31.恋という狂気こそは、まさにこよなき幸いのために神々から授けられる③
「真っ赤に燃〜える〜俺の〜左〜手〜〜を見ろ〜〜〜♫」
「リーダー、それ何のアニメ?知らな〜い」
「機工遊戯バイサンダー観てないのか?」
「見てな〜い」
「アキラ、お前知ってるよな」
「知ってるよ。土曜日の朝だよね」
「それよりもさ、キャンペラの方が良いよね。里帆ちゃん、麻沙美ちゃん、一緒に歌お」
「「「ギブギブキャンティ〜ギブギブふふふんふーんスイートキャンティふふふんふーん」」」
「三人集まっても、ふふふんばっかりじゃね~か!」
「難しいのよ!」
「わかる歌にしろよ」
「じぁあさ。パンパンパン あずまパン ゴマの乗ったカレーパン」
「CMソングかよ!」
後ろで子供たちが騒いでいる。
泣かれるよりはマシかな〜、とか思いながらも周囲を気にしながら警察署に向かっている。
富島琢三の事である。
まるで遠足の引率かハーメルンの笛吹き男かという状況で大通り沿いを歩いている。
途中で聞こえるのは、救急車のサイレンとパトカーのサイレン、そして夥しいクラクションの音。大通り沿いは、車が特攻して来ないかと注意しないといけないけど、一本二本入った所では、大乱闘が起こっているのか、凄まじい喧騒がきこえてくる。
「どちらが安全かと言うと、まだ大通り沿いの方がマシなんだよなぁ」
そんな事を呟く。
気にはしながらも、後ろを振り向くのが怖かった。ちょっと前に振り向いた時には、既に子供が十人を超えていた気がする。今はもう何人になっているのか?下手をすると、一クラス分くらい居るのではないだろうか?
幸いな事に、この不安感と心配性、使命感と諦めが、琢三の精神を護っているんだが、琢三はそれを知らない。
「あっ、この辺で祥くんがネズミを見たって言ってたんだよ」
「ネズミって、大笑いする鼠か?」
「うん、変だよねぇ。ネズミだって笑うに決まってるのに」
「バーカ、鼠は笑わないんだよ」
「あ、バカって言った。バカって言う人がバカなんだよ」
「うるせえよ。アキラ、お前なら知ってるよな、鼠が笑わないって事」
「うん?笑う動物は、人と猿系とネズミでしょ。前にクイズ番組でしてたよ」
「違うんだよ。腹を抱えて大笑いしてたんだよ」
「変なリーダー。トム◯ジェリーを観たことないの?めっちゃ笑ってるよ」
「あ、観たことある。レミ◯レストランでも笑ってた」
「可奈美ちゃんも観たんだ。この間、テレビでしてたよね」
「うん、パパがあの系統のアニメ好きだから」
「あ、ウチのママも好きって言ってた」
「なっちゃん家も?ウチのママも好きって言ってたよ」
「ウチも」
「「ウチも」」
「「「ウチも〜」」」
ん、後ろで鼠談議が起こってる。また新しい名前が出てきた気がするし、それぞれが自由に喋るから、騒がしい。学校の先生って凄いよなぁ。
声達が列を壊して鼠探しを始める気配がしたから、振り向いて声をかける。
「お前ら、ちゃんと────」
え、一クラスどころじゃない⋯⋯⋯⋯。一学年⋯⋯くらい居る?
「は〜い。分かりました〜」
「皆んな、ちゃんと列出歩くんだぞ!」
「「「「「「は〜い、リーダー」」」」」」
意外とちゃんとしたお子様たち。
琢三は振り向くのが怖くなって、前を向く。
お弁当屋を過ぎてそろそろ警察署が近付いた頃、パンパンと言う空気を割くような高い音が聞こえた。
銃声。
琢三は、自分の楽天振りを呪った。
そんな事、少し考えれば分かる事だった。原因は分からないけど、町の人達があちらこちらで殴り合う程の異常興奮している。警察官だって人だ、警察官も異常興奮していたって可怪しい事じゃない。そして、警察は拳銃を持っている。
撃つよなぁ。
絶対に撃つよなぁ。
撃たないはずがないよなぁ。
どんなにしっかりした警察官だって人だし⋯⋯、撃つ人いるよなぁ。
「ねぇねぇ、リーダー。パンパンっていったよ。鉄砲かな、ね、ね、鉄砲よね」
「うん、たぶん⋯⋯」
「マキちゃん、鉄砲は、パン、パンだよ」
「バキューンだよ。テレビで観たもん」
「パーンだって」
「ダダダダダってのも聞いたことあるよ」
「じゃあ、ダンダンダン」
「ズキュン!」
後ろで、拳銃の音談議が始まっている。
絶対にパン!だと思いながらも、琢三は口に出さない。心の中で微かに突っ込む。
「バンだよ」
(それは、昔のアニメの野球選手。魔球を受けるキャッチャー。ピッチャーにもいたっけ)
「ダダ!」
(それは、ウルトラ◯ンに出てくる宇宙人)
「パーン」
(それは、初期のロード◯島戦記の主人公)
「バキューン!」
(それは、恋の狩人の指先から出る音)
「ズキュン!」
(それは、恋に落ちた音)
なんて突っ込んでいても、このまま警察署に行くのは危険。
琢三は、目的地の変更を決めた。
大学に向けて、歩き出す。
二学年以上の子供たちを引き連れて。
「ねぇねぇ、リーダー。祥くん見た?」
「見てねぇよ」
「祥くん大丈夫かなぁ。ねぇねぇ、リーダーどう思う?」
「知らねぇよ」
「リーダー冷たぁい。祥くんの事、心配じゃないの?」
「本当に煩いな、お前。ミドリと大違いだ」
「なんで、黒瀬さんの名前が出るの?」
「それはねぇ、リーダーがミドリちゃんの事が好きだからで〜す」
「バ、バカ。んなんじゃねえよ」
「中田くん、黒瀬さんの事好きなんだ〜」
「ミキがね、祥くんの事好きなくらい、リーダーはミドリちゃんが好きなんだよ」
「え〜!そうなんだ〜」
「えっ、誰が誰を好きだって?」
「ん、リーダーがね、ミドリちゃんを好きなの」
「バ、バ、バ、バ、バ、バカヤロウ!」
「ヤロウじゃないも〜ん」
「え、中田くん、黒瀬さん好きなの!」
「バカーーーーー!」
子供たちは騒がしい。




