22.目は心の窓である①
何故か明くんと翠ちゃんの三人で歩いている。
考えてみれば、今までにない三人組だ。クラスも同じだし、別に仲が悪い訳でもないし、同じ班ですらある。
何故かと考えれば、なるほどなと腑に落ちる。流れのままにこの三人になった。
事の始まりは、『網白走男を見た』というリーダーの一言だった。そこで、翠ちゃんが『網白走男』の現物を見たこと言い出した。発砲事件、カードショップ強盗から一週間。下着泥棒殺害事件から一週間と一日。未だに解決していないけど、一斉下校は先週で終わっている。解決してないのに良いのかな?って思うけど、僕の考えることじゃない⋯⋯と、思う。
それで、班のメンバーとマキちゃんの皆んなで『網白走男』を見に行こうとなった。だけど、リーダーは空手教室の振り替えがあった(先週、事件の関係で空手教室が休みだったから、今週は二回あるらしい)のを思い出して、離脱。マキちゃんも、お母さんから連絡が入って、離脱。結局、この三人になってしまった。
三人になって分かった事だけど、明くんも翠ちゃんも静かだ。と、言うよりも喋らない。僕もあまり無駄に口を開かない方だと思っているけど、それ以上だ。
僕は、前々からの疑問をぶつけてみた。
「ねえ、翠ちゃん、前から疑問に思ってたんだけど、聞いてもいい?」
「なに?」
「学校で話している時にさ、『サボる』って単語がでたら、足をトントンってするよね。あれ何?」
「あっ、見てたんだ。ストーカー?気があるの?マキちゃんがいるのに?」
あっ、そっちにとられた。僕にはまだ恋愛とか、早いと思うし、何となく、ずっとマキちゃんがいるような気がしてるから、将来的に結婚できないかもとかいう不安は無い。だから、決してストーカーとかじゃない。だけども訝しげな目で見られてる。と、焦る僕を援護してくれたのは、明くん。
「あっ、僕も気になってた」
ちょっと早口で話に入ってきた明くんも、会話の糸口を探してたんだろう。
「明くんまでストーカー?」
ちょっと面白そうに目を細めた翠ちゃんは、言葉を続ける。
「まあいっか、教えたげる。『サボる』ってね、『サボタージュ』でしょ。『サボ』って、『木靴』って意味なのよね。その昔、木靴ができあがるのが遅かったから、職人さんがサボってるんじゃないかって意味で『サボタージュ』って言葉ができたとか。それとね、昔の労働者が仕事を休む為に、木靴で機械を蹴ったりして壊したから『サボタージュ』って言葉ができたとかの意味があるのよ。だから、『サボる』って言われると、靴をトントンってするの。分かる?」
疑問形で締めたけど、疑問形じゃない。
凄まじいドヤ顔の翠ちゃん。
「だったら、『とにかく』のところで、笑ってるのは?」
「よく見てるね。流石はストーカー候補生」
気が付けば、変な候補生になってた。
「『とにかく』はね、漢字で書くと、『兎に角』ってなるの。『兎』に『角』だよ。知ってた?」
「知ってる」
「明くんは?」
「知らなかった」
『兎に角』は、僕も前に調べた。僕だけが知ってる知識の中の一つだ。でも、だから何?翠ちゃんの行動が分からない。
「ストーカー候補生二号が知らなかったのは仕方ないとして、知ってたのに意味が分からないストーカー候補生一号は、問題よね」
「え?」
「そもそも、平仮名の『とにかく』は、『なにはともあれ』とか『いずれにしても』って意味なんだけど、ここは知ってるわよね。漢字を使った『兎に角』っていうのはね、仏教用語の、あれ、そう、亀の⋯⋯⋯⋯」
「『亀毛兎角』」
「よく知ってるね。そう、その言葉の『兎角』のところを当て字にして、『兎に角』ってなったんだよね。だからさ、みんなが『とにかく』っていうところを『兎角』本来の『ありえない』って意味に脳内変換して聞いてるの」
「面倒くさ⋯⋯」
「んっ?」
あっ、言葉に出てた。
面倒臭い事してるなぁって思って聞いてたら、言葉に出てたよ。それに、そんな事で面白いか?でも、自信満々な翠ちゃんのドヤ顔は、少し鼻の穴が開いて、すっごくブサイクで、少し、ほんの少し、微かに好きかもしれない。
ふと横を見ると、いかにも頭の中に???って出してるような明くんがいたから、ちょっと説明しておいた。
『亀毛兎角』っていうのは、亀の甲羅には毛が生えない。兎には角がない。だから、ありえないもの(事)として使われる。
そうだとしても、毛が生えた亀の絵って、昔の絵で見たことある。兎に角って、某人気ゲームのアルミラージ?正しくは、アル=ミラージュ。伝説ではアレクサンドロス大王がもらったんだったっけ。黄色い体に黒い角。インド洋にあるとされる竜の島に生息。アル=ミラージュを見ると、他の動物達が逃げ出すとか、人の言葉を話すとか、二本足で歩くとか、なんか伝説が色々と書いてあった気がする。
でも、何故に亀と兎?
亀だったら、もう一方は鶴でしょ。
亀と兎って、イソップか?
「翠ちゃん、雑学とか好きなの?」
「え、明くん嫌いなの?雑学はみんな好きでしょ。クイズ番組とかあるじゃん」
雑学なんだ⋯⋯。
翠ちゃんは雑学レベルなんだ。僕は、雑学を超えて『僕だけが知ってる事』レベルになってるから。僕の方が上だ。
「すごい。他にどんな事を知ってるの?」
「もぉ、明くんは欲しがりなんだからぁ。分かった。『コギト・エルゴ・スム』なんてどお」
「こぎとえるごすむ?」
「えぇ、知らないのぉ。昔の偉い人の言葉だって書いてたよ。『春高恋愛事情』で教育実習の朔間くんが言ってたんだよ。葵ちゃんは朔間くんが好きなんだけどね。教育実習の最終日に告白するんだ。あのシーンは良かったね〜。萌えるわ」
「あっ、知ってる。アニメもシーズン3がもうすぐ始まるよね。姉さんが全巻揃えてる」
「えっ、明くんも知ってるの。男の子は観ないタイプのマンガだと思ってた」
「観てるよ。と言っても、姉さんが観るから観てるようなもんだけど」
「今度、お姉さん紹介して!」
そんな事を翠ちゃんと明くんが話しているのを聞いてたら、突然、翠ちゃんが大きな声を上げた。
「百戦錬磨の超絶美人の雅お姉さん!」
誰それ?
プラトンです。
おそらく、ニーチェの次くらいに有名な哲学者だと、私は思っています。




