第33話 切なくて愛おしくて、揺れる想い
琉人が万雷の主宰ザビグロニアとの決戦時に生成した50機の偵察用ドローンを、紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルと対峙したヌロニハールへ加勢する為に生産系魔術のスキルである形成変容によって、50体の白きプロテルトとして生成なしえた白きプロテルトは現在、四天王率いる神々の襲来に備え、防衛メインの人型機動兵器として、城塞都市国家アルベルセシュルトの外濠城壁と内壕城壁の間の境界空間へ配備されていた。
ヌロニハールはシャラサラサが瞬間移動する時に言った、とうさまのプロテルトを指す、境界空間に実戦配備された対神用戦略人型機動兵器プロテルトの所なら、シャラサラサを安全に琉人とリファールの元へ送り届けることができると考え、そっと胸を撫でおろした。
殿下とベルベナルから見つかる寸前、閃光に包まれたシャラサラサとヌロニハールは、目的対象物であるプロテルトの元へと瞬時に移動した。
二人が出現した薄暗い格納デッキはひんやりと冷たく、二人の目の前には全長20メートルほどのプロテルトが、整備デッキに固定されたままの立ち姿で聳え立っていた。
ヌロニハールとシャラサラサの目の前に聳え立つプロテルトは、その形状フォルムは間違いなくプロテルトなのだが、その機体から発する雰囲気は、この世で造られたモノではない次元が違う違和感があった。それを誰よりも一番感じ取ったのは、設計製造者の娘であるシャラサラサ本人だった。
「とうさまのプロテルトじゃない…」
「え!?」
「シャラまちがえた…これ、とうさまのプロテルトじゃないッ!ごめんなさい、ヌロニおねえちゃんッ!」
シャラサラサは今にも泣きそうな声を上ずらせて叫んだ。ひんやりと冷たい薄暗い格納デッキに、その叫び声は虚しく響き渡った。
「えっ、じゃあここは…」
ヌロニハールは素早く今いる場所をスキャントレース開始した。
泣きそうなシャラサラサ優しく頭を撫でて宥めながら、現在位置情報をスキャントレースしたヌロニハールは愕然とした。
「まだ東宮専用機ベルーチャの船内です、シャラサラサ様。ここは東宮専用機ベルーチャ第一格納デッキのようです」
ヌロニハールはふと思った。何故ここに、琉人と同じプロテルトがあるのだろう。そして、何故自分は、スキャントレースしたこの船体の名称などの情報を読解できるのだろう。また先程の殿下とベルベナルは、何故自分を素体と呼び、会おうとするのか、幾つもの疑問が沸々と湧き出て、以前、琉人と初めて逢ったあの日と同じ、神の強制力による頭痛が妨げとなって、これ以上の疑問に対する思考はできなかった。
「ヌロニおねえちゃん…だいじょうぶ。お顔、あおいよ」
胸に抱くシャラサラサが上目遣いの心配顔で顔を覗いた。
「ご心配ありがとうございます、シャラサラサ様」
頭の痛みが引いていくのを感じつつ、ふとヌロニハールは、琉人に対する自分の気持ちに対し疑問を持った。何故、単に使役されるだけのゴーレムとして生誕した自分が、創造主である琉人に対してこれほど恋焦がれて、心狂おしいほどに愛しているだろう。
もう関係ないはずなのに、自分は忠実なメイドゴーレムなのに、彼には家族があるというのに自分に言い聞かせるが、どうしようもない琉人への想い。
シャラサラサの愛くるしいその容姿、容姿端麗さはリファール似だが、キリッとした黒い瞳とすっと通った鼻筋は琉人似だと、間違いなくこの子は、琉人と血の繋がった子なんだと、まだ幼いシャラサラサの頭を撫でながらシャラサラサを見詰める目は、自ずと琉人の面影を未練がましく探している自分に嫌気がさした。
シャラサラサが自分を信頼しきった小さな手で、服の胸元をぎゅっと掴んで離さない。
シャラサラサと二人だけの今、もうしばらく、このままでいさせてと、腕の中の温もりをより強く抱き締めてしまう、切ないほどの愛おしさが込み上げ、胸を締め付ける。
何故だろう、この胸を締め付ける切なさと愛おしさを、同じく何処かで胸に抱き締めた記憶の断片として横切る。以前、自分は母親だっただろうか、我が子を抱き締めた記憶の断片らしき思い出が、ヌロニハールの追憶の彼方から押し寄せてくる。
そう私は…琉人からこの世界にゴーレムとして生誕した時、琉人と再会する事を予め分かって待っていたんだ…いや…琉人ではないそのお方を…。
だから琉人の魂の中で長い間スリーブ状態だった。
リファールが神の強制力とは、高次元の神々の力と言っていた。
私と高次元の神々と琉人ではない恋い慕う方と、再び相まみれる事を予測され確信されていた。
どんな理由があって、私の記憶を神の強制力が妨げようとするのだろう。
