27.子供と動物はずいぶんよく似ています②
「何だこれ⋯⋯」
目の前には燃える車。1⋯⋯2⋯⋯3⋯⋯4台か。
その向こうに殴り合う人々。
新しい荒くれ者が乱入する。『くおぉらぁ、うちのカワイイ娘に、クソガキつった奴はどぉいつだぁぁぁ!』って、叫びながら走っていったよ。おお、髭面のオヤジの膝を踏み台にして水平飛びヒザ蹴りで意識を絶ったよ。シャイニングウィザード!華麗に大技を披露しながら、ローキック、ジャブと小技で繋ぎ、右手側にドロップキック。身体能力の異様に高過ぎるオバさん。
そして、その娘というのが、俺の横にいる。おれのズボンのポケットに手をかけて、グシグシと泣いている。
俺も何かザワザワして、ムシャクシャしてきて、怒りのままに殴りまくりたいという欲求と、泣いてる女の子に掴まれて、振り払うこともできずにどうして良いか分からずに、泣き出したい気持ちが沸々と湧いてくるんだけど、自分よりも怒り、悲しんでいる人を見ると、逆に冷静になってくる。
と、言っても、このままここにいても乱闘に巻き込まれても危ないし、燃えてる車が爆発しないとも限らない。
仕方なく──
「お嬢ちゃん、名前は?」
女の子の名前を聞く。
女の子は、ヒックヒックと鼻を鳴らしながら『ミキちゃんはね、ミキちゃんっていうの』と教えてくれた。
「お兄ちゃんはね、タクゾウ。富島琢三っていうんだよ。でね、ミキちゃん、ここに居ても危ないから、お兄ちゃんと避難しようか?」
「うん」
でも、何処に避難したら良いのか?近い所といったら、亮太のコンビニだけど──コンビニが避難先に向いているとも思えない。大学まで行っても良いけど──知らない女の子を大学に連れて行くっていうのも、犯罪者っぽいし。
となると、行くのは警察署一択か。
群衆に見つからないよう、刺激しないように、ソロソロと後退し、路地を抜け、警察署を目指す。
それにしても、なんなんだろうこの喧騒は。明らかに変だし、自分自身についても変だと感じる。無性に腹立たしかったし、大声を上げて泣きたいくらい胸が掻き乱された。でも、冷静に冷静に。女の子を連れているんだ。ちゃんと警察署に保護してもらわないといけない。──でも、幼女誘拐とか連れ去り事件とかにならないかな?ならないよな?
不安が心を過ぎりながらも、冷静を心掛けながら歩く。
路地を抜けた先を左手に行けば、亮太のコンビニ、そして大学へと繋がる。右に行く。車通り沿いに出て駅と反対方向に行けば警察署が見えてくるはず。
路地から出て、チラと亮太のコンビニの方を見ると、確かベヴさんとかいう店員がタンクトップの兄ちゃんと闘っていた。『トラック競技ヲ馬鹿ニスルンジャナイヨ』とか聞こえた気がするけど、聞こえない聞こえない。華麗なフランケンシュタイナーも見えた気がするけど、見えてない見えてない。
人目を避けながら車通りに出て振り向くと、子供が増えていた。1⋯⋯2⋯⋯3⋯⋯いっぱい。俺、ハーメルンの笛吹き男?
途中、薬屋のサ◯ちゃん人形を引き摺るサラリーマンとすれ違った。どこかで合った気がする男だったけど、どこだったか記憶が薄い。そんな男が台座付で重いであろうサ◯ちゃん人形の鼻を握り、ズルズルと歩いている。
目を合わせたらいけない気配がバンバンとするので、絶対に目を合わせない。
「ところで、向かってんだ?」
「警察署。それでリーダーは?」
「はぁ?お前までリーダーって言ってんじゃねぇよ」
「え〜、だって翔くんがリーダーって言ってたもん。だからリーダーなの!」
「いつでも翔くん翔くんかよ。ママがよ──」
「リーダー、ママって言ってんだ!」
「はぁ、お前もママって言ってただろ!」
「マキちゃんは、マキちゃんだからママで良いんですぅ」
「ウゼェ。どうでも良いだろ!でな、マ──母さんが──」
「あ〜、言い換えた!」
「本当にウゼェ!いぃよ、ママがな──」
「ママ?」
「ああ、ウゼェ、ウゼェ、ウゼェ、ああ、ママがな──」
「あっ、可奈美ちゃん。里帆ちゃんも!大丈夫?一緒に行こ。このお兄ちゃんが警察署に連れて行ってくれるんだって」
「き、聞けよぉ」
「あ〜!麻沙美ちゃ〜ん!こっちこっち」
「聞いてくれよぉ⋯⋯」
「静香ちゃんも!こっちだよ〜」
「き、聞いて⋯⋯⋯⋯ヒック」
──ポンポン
「えっ、あ、アキラ!聞いてくれるのか?」
「うん」
「ア〜キ〜ラ〜〜、心の友よ!」
どんどん増え続ける子供たちを背に、なんだかなぁな琢三だった。




