの灰色ツイードスカート姿で、ベルベナルへ剣を突き立てて、余裕の笑みを浮かべていた。
「父様のお力と、母様のお力のお陰ですの。ベルベナルさん、シュラジュラス皇太子殿下。あっ、申し遅れました。私、城塞都市国家アルベルセシュルト第一王女シャラサラサ・モモセと申します。以後、よろしくお見知り置きくださいませ」
「貴様、神の子か。それに…その剣技とその太刀筋…まさか…シャラサラサとやら、余の刃を受けてみよッ!」
そう言うが早いか、シュラジュラス皇太子は抜刀し、横軸一閃、シャラサラサの脇腹を狙った剣筋は容易く弾かれた。
「ならば、これはどうだッ!」
シュラジュラス皇太子が繰り出す斬撃が、流れるような太刀筋で、華麗な連撃を繰り出した。
描かれる銀の軌跡は美しくも鋭く、絶え間なくシャラサラサの死角を突いては、シャラサラサに反撃の隙すら与えず、追い詰めていく。
シュラジュラス皇太子の怒涛の連撃を、細腕一本で受け止めるシャラサラサの表情は涼しげだった。
「シュラジュラス皇太子殿下、それではお望み通り、受け継いだ剣技を御覧なってくださいませ」
シュラジュラス皇太子の怒涛の斬撃を、一歩踏み出した縦軸一閃、さらに薙ぎ払いで退け、軽やかに剣を振るう舞を舞うかのような剣さばきで、シュラジュラス皇太子の空いた隙を逃さず懐へ飛び込み、息もつかせぬ連撃を浴びせた。
連続で鳴り響く金属音による爆ぜる残響が、第一格納デッキ内が激しく鳴動させ始めた。
シャラサラサの怒涛の剣技を受け止めるのが精一杯なのか、シュラジュラス皇太子に焦りの表情が見え隠れした。
「やはり、これはヴァルテウス流派の太刀筋。シャラサラサ殿、これを誰から受け継いだのだ」
怒涛の斬撃の手を緩める事なくシャラサラサはその問いに答えた。
「それは…母様を介して―」
その時だった。シャラサラサが答える言葉を遮る凄まじい爆裂音とともに閃光が走り、その衝撃波が第一格納デッキ内を一瞬にして吹き飛ばした。
ベルーチャの対衝撃波障壁発動システムにより、第一格納デッキ内の存在するものすべては、吹き飛ばされる事なく無傷だった。
「なっ何事だッ!ベルベナルッ!!状況を報告しろッ!!」
「殿下、申し上げます。何者かがこのベルーチャを攻撃し、第一格納デッキを含め船尾が被弾した模様。現在、ベルーチャは自己修復機能により、被害の修復に努めている次第でございます」
「何者とは、何者だ。ベルベナル」
「はっ!たった今、解析完了。攻撃をした者は、城塞都市国家アルベルセシュルト国王百瀬琉人という者が攻撃をした模様。それと」
「それとなんだ、ベルベナル」
「失礼いたしました。それと侵入者二名、本艦に侵入。この第一格納デッキに到着したようです」
ベルベナルの言葉で背後が気になり、シュラジュラス皇太子が振り向くと、白い斬撃を伴った剣筋が目の前に迫って来た。
「侵入者かッ!」
鋭く重い白い斬撃を渾身の力で受け止めたシュラジュラス皇太子の目に映るその侵入者は、白銀のティアラを冠して、金糸が織り込まれた純白のマントを翻し、白銀の軽装な鎧を纏いフリル付き白基調のミニスカートを穿いた美しき女性戦士だった。
「貴公は、何者だッ!」
「わらわは、城塞都市国家アルベルセシュルト王妃リファール・モモセ。シャラサラサの母親だッ!!」
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