意図的に私と琉人ではない恋い慕う方を、是が非でも引き離そうとするかのように。
ヌロニハールという私は一体、何者なの。核心へ迫ろうとさせない神の強制力という頭痛が妨げとなり、もうこれ以上の詮索は無理だった。
「ヌロニおねえちゃん、だいじょうぶ。シャラが、いたいのいたいの、とんでいけって、してあげる」
いつの間にかヌロニハールは冷たい地べたに座り込み重く頭を垂れ、シャラサラサの小さい腕で頭を抱き締められていた。抱き締められる小さい温もりが、柔らかく心地よかった。
突然、薄暗かった格納デッキが照明で明るく照らし出され、急に現れた男性二人の気配がヌロニハールを振り向かせた。
先程居た通路と同じく、天井も床も壁もすべて白基調で統一されている格納デッキの奥から、乳白色した髪色の一本の美しい太縄のように編み込まれたおさげ髪を、左の肩から胸元へと落としている高身長の男性と、その一歩後ろで並び歩む如何にも執事姿の初老男性が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
乳白色の髪色した一本編み込みおさげ姿の男性は殿下と呼ばれている男性だろう。もう一人の執事姿の男性は殿下からベルベナルと呼ばれている男性だろうと、ヌロニハールは歩み寄ってくる男性を眺めていた。
「いやあ、実に、天晴れ。高度な亜空間次元移動をやってのけたのは、貴女が腕に抱くその幼い姫君だろう、俗に言う瞬間移動させたのは」
開口一番に乳白色編み込みおさげ男性が、鋭い眼光でヌロニハールを睨んだ。
「それが、どうかしまして」
毅然とした姿勢でヌロニハールは、鋭い眼光を指す乳白色一本お下げの男性のキリッとした黒い瞳へ、凛とした眼光で睨み返した。
「うっはははッ!これは、大変失礼いたした。余としたことが、先に名を名乗るのを失念しておった。非礼を許されよ」
後ろで並び立っていた初老の執事ベルベナルが、一歩前へ出て、高らかに声を張り上げた。
「こちらにおわすお方は、神聖ラ・カラバシュラタ公国第一皇太子シュラジュラス・ペルシャルトーム・ヴァバルフスク殿下であらせられる」
執事ベルベナルから高らかに名を挙げられた神聖ラ・カラバシュラタ公国第一皇太子シュラジュラス・ペルシャルトーム・ヴァバルフスク殿下の容姿は、180はあるだろう高身長で、年は琉人と同じくらいの17か18、シンボル的な乳白色の一本編み込みお下げを左肩から胸の前に下ろし、キリッとした黒い瞳とすっと通った鼻筋の凛々しい顔立ち、両手にはに白手袋を嵌め、白基調の儀礼服のような装いで、品性が漂う威厳に満ちた威光を放っていた。
「どこの国の皇太子殿下っていう顔だな。いいだろ、教えてしんぜよう。余の国である神聖ラ・カラバシュラタ公国は、この辺境惑星アスースガルズ恒星系が属する銀河がある宇宙のその上の次元にある宇宙を統治する国家である。分かりやすく言えば、おぬしらが神々と呼ぶ神を統治する高次元の神による国が、余の国神聖ラ・カラバシュラタ公国だ」
「高次元の神…」
高次元の神を耳にしたヌロニハールの顔色が変わった。
「そうだ。余は高次元の神を統べる者として、ここに参った次第だ」
「高次元の神の神様として、シュラジュラス皇太子殿下に問います。何故、私を素体としてお探しになったのですか?それに何故、私の記憶を思い出さないようにしているのですか?」
釈然としない疑問を神聖ラ・カラバシュラタ公国シュラジュラス皇太子へ投げかけた。
「貴女が抱える疑問は、それだけか。まだあるだろう。貴女の国と同じプロテルトが何故ここにもあるのだろう。そして、貴女は神聖ラ・カラバシュラタ公国のリヘマ文字で書かれた東宮専用機ベルーチャの名称などの情報を何故、読解できるのだろう。何故、この余が、貴女を素体と呼び、会おうとするのか。図星だろ。ヌロニハール」
ヌロニハールが抱く疑問を言い当てられた事に驚きを隠せなかった上に、初めて出会ったばかりで、まだ名を名乗っていない自分の名を、神聖ラ・カラバシュラタ公国シュラジュラス皇太子殿下の口から耳にしたヌロニハールは、目を見開いて言葉が漏れた。
「何故、私の名を…」
すかさず執事のベルベナルが、畏まって皇太子殿下の言葉を繋いだ。
「お迎えに参りました」
深くお辞儀をしたまま、ベルベナルは言葉を続けた。
「貴女様は、神聖ラ・カバラシャラタ公国第一王妃ヌロニハール・ペルシャルトーム・ヴァバルフスク皇太女殿下であらせられます」
ベルベナルの言葉に続き、シュラジュラス皇太子殿下がヌロニハールに告げた。
「その名の通り、私と貴女は血縁関係だよ、ヌロニハール皇太女殿下」
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