第31話 不審者を追いかけて、忽然と消えた二人
リファールは母親の勘で分かっていた。シャラサラサがいつもの遊び半分の瞬間移動ではないことを心で感じ、突如として捉えようのない不安に襲われる。胸が押し潰されるような恐怖で、初めて体が震えた。
ヌロニハールと共に目の前で忽然と姿を消した愛娘シャラサラサ。消え去った空間を呆然と見つめるリファールの、空虚を掴もうとする手が震えていた。
「琉人ッ!わらわのシャラ…シャラサラサがッ!!」
リファールの悲痛な叫び声が響き渡った。琉人は顔面蒼白になったが、すぐに冷静さを取り戻した。愛娘の行方不明という一刻を争う事態を前に、動転するリファールを落ち着かせるよう、その身体を強く抱き締める。
「大丈夫…リファール…シャラサラサの行方を追うッ!」
声を上げて号泣するリファールの背を優しくさすり、抱き締める琉人。その目は鋭く、ヌロニハールが警告していた不審人物の件と現在の状況を結びつけ、この局面を打破するための行動に出た。
「…突然消えてから、まだ3分程度か…リファーダっ!」
「はい、マスター」
リファールと同じ、銀髪のツインテールを靡かせ、凛とした姿勢で黒き美少女ゴーレムであるリファーダは、茶の片づけをハスウールに任せ、マスター琉人の指示を待った。
「君はたしか、シャラサラサが瞬間移動して出現するポイントを逆算し割り出しするのが得意だったね」
「はい、マスター。シャラサラサ様が出現するポイントをピンポイントで逆算し割り出す事が可能でございます」
「ならば、リファーダ。シャラサラサの出現ポイントをすぐに割り出せ。一足先に第十一王宮庭園へ向っているユナシナへ座標を反映した出現ポイント伝達。我々には、携帯端末へ出現ポイントデータを送信。リファーダ、君の先導で、シャラサラサ出現ポイントへ向うッ!」
「かしこまりました。シャラサラサ様の出現ポイント、ヌロニハールの二人分として逆算完了、座標に反映した出現ポイント割り出し成功。ユナシナへシャラサラサ様出現ポイント伝達完了。携帯端末へ出現ポイントデータ送信完了致しました。いつでも行けます、マスター」
「ありがとう、リファーダ。ラミリア、もしもに備えて、付いて来てくれるか」
「もちろん、メヨーテセシュルの子シャラサラサは、我の子シャラサラサでもある。戦闘は任せておけ。武神たる我に敵う者は、この世に何人たりともおらぬからなッ!安心して姉さま…この紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルが、シャラを連れて参ります」
ラミリアシャルファースフルは、泣き崩れていたリファールの濡れた瞳を、そっと唇で拭った。
「わらわも行く」
泣き腫らしたリファールは立ち上がった。
「メヨーテセシュル猊下。このザビグロニア、盾となり、御身を御守りいたしまする」
ザビグロニアは跪き頭を垂れた。
「このアルベルスス、猊下の後方をお守り抜きます。ご安心を」
紳士的立ち振る舞いで、アルベルススはザビグロニアに続き、跪き頭を垂れた。
「マスター、準備は整いました」
ハスウールが戦闘準備を済ませた黒き拳を強く握り、琉人の命令を待った。
「一旦、会議は中止。シャラとヌロニハールの行方を追う」
「はッ!」
勇ましく返答したリファーダを先頭に、ハスウールが続き、紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフル、琉人とリファール、後方は、十二神将の二柱、冥府の王アルベルススと万雷の主宰ザビグロニア、忽然と姿を消したシャラサラサとヌロニハールが出現したとされる第十一王宮庭園へ急ぎ向った。
城塞都市国家アルベルセシュルトの象徴でもある琉人家族の居城シュトゥラウスバルガン城の広大な敷地は、円形状になっており、シュトゥラウスバルガン城を中心に、放射線上に王宮庭園が十二等分にされていた。南方に位置する第六王宮庭園の中に建つ迎賓館クラバウス邸から北へ1キロ先に、シャラサラサとヌロニハールの出現ポイントである第十一王宮庭園があった。
突然と空中から出現したヌロニハールとシャラサラサは、白百合と真っ赤な薔薇が咲き誇る、丁寧に手入れが行き届いた第十一王宮庭園の納屋に転移したのであろうか、周囲は真っ暗の闇に覆われ、静寂の中に蜂の羽音のような、低く重く震えて唸る物音ひとつだけがあった。
「シャラサラサ様、お怪我はございますか」
「ないよ、ヌロニおねえちゃん。シャラ、ヌロニおねえちゃんいってた、おにいちゃんいるとこへきたよ。ここ、まっくらで、なんもみえないね、ヌロニおねえちゃん」
「シャラサラサ様、少々お待ちください。このヌロニ、今、周囲をスキャントレースして、今ここが、どこなのか探っております」
「ブーンて、はちさん、とんでいるのきこえるね」
「シャラサラサ様、スキャントレース終わりました。蜂さんが飛んでいる音ではなさそうです。この音は、このお部屋の周辺からしている機械音のようです。今、明るくいたします」
ヌロニハールの掌から、一つ淡い光を放つ光球を、漆黒の闇の中へ浮かばせた。
周囲が淡く照らし出され、機械音が唸り響く部屋の全体像が明るみになった。
天上も床も四方取り囲む壁も、すべて同く無機質に冷たい灰色の金属らしき材質だった。
まずはここから出ようと考えたヌロニハールだったが、部屋には当然あるはずの出入口の扉が、どこにも見当たらなかった。
「へんなおへや。どこから、おそとにでるんだろうね」
「お外にでる扉は、仕掛けが成されているようです」
そういいながら壁を手で触れて探るヌロニハールの手が止まった。シュッと壁が扉の形に穴が開き、廊下からの弱い光が差し込んできた。
「シャラサラサ様、参りましょう」
「うん」
光に満ちた白壁が、丸みを帯びた白い天井から白い床まで楕円上の形状で、長く何処までも続いていた。
「ヌロニおねえちゃん、ここどこ?」
「シャラサラサ様、ここは、東宮専用機ベルーチャと呼ばれる船体の中のようです」
「せんたいって、おふねのこと?」
「流石は琉人マスターのご子息であらせられます。そう、ここは、お空も飛べる、お船の中でございます」
「お空飛べるの!」
「はい、お空のその先のお空へも、飛べるお船のようです」
「すごいね、シャラ、おそらのそのさきのおそら、いってみたい」
「シャラサラサ様、リファール様がご心配なさいますので、ここはひとまず外へお出ましになりましょう。不審者の特定は、私めが後ほど行います」
「うん、わかった!」
シャラサラサの元気のいい返事に目を細めるヌロニハールが何かに気付き、急に立ち止まって、シャラサラサを胸に抱いた。
「どうしたの?」
「お静かに…シャラサラサ様…」
「うん…」
立ち止まったところに丁度、廊下の壁際が窪んでいる場所を見つけ、息を殺して身を潜めた。
その十字路の陰から耳を澄ませていると、正反対にある廊下から、談笑しながら歩み寄ってくる男ら二人の足音が聞こえてきた。
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