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その猿はハハハと嗤う。  作者: 昊ノ燈


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17.真理は、子供の口から出る①

 塾には、マキちゃんのお母さんが白くて長丸い車で送ってくれた。普段は歩いて通う距離なんだけど、車だとあっという間だ。帰りは、僕のお母さんが迎えに来てくれる事になっているらしい。理由を聞くまでもないけど聞いてみたら、例の事件の犯人が捕まっていないからだと言っていた。


 塾の前は車がいっぱいで、子供だけを降ろして矢継ぎ早に去っていく。中田(リーダー)さんも、車で送られてきた。

 僕たちは、軽く手を振って挨拶すると教室に入る。

 塾の間も、僕とマキちゃんの間は変わらない。マキちゃんはあいからわず『凄い凄い』と『ダメだぞ♡』を連発してくるし、僕はそれをなんか違うなって思いながら見ている。

 ああ、帰りはお母さんが迎えに来るんなら、亮太兄ちゃんのコンビニに行けないな。なんて考えながらノートをとる。お母さんは、コンビニに行こうと言うと、すぐに『勿体無い』とか『家まですぐでしょ』って言う。

 行けないって分かると、行きたくなるのは、人間の業なのだ。


 (カルマ)って言えば、マンガとかだと前世的な意味合いでよく使われてるけど、本当は、行為や行為の結果が蓄積される事を言うんだって。

 行為は、良い行為であっても悪い行為であっても、いずれ必ず自分に返ってくる。つまりは因果応報の事なんだと思う。

 確か、カルマはサンスクリット語だったかな。

 突然の僕だけが知っている事でした。


 僕のカフェイン取得の一時がぁ。

 なんて、悲観に暮れる間に塾が終わった。

 うん、今日の塾は、全く身が入らなかった。お母さんだったら、絶対に『しっかりしなさい』って言うんだろうな。

 でも、『無理に強いられた学習というものは、何ひとつ魂のなかに残りはしない』プラトンだったかな?ちょっと意味は違うかもしれないけど、そんな感じ。


 塾が終わると、来た時と同じように塾の前は車の列ができてた。僕とマキちゃんは、お母さんの四角い黒緑の車を探したけど、見当たらない。

 リーダーのお母さんが心配して、送って行こうかと、誘ってくれたけど、お母さんが来る予定になってるからと、丁重にお断りした。

 その間にも、沢山の車が子供を積んでは帰っていく。

 何故かマキちゃんは笑いを堪えているように、ニタニタとして、僕の方を見ている。僕がウロウロと車を探しているのが面白いんだろうか?だとしたら意地が悪い。絶対に狼狽えてやらない。どっしりとお母さんを待ってやる。

 と、言いながらも、車列が短くなっていくと、不安を覚える。そして、僕の不安がちょっと顔に出そうになってきたところで、後ろからいきなり手刀がトンッて落ちてきた。


「泣きそうな子供がいる〜」


「あっ!」

 そこには、お父さんがいた。

 突然笑い出したマキちゃんからすると、お父さんはかなり前から隠れて僕を見てたんだろう。僕のお父さんが隠れているのを、マキちゃんは知ってたんだ。

 それにしても、この人は、こんな事をする。そして、次に言うのは、『可愛いショウが見えた〜』だ。決まって、そう。

 お父さんは、いらないイタズラが大好きだ。普段はすぐに飽きたぁとか言うくせに、いらない事をする為なら根気強く、面倒も厭わない。お母さんが言うには、お父さんは付き合った時からそうなんだそうだ。それを面倒くさそうに言う。だったら何でお父さんと結婚したの?って思うけど、家庭の平和の為に言わない。


「いやぁ、いつ見つかるかとドキドキしてたけど、見つからなくって良かったぁ。可愛いショウが見えた〜。ん、マキちゃんも良く我慢したね、おじさんが褒めてあげよう」

「エヘッ。私も可愛い翔くんが見えたから」

「イエ〜イ!──パチパチ」

「イエ〜イ!──パチパチパチ」


 イエ〜イじゃないよ。

 そして、何で拍手してんの?

 軽くグータッチしてから拍手をする二人を、ジト目で見つめる。次第に残った塾生達がこっちをチラチラと視線を向け始めた。


「恥ずかしいから!」

 二人の手を取って歩き始める。

 お母さんが迎えに来てたなら車だろうけど、お父さんなら歩きだろう。服もスーツだし、会社用の鞄も持ってるから、会社帰りに寄ってくれたんだろう事は分かる。

 それにしても、可愛い可愛いって言ってくる僕の事は放ったらかして、マキちゃんとばかり話をしながら歩くお父さん。お父さんとマキちゃんは仲良しだ。いつも二人で盛り上がっている。たいてい話している内容は、僕の事か、ドラマかアイドルグループの事。お父さんは家でもそんなにテレビを観ないし、観てもニュースばかりなのに、どうしてそんなに知ってるんだろうと思うけど、妙な程に詳しくて、何故か話が弾んでる。


 そんなお父さんが、自然にコンビニに入る。亮太兄ちゃんのコンビニだ。僕は小さくガッツポーズ。

 お父さんは、僕に千円札を渡すと『二人分な』と言い、自分はさっさと大人のドリップ珈琲を買って外に出ていった。ガラスの向こうで煙草に火をつけている。

 僕とマキちゃんは、レジに立つ亮太兄ちゃんに見せびらかすように、手にした千円札を掲げながら店内物色開始。僕はいつもの缶コーヒーと塩おにぎり、マキちゃんは安定のスナック菓子にトマトジュース。

 レジで『その取り合わせは無しでしょ』と僕がマキちゃんに言うと、レジの亮太兄ちゃんが『お前の方が無しだろ』って言ってきた。何を言ってんだろ?小腹空いてるから塩おにぎり、そしてカフェインは絶対。完璧な組み合わせだと思う。それに比べて、スナック菓子とトマトジュースなんて、健康志向なのか不健康まっしぐらなのか分からないじゃないか。亮太兄ちゃんは分かってない。


「ねぇ、それ美味しいの?」

 イートインスペースで聞いてくるマキちゃんに、僕は正直に答えた。

「ん、コーヒーが強過ぎて、おにぎりの味がしない。コーヒー味のおにぎりみたいになってる。失敗」

「だろうね」

「そっちは?」

「美味しいよ」

 そうか、美味しいんだ。スナック菓子とトマトジュースってアリなんだ。


 そんな話をしていると、煙草を吸い終えたお父さんが入ってきた。

 僕が無言でお釣りを渡すと、不思議そうな顔で僕が買った物を見て呟く。


「味覚音痴?」


 誰が?僕が?分かったよ。コーヒーと塩おにぎりは相性が悪いって。今度からは、具入りのおにぎりにする。

今回もアリストテレスでした。

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