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その猿はハハハと嗤う。  作者: 昊ノ燈


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28.子供と動物はずいぶんよく似ています③

「何だこれ⋯⋯」 


 三板計測機器の営業マンである新庄義貴は、俯きながら言葉を溢した。


 朝一からの営業途中で駅地下の人気店でマカロンを買い、気になる後藤雅のいる大学の研究室に差し入れをするつもりであった。

 朝一から営業先を廻るのは、ままある事であったが、それ以降の事はほぼ完全に私用。幸いなのは、営業出無精気味である新庄に対し、常々『営業たるもの夜討ち朝駆けが重要である』と説いてくる所長が、朝一から営業に出る新庄を笑顔で見送ってくれた事くらい。本来なら大学廻りの御用聞きなんて月イチ行けば良い方で、下手すれば二月に一回の訪問で済ませる事もある。それが、このところ週イチで訪問している。そろそろ週に二回は訪問しようかとも考えているところだ。


 最初は良かった。

 どうしても今日中に訪問しないといけない営業先があったけど、スケジュール的に朝一しか時間がとれないから始業すぐに営業所を出た。

 いつもイライラとした顔で営業に出ろと煩い所長が、笑顔で手を振って送り出してくれたけど、あの人は壊れている。『夜討ち朝駆け』はまだ許せるけど、残業中に『ライバルはコンビニだ』なんて普通に言ってるのは、壊れているとしか言いようがない。24時間営業で365日休み無しがライバルなんて、あり得ない。だったら営業もシフト制にしろよ。

 まぁ、今更だけど⋯⋯。


 そして、営業先を一軒回ってから、駅地下の人気店に並んでマカロンを買う。平日の午前中の為か、ハイソサエティな御婦人達が並ぶ中に一人スーツは、ちょっと恥ずかしかったけど仕方ない。でも、何故マカロンって高いんだ?あんな小さいのが380円。普通のケーキが買えるぞ。絶対に普通のケーキの方が食べた感あるし、食べた感だけなら太鼓饅頭の方が上。二個は買える。とは言え、一つ二つだけ買うのも何なんで、八個入りの箱を買う。ちょっとお得で3000円。本当にちょっとのお得だ。太鼓饅頭なら何個買えた事やら。

 そして、昼メシを食べて大学へ行くわけだが、昼メシにも悩んだ。

 いつも通りラーメン屋にでも行こうとしてたんだけど、ラーメン屋はNG。ニンニクが入っている可能性がある。そうなくても、ラーメン後の口臭って、意外と臭い。その上、ニンニクでも入っていた日には、ただの営業くらいなら気にしないけど、今日だけは絶対にNG。ウドンか蕎麦という手もあるけど、出汁臭がしたら嫌だ。出汁臭なんてキスするぐらい近付かないと分からないと思うけど、可能性ある?ない?ないか?ないよな⋯⋯でも、万が一があるかもしれないからNG。汁がカッターシャツに飛び散っても恥ずかしいからね。だからハンバーガーもNG。昔、ケチャップが垂れた事があったんだよね。で、結局、牛丼をチョイス。牛丼なら大丈夫だろう。うん。

 それにしても、昨今のニンニクブームは何?ブームって程じゃないけど、ニンニク、市民権を得過ぎじゃないかと思う。何でもかんでもニンニク使って。料理番組でも『香り付けにニンニクを炒めて』って、臭い気にならないの?絶対にこれから人に会う可能性がある昼になんて、ニンニク駄目でしょ。別にニンニクが悪という訳じゃないけど、時と場合を選ぼうよって話だ。餃子は好きだし。


 そこから私鉄を使って大学付近の駅へ。

 営業車だったら大学までそのまま乗り入れができるのだけど、車だと結構面倒臭いんだよな。渋滞するし。遠回りになるし。


 まあ、ここまでは良かった。

 問題は、駅に着いてからだ。妙にパトカーの音が聞こえてくるから可怪しいと思ったんだよ。でも、何があったのかなんて分からないから、そのまま歩いて行くよね。

 そしたらさ、商店街に人が沢山いるのが見えたんだよ。その向こうに黒煙が上がるのも見えたから、火事で逃げ出してきた人が集まってきてんのかなって。スーツに煙の臭いが付いたら嫌だから、商店街を避けて行こうとしたところ、急に殴られた。小学生の頃に同級生と喧嘩した時以来のグーパン。それが右頬に。

 ぐらついて倒れかかるところをカッターシャツを掴まれてもう一発。

 なんだよこのオヤジ。あぁ?お前が踏んでるのは3000円もしたマカロンなんだよ!

 イラついた、イラついたイラついたイラついたイラついたイラついたイラついたイラついたイラついた。訳が分からないくらい腹が立った。


「クソがあぁ!!」


 殴った。

 マカロンの箱を踏むオヤジの胸元を蹴り倒してて、横っ面を踏みつける。


「腹が立つわぁ!なんなんだよクソが」


 しゃがんだまま指さして笑ってるガキらを蹴る。

「中坊が大人を笑ってんじゃねぇぞらオラ!」

 

 なんなんだよこれ。悲しくなってくるよ──悲しい、悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい。涙が溢れてくる。


「うわぁああぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 悲しい、悲しいよ。

「ガキが笑ってんじゃねぇよ!」

 ああ腹が立つ。



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