第25話 決戦、一時休戦。新たな筋書通りの展開で
創造神メヨーテセシュルであるリファールの振る舞いを傍から見ていた琉人は、まだ陣を敷いて戦闘態勢にあるヌロニハールへ、同じく帰還するよう命令を伝えた。
「ヌロニハール。白き巨兵プロテルトと一緒に俺の所へ帰ってきていいよ。戦いは終わったから」
ヌロニハールからの返事は無く、陣を解き、白き巨兵プロテルトと共に帰還の途につくヌロニハールの姿が、遠くからでも見て取れた。
「リファール」
「どうした琉人」
「ヌロニハールが返事もしてくれないんだ」
「それはじゃな…本人が戻って来たら、聞くといい」
「ああ、聞いてみるよ」
「それより琉人、ここへ万雷の主宰ザビグロニアとその眷属神を呼んだ。おぬしから一言、今後の事を伝えてみるがよい。四天王の一柱である紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルもいるのでな」
「分かったリファール。そうするよ」
「さっ、琉人。我の隣に並んで」
隣に並ぶよう促したリファールは、隣に並んだ琉人の手を密かに握り、琉人は握り返した。
先に戻って来たのは、ヌロニハール率いる白き巨兵プロテルト50体が琉人の元へ降り立った。20メートル近い白き巨兵プロテルトは、その高さ故、琉人から後方へ少し距離を置いて50体の巨体が整然と隊列を横に組み、片膝をついた姿勢のまま動きを止めた。
白き巨兵プロテルトを配置に付けたヌロニハール一人、琉人の元へ歩み寄ってきた。
「お帰り、ヌロニハール」
琉人へ目を合わせず無言のままリファールへ歩み寄るヌロニハールの表情は、真剣な眼差しでどこかしら殺気が立っていた。
「ご苦労じゃったな、ヌロニハール」
リファールは穏やかな笑みで労いの言葉をヌロニハールへ掛けた。
リファールの目の前まで歩み寄って立ち止まり様に、ヌロニハールは涙流し、リファールの頬へ平手打ちを喰らわした。
乾いた音が、一つ響いた。
一瞬の出来事での不意打ちを喰らったリファールは瞳を見開いたまま、茫然と泣きながら平手打ちを喰らわしたヌロニハールを眺めていた。
突然の事で慌てふためく琉人は、泣きながら立ち尽くすヌロニハールへ咄嗟に言葉を放った。
「どうしたんだッ!ヌロニハールッ!」
涙で晴らした目でキッと琉人を睨むヌロニハールの口から言葉が漏れる。
「私の気持ちも知らないで…マスターなんて…だっいっ嫌いッ!!」
大嫌いと言われた琉人は平静を装うが、狼狽えながらも何とかして落ち着かせようと言葉を掛ける。
「ヌロニハール、いや、ヌロニ。どうしたんだ。君らしくない。落ち着いて、話してくれないか」
傍から眺めていた紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルは、好奇の目で横槍を入れた。
「お嬢ちゃんもかッ!そうだろ、そうだろ、分かる、分かる、その気持ち。我がメヨーテセシュルが、大好きなのように、お嬢ちゃん、百瀬琉人の事が、好きなんだな」
好きという言葉に反応してか、一気に顔を赤らめるヌロニハールは俯き、言葉が漏れる。
「マスターの為…戦って…私なりに…なのにマスターはッ!リファールと抱き合って、キスしようとしたッ!」
ヌロニハールの漏れた言葉が、冷たい乾いた大地へ吐き捨てられた。
ヌロニハールの気迫に押されてか、押し黙る琉人の顔色は青ざめていった。
そんなヌロニハールの気迫に押された緊迫した状況を打ち破ったのは、声を張り上げたリファールだった。
「ヌロニハール、我は打たれた事を、グッと飲み込んで、おぬしの事を思って、おぬしの話を聞いていたが…もう我慢ならんッ!言わせてもらうが、ヌロニハールッ!おぬしから琉人へ、自分の好きな気持ちを打ち明けたのか?自分の想いが強すぎて、我と琉人の逢瀬を見たからと言って、我が打たれる筋合いはないッ!我は、心から、琉人を愛し、好きという気持ちは嘘ではないッ!ヌロニハールよ、おぬしも琉人を好きならば、自分の態度と口で、示せッ!!」
リファールのその言葉を聞いた当の本人の琉人は、どう収拾を付けたらよいのやら足掻くだけで、どう言葉を掛けたらよいのか分からずの態だったが、紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルは驚きを滲ませつつも、落ち着いた物腰でリファールへ言葉を投げかけた。
「姉さま、神でありながら人に恋するなど、あまりにも無情過ぎます。人の年齢は限りがあり、人の子を宿すとなれば、それなりのお覚悟が必要です。姉さま…それでも、百瀬琉人の事をお慕いしているというそのお言葉、この紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフル、しかと聞き届けた。そこで、姉さま、ヌロニハール。今、この件については、一時休戦としたらどうだ。姉さまの本心を初めて聞いたのは我と同じく、百瀬琉人も初めて聞いたようだしな」
話を振られた琉人は首を縦に振り、紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルの言葉に賛同した。
「俺もリファールの口から初めて告白されたのには驚いた。ヌロニハールも俺を好きという事を今初めて知った。俺的に、おあいこだと思う。ラミリアシャルファースフルの言う通り、一時休戦して…あとで二人の気持ちに応えていきたいと思う」
「百瀬琉人もそういっているではないか、ご両人。一時休戦でよいな、ヌロニハール」
「はい」
泣き腫らした眼で琉人を見詰めながら返事を返した。
「姉さまも、それでよろしくて」
「あい、わかった」
打たれた頬を赤らめながら返事を一つ返した。
ようやく修羅場が収まった事に胸を撫で下ろした琉人は今初めて気づいた。既に帰還してきた万雷の主宰ザビグロニアとその眷属神らが、興味なさそうに待ちわびて待機している事を今知った。
雷撃が刃の秘剣ザッハーバルドロバスを構えた、十二神将の一柱、万雷の主宰ザビグロニアを先頭に、その背後には、まるで彼の影から染み出したかのような、禍々しくも美しい五十柱の眷属神たちが、一糸乱れぬ隊列で従っていた。
「ラミリアシャルファースフル」
琉人はその事を、まだ気づいていない帰還命令を出した紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルへ声を掛けた。
「なんだ」
まだ気づいていない紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルは生返事を返す。
「万雷の主宰ザビグロニアとその眷属神らが、待っているようだが…」
その声掛けでようやく気付いた紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルは振り向き、万雷の主宰ザビグロニアへ進み出るよう伝えた。
「ザビグロニア。前へ」
帰還命令の矢を放った紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフルの前に、戦傷を負った黄金色の鎧を軋ませ、万雷の主宰ザビグロニアは進み出た。
「紅蓮華の断罪神ラミリアシャルファースフル神ッ!帰還命令により、今ここに、万雷の主宰ザビグロニアとその眷属神52柱、馳せ参じたでありますッ!!」
低く轟く声とともに、秘剣ザッハーバルドロバスを冷たい地べたへ置き、万雷の主宰ザビグロニアは迷いなく片膝を突き、右拳を胸に当てて深く頭を垂れた。
背後の眷属神52柱が一斉に、等しく片膝を突き、深く頭を垂れ、鎧の擦れる鋭い金属音を乾いた大地に響かせ、額を地に付けひれ伏した。
「よき戦いぶりだった、ザビグロニア」
「ありがたきお言葉、この万雷の主宰ザビグロニアとその眷属神ら一同、嬉しく思う所存でありますッ!」
「我からは以上。ここからは、主神、創造神メヨーテセシュルの御前であるッ!そのお言葉、心して聞くがよいッ!!」
空間が歪むほどの神威を放つ主神、創造神メヨーテセシュルことリファールの隣に琉人が並び立ち、先ほどまでの傲岸な戦闘狂のオーラが、完全に消え失せ平伏せる万雷の主宰ザビグロニアとその眷属神らへ、琉人は新たな筋書通りの展開で進む話をしようと一歩、リファールと共に前へ出たのであった。
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