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その猿はハハハと嗤う。  作者: 昊ノ燈


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19.真理は、子供の口から出る③

 まだ事情聴取を受けている亮太兄ちゃんに軽く手を降って、コンビニを出る。

 少し先のカードショップは、シャッターが半分に千切られ、割れたガラス越しに店内が見えた。その有り様は強盗と言うよりも、海外ニュースで見た暴動みたいだ。

 お父さんは並んだパトカーの間を通り、僕とマキちゃんに自販機で麦茶を買ってくれた。緊張して喉がカラカラだったんだよ。コンビニで買う雰囲気ではなかったから、自販機で買うのは仕方がない。

 それにしても、お父さんは分かってる。ちゃんと緑茶やウーロン茶じゃなくって健康◯ネラル麦茶を選んでくれた。これが美味しいんだ。次点で◯かんで作った麦茶、その次が十◯茶だ。自称ペットボトル麦茶ソムリエとしては、厳しい審査の上の順位がある。

 マキちゃんは、下の方の段にあった◯っちゃんオレンジ味が良かったみたいだけど、ありがとうって言って大人しく飲んでる。

 お父さんは小さな缶のコーヒーを買って、一気に飲むと、それを灰皿に煙草に火をつけた。


 僕は、煙が行かないようにと僕たちから一本二歩と遠ざかるお父さんに質問する。

「ねぇ、お父さん。どうしてあんな事するのかな?」


 お父さんは、煙が僕にかからないように上に向かって吐くと、また一歩遠ざかりながら答える。

「ウ~ン、闇バイトかなぁ。でも、あんなに人目を引く程の音楽をかけながら強盗ってのも変だし、普通の強盗だろうな。でも、目の付け所は良いかもしれない。トレーディングカードだったら軽くて小さいから盗み出すのも簡単だし、宝石店ほどセキュリティもしっかりしてないだろう。それに、ネットで売りやすい。まぁ、金目当てだろう」

「だったら、真面目に働けば良いのにね」

「そうだな、真面目に働くのが嫌なんだろ。真面目に働いて真っ当に生活するか、楽に人の物を奪って遊ぶか、価値観の違いだな」

「価値観って、あれはシュプランガーの六つの価値観みたいなやつ?」

 お父さんがシュプランガーを知っているかどうか分からないままに言ってみた。おそらくと言うか絶対にミキちゃんは、シュプランガーを知らないだろうし、お母さんに言っても、誰それって言われるだろう。でも、お父さんは、変わった事を知ってるから大丈夫だろう。


「シュプランガーか、難しい事を知ってるな、ショウは。ドイツの心理学者だったっけ。お父さんも昔読んだ事があるよ、自己分析もしてみた。でもな、ショウはどう思う、お父さんは絶対に自分は『理論型』が高いと思ってたのに、『審美型』が高かったんだぞ。おかしいと思わないか?変だろ!ショウも一度分析してみな。ショウなら、お父さんがなれなかった『理論型』になれる気がする。帰ったら確認だ。お父さんのリベンジを頼んだぞ!」

 お父さんは知ってた。

 でも、何故かお父さんは、『理論型』に憧れてるみたいだ。確かに、『理論型』『経済型』『審美型』『権力型』『社会型』『宗教型』からどれか選べと言われたら、『理論型』を選んじゃう気がするけど、別にゲームの職業選択じゃないんだから、選択できるもんでもないんじゃないかな。

 って、僕はここで思い出した。僕がシュプランガーを知っているのは、本を読んだからだ。それも、お父さんの本棚に入ってた本。お父さんがシュプランガーを知ってるのは当たり前だ。僕よりも詳しいのも当たり前だ。


「でもさ、犯罪みたいな悪い事よりも、カードが大事なんだね」

「トレーディングカードというよりも、お金かな。人の迷惑よりも、楽してお金が欲しいってのが、あの男達の価値観なんだろうな」


 なんかお父さんは、良いこと言ったみたいな感じで、言葉を締めくくった。煙草を空缶の中に押し込んで歩き始める。

 僕はマキちゃんの手を握り、後を追いかける。先生が、一斉下校の時は隣の人と手を繋いで歩きましょうって言ってたのを思い出したからだ。今は一斉下校じゃないけど、同じようなもの。


「ねぇ、お父さん。さっきの人達、笑ってたんだよ」

 お父さんは、振り返る。

 僕は思い出していた。あの騒々しい車から降りてくる時の男達の事を。

 どうやって七人も乗ってたのか分からないけど──運転席に一人、助手席に一人なら後ろに五人。後ろの五人はどういう体勢だったんだろう。四人無理して座って、一人が膝の上で横になってたのか?三人がシートに座って、隙間に重なるように二人?いや、五人が斜め半尻に生八ツ橋みたいに座ってたのか?──イヤイヤ、そんな事よりも、あの人達、笑っていた。目深にかぶったキャップのせいで目元は見えなかったけど、口が繊月(三日月よりも細い月、陰暦の二日目)みたいに、口角が上がってたんだ。赤羅様に口を開いて笑っていた人もいた。

「価値観って、感情を変えるのかな?感情が価値観を変えてしまうのかな?」


 僕の質問に、お父さんは難しい顔で『さぁ、どうだろうね』って言った。


 マキちゃんは、怖かったねって言いながら、繋いだ手にちょっと力を入れた。

 僕もちょっと力を入れ返す。



 ちなみに、『あからさま』だけど、『明ら様』とか、『白地』とか、『赤羅様(あからさま)』があるけど、どれも当て字みたいだ。だとしたら『明ら様』の方が意味的には良いような気がするけど、僕的には『赤羅様』が好き。何となく意味深だから。

 僕の予想だけど、『赤羅様』って、ひょっとして不動明王の事じゃないかなって思っている。だって、不動明王の絵って赤色で描かれている(愛染明王が青色)。何となく赤羅様って雰囲気がない?





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