第27話 新たに始まった、筋書通りの展開。
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ゴールまで、よろしくお願いいたします!
薄暗い空間の真ん中に鎮座する高背の椅子。そこに一人の男性が深く腰掛け、足を組み、地平線をそのまま切り取ったかのように、どこまでも横へ、横へと美しく伸びる大開口のガラス窓の先を眺めていた。途轍もなく横長のガラス窓のその先は、小さな点の恒星が眩い光を放ち、漆黒の虚無の中でその存在を強く主張している宇宙空間だった。
「殿下、目的の素体反応が、強く反応している惑星の表面地点を特定いたしました」
男の背後から忽然と現れた執事らしき人物が、小さな点に過ぎない恒星の眩い光が差し込み始めた宇宙空間を眺めている男性へ、形式的で感情なく淡々と伝えた。
「ようやく辿り着いたか…。ベルベナル」
「はっ」
「あと、どのくらいで、着く」
「はっ。本艦は、あと二時間で到着予定でございます」
「うむ。この宇宙次元領域を支配するシッナシッス帝国へ謝意を伝えておけ、色々と配慮いただいたからな」
「御意。ご厚意頂いたシッナシッス帝国皇帝トゥルトゥルバナバナ二世陛下へ、万謝の印としての答礼品と共に謝意を認めた書状をお送りいたします」
「頼む。余は降り立つ支度をする。ベルベナル、準備をせい」
「はっ。ただちに侍女たちへ、支度の用意を申し付けます。殿下、お降り立ちの際、お召しになる機体は、東宮専用艇でございましょうか。それとも、プロテルトでございましょうか」
「東宮専用機で降り立つ。プロテルトは万が一に備え、東宮専用機に積んでおけ」
「御意」
ベルベナルと呼ばれる侍従の男は、物音させずにその場から忽然と姿を消した。
澄んだ緑色の凛とした眼差しで、乳白色した艶やかな長い髪を三つ編みしている殿下と呼ばれる若い男性は、小さな点に過ぎない恒星の眩い光を見詰め、透き通った白い肌の頬に一筋の涙を流し、薄紅の口から言葉が零れ落ちた。
「ようやくお逢いできるのですか…我…愛しき人よ…」
日差しが強く照り返す、昼下がりの街の中で、ひときわ映える白のポロシャツに白いレイヤードミニスカートを穿いた、プラチナブロンドのツインテールがよく似合う清純な女性が、一人の大柄な男性を背後に引き連れて、楽しそうに笑い声を上げながら、黒いローファーがとても気に入っているのか足取り軽く闊歩していた。
「ねぇ、ねぇ、ザビグロニア。あのお店のクリープとやらを買って来て」
プラチナブロンドのツインテールを翻し振り向きざまに、上目遣いのはにかむ笑顔でのぞき込む。全身を白基調の清純さでコーディネートした紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルは、一見すると爽やかな女子大生といったお淑やかな雰囲気を纏うが、その眼光には百戦錬磨の武神の鋭さが隠し切れていなかった。
「かしこまりました。それより、遅れますぞ、ラミリアシャルファースフル猊下」
振り向けられた笑顔に一瞬顔を赤らめた、27歳ほどの無精ひげ面で栗毛短髪癖っ毛の大柄な男性。彼はまるで従者のように、沢山の荷物を持たされて彼女の後ろに付いて来ていた。膝が破れたクラッシュジーンズを穿き、上半身は白のTシャツにダメージデニムジャケットを羽織り、足元はサンダルといった出で立ちの万雷の主宰ザビグロニアだった。
「早う、買って来て」
「遅れると、創造神ではなく‥リファール殿から叱られますぞ」
「我はクレープが食べたいのだッ!早く行けッ!遅れたら、ザビグロニアのせいにするのでなッ!!」
「そんな…殺生な…」
渋々と行動に移したザビグロニアは、駆け足で街のクレープ屋に大荷物を器用に持ちながら駆け込んでいった。
「随分な使われようじゃな、ザビグロニアは」
ラミリアシャルファースフルの横から顔を出し、横槍を入れたのは冥府の王アルベルススだった。
「何していたアルベルスス。遅かったじゃないか」
如何にも初老の紳士といった精悍な顔立ちに、立派な口髭と顎髭を湛えたアルベルススは、漆黒の燕尾服とスラックス、光沢を放つエナメル革靴を身にまとっており、その佇まいは彼の風格をより一層際立たせていた。一見すると筆頭執事を思わせる、洗練された風貌が印象的だった。
