25.目は心の窓である④
「素数を数えろ!」
2.3.5.7.11.13.17.19
突然叫んだ良兼准教授の言葉に、数字が頭を走り抜ける。
翠ちゃんと雅お姉さん。
「0.1.2.3.5って、0は入ったっけ?」
「素数は2からよ」
「えっ、なんで0や1は入らないの?」
「素数はそういうものだから」
「はい。2.3.5.7」
「後藤くん、君はフィボナッチ数列」
「はい。1.1.2.3.5」
良兼准教授の指示で雅お姉さんは、フィボナッチ係数を数え始める。
雅お姉さんは、『そういうものだから』って言ったけど、それは良くないと僕は思う。何事にも理由があるし、その理由を知ってこそ知識が高まると思っている。
ちなみに理由は、素数の定義が『1とその数自身以外に約数を持たない数』だから、1は、『約数が2つ』という条件を満たさないので、素数から外されているんだ。0は言わずもがな。
でも、僕は0が入らない、もう一つの理由も知ってる。素数が無数にあるという事は、紀元前三世紀頃には既に証明されていた。でも、数字としての『0』は、七世紀のインドの数字者によって発見されたんだ(それ以前にも、記号としての『0』はあったらしいけど)。つまりは、素数の発見時に『0』はまだ数字として認識されていなかったんだ。これを知った時は、ちょっと盛り上がっちゃったよ。
でも、これは『僕だけが知っている事』にはならない。だって、『0の発見』の凄さは有名だし、『素数』についても、2024年に新しい素数が発見されたって、ニュースでしてたから。新しい素数の発見に懸賞金がかかっているってのは知らなかったけど。
でも、フィボナッチ数列については、存在自体を知ってる小学生は、僕だけだろうと自信を持って言えるから、僕だけが知っている事だ。たぶん⋯⋯。
雅お姉さんは、114.233⋯⋯と、まだ計算を続けてるけど、翠ちゃんは既に奇数になっていってる。2.3.5.7.9.11.13って、何?
それ以前に、何故良兼准教授は素数を言わせたんだろう?
見つめると、一枚のコピー用紙を見ながら、納得しているようだ。
「やっぱりな⋯⋯。皆、落ち着いてきたみたいだな」
「え〜っと、網しじゃなくて、良兼准教授さん、何のことですか?」
「ん、これはな⋯⋯って、それよりも。いいかね、『さん』とは、『様』が変化したものだと言われている。つまりは、君が今言った言葉は、『准教授様』ということだ。これは二重敬語となり、日本語としてはおかしい。いや、英語とかでもおかしいだろう。君はMR.Dr.〇〇なんて聞いたことがないだろう。言い直したまえ」
しくじった。二重敬語が駄目って知ってたのに。つい、言っちゃった。網白走男っ言いそうになったから、焦ってしまったよ。
「すいません。良兼准教授、それは何ですか?」
「ふむ、素直な子だな。若干質問の内容が変わったようだが、良しとしよう」
そう言いながら、良兼准教授は手に持ったコピー用紙を差し出してきた。
それには、こう印字されていた。
『やはり、感情というものは広がっていく。伝染し、精神を侵食するウイルスのようなものなのだ。
野生の我等にこんな感情があっただろうか?いや、正しく言うと、野生の頃なんて無かった我等かもしれないが、分かる。目的の為の感情はあったかもしれないが、感情から目的が生まれる事はなかったはずだ。我等の心に感染した感情は、ゆっくりと、いや、爆発的に、いや、緩やかにか、いや、時として、あ
いや、ここは、やっぱり感染病のようにが良いか。あっ、さっきのところは消しておいてくれ。【BS】というキーがあるだろう。それを押すんだ。
こら、今のところを打つんじゃない分かってやってるだろ。こんなところを打つんじゃない。会話なんて打つな。
つまりだ、感情とは、心に感染するウイルスのようなものなのだ。
ん、結局、主題を繰り返すだけになってしまったのか?ちょっと見せてくれ。
だから、こんな会話まで打つんじゃない。プリントアウトだ。プリントアウト』
なにこれ?
言葉をそのまま入力したような文(?)。
「これは何ですか?」
「わからん。猫が咥えていた物だ。だが、今の現状は、この文の通りなのではないかと考えている」
「猫って?」
「君は知らんのか?見えない壁のトラ猫を。いいかね、この猫というのは──」
良兼准教授は、壁猫の事を時系列に話始めた。
知ってる。
知ってるよ。この町の事だし、なんなら、第一発見者の明くんは一緒にいたんだから。あっ、明くん。どうしよう。置いてきちゃったよ。
僕が悩んでいる間にも、良兼准教授の話は続く。壁が壊れて、トラ猫が姿を消してからも探していた事。数回、発見して追っていた事。そして、今日、コピー用紙を咥えたトラ猫を発見して、追っていた事。人々の目の色がおかしくなり、暴動が発生した事。
「つまりな、何かの影響で人々の感情が制御不能な程に振り切っているんじゃないかと言う事だ。いいかね、大事なところだから再度言う。人々の感情の振り幅が大きくなっており、それを紐解く鍵がこの猫が咥えていた紙にあると推測できると言う事だ。解ったかね」
ん、解りません。




