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その猿はハハハと嗤う。  作者: 昊ノ燈


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13.善良な私人が、善良な公人であるとは、限らない①

 翠ちゃんとマキちゃんが、職員室に呼び出しを受けた。二人の親も呼ばれたらしい。教室では、ちょっとした騒動になっている。


 一日の授業が終わってから職員室に呼ばれた二人は、それぞれのお母さんを呼ばれて、生徒指導室で話をしている。

 そう言えば、翠ちゃんは朝から機嫌が悪かった。僕が恥ずかしさを乗り越えて『翠ちゃん』と呼んでも、不機嫌なまま。いつも通りに『黒瀬さん』って呼べば良かったと思った。でも、僕の恥ずかしさに関係なく、僕が『翠ちゃん』と呼んでも、クラスの皆んなは気にしていない。何となく、新しいシャツで学校に来た時みたいな感じだ。胸に刺繍されたワンポイントが、気取ってるみたいで恥ずかしいと、自分では気にしていても、周りからしたら、何でもない事みたいな。

 ちなみに、マキちゃんも不機嫌だったけど、『吉岡さん』じゃなくて、『マキちゃん』って呼んだら、僕の大好きなヘラっとしたブサイクな笑顔になった。

 正直言うと、翠ちゃんに注意されてから『マキちゃん』って呼ぶようにしてるんだけど、何故か照れ臭くって『吉岡さん』と『マキちゃん』を使い分けてるみたいになってる。大体、五対二くらいかな。だって、最初に『マキちゃん』って言った時に、『えへっ、どうしたのよ。急に呼び方変えたりして』と、ちょっと怒ったようなコメントをしてきたけど、めちゃくちゃ嬉しそうにしていたから、ちょっと恥ずかしくなってしまったんだ。でも、凄く嬉しそうだったから、これで良かったんだろう。

 それはそうと、『コメント』って言葉だけど、一度意味を調べてみたら、『コメント、意見、評論、説明、見解』って出てきた。『コメント』の意味がコメントってどういう事とも思うけど、コメント自体がカタカナ語として定着しているからという理由だった。うん、日本語は今も増えていってる。でも、これは、僕だけが知ってるには、ちょっと遠い気がしたから、補欠。


 それで、二人が何をして呼び出されたかと言うと、鳥籠の扉を開いたらしい。


 昨日は、僕は水泳教室があったから別行動だったけど、翠ちゃんとマキちゃんは学区の七不思議を探して歩いていたらしい。マキちゃんは別のグループだったけど、どうして僕の班の調べ物をしているのとも思ったけど、翠ちゃんに誘われたらしいから、仕方がない。あの二人、仲良かったんだ。知らなかった。


 で、その途中でお姉さんに合ったんだって。



 ◇

「あっ、お姉さんだ」

 見つけたのは、マキ。

 マキの記憶だと、亮太兄ちゃんの幼馴染の美人さん。確か後藤雅さん。


 いきなり小学生に『お姉さん』と呼ばれた雅は、ちょっ訝しげな感じだったけど、亮太のバイト先であるコンビニで合ったことがある小学生だと気付き、愛想よく返事を返してくれた。


「ねぇ、知り合い?」

「うん、コンビニに来る酔っ払いの美人さん。コンビニのお兄ちゃんの幼馴染で腐れ縁な美人のお姉さん」

「うん、美人だね」

「でね、この間、『網白走男(あみしろはしお)』を追って走っていた美人のお姉さん」

「で、マキちゃんは、この美人のお姉さんと知り合いなの?」

「ううん、美人のお姉さんにコンビニで挨拶したけど、美人のお姉さんは酔っ払ってたから覚えていないと思う。でも、何回も合ったことがあるよ」

「でも、酔ってたなら覚えていないかもしれないから、ちゃんと挨拶しないとね」

「うん、そうだね、ちゃんと挨拶しないと」


 雅は、もう顔が真っ赤だった。

 顔から火が出るという表現があるけど、正に自分が今、それを実感している。

 一々、お姉さんの前に『美人の』って、前置きを置くのは何故だろうと思うし、コンビニって言ったら亮太が働いているコンビニだろうし、あの会話だと私がいつも酔っ払ってるみたいじゃん。確かに見覚えがある子だし、挨拶されたなんて覚えていない。

 もう、めちゃくちゃ恥ずかしい。


「はじめまして、黒瀬翠と言います。美人のお姉さん」

「吉岡真希です。美人のお姉さん」

「は、はじめましてで良いのかな、後藤雅です」


 雅は、なにか関係性の不可解な少女二人と挨拶を済ませると、不思議なくらい自然な流れで、話し込んでいた。


「──で、亮太の知り合いなんだ」

「うん、亮太兄ちゃんには、うちの翔くんがお世話になっています」

「マキちゃん、『うちの』って、まるで夫婦みたいじゃん」

「え、ええ〜、そうかなぁ~。でも、最近、翔くん『マキちゃん』って言ってくれるし…………」

「だったらさ、私の事だって『翠ちゃん』って言ってくれるよ」

「翠ちゃんには、『翠ちゃん』でしょ。ちょっと固さがあるもん。私には『マキちゃん』だよ。『真希ちゃん』じゃないもん」

「でもさ、マキちゃんは、『翔くん』って呼ぶじゃん。固いよ」

「ううう、だって恥ずかしいし」


 ランドセル背負ってても、ちゃんと女している二人に、何となく微笑ましいと感じていた雅は、ついついお姉さんぶって言ってしまう。

「それで良いと思うよ。男ってのはさ、距離が近くなりすぎると、駄目。女を空気みたいに思ってしまうからね。女の方から少し距離を取らなきゃ。その距離の取り方が大事なんだよ。遠すぎず近すぎずね」


「おおお〜。百戦錬磨だよ。百戦錬磨だよマキちゃん」

「うん、そうだね、百戦錬磨の美人のお姉さんだ!」



「──で、あみしろ何とかって何?」

「『あみしろはしお』?」

「『あみしろはしお』はね、虫取り網を持って、白衣で走り回っているオジサン」

「あ、良兼(よしかね)准教授の事かな」

「よしかねってのは知らないけど、あみしろはしお」

「うん、あみしろはしおはあみしろはしお」

「多分ね、その『あみしろはしお』って人は、良兼って名前の先生のことだよ」

「あみしろはしおは先生なんだ!」

「あみしろはしお先生!。流石、美人のお姉さんは良く知ってるね」



「──でもさ、一々『美人のお姉さん』って言うの止めにしない?。私にも後藤雅って名前があるから」

「だったら、(みやび)さん!」

「そうだね、雅さんだ〜」

「ありがとう。分かってくれて。お姉さん、恥ずかしかったんだ。そんなに美人って連呼されると」


「「分かった。美人の雅お姉さん!」」





「善良な私人が、善良な公人であるとは、限らない」も、アリストテレスの言葉です。

その通りな言葉ですね。

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