第28話 無邪気さいっぱいにはじまりました!
まだ建って日が浅いのだろう、真新しい白壁の黄金色レリーフ装飾やチーク材の豪奢な家具調度品が、整然とパランスよく配置しデザインされ、設計者のこだわりが随所に見受けられる洋館は、ひとえに王侯貴族の住まいといった佇まいの趣があった。
塵芥一つない暖色絨毯が敷き詰められた幅広く長い廊下を足音無くひた走る、小さな人影が高い笑い声を上げながら走り回り、その後ろを追いかける桃色した髪のメイドと紫色髪を振り乱すメイドは、小さな人影を捕まえようと、必死の形相でひた走っていた。
「モモカッ!そっち行ったぞッ!」
紫色髪のメイドから逃れた小さき人影は、まだ三歳くらいの幼子だった。
「わかったッ!ユキノヒメッ!今度は逃さないぞッ!」
桃色髪のメイドの捕まえようとする手から、するりとかわし逃れる三歳の幼子は、白いワンピース姿での足元の小さな黒いローファーで駆け回り、抱きしめたい衝動に駆られる可愛らしさを振りまいていた。
「おっと、このユナシナが、小さく可愛らしい御身を捕まえます」
茶髪メイドが素早く、白いワンピース姿の幼女の体を掴もうとしたその瞬間、銀髪のツインテールを靡かせ、白いワンピース姿の幼女は忽然と消えた。
「えっ!?もっもうッ!またぁッ!」
ユナシナは溜息交じりの声を切り上げた。
忽然と消えた白いワンピース姿の幼女は、はしゃぐ笑い声を張り上げて忽然と現れて走り回った。真剣に追い掛け回すメイド達から追いかけられる自体が、白いワンピース姿の幼女にとって、純粋に今一番堪らなく楽しいひと時だったのだろう。走り回っている事に夢中になって、もう周りは見えていなかった。
「予測はついておりますッ!私、ロニハが捕獲いたしますッ!」
黒髪三つ編みおさげのロニハが両手を広げ、白いワンピース姿の幼女の行く手をふさぐ。ロニハの手が届く寸前、忽然と消えた白いワンピース姿の幼女の行方を読んだロニハが叫ぶ。
「ハスウールッ!そっち行ったッ!」
「このハスウールにお任せあれッ!」
金髪セミロングのハスウールが腕を伸ばした先に、ロニハが読んだ通り、忽然と姿を現した白いワンピース姿の幼女の体を掴んだのも束の間、白いワンピース姿の幼女は楽し笑い声と共に忽然と姿を消した。
「えぇーッ!?そんなぁーッ!」
寸前のところで逃したハスウールは悔しさを絶叫した。
「皆さま、ここは、冷静沈着の私ミウラシュラの出番でございます」
緑髪のミウラシュラはそう言って忽然と姿を消し、白いワンピース姿の幼女が出現したと同時にその出現ポイントへ出現したミウラシュラから腕を掴まれ、いと容易く捕まった白いワンピース姿の幼女だった。
ミウラシュラから脇に抱えられた白いワンピース姿の幼女は、逃れようとジタバタと藻掻くが幼い力ではどうしようも出来なかった。
「もう、観念なさいな。駆けっこのお時間は終わりです。シャラサラサ様」
「いやーっ!まだ、あそぶのぉーっ!」
白いワンピース姿の幼女シャラサラサの強く叫んだ言葉に反応してか、眩しい閃光を放ちシャラサラサはまた忽然と消えた。
「ここはリーダーの私が収めます」
銀髪ツインテールのリファーダが腕を組み、只々幅広く長く続く廊下の先を睨む。
「はいッ!そこッ!」
短い言葉を残し、疾風の如く駆け出したリファーダは一点先を目指した。
「手荒な捕まえ方でごめんなさい。シャラサラサ様」
何も無い空間からシャラサラサが姿を現して落下した処を、走って掴んだリファーダは直にシャラサラサを胸に抱いた。
「えっ!?もう、捕まえちゃったの!?」
先に捕まえようとしていた赤毛のラルシルが残念そうに立ち止まる。
「ちょっと手間かかったようだな、リファーダ」
青髪のセルシルは急に立ち止まったラルシルの背中にぶつかる寸前で踏ん張り、同じく立ち止まった。
「さっ、シャラサラサ様。お昼寝のお時間です。行きましょう」
胸に抱かれるシャラサラサへ声を掛けるリファーダの微笑みが優しく連れて行こうとしたその時。
リファーダの胸に抱かれるシャラサラサが元気よく返事をした
「みんな、おひるねするのっ!!」
シャラサラサの元気のいい返事で発動したのか、その場に居る美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウス全員が瞬時に姿を消し、シャラサラサの目前に出現した美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウス全員は、拘束具で拘束されたまま、塵芥一つない暖色絨毯へ横になった。
「身動きがとれない…。シャラサラサ様のお力を見くびっておりました…」
「残念…ここまでのお力があるなんて…」
「流石、シャラサラサ様だな」
床に仲良く横になった美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウス全員を、得意げに上から見下ろすシャラサラサの目線は、無邪気さ溢れる冷やかな目線だった。
