第12話 筋書通りの中で、それぞれの思い
現在、第1話の若干の訂正と、第2話と第3話は大幅に加筆して推敲しております。
近く投稿を予定しております。
ぜひ一読、よろしくお願いいたします。
「マスター」
凛とした清らかなヌロニハールの声が琉人を振り向かせた。
「どうした、ヌロニハール」
「上空から6名の近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルが強襲、到達まで13秒」
「排除しろ」
「かしこまりました。マスター」
そう言い残しヌロニハールは忽然と姿を消した。ヌロニハールから漂っていた龍涎香の温かみのある甘い官能的な残り香がそこに残っていた。
青空に映える白銀のレイピア。その細い切先で眼下の百瀬琉人らを捉えた近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルの六名は、死を覚悟した特攻を敢行しようとしていた。。
近衛翼竜聖騎士団アマゾルダル団長エリザベータは、交戦まで10秒ってところだろうと逆算したその時だった。白い影が目の前に迫り、黒い拳を繰り出してきた。黒い拳をレイピアで払ったが、白い健脚がエリザベータの脇腹を深く抉った。激痛と共に地面へ叩きつけられたエリザベータは苦悶に歪む顔を上げ、その龍涎香が漂う白い影を追った。
「くッ!どこだッ!」
姿捉えられぬほど迅速な白き影によって、相手にならないほどの威力で吹き飛ばれる団員の手から弾き飛ばされた白銀のレイピアが、悲しい乾いた金属音を響かせて地面に転がっていった。
「なっなにが起きているのだ。相手はどっどこだッ!!」
エリザベータの背後で絶命の断末魔が響き渡る。一人、また一人。親しく交わり、ともに剣術の鍛錬に励んだ大切な団員たちの命が、いともたやすく消えていく。
「やっやめろッッ!!!」
エリザベータは考える事を止めた。ただ闇雲にレイピアを振りかざし、白き影を追いかけ命を落とした団員の無念に応えようとした。
「だっ団長ぉぉッ!」
「エリッサぁぁッ!」
エリザベータとエリッサは互いに駆け寄り、阿吽の息で背中を預け、迫りくる白き影から放たれる黒き拳の猛攻に耐えていた。
「ガルシア、ミザエル、アマンダ、マリーコリン。討たれました」
「そうか。お前と一緒に死ねる事は本望だ。エリッサ」
「私もです。エリザベータ」
エリザベータとエリッサは互いの背中を預け、レイピアを握り振るう右手で白き影の猛攻を耐え、空いた左手は互いの指を絡め、迫りくる死の訪れを待っていた。
ヌロニハールの猛攻を二人の力合わせて防いでいる光景を眺めている琉人は、さぞかし名のある武術に秀でている聖騎士なのだろうと感心し、あと数分で命を落とすだろうと憐れんでいた。
唐突な背後からの高笑いが琉人を振り向かせた。
「何がおかしい。冥府の王アルベルスス」
「琉人ッ!おねしのお陰で力が漲ったはッ!!」
「拘束されている分際でよく言うよ。その状態で、どうやって力が漲るってんだ?」
「哀れな人の子よ教えてやろう。あの聖騎士の死は、その死んだ御魂を我ら冥府神族の糧とするため、我の命により敢えて戦わせて死んでもらっているのじゃ。おぬしらは神にとって所詮、虫けらなのじゃ。虫けらは虫けらとして、最後に神の力となりて、自らの御魂を差し出して本望だろう。あとあの二人の御魂を喰うられば、こんな拘束具を容易く断ち切ってやるはッ!」
「誰が虫けらだって?」
「聖騎士とおぬしらが虫けらじゃッ!神の為に死ねッ!!」
「ヌロニハールっ!排除、止めッ!!」
甘い官能的な龍涎香の香りを纏う白き影ことヌロニハールの猛攻が止んだ。
死に際の満身創痍で立っているのがやっとのエリザベータとエリッサは、静まり替えたこの状況を吞み込めないでいた。
「何が起こったのだ」
「助かったのですか」