「それにしても美容室というところは、なにぶん時間の掛かるところじゃのう」
「そんで、どうなった。ヌロニハールは」
「ほれ、恥ずかしがって隠れていないで、ラミリアシャルファースフル猊下に、お見せしなさい」
アルベルススの大きな背中で見え隠れしているヌロニハールの姿が見て取れ、アルベルススから促されるまま恥ずかしそうに、白いつば広スローハットを深く被ったヌロニハールが白基調の鶯色ワンピース姿で、顔を伏せたままモジモジと照れくさそうに姿を現した。
「ヌロニ、なんだその大きな帽子は。せっかくの美容室とやらの仕上がりが分からぬではないか」
「なかなか、いい出来じゃったぞ、ヌロニハール殿。以前より、見違えるほど、美しさが増しておる。自信持って、帽子を取って、ラミリアシャルファースフル猊下にお見せするのじゃ」
「うん…」
恥ずかしさから紅潮するヌロニハールの白く細い腕が、恐る恐る、動作ゆっくりと、深く被った白いつば広スローハットを取った。
「似合っているではないかッ!かわいいぞ、ヌロニッ!自信を持つのじゃッ!!」
まだ顔を上げるのが恥ずかしいのか、俯き加減で白いつば広のスローハットを両手で抱えるヌロニハール。だが、彼女の自慢だった可憐な長いツインテールは、もうそこには無かった。印象的だった可憐な長いツインテールを、潔くバッサリと切り、短く切り揃えたショートヘアが、大人らしさの中に可愛らしさがある凛々しいヌロニハールの姿がそこにあった。
「ヌロニ…大人になったな…それにしても、なんだ…惚れ直した…我と付き合わぬか」
「今は…まだ…そういう気になれなくて…ごめんなさい…」
「冗談じゃよ。我は創造神メヨーテセシュル一筋じゃからな」
「私も、ラミリアシャルファースフル猊下のように強くなりたいです…」
「まっなんじゃ、時間が解決してくれるじゃろうて」
そこへ息を切らして駆け寄って来た万雷の主宰ザビグロニアが、買ったばかりのチョコバナナクレープをラミリアシャルファースフルへ差し出した。
「いやぁ、激混みでした。ラミリアシャルファースフル猊下、どうぞお召し上がりくださいッ!!」
「ザビグロニアッ!遅いッ!が、いいタイミングじゃッ!」
「お気遣いのお言葉、ザビグロニア、ありがたく頂戴しますッ!」
ザビグロニアから受け取った出来たばかりのチョコバナナクレープを、まだ伏せ目がちのヌロニハールへ手渡した。
「ヌロニっ!こういう時は、甘い物が一番じゃ」
「うん…」
ラミリアシャルファースフルから促されて、バクッと小さく一口食べた。
「おいしい…」
二口、三口と食べたヌロニハールから、いつものヌロニハールの元気良さが戻って来た。
「ザビグロニアッ!同じクレープを20、買って来いッ!!」
「ラミリアシャルファースフル猊下、もう、お時間です」
「なっ何ッ!?我はまだ食べておらぬぞッ!」
「ダメです。琉人様とリファール様からお叱りを受けますぞ」
「じゃあ、四人で、バックレるか」
「何を申しておるんですかッ!我々は主要メンバーですぞッ!」
「分かった、分かった、ザビグロニア。いざ参るか、城塞都市国家アルベルセシュルトの円卓会議へ」
「はっ!」
先に駆け出して行ったザビグロニアの後を、渋々と付いていく紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルだった。
チョコバナナクレープを食べ終えて元気になったヌロニハールは、気分を一新したのか、静かな物腰で傍に仕えるアルベルススへ元気よく言葉を掛け、破顔一笑した。
「行こっアルベルススさんっ!美容室に付いて来てくれて、ありがとうっ!!」
その笑みに微笑みで返すアルベルススは、落ち着いた物腰で答えた。
「どういたしましてヌロニハール殿。こんな儂でよければ、いつでも御用下され」
「うんっ!」
うれしそうに手を伸ばしてアルベルススの腕を捕まえ、元気よく歩き出したヌロニハールは、彼と親しげに腕を組みながら、先を行くザビグロニアとラミリアシャルファースフルの後を足取り軽く追った。
そんなヌロニハールの後ろ姿を物陰から見詰める人影が、ゆっくりと姿を消した。
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