「そこで、ねんねしててね。シャラは、まだ、ねむくないから、おにわで、あそぶね」
悪げのない笑顔いっぱいのシャラサラサは、可愛らしい銀髪のツインテールを翻して、お庭を目指して駆け出そうとその時だった。
「ねんねしない悪い子は、シャラサラサですか」
唐突に慈しむ女性から優しく声を掛けられ、軽々しく抱き上げられたシャラサラサは、先程までの否応なしに抵抗する事なく、素直に観念したかのように、温かく柔らかな胸に抱きすくめられた。
「かあさまっ!」
かあさまと呼ばれた女性は、シャラサラサと同じ銀髪のツインテールで、白基調のロリータジャンパースカート纏ったメイド姿のリファールだった。リファールは胸に抱くシャラサラサを慈しむ眼差しで優しく頭を撫でていた。
「私の可愛いシャラサラサ。かあさまは、今から、大事なお話を父さまとラミリアとみんなでしなければなりませんと申したでしょ。きちんと、お姉さんの言う事をきいて、お昼寝しなさい」
「はぁい…わかりました…でも…シャラは…かあさまといっしょに…いたいです…」
上目遣いで母の顔を覗くシャラサラサの視線に耐えられなくなったのか、リファールは傍にいる琉人へ助けを求めた。
「琉人…シャラサラサが…どうしてもって…いうの」
「シャラ。大人しくしていられるか」
「うんっ!」
「だそうだ、リファール。会議に連れていくしかないか」
「ほっんとうに、琉人は、シャラに甘いんだからっ!シャラ…会議は静かにしていないとダメ。わかった」
「うんっ!わかったっ!」
「一つお約束。リファーダお姉ちゃんたちの言う事を聞いて、大人しくしていなさい」
「はいッ!わかりました、かあさまッ!」
リファールの胸の中でシャラサラサは、無邪気に愛想笑いで元気に答えた。
「困ったもんだ。誰に似たのやら」と琉人はボソッと言葉が漏れた。
「私ではありません。琉人、貴方似です。ほらっ、この目と顔つきは、琉人そっくり」
「俺似か。性格はリファール似だと思うんだが」
「父さま似ですよねぇシャラ」
そこへ丁度よく街の様子を伺いから戻って来たラミリアシャルファースフルとザビグロニア、その後ろからヌロニハールとアルベルススらが合流し、城塞都市国家アルベルセシュルトの円卓会議に出席する主要メンバーが揃った形になった。
「何やっておるのじゃ。会議が始まる時間じゃぞ」
ラミリアシャルファースフルは床に拘束具で身動きが取れない美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウス全員を眺めながら、愛娘に手を焼く新米夫婦に呆れたような言葉を掛けた。
「ラミリア。シャラがあまりにもおてんば過ぎてな。流石の美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウスでも、手を焼いている次第なんだ」
琉人は頭を掻き、溜息交じりで愛娘シャラサラサの頭を撫でる。
「今日は特別に、子連れでの会議ではどうじゃ」
慈しむ眼差しになるラミリアシャルファースフルは致し方無いと言いたげな表情で琉人へ提案した。
「そうしようと、琉人と話し合ったばかりだ…」
ラミリアシャルファースフルの提案は同じ思いだったと、その言葉の後に続いたのは溜息だけのリファールだった。
琉人は苦労を掛けて申し訳ない気持ちで、無言で床に転がる美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウス全員の拘束具を瞬時に解いてやった。
ふと視線が気になり振り向いた視線の先に、執事のようなアルベルススの傍に静かに立っているヌロニハールと目線が合った。
ふとした瞬間に目線が合ったヌロニハールの胸の鼓動が、とくんっと一つ高鳴った。
自慢だったヌロニハールの艶やかな乳白色ツインテールをバッサリ切った、潔いショートヘアに気づいた琉人は、一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
「髪…切ったんだ」と琉人から声を掛けられた。
ラミリアシャルファースフルら主要メンバーらと解放された美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウスらは、そんな二人の気まずさが交叉する雰囲気を察して静まり返った。
ヌロニハールは、「今の私はどう映っているのだろう」という思いで頭いっぱいになり、胸を焦がすような未練を必死に押し殺し、乾いた愛想笑いを浮かべて一言「うん」とだけ咄嗟に返すのが精一杯だった。
そんなヌロニハールの一挙手一投足を、人知れず物陰から見守る人影が、憤り顕わに漂わせて消えた。
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