「いや、まだ分からぬ」
「エリザベータ。白い影だったのは、あの子でしょうか」
「エリッサ。あの子以外、誰もおらぬからして、猛攻を繰り出した白い影は、あの子で間違いあるまい」
「あの子一人の華奢な体と小さな拳ひとつで、団員4名を討ち、我ら二人へ猛攻を繰り出していたというのですか」
「ああ、まったくだ。途轍もない強さと美しさを兼ね備えたゴーレムだ」
「その主が、百瀬琉人」
琉人は自らの筋書き通りに展開しているとはいえ、虫けら呼ばわりし、人の命を軽んじて蹂躙した冥府の王アルベルススを何故かしら許せなかった。
それにこの異世界の神々は、何かが一つ狂っていると気付いた。
琉人は今進行している筋書きをひとつ書き加えて静かに変更した。
排除の中止命令に従いその場で待機している白き影ことヌロニハールは、マスター琉人の指示を慎ましく静かに待っていた。
琉人の傍らで事の成り行きを静かに見守っていたリファールは、上目遣いで琉人の憤った顔を見詰めていた。
「流れが変わった。リファール。瀕死の近衛翼竜聖騎士団アマゾルダルの二人を介抱し治癒してくれ」
「琉人おぬしも人の子よ」
「頼む」
「あい、わかった。あのエルフ種族の二人じゃな」
元女神である創造神メヨーテセシュル、改めリファールの、琉人に対する従順な言動に業を煮やし、冥府の王アルベルススは口を開いた。
「創造神メヨーテセシュル神ッ!神を仇名す琉人の命令をお聞きになさるのですかッ!虫けらの命を救っても、所詮、虫けらですぞッ創造神メヨーテセシュル神ッ!!」
「アルベルススよ。我はこんな身なりでも神じゃ。神が虫けらであろうと人であろうと救って何が悪い」
「お忘れですかな。我ら十二神将は、力づくで攫われた貴方様を救いに、こうやって地上に降りて戦っておるのですぞッ!!」
「わかっておる。貴公らの我を救い出そうとする尽力いたく感謝しておる。じゃがなアルベルススよ。我はこの百瀬琉人がこの世界の歪みを正してくれる存在かもしれぬと、我の創造神メヨーテセシュルの名に懸けて賭けてみたくなったのじゃ」
「世界の歪みを…あの魔神アビゼビュートによる神魔大戦の大きな代償が伴った我ら神々を…。そういうお考えであらせましたか創造神メヨーテセシュル神」
「そう事じゃアルベルスス。百瀬琉人にはこの世界で叶えたい願望とやらがあるそうでな。それを己の筋書き通りに叶えていきたいそうじゃ。我はその筋書通りに乗っかって、この世界が百瀬琉人の手でどの様に変わりゆくのか見届けたいと思ってな。どうじゃアルベルスス、おぬしも百瀬琉人に乗っかってみるというのはどうじゃ」
「そればかりは、あい分かったと申し上げることは難しいでござます。暫しお時間を」
「よく考えよアルベルスス。我は琉人から頼まれたエルフ二人を助けに行ってくるのでの。我が戻ってくるまで答えはお預けじゃ」
俯き押し黙った冥府の王アルベルススを横目に創造神メヨーテセシュル神ことリファールは、ヌロニハールの傍で瀕死の状態で地べたに座り込むエルフ二人を介抱すべく駆け出して行った。
慌ただしく駆け出して行ったリファールの後ろ姿を見送った琉人は、待機しているヌロニハールの名を呼び次の指示を出した。
「ヌロニハール」
「はい、マスター」
ヌロニハールの凛とした澄んだ声が琉人の耳朶をくすぐる。
「眷属64柱と交戦しているヴァルキルウスへ加勢。人類を虫けら呼ばわりする神々を殲滅せよ」
「このヌロニハール。マスターの憤りを胸に、神々を殲滅いたします」
膠着状態が続いている美少女ゴーレム兵団ヴァルキルウスへ加勢すべく、ヌロニハールは物音立てず姿を消した。龍涎香の温かみのある甘い官能的なヌロニハールの残り香だけがそこに残っていた。
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