第2話 初めて神罰を受けます。初めてチート生産系魔術を使います
ボロ小屋で寝起きしている黒髪の赤目をした少年がいた。
その少年は親戚からも従兄弟からも虐げられ、村の人々からも忌み嫌われていた。
その少年の名は、セト・アスベル。年は12歳。幼い頃に両親を魔獣から食い殺され、天涯孤独の身ひとつで小さな魔獣を狩って生計を立てていた。
今日は年一回の村で行われるリムラ教による女神を讃える祭の日だった。
「セト、お前。祭に来るなよな。その醜い黒髪と赤目で祭が台無しだからよ」
「うっうん。僕は行かないよ。みんなに迷惑をかけるから」
「そっ、お前はこの世で一番醜く惨めなゴミだからな」
穴あきのボロ靴を履き、継ぎはぎだらけのズボン、薄汚いよれよれのシャツ、獣臭がきつい皮製のベストを纏ったその身なりは、セト・アスベルの境遇をよく表していた。
祭の日は特別だった。年に一回だけセト・アスベルは教会で美しき女神こと創造神メヨーテセシュルの礼拝が許されていたからだ。セトの心が躍る流行る気持ちを抑えきれなく、セトの足は祭の方ではなく教会の方へ歩んでいた。
祭の催しの少年少女による聖歌隊が讃美歌を歌い終えたのを見計らって、教会の中へすすみ礼拝堂奥の女神像の前まで来たセト・アスベルの瞳は輝いていた。
「セト。早く礼拝を済ませ、早う出ていけ。獣臭くてたまらん。祭が台無しだ」
「ごめなさい神父様。はやく終わらせます」
「ふんっ」
神父は鼻であしらうように一蹴すると腕を組み、セトの礼拝を冷ややかに眺めていた。
セトは願った。女神様が僕に救いの手を差し伸べてくれる。そしてこの地獄のような毎日から救ってくださると。熱心に一心不乱に願った。父さん、母さん。お願いします。女神様へこの願いを!
強く目をつぶり一心不乱に願っているセトの脳天に衝撃が走った。
僕が僕でなくなるとセトの意識が飛び、セトは漆黒の闇へと落ちて行った。
天からの閃光の矢がセト・アスベルの脳天から貫いて、そのまま冷たい礼拝堂の床に倒れたのだった。
「なっ何が起きた!?」
神父は慌ててセトへ駆け寄るが、セトは既に冷たい骸として息絶えていた。
「しっ死んでいる!」
息絶えたセトの骸がむくっと起き上がる。
慄き腰を抜かす神父は、顔が引きつって言葉を失った。
「誰が死んでいるって。失礼な神父だな。俺は転生したぱかりだというのに」
百瀬琉人は天界から女神を引き連れて転生を果たした瞬間だった。
「おい、女神。返事しろ」
セトとして転生した琉人の背後にある女神像だった石像が、生き姿の柔肌を晒した女神としてそこに鎮座していた。ただ一点だけ違っている点は、全身に拘束具で拘束され、首輪にリードで繋がれて琉人に従っていた点だけが違っていた。
「めっ女神様が。おまえ、セトなのか」
神父は顔面蒼白で震える手で女神へ差し伸べていた。
「あっ、俺はセトだけどセトじゃない。百瀬琉人だ。それにこれは俺のものだ。なっ女神」
拘束された女神こと創造神メヨーテセシュルは高笑いし叫んだ。
「我をもの扱いだと、笑わせる。我が攫われ天界が崩壊し、行き場を失った神々が血眼になって我を奪還しにくるじゃろう。ついでに貴様の討伐も兼ねてな」
「奪還と討伐か。その追撃する神々はどのくらいの強さだ女神」
「強さなんて生温い。戦を司る四天王と守護を司る十二神将とその眷属64柱が、貴様が異世界に転生したか否か、貴様を神罰の名のもとに討伐するだろう」
「神罰?俺の筋書き通りに事が運べばなんてことないさ。奴さんたち来やがったようだぜ女神様」
教会の外が騒がしく周囲が白き光に包み込まれた。
村人は皆、その場の地べたに額を付けひれ伏すしかなかった。
教会の天蓋が凄まじい衝撃で吹き飛び、白き光に包まれた天空が顕わになったその中に、白き光に包み込まれた神々である眷属64柱がいた。その姿は黄金色の兜を被り甲冑を身に纏い、手に大剣を握り、白きマントを翻して、天空の頂から見下ろし、地上にいる百瀬琉人を睨んで凝視していた。ただ深く兜を被っているせいか顔色は見えなかった。
「わっぱ、神罰を受けここで息絶えるか、ここで我らの主神を還すか。どちらか選べ」
天空に神々しく響き渡る神の声が重圧となって地上すべてを押し潰す。
畏怖し慄く生きとし生けるものは、小さく蹲るだけだった。
一段と神々の白き光が増し、琉人の周辺この世界が神々しく輝いた。
「我ら主神を還せば、神罰を免じて元の世界へ戻り再度、命を絶たれるがよい」
「どちらも、死ねっていう事か」
「左様」
「詰んでんじゃんか」
周囲を見渡せば、つい先ほどまでセトを虐げていた村人たちが、打ち震えながら地に伏して頭を垂れている。彼らにとって、目の前に現れた金色の軍勢は神の怒りそのものであり、抗えるはずもない絶対的な恐怖と畏怖だった。
琉人に対神用拘束具により拘束され、屈辱に顔を染めている女神こと創造神メヨーテセシュルは、勝ち誇ったような視線を琉人に向けていた。
「身の程をわきまえぬ愚かじゃな琉人。我が眷属たちの前で、その傲慢な態度がいつまで持つかじゃがなッ!」
天を覆いつくしているのは、圧倒的な神聖魔力の波動。その波動を発し空を埋め尽くす64柱の眷属たちが、一斉に閃光の槍を琉人に向けた。一人ひとりが一国を滅ぼすほどの力を持ち、その威圧感だけで大気がにじり、地面にひびが入った。
「いいか、わっぱ。主神を攫い主神の器を穢した罪は重い。今すぐ跪き、慈悲を乞えば、一撃で絶命させてやろう」
一段と白き光で満たされた空が、眷属64柱の閃光の槍によって一気に真っ白な閃光で眩しく染まった。
神々を拘束しようと目論んでいた琉人は気付いた。今の瞬間、物理攻撃も攻撃魔法も防御魔法も使えないという現実を知って、拘束する事は諦め冷静に解析を行った。
彼らが展開したのは、あらゆる攻撃的魔法と物理的干渉を無効化する絶対的な拒絶領域である断罪の聖域としての神域を展開している。この空間において、凡夫が放つ術式や武器の威力は、彼らに届く前に霧散し、消滅するだろう。
琉人は直感的に理解した。今の自分たちは、最強の盾に囲まれた相手に対し、素手で挑んでいるようなものだと。
「なるほど、生産系魔術ってそういう事か。魔法も所詮、素粒子物理学が適用可能だから現実的に干渉すること自体が可能という事か」
琉人が解析を終えるよりも早く、空から神々の怒りそのものである神罰の白き光の槍が無数に降り注いだ。
琉人は目を閉じ、意識を極限まで研ぎ澄ませた。彼の能力は、単なる物を作るだけの生産系魔術ではない。物質の素粒子構成要素を分解し、再構築する物質に変容して物理現象としての生産系魔術を発動させるチート生産系魔術なのだ。
琉人は目を閉じ視覚情報を捨て、世界を「素粒子レベルの設計図」として捉えた。
神罰の光が放つ波長と素粒子検出、聖域を構成するエネルギーの周期と未知なる粒子の検出。それらすべてを瞬時に解析し、脳内で物理演算を行い対抗する為の物質形成を組み立てる。
「ビルド形成完了。いけぇッ!」
琉人が両手を前面に突き出した瞬間、彼の周囲に不可視の幾何学的な陣形が展開された。
それは魔法ではなく、物理法則を極限まで突き詰めた高次元の物理的な対神用障壁が一気に展開された瞬間だった。
凄まじい衝撃波が吹き荒れる。だが、琉人の周囲だけは静寂に包まれていた。
神々から放たれた神罰の槍は、琉人が構築し形成した物理的な対神用障壁に衝突し、火花を散らして弾け飛び遥か後方で幾重も爆発した。
「なっにっ!? 我らの神罰を弾いただとッ!?魔法ではない。これは一体何の術だッわっぱッ!」
驚愕する神々に対し、琉人は不敵に笑った。だが、彼は今初めて知った。この素粒子構築形成には、想像を絶するほどの魔力の消費が著しく伴うことを。
「わっぱッ!まだまだッ!!一撃で終わったと勘違いするなッ!!!」
神々からの神罰の槍が、怒涛の如く間髪入れずに小止みなく降り注いだ。
琉人もさらに加速する。相手がさらに出力を上げるなら、こちらは防御する対神用障壁を多重展開を発動させるだけだ。
層を重ね、さらに層を重ねる。幾重にも重なった透過的な障壁が、降り注ぐ光の嵐を完璧に遮断し続けた。
しかし、限界は唐突に訪れた。
「うっ、まずい。魔力が底をつきかけている」
視界がかすみ、意識が遠のいていく。
琉人の魔力量は、この超精密な構築し形成を多重展開し発動するために、文字通り枯渇し始めていた。
そのわずかな琉人の動揺を、神々は見逃さなかった。
「限界かッわっぱッ! 己の傲慢さと未熟さと共に、塵と化せッ!」
神々が同時に右手を掲げた。それは神々の個別での攻撃ではなかった。神々の力を一つに集中させ、聖域の全エネルギーを一点に集中させた究極の一撃を喰らわそうと、空間そのものを圧壊させるほどの質量を持たせた光の奔流の一筋が、一気に琉人へと向かって放たれたのだ。
「届かない。今の魔力量では、もう一層も壁を作れない」
琉人は、自分の手が小刻みに震えているのに気づいた。
魔力が尽きた。
絶望的な静寂が、彼を包み込む。
光の奔流の一筋が、目前まで迫った。
逃げ場はない。防御手段もない。
ただ、死を待つだけの瞬間。
今まさに万事休すの展開は、筋書き通りあの方の出番ですなと判断した琉人だった